連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第25回
世界の国の映画、まだ見ぬホラー映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第25回で紹介するのは『サタニックパニック』。
日本人には馴染みがない、でも海外で人気のホラー映画ジャンルと言えば悪魔崇拝です。
勝手に集まり何やらやるのはご自由にどうぞ。ピザの配達先で集会をしていようが、チップを頂戴できればお構いなし。
ところがチップはもらえず、処女だとバレて悪魔の生贄にされてはたまりません…というホラーコメディ映画の登場です。
ブラックユーモアとゴアシーン盛りだくさんの本作、それだけに終わりませんよ…。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『サタニックパニック』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Satanic Panic
【監督】
チェルシー・スターダスト
【出演】
レベッカ・ローミン、ヘイリー・グリフィス、ジェリー・オコンネル、ルビー・モディーン、ジョーダン・ラッド、アーデン・マーリン、ウィットニー・ムーア
【作品概要】
配達先が悪魔崇拝者の集会で、命を狙われるハメになった娘が繰り広げる血みどろのドタバタ騒動を描く、ホラーコメディ映画。
監督はホラー映画の大ファンで、『パラノーマル・アクティビティ』(2007)製作のジェイソン・ブラムの製作会社、ブラムハウスで長らくアシスタントを務めたチェルシー・スターダスト。
主演のヘイリー・グリフィスを、『X-メン』(2000)のミスティーク役で有名なレベッカ・ローミン、『スタンド・バイ・ミー』(1986)出演のベテラン、ジェリー・オコンネルが支えます。
『マッドTV!』(1995~)で活躍したコメディエンヌ、アーデン・マーリンに『ハッピー・デス・デイ』(2017)のルビー・モディーンらが共演しています。
映画『サタニックパニック』のあらすじとネタバレ
アメリカの南部の高級住宅地。裕福な住民が住み、白い服の少女が路上でホップスコッチ(けんけんぱ)をして遊んでいます。
とある1軒の邸宅。その家の娘ジュディ(ルビー・モディーン)は男とベットで行為中でした。
母親が怒るのも当然ですがジュデイに暴力を振るい、自分に迫って来るその姿に、大声で悲鳴を上げた相手の男。
そんな人々に縁の無い下町のピザ屋。配達人の同僚にオーストラリアへの憧れを歌った、自作のダサいフォークソングの動画を見せるサマンサことサム(ヘイリー・グリフィス)。
失笑を買ってサムは動画を見せたことを後悔します。ピザのデリバリーの注文が入りました。
同僚2人はやっかいな地区の配達をサムに任せます。今日が初日の彼女は、何だか判らぬまま引き受けます。
店主から5ドル要求されたサム。配達用の保温バックの保証金、戻ってくれば返すとの事。ガソリン代も無いサムには厳しいルールでした。
何かとモーションをかけてくる同僚の勘違い男のダンカンから、配達する地区はチップ代の少ないケチな場所と教えられたサム。
しかも雨の中、ベスパのミニバイクでの配達です。「Two fuzzy bunnies(2羽のフワフワうさぎちゃん)」と繰り返し唱え、心を落ち着かせてサムは出発します。
最初に配達先では、同じサムという名の男が受取人。全米に700万人のサムがいる、サムは互いに助けあうのが「サムの掟」だと、荷物運びを手伝えと頼んできました。
断り切れず手伝うサム。運び終え渡されたチップは、アップルビーズ(ファミレスチェーン店)の期限切れのクーポン券。
他の家でオシッコをかけるプレイに協力すれば12ドル出すと言われ、偏屈そうな婆さんから親切にも、爺さんの遺品の加齢臭付きセーターを渡されます。
散々な目に遭い店に戻ったサム。そこにミルベイシン地区から注文が入ったと告げる店主。
