大橋裕之原作を実写化した映画『ゾッキ』の魅力
独特の作風から「孤高の天才」と称される漫画家、大橋裕之の幻の原作を実写化した映画『ゾッキ』。
本作は日本を代表する俳優、竹中直人、山田孝之、齊藤工が共同で監督を務め、全てのロケを愛知県蒲郡市で行ったという異例の作品。
監督も俳優もくせ者だらけという、本作の魅力をご紹介します。
映画『ゾッキ』の作品情報
【公開】
2021年公開(日本映画)
【原作】
大橋裕之
【監督】
竹中直人、山田孝之、齊藤工
【脚本】
倉持裕
【キャスト】
吉岡里帆、鈴木福、満島真之介、柳ゆり菜、南沙良、安藤政信、ピエール瀧、森優作、九条ジョー、木竜麻生、倖田來未、竹原ピストル、潤浩、松井玲奈、渡辺佑太朗、松田龍平、石坂浩二、國村隼、板垣李光人
【作品概要】
「秘密」を抱えたさまざまなキャラクターが繰り広げる、シュールで不思議なエピソードが展開されるヒューマンコメディ。
竹中直人、山田孝之、齊藤工が共同監督を務め、各分野のくせ者たちが集結した「寄せ集め」を意味する『ゾッキ』というタイトル通りの、豪華で独特な作品に仕上がっています。
映画『ゾッキ』のあらすじとネタバレ
「秘密」
離婚して、故郷に戻って来た前島りょうこ。
朝起きると、祖父だけが家に残っており、りょうこは祖父と一緒に朝食を食べます。
その際に、りょうこは祖父から「人は秘密を抱えることで生き続けることができる、秘密が無くなると死んだのと同じだ」と聞かされます。
りょうこが祖父に「どれぐらい秘密があるの?」と聞くと、祖父が「260個」と答えたため、驚いたりょうこは牛乳を吹き出します。
「Winter Love」
「アテが無いというアテを頼りに、アテの無い旅」に出た男、藤村。
自転車に乗り旅に出た藤村は完全に無計画で、所持品は寝袋と道中で拾ったエロ本だけです。
とりあえず、西を目指して自転車を漕ぎ続ける藤村は、旅の道中に立ち寄ったコンビニで、初恋の相手にそっくりな若い女性に出会います。
藤村の初恋の相手、松原京子。
京子は、高校時代にオナラが止まらない病気で学校を休んだことがあり、その際に冗談半分で藤村が「京子のオナラは臭そう」と発言したことが校内に広まり、退院した京子を傷つけてしまったことがありました。
藤村は、校内で再会した京子に殴られ、倒れたところを蹴飛ばされてしまい、今もそのショックが心に残っています。
藤村と女性はお互いに目が合いますが、無視してやり過ごします。
その際、藤村はコンビニで女性用のパンツを購入しようとしている、怪しげな男子高校生とも目が合います。
藤村は深く頷きますが、男子高校生は逃げるようにコンビニから出て行きます。
映画『ゾッキ』感想と評価
独特な表現力から「唯一無二」と評される漫画家、大橋裕之の初期短編集『ゾッキA』『ゾッキB』。
その2冊30編の短編作品の中から、選りすぐりのエピソードを実写化した映画『ゾッキ』。
原作では、関連性の無いエピソードの連続でしたが、映画『ゾッキ』では「秘密」「Winter Love」「伴くん」「父」の4つのエピソードを主軸に、「アルバイト」「オサムをこんなうさんくさい道場に通わせたくありません」のサブエピソードが展開されます。
全てのエピソードが、同じ街で展開されているという設定なのですが、それぞれのエピソードが、なんとなく始まって、なんとなく終わっていきます。
それぞれのエピソードが、少しだけ絡み合う部分もありますが、そんなに複雑な構成ではありません。
ただ、この起承転結もハッキリと無く、なんとなく展開されていく物語は、原作の作風を大切にしたからこそで「ゾッキ的」であると言えます。
また、本作では全てのエピソードが「秘密」という、共通のテーマで繋がっています。
各エピソードの登場人物は、何かしらの「秘密」を抱えており、それにより、他人には理解できないような嘘をついたり、奇妙な行動を取るようになっていきます。
「秘密」をテーマに展開される各エピソードは、寂しさや虚しさ、時に狂気を秘めた内容となっており、「秘密」「父」を担当した竹中直人、「Winter Love」の山田孝之、「伴くん」の齊藤工、それぞれの監督の持ち味が、作風に反映されています。
山田孝之は、事前に入念なロケハンを行い、そこで知り合った地元の人を作品に登場させたり、齊藤工は、メインキャラクターの伴くんに、お笑いコンビ「コウテイ」の九条ジョーをキャスティングするなど、その製作方法にも、それぞれの持ち味が出ています。
ただ、全体の空気を作り出しているのは、原作の『ゾッキ』に惚れ込み、本作を企画した、竹中直人の何とも言えない狂気的な部分ではないでしょうか?。
タイトルにもなっている「ゾッキ」とは「寄せ集め」を意味する内容で、ラストでは、それぞれのエピソードの登場人物が集まり、映画『ゾッキ』の世界観、時間軸を完成させていきます。
ですが、ここも「各エピソードが絡み合う」というような複雑な構成ではなく、なんとなく登場人物が集まっただけのラストシーンとなっており、壮大な物語にはなりません。
この、終始肩の力が抜けた作風が、映画『ゾッキ』の魅力であるのでしょう。
まとめ
竹中直人、山田孝之、齊藤工、くせ者俳優が、共同で監督を務めた事でも話題になっている映画『ゾッキ』。
出演者もくせ者だらけで、メインの登場人物を吉岡里帆、松田龍平、森優作、九条ジョー、竹原ピストルという、俳優だけでなく、芸人やミュージシャンなど、各分野の才能が集結しています。
さらに、鈴木福、満島真之介、石坂浩二、國村隼など、脇を固める共演人も豪華なのですが、特に安藤政信と松井玲奈、倖田來未が、一見すると誰だか分からない、驚くような役で出演しています。
天才とも呼ばれる漫画家、大橋裕之の原作を、くせ者が集結し実写映像化させた映画『ゾッキ』。
シュールで緩い雰囲気の作風ながら、これだけの才能が集結した作品も珍しいです。
「ゾッキ的」としか表現しようのない、本作の魅力を是非味わってみて下さい。