映画『裏アカ』は2021年4月2日(金)より全国順次公開。
仕事への不満から、裏アカを作成し過激な投稿を続けるようになった真知子を通して、現代の二面性を描き出した映画『裏アカ』。
「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2015」で準グランプリを受賞し、本作で監督デビューを果たした加藤卓哉が、現代社会が抱える「心の闇」や「欲望」を映し出した、本作の魅力をご紹介します。
映画『裏アカ』の作品情報
【公開】
2021年公開(日本映画)
【監督】
加藤卓哉
【脚本】
高田亮、加藤卓哉
【キャスト】
瀧内公美、神尾楓珠、市川知宏、SUMIRE、神戸浩、松浦祐也、仁科貴、ふせえり、田中要次
【作品概要】
裏アカを作成し、危険な投稿を続け快感を覚えていた真知子が、年下の男性「ゆーと」と出会った事で、さまざまな感情が錯綜するようになっていく人間ドラマ。
裏アカの危険な快感に溺れる真知子を『火口のふたり』(2019)での、体当たりの演技が話題になった瀧内公美が演じます。
真知子が出会う、不思議な魅力を持つ男性「ゆーと」を演じるのは、2019年のドラマ『3年A組 今から皆さんは、人質です』など、話題作に出演している神尾楓珠。
真知子の勤めるアパレルメーカーのオーナー北村を、田中要次が演じる他、ふせえり、神戸浩、松浦祐也、仁科貴など、個性豊かな俳優陣が出演しています。
本作は木村大作、降旗康男、原田眞人、成島出など、日本を代表する数々の名監督の下で、これまで助監督を務めてきた加藤卓哉の、監督デビュー作となります。
映画『裏アカ』のあらすじ
青山のアパレルショップで、店長を務める伊藤真知子。
真知子は、仕事で結果を出す事が出来なくなっており、ミーティングの場でも、自身の意見は無視されてしまいます。
さらに、Instagramを使いこなす、後輩のカリスマ店員、新堂さやかにもどんどん仕事を奪われていき、真知子は自身の居場所を失っていく感覚に陥ります。
ある時、さやかから「店長もSNSを活用した方がいい」と提案されますが、真知子のTwitterフォロワー数は少なく、真知子は次第に「自分が誰にも必要とされない人間」と考え始めます。
精神的に追い詰められた真知子は、Twitterの裏カウントを作成し、下着姿で自身の胸元を撮影した際どい写真を投稿します。
すると、すぐにTwitterへ反応があった事から、真知子は快感を覚え、次々に過激な写真を投稿するようになります。
真知子の過激な写真に反応するメッセージの中に「リアルで会いたい」「もっと自分を解放して」と、他とは違うメッセージを送る人物がいました。
アカウント名「ゆーと」と名乗る、その男性が気になった真知子は、実際に「ゆーと」へ会いに行きます。
年下で、無邪気な雰囲気を持つ「ゆーと」と、真知子は普段とは違う特別な時間を過ごし、次第に惹かれていくようになります。
ですが、「ゆーと」と実際に会うのは一度きりの約束で、それ以降の連絡を「ゆーと」から拒絶されます。
心が満たされない真知子は、次第に裏アカを通して、複数の男性と関係を持つようになりますが、心は乾き続けたままです。
自身の心が壊れ始めた事に、苦しむようになる真知子でしたが、あるキッカケで「ゆーと」と再会します。
しかし再会の時から、2人の関係は思わぬ方向へと進んでいき……。
映画『裏アカ』感想と評価
SNSの「裏アカウント」をテーマに、現代人の抱える「孤独」や「欲望」を描いた人間ドラマ『裏アカ』。
タイトルにもなっている「裏アカウント」とは、SNS上で開設したメインのアカウントとは別に、秘密裏に開設した、文字通り裏のアカウントを意味する言葉です。
「裏アカウント」は、匿名だったり、メインのアカウントとは全然違う名前になっていたりと、発信者が特定されないようになっている事が多く、だいたいが訳アリです。
本作の主役である伊藤真知子は、仕事で結果が出せない焦りから、自身の胸元を投稿する為のアカウント「march」を開設します。