そこは配達エリア外で、面倒な場所のようですがサムは引き受けました。
バイクを走らせミルベイシンに入ると、白いドレスの女の子が手を振ってくれました。目的の大邸宅に到着するサム。
豪華な屋敷にも関わらず、玄関で受け取った無愛想男はすぐドアを締めました。レシートを見るとチップ分が加算されていません。
おまけにミニバイクはガス欠で動きません。サムは半分キレてチップを頂こうと屋敷に戻ります。
ドアをノックしても反応は無く、入れる扉を探すサム。鍵の開いていた扉から中に入ると、どよめきと拍手が聞こえてきました。
広間に向かうと何やら集会が開かれていました。中央に立つ女、ダニカ(レベッカ・ローミン)の話を傾聴する男女だち。
集まった上流階級の男女の中から、ピザを受け取り代金を払った男を探すサム。場違いな存在ですが、彼女も必死でした。
男を探すのに夢中で、彼女はこれが悪魔を讃える集会と気付きません。
悪魔崇拝者のリーダーとして振る舞うダニカに、メンバーのジプシー(アーデン・マーリン)は悪魔バフォメットを召喚に、処女が必要だと訴えます。
今日は満月で、召喚の儀式を行う日ですが、何か問題があるようです。深刻な会話に割り込み、チップの支払いを求めたサム。
空気を読まない彼女の発言に悪魔崇拝者は戸惑いますが、好都合とサムに処女か尋ねるジプシー。
戸惑いぶりから彼女を処女と判断したダニカの指示で、悪魔崇拝者たちはサムを捕らえます。ダニカの吹きかけた粉末の力で、サムは意識を失います。
彼女が目をさますと、君はクソ女の自分の妻を怒らせた、と告げる男がいました。
状況が読めないサムに、危機を切り抜ける戦闘スキルを持っているかと尋ねる男。
そんなものある訳ありません。サムは自分は時給2.13ドルで働いている身で、何としてもチップが必要だと話します。
連中は悪魔バフォメットを崇拝し、召喚するのに忙しくチップを忘れたと説明する男。彼はダニカの夫サミュエル(ジェリー・オコンネル)でした。
バンドか何かと勘違いしたサムに、バフォメットは地獄の悪魔で、それを召喚する生贄に自分たちは殺されると告げたサミュエル。
自分の隣人の悪魔主義者はビーガン(菜食主義者)だと言うサム。しかしミルベイシン地区に住む悪魔崇拝者は違うようです。
逃げようとしても無駄、無残に殺されると語るサミュエルに、話の流れで自分は処女だと話すサム。
それを聞きサミュエルが反応します。悪魔バフォメット召喚には処女の子宮が必要。君が生かされている理由はそれだ。
連中は今夜君の体を引き裂き、悪魔を召喚すると聞いても、サムはヘビメタのジャケットしか思いつきません。
金持ちが金持ちであり続け、君は貧しいままの理由が判るか、と言うサミュエル。サムが指摘した健康保険の差ではありません。
上流階級の者は悪魔を崇拝し取引しているから、と聞いても早く戻らないとクビになる心配しか頭に無いサム。
逃げる術のないサムに、いきなり下着姿で迫るサミュエル。処女を捨てれば生贄にならないという理屈の、「サムの掟」の助け合いの精神でしょうか。
当然サムは拒絶します。抵抗したサムを殴り、フェミニストの自分に暴力をふるわせるなと叫ぶサミュエル。
サムのスマホに同僚の勘違い男ダンカンから電話がかかり、とった時にサミュエルはサムに拳銃を向けます。「サムの掟」で撃つなと訴えるサム。
ところが銃は不発、確認しようとしたサミュエルは、誤って自分の首を撃ちました。
儀式の準備を終え、衣装を身に付けた悪魔崇拝者は2人を監禁した部屋に来ます。そこで自分を撃った夫を見つけるダニカ。
ダニカは夫の傷口から手を突っ込み、魂の在りかの心臓を抜き出します。彼女はそれを水で洗いハーブをまぶし、古い鍋に入れ焼くよう指示します。
儀式が順調に進まない非難するジプシーに、今は処女を探せと命じるダニカ。
返り血を浴び豪邸から逃げたサムは近所の屋敷に助けを求め、その家の若い女に招き入れられました。
