連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第60回
『アズミ・ハルコは行方不明』『君が君で君だ』など、独創性の高い作品を次々と生み出してきた松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇を映画化しました。
映画『くれなずめ』は、テアトル新宿ほかにて2021年5月12日(金)よりロードショーです。
高校時代につるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするために5年ぶりに集まります。
恥ずかしい余興を行い、披露宴と2次会の間の待ち時間で、彼らはこの5年間を振り返り、認めたくても認めたくない事実と向き合うことになります。
主演に成田凌、仲間たちには、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、高良健吾といった実力派が揃いました。
映画『くれなずめ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
松居大悟
【主題歌】
ウルフルズ『ゾウはネズミ色』(Getting Better / Victor Entertainment)
【キャスト】
成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、飯豊まりえ、内田理央、小林喜日、都築拓紀(四千頭身)、城田優、前田敦子、滝藤賢一、近藤芳正、岩松了、高良健吾
【作品概要】
映画『くれなずめ』は、『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)『君が君で君だ』(2018)の松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇を映画化したものです。
高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集結。恥ずかしい余興を披露した後、彼らは披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代を振り返ります。
6人の仲間のうち、主人公・吉尾和希を成田凌、舞台演出家として活躍する藤田欽一を高良健吾、欽一の劇団に所属する舞台俳優・明石哲也を若葉竜也、後輩で唯一の家庭持ちであるサラリーマン・曽川拓を浜野謙太、同じく後輩で会社員の田島大成を藤原季節、地元のネジ工場で働く水島勇作を目次立樹がそれぞれ演じています。
映画『くれなずめ』のあらすじ
高校の帰宅部仲間6人が、友人の結婚式に参加するため、5年ぶりに集まりました。
優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、東京の会社に勤める大成(藤原季節)、地元の工場で働くネジ(目次立樹)。
高校時代、文化祭でコントをした結果仲良くなった6人は、卒業後も毎年集まってはバカ話に興じていました。
欽一の呼びかけで久々に再会した仲間たちは、結婚式で披露するる余興の打ち合わせを行ったり、カラオケでだべったり、これまでと少しも変わらない時間を過ごします。
そして、結婚式当日。渾身の赤フンダンスを披露するはずが昔のようにはバカをやれず、盛大にスベってしまった6人は、すっかり意気消沈。
「オレたち素人なのに一生懸命やったから、それでよくない?」
落ち込む仲間を、優しい吉尾が慰めます。
さらに、仲間たちは、2次会までの3時間余りをどう過ごそうか悩みます。
会場近くの店はどこも混んでおり、6人は仕方なく道をほっつき歩きながら、他愛無いやり取りで場をつないでいました。
ふとした会話で脳裏に浮かぶのは、過去の思い出。
やがてそれぞれの胸にしこりを残した、5年前の“あの日”のことが話題になります。
「それにしても吉尾、お前ほんとに変わってねーよな なんでそんなに変わらねーんだ?まいっか、どうでも」
そう、彼らは認めたくなかったのです。ある日突然のあの出来事を。
映画『くれなずめ』の感想と評価
高校時代の仲間6人に扮するミラクルメンバー
高校時代に気の合った6人が友人の結婚式で余興をするために、5年ぶりに集まりました。あの頃と少しも変わらない仲間たちとの再会に話も気分も弾みます。
楽しいはずの時間の中で、触れてはいけない究極の事実を、次第に仲間たちは認めざるを得なくなります。
冴えないけれどもどことなく憎めない主人公・吉尾和希を演じるのは、成田凌。『愛がなんだ』『カツベン』(2019)、『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)などに出演していますが、作品ごとに全く違った顔を見せる彼の演技の幅の広さに驚かされます。
舞台演出家として活躍する藤田欽一は、『シン・ゴジラ』(2016)『万引き家族』(2018)などに出演する実力派の高良健吾が演じました。
欽一の劇団に所属する舞台俳優・明石哲也には、『愛がなんだ』(2019)『AWAKE』(2020)の若葉竜也が扮しています。
後輩で会社員の田島大成を演じるのは、『his』『佐々木、イン、マイマイン』(2020)でブレイクした藤原季節。
また唯一の家庭持ちであるサラリーマン・曽川拓を個性派俳優の浜野謙太が演じ、地元のネジ工場で働く水島勇作をゴジケンの目次立樹が、舞台版に続いて出演しています。
学校を卒業後、それぞれ仕事をしながら一生懸命に生きている仲間たち。
仲間同士で思いきりぶつかり合って、騒いで、悩みを打ち明けて、ウルフルズの歌を歌って踊った青春のひとときは、彼らにとって、どんなものにも代えがたい宝物だったのに違いありません。
その宝物に宿る一点の後悔と懺悔の気持ちが次第に明らかにされていきます。
その時、彼らがどんな思いをし、どんな行動をしたのか。ミラクルな役者たちの個性ある演技が光ります。
「くれなずめ」の意味
あまり聞き慣れない「くれなずめ」という言葉ですが、実は、日が暮れそうでなかなか暮れないでいる状態を表す「暮れなずむ」を変化させ、命令形にした造語だそうです。
また、前へ進もうとしても障害があって上手く進めないでいる状態も指しているといいます。
これはまさしく、この6人の仲間たちの状況にピッタリな言葉でした。
究極の事実を認めたくなかった彼ら。そんなうだうだした「くれなずめ」な気持ちを持ったまま5年が過ぎていきました。
披露宴と二次会の合間の隙間時間で、自分たちの過去を振り返り、過ぎ去った日々と仲間同士の思い出を反芻。
そこへどうしても外せないのが、余興で披露したウルフルズの『それが答えだ!』のダンスです。
曲のタイトルも今更ながらこの「くれなずめ」な集団にはあっているのですが、ただただ一緒にたむろうのが楽しかった当時を表す唯一の思い出の曲だったのです。
‟しょーもない”が最高におかしかった過去の日々を思い出にしたくないという彼らの気持ちは、とても純粋で羨ましいものですが、やがて、それは行き場のない怒りに変わっていきます。
主人公たちの状況とロケ地、それに物語の背景が加わり、作品のコンセプトを伝えるのには最高のタイトルと言えます。
まとめ
友人の結婚式に集まった高校時代の仲間たちのあることに対するそれまでの経緯とそれぞれの思いを、披露宴から二次会までの短い間に描いた『くれなずめ』。
本作は、監督の松居大悟がウルフルズのことが大好きだった友だちとの実体験をもとに描いた作品です。
成田凌の実在しないようなふわりとした存在感は、本作にピタリとあてはまり、いじられキャラを見事に演じ切っていました。
あまりに自然体でいるので、演技ではなく、素のままでいっているのでは?という気がするほどです。
また見応えのあるのは、文化祭と披露宴の余興として、彼らが赤ふん姿で踊るウルフルズの『それが答えだ!』。
切れのいいダンスもばっちりきまり、6人全員の共通の思い出としてのインパクトは十分ありますので、お見逃しなく。
映画『くれなずめ』は、テアトル新宿ほかにて2021年5月12日(金)よりロードショー予定。