「march」には、真知子の過激な投稿に反応した、卑猥な男性からのメッセージが多く届くようになり、次第に真知子は、現実社会では味わえない快楽を覚えていきます。
序盤の展開で、いきなり真知子が裏アカを作り、過激な投稿を始めるので、唐突に感じるかもしれません。
ですが、そこには真知子が抱える、現代社会ならではの孤独があるのです。
現実社会で強要される「本音と建て前」
現実社会の真知子は、青山のアパレルショップで店長を務める、これまで仕事の為に生きてきた女性です。
オーナーの北村にも対等に意見をし、北村もどこか真知子を頼っているように見える為、もしかすると2人でショップを立ち上げ、大きくしてきたのかもしれません。
ここまで見ると、真知子は男性相手でも対等に仕事を進める事ができる、社会における「強い女性」に見えます。
ですが、自宅に帰った真知子は、1人で無機質な部屋に住んでおり、かなり孤独で無気力な印象を受けます。
真知子は、社会で「強い女性」という偽りの自分を演じていたのでしょう。
その反動から、普段は無気力になってしまい、本当の自分を誰かにさらけ出したい衝動に駆られ、裏アカを作り、過激な行動に出たのです。
これは真知子に限らず「本音と建て前」を使い分けなければならない、現実社会で誰もが経験している事ではないでしょうか?
皆さんは学校や会社の中で、周囲の目を常に気にした、偽りの自分を演じていませんか?
と言うより、今の社会は「ちゃんとした学生」「ちゃんとした社会人」を演じる事を、強要されますよね。
現代人は誰しも「本音と建て前」の二面性を、自然と使い分けるようになっていますし、そうする事が「ちゃんとした人」と判断される、考えてみれば息苦しい世の中ですね。
本来なら、TwitterやInstagramなどのSNSは、自身のありのままのプライベートを投稿すれば良いのですが、知り合いが見る事を気にして、ここでも「本音と建て前」が必要になってきます。
本当に思った事を書き込もうとしても「誰が見てるか分からない」という気持ちになり、怖くなる時があります。
ですが、もし自分が特定されない裏アカであれば、かなり過激な書き込みが出来てしまうかもしれません。
真知子は、自身が特定されないような裏アカを作り、危険な投稿を始める事で「裏の快楽」とも呼べる感覚に目覚めるのですが「本音と建て前」を強要される、息苦しい世の中を考えると、共感できる部分もあり、これは現代人の「心の闇」とも言えます。
現代社会に潜む「心の闇」と「SNSの危険性」
「裏の快楽」に目覚めた真知子の前に「ゆーと」と名乗る、年下の男性が現れます。
この「ゆーと」も、作品後半で登場する、原島という男の裏アカだった事が判明します。
原島が、裏アカを作成した理由も明かされるのですが、そこには「本音と建て前」を強要する社会が生み出した、モンスター的な恐怖があり「本当に、こういう人いるよね」という、リアリティがあります。
本作は、真知子と原島、2人の男女の「心の闇」を裏アカウントをテーマに描いています。同時に、SNSにハマりすぎてしまう事の危険性も訴えています。
では、息苦しくなった現代で「人との距離感」をどう保てば良いのでしょうか?
その1つの答えが、作中に登場する「ふじ食堂」のシーンで表現されていると感じました。
現代社会において必須となったSNSとリアルな人間の距離感や付き合い方について、本作を通して、再度考えてみてはいかがでしょうか?
まとめ
真知子と原島、2人の男女の「心の闇」を描いた映画『裏アカ』。
瀧内公美と神尾楓珠が、それぞれ真知子と原島の「心の闇」を、リアルな演技で表現しています。
「リアルとは何のか?」「現実とは何のか?」という問いに対して、ラストでの真知子のシーンが、1つの答えであると感じました。
他人と接する際に、偽りの自分を演じなければなりませんが、時には周囲を頼り、自然な自分をさらけ出す事も大切なのかもしれません。
映画『裏アカ』で描かれている物語は、決して他人事ではありませんでした。
映画『裏アカ』は2021年4月2日(金)より全国順次公開!