屋敷の絨毯に血がついたら怒られる、まず血の付いた服を脱ぎ体を拭けと告げたベビーシッターを名乗る女。
サムには今までの体験より、女が時給25ドルでベビーシッターしている方がショックです。
手のかかりそうな悪ガキ2人と顔を合した直後、2階からうめき声が聞こえてきました。
戻ってきた女はまだ警察に通報していません。それより糖分を取れとコーラを差し出す女。
飲もうとすると、またうめき声が聞こえます。コップを置き2階の部屋に注目するサム。
そこに彼女の胸の谷間目当てに悪ガキが現れ、その1人がコーラを飲みました。
ベビーシッターの女が上着を持ってくると、コーラを飲んだ悪ガキが突然倒れます。サムが飲ま無かったと気付き怒る女。
理由を問うサムに、もう1人の悪ガキがスタンガンを押し付けます。思わず力まかせにブン殴り、子供相手にマズいと謝ったサム。
サムのことを公立学校通いでガバメントチーズ(アメリカで社会保障を受ける人に配られる食品)を食べる、6年生で妊娠するような尻軽とののしる女。
ベビーシッターが上流階級の高飛車女の本性を現すと、例の2階の部屋から股間にドリルを付けた女(ウィットニー・ムーア)が現れます。
女とベビーシッターの姉妹で、正体はこの家の娘のようです。それよりもイカれた姿の女の登場に驚くサム。
股間から突き出たドリルを避けたサムを、ベビーシッター女が首を絞めます。サムに殴られよろめいた彼女はドリルに貫かれます。
怒ったドリル女はサムに突進しますが、ドリルは壁を破り電気配線に触れ感電死しました。
うめき声が聞こえます。サムが部屋に入ると、裸にされ縛られうつ伏せのジュディが助けを求めます。
サムが身に付けているのはKマートの安物ブラで、彼女はヤバイ姉妹の仲間ではないと見抜くジュディ。
何が何だか判らないサムに、敵の敵は味方だ、自分を解放しろとジュディは訴えます。
ジュディを解放し状況が掴めず、家の電話で警察に通報したサム。慌ててジュディが止めました。
電話は悪魔崇拝者たちにつながります。彼らは信者のキム(ジョーダン・ラッド)とスティーブン夫婦の、ラーソン家にいると告げるジプシー。
結果としてラーソン家の姉妹を始末したサムを、ジュディは”ナチュラル・ボーン・キラー”と呼びました。
2人が逃げようとすると、外には赤い衣装の悪魔信奉者たちがいます。裏口から外に出たサムが振り返ると、屋敷から白いドレスの少女が見つめています。
状況に驚くジプシーに、ラーソン家に娘ジュディを預からせたと説明するダニカ。
娘たちがジュディに殺された、と訴えるラーソン夫妻に、自分の指示通りに娘を殺したのか、とダニカは問い詰めます。
夫婦はジュディを殺しを望む娘たちに始末させようとします。しかし現れたサムに返り討ちにされました。
ジプシーはリーダーのダニカの不手際だと責め、逃げた2人の追跡を仕切ろうとします。
それを制し、サラの脱ぎ捨てたシャツを手に入れたダニカは、屋敷に戻りました。
鍋に入れオーブンで焼いたダニカの夫、サミュエルの心臓は怪しげな物体に変貌しています。
それをナイフで切ると、中にうごめく物がいました。魔術で生まれた物体に、指を切り血を与えるダニカ。
その鍋にサムのシャツを入れ、蓋を閉じるダニカ。外で蓋を開けると、彼女の指示で何かがサムを求め飛び出します。
魔術を使う能力こそ、自分がリーダーに相応しい証拠だとジプシーに告げるダニカ。
とある屋敷に逃げ込むジュディに、サラは自分のペスパに乗り逃げようと提案します。逃げでも無駄、イカれた連中はすぐに来ると言うジュディ。
様々な悪魔の使い魔は、塩の粒の数を数えないと部屋に入れないと言い、ジュディは部屋の周囲に塩で線を引きます。
悪魔は様々な儀式やルールに束縛され、行動は支配されていると説明しました。
屋敷の住人が帰って来る、一刻も早く逃げようと言うサラに、誰も夜明けまで戻らないと告げるジュディ。
窓の外に何かがいるようです。警察に電話しても無駄、街の住人は皆ダニカに従う悪魔崇拝者だとジュディは教えます。
連中がサラを見つければ殺さず捕らえ、悪魔バフォメットの召喚の儀式に捧げられ、裸で祭壇に縛り付けられる。
儀式で悪魔はサラの体に宿り、その体を引き裂いて誕生するのです。
身に付ける上着を探したサラは、部屋にあった写真や絵からこの家の住人が2人の子供の内、1人を生贄に捧げたと悟りました。
窓に引いた塩の線が風に吹き飛ばされます。ベットに座り、「2羽のフワフワうさぎちゃん」と繰り返し呟き心を静めるサラ。
いきなり彼女はシーツに襲われます。それは彼女に巻き付き、首を絞め口に入ります。
シーツを捕まえサラを解放すると、それを縛って濡らし冷蔵庫に入れ、大人しくさせたジュディ。
ダニカと共に悪魔崇拝者が行った、「魔女のマント」の術は破られました。
自分が術をかけようと、ジプシーはダニカが持つ娘ジュディの髪の毛を渡せと要求します。
そもそも今日の儀式に捧げるジュディが処女を失ったのが問題。日の出まで5時間しかないと、ダニカを責めるジプシー。
リーダーの交代を要求するジプシーに、ダニカは皆の意見を確認します。ドタバタ騒ぎにメンバーも困惑気味でした。
サラが残したスマホを差し出すジプシー。それを受け取ったダニカは新たな手を考えます。
その頃、ジュディはサラの前で酒をあおり、自分の境遇と母ダニカと悪魔崇拝者たちの狙いを語っていました。
_netabare]
映画『サタニックパニック』の感想と評価
冒頭『エルム街の悪夢』(1984)を思わせる少女が登場し、ジュディの元に母親が迫る映像は『ハロウィン』(1978)の再現でしょうか。
この部分のBGMはルチオ・フルチ映画でお馴染み、ファビオ・フリッツィの音楽風の旋律。オープニングだけで熱心なホラー映画ファンはゾクゾクしたでしょう。
レベッカ・ローミンが男の口から何やら引き出す、ルチオ・フルチの『地獄の門』(1980)みたいなシーンもあります。アレより汁気が少ない、ソフトな描写(?)なのでご安心を。
ルチオ・フルチなど、様々なホラー映画オマージュはあくまで映画の一部。実際に夫婦のレベッカ・ローミンとジェリー・オコンネルが、あの役で登場しただけで大爆笑です。
本作が初長編監督作となったチェルシー・スターダストは、映画好きの両親、特にホラー映画好きの父の影響を受けて育ちました。
彼女は自分は4人の監督のジョン、ジョン・ヒューズ、ジョン・カーペンター、ジョン・ウォーターズそしてジョン・キャメロン・ミッチェルに育てられたと語っています。
そして女性映画監督キャスリン・ビグローとカリン・クサマの大ファンと語っています。これらの監督の名前を聞けば、『サタニックパニック』の雰囲気が理解できるのではないでしょうか。
長年ファンのグレイディ・ヘンドリックスの、本作脚本を読む機会に恵まれ気に入った彼女。その5~6ヶ月後、映画化の話が持ち込まれます。製作者は女性監督起用を検討していました。
彼女は膨大なメールを関係者とやり取りし映画の映像や音楽、文献など参考資料を提示し自分のビジョンを説明します。こうして彼女の監督への起用が決定します。
立場の違う女性の友情を描いたガールズホラー
本作はテキサスで18日間で撮影されました。ハロウィンの時期で寒く、雨も降り、おまけに夜間撮影もあります。
クライマックスの悪魔信奉者の集会シーンは全てが参加者全てのエネルギーが爆発し、素晴らしいものになった。その時のレベッカ・ローミンの存在感は圧巻だと語る監督。
撮影現場の主要スタッフは、監督が学生時代から知る撮影監督マーク・エバンスを除き、全て女性で固められられました。
本作に多くの女性俳優も集結しています。ルビー・モディーンは提示された本作の脚本を読み終えた時、家の窓に鳥が衝突する奇妙な体験をした、と語っています。
自身も『死霊のはらわた』(1981)など、ホラー映画ファンの彼女はオーディションを受け監督と話します。この役は過酷で危険な面を持つとを説明され、了解した上で引き受けました。
ホラー映画オマージュやゴアシーン、多くのコメディ描写にあふれた作品ですが、メインテーマは立場の違う2人の女性が出会い、協力し、共に戦い友情を結ぶ物語です。
短い撮影時間でリハーサル時間も限られていました。短いスケジュールの中で悲鳴を上げ過ぎたヘイリー・グリフィスは、声がかすれます。それがリアルな雰囲気を生んだと語る監督。
ヘイリー・グリフィスとルビー・モディーンのシーンは時系列で撮影し、2人が感情の高ぶりを演じる姿は感動的でした、と監督は振り返っています。
さて、ゴアシーンにエロチックなシーンなど、悪趣味シーンが満載の本作ですが、意外にあっけらかんとした印象を受けます。
性的描写・出産など、男性目線なら刺激的にしつこく追求したくなる場面が、女性目線ではそれらのシーンは前後の状況を交え、達観した視点で描かれたのかもしれません。
従来のゴアシーン満載のホラー映画と異なる雰囲気は、女性製作陣が作るガールズホラーである事に起因しているようです。
上流階級は悪魔信奉者?格差社会を風刺したホラー
本作は接点の無い低所得層の女性と、上流階級のレールからはみ出した女性が友情を結ぶ物語です。
本作には格差を風刺して笑いにする、日本人に判りにくい様々な小ネタが多数あります。あらすじ・ネタバレ紹介では、できるだけ多くを紹介しました。
鼻もちならない上流階級は下層階級を犠牲にし、自分の子供すら犠牲にする悪魔みたいな連中と溜飲を下げるお話で、両者に越え難い壁があると風刺したお話でもあります。
悪魔主義者が富を目当てに暗躍する映画には、『ヘレディタリー 継承』(2018)もあります。映画の中の富裕層は、実に恐ろしい存在です。
良くも悪くもチップで生計をたてる人々が存在するアメリカ。是非はともかく、低賃金でチップすら手に入らぬ職種よりマシ、という考え方もあるようです。
日本人には判りにくい状況です。しかし2021年に、あるシアトルのウーバーイーツ配達員の投稿した動画が大きな反響を呼びました。
ある配達に45分かかり配達先に車を停められず、注文主に頼んでも家の外で受け取ってくれず、やむなく駐車代に3ドル払います。この配達の報酬は2.5ドル、注文主のチップは1.5ドル。
『サタニックパニック』が皮肉を込めて笑いにして描いた状況が、感染症のリスクを負って働く人々に現実に起きていると、多くの人が事実に気付き衝撃を受けました。
この構造的な問題に目を向けず、低所得に暮らす人々を自己責任と切り棄てるのは、本作の上流階級の悪魔信奉者と変わらぬ態度でしょう。
コメディ映画には社会を風刺する力があるが、現実は映画より残酷だと示す事例でしょう。
日本にチップ文化はありませんが一億総中流など昔話、アメリカ同様の格差社会が到来しました。
アメリカのチップを払わぬ奴に相当するのが、日本の「お客様は神様」ではなく、「お客様が神様」の屁理屈を振り回す輩でしょうか。
そういう連中の正体は、この映画に出てくる悪魔信奉者の類でしょう。
まとめ
ホラー映画ファン大満足、風刺コメディとして笑える『サタニックパニック』。女性たちが作ったガールズホラーとしても要注目です。
チェルシー・スターダスト監督の愛情に満ちたホラー映画リスペクトと、風刺ネタと女性の友情の物語としてお楽しみ下さい。
最後にこの映画は、「オズの魔法使い」をモチーフにした作品だと指摘しておきましょう。
赤いスニーカーを履いた主人公、サムが「お家」に帰ろうとオズの国ならぬ、悪魔信奉者の住むミルベイシン地区をさまようお話です。
その過程で友人を見つけ、「お家」の素晴らしさに気付いた主人公。ラストシーンの解放感は、このストーリーを経て産み出されたものでした。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回第26回は人間が狂暴化するウィルスが世界に蔓延! パンデミックサバイバルアクション映画『クレイジーズ42日後』を紹介します。お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら