映画『ヤクザと家族』は2021年1月29日より公開。
1999年から2019年という時代を、ヤクザとして生きた男の半生を、「家族」という視点から描いた映画『ヤクザと家族 The Family』。
主演の綾野剛が、主人公賢治の19歳から39歳の姿を演じ分けるという、熱演を見せています。
その賢治を父親的な優しさで包む、柴咲組の組長、柴崎博を演じる舘ひろしの存在感も圧巻です。
時代により存在意義が変わったヤクザは、本当に現代社会では消滅するべき存在なのでしょうか?
日本アカデミー賞6冠に輝いた『新聞記者』(2019年)のスタッフが再集結し、この難しいテーマに挑みます。
映画『ヤクザと家族 The Family』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
藤井道人
【企画・製作・エグゼクティブプロデューサー】
河村光庸
【キャスト】
綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ
【作品概要】
父親を亡くして以降、自暴自棄になっていた賢治が、柴咲組の組長である柴崎博と出会った事で、ヤクザの世界で生きていく姿を描いたヒューマンドラマ。
主人公の賢治を演じるのは『日本で一番悪い奴ら』(2016)で「第40回日本アカデミー賞」優秀主演男優賞を受賞して以降、主演作が続く綾野剛。
賢治を、父親のような包容力で支える柴崎博を、人気ドラマ「あぶない刑事」シリーズや、2019年の映画『アルキメデスの大戦』などに出演している、ベテラン俳優の舘ひろしが演じます。
賢治が恋するホステスの由香を尾野真千子、柴咲組の若頭、中村を北村有起哉が演じる他、市原隼人、磯村勇斗、岩松了、豊原功補、寺島しのぶなど、若手や実力派俳優が集結しています。
映画『ヤクザと家族 The Family』のあらすじとネタバレ
1999年
金髪姿の派手ないでたちと暴力的な性格で、地元で暴れまわっていた山本賢治。
賢治の父親は証券マンでしたが、バブル崩壊後に覚せい剤に手を出してしまい、過剰摂取で死去します。賢治は父親の葬式の場で、刑事の大迫に父親を侮辱されたうえ、覚せい剤使用を疑われ検査まで受けることに。
幼い頃に母親も亡くし、身寄りがなく荒れた賢治は、偶然見かけた覚せい剤の売人を殴り、金を奪い逃走し、覚せい剤を海に投げ捨てます。
賢治は親友の細野と大原を連れ、母親のように自分に接してくれる愛子の食堂で、食事をします。そこへ、柴咲組組長の柴咲博が食堂を訪れます。
愛子の亡くなった夫は、元柴咲組の若頭で、敵対する侠葉会との抗争で命を落としており、柴咲は愛子の事を気にかけていました。
初めて目にするヤクザを、賢治が睨みつけていると、突然柴咲が鉄砲を持った男に襲われます。しかし、食事を邪魔されて機嫌が悪かった賢治が、男を殴り柴咲の危機を救いました。
後日、柴咲組の中村に連れられ、組の事務所を訪れた賢治。
身寄りの無い賢治の話を聞いた柴咲は、賢治を組に誘いますが、ヤクザを嫌う賢治はこれを拒否。賢治は柴咲の名刺を受け取り、家に帰ろうとしますが、そこへ侠葉会の組員が現れ、賢治を拉致します。
賢治の他にも、細野と大原も捕まっており、侠葉会の組員に暴行を受けました。
賢治が奪った覚せい剤は、侠葉会のもので、侠葉会の若頭である加藤は賢治が覚せい剤を捨てた事を知り、腹を立て、臓器を売りさばこうとします。
侠葉会の若頭補佐、川山は、賢治達を香港行きの船に乗せようとしますが、賢治のポケットから柴咲の名刺を見つけます。
柴咲組と侠葉会は、一度手打ちになっている為、加藤としても迂闊に手を出す事はできず、柴咲組に連絡をします。
賢治達は迎えに来た中村に連れられ、柴咲組の事務所に戻りました。
血まみれの賢治を、柴咲は優しく迎え入れます。柴咲の人間性に魅了された賢治は、柴咲と父子の盃を交わし、柴咲組の組員になります。
映画『ヤクザと家族 The Family』感想と評価
移り行く時代と共に変化してきた、ヤクザという存在を描いた映画『ヤクザと家族 The Family』。
本作は、タイトルからも分かるように「家族」という視点で描かれたヤクザ映画です。
まず1999年、主人公である賢治の、実の父親の葬式の場面から始まります。
葬式会場には、ほとんど人がおらず、賢治の父親が生前周囲から、それほど愛された人物でない事が分かります。
賢治も、金髪で真っ白な上下の服装という姿で葬式会場に現れた事から、実の父親を嫌っていた、というより「どうでもいい存在」と感じていたのでしょう。
母親も早くに失い、孤独な賢治は、荒れた生活を送っていましたが、柴咲組の組長、柴咲博と出会った事で運命が変わります。
侠葉会の若頭、加藤から殺される寸前で助けられ、柴咲組の事務所で、柴咲に頭をなでられた瞬間に、それまで感情を表に出さなかった賢治が、無表情のまま涙を流す場面があるのですが、これは本来求めていた「父親像」を柴咲に見出し、柴咲を父親と感じた事が分かる印象的な場面です。
その後、賢治と柴咲が盃を交わす「親子血縁盃の儀式」の場面となるのですが、この辺りは「仁義なき戦い」や、Vシネマなどの任侠映画を意識した映像になっており、義理と人情を重んじる、昔ながらのヤクザの時代を印象付けます。
そして、時代は変わり2005年。
親友だった細野と大原と共に、街の顔役となった賢治は、1999年とは違い、黒髪にサングラス、スーツで身を包んだ容姿で、落ち着いた雰囲気に変化しています。
柴咲組という「疑似家族」に身を置いた賢治は、家族の存在が大事になっており、その想いの強さが、侠葉会との抗争に繋がってしまいます。
そして賢治は、大事な家族を守る為に、侠葉会の川山を刺した中村の罪を全て被り、刑務所に服役されます。
井筒和幸監督の映画『無頼』でも描かれていましたが、この時代のヤクザは、表立って処理できない、いわゆる「汚れ仕事」を扱っていた部分がありました。
『ヤクザと家族 The Family』では、キャバクラで起きたトラブルを収拾する為に、賢治が呼び出されるという場面で、その事が描かれています。
この時代は、一般的には表沙汰に出来ない事を、ヤクザが秘密裏に処理するという形で、社会と繋がっていた、ヤクザが必要とされていた時代と言えます。
ですが、賢治が出所した2019年から、ヤクザを取り巻く環境は大きく変化します。
「暴力団対策法」の影響で、賢治が、中村の罪を被ってまで守ろうとした家族である柴咲組は、衰弱していて消滅寸前となっていました。
作中でもありますが「暴力団対策法」は、ヤクザであれば、口座も作れず、携帯電話も契約できず、住居も借りれないという状況に追い込まれ、ヤクザを辞めても、一般の人間と扱われるまで5年はかかるという、厳しい法案です。
賢治も柴咲の提案で、消滅していく柴咲組から足を洗う事を決めます。
これまで、大切にしてきた家族を失った賢治ですが、由香と娘の彩と3人で、本当の家族を作ろうとします。
ですが、元ヤクザの賢治は、社会から厄介者として扱われ、決して幸せになれないという展開が続きます。
この展開の受け止め方は、人それぞれだと思います。
ヤクザという、いわゆる「反社会的な道」に進んだ賢治は、自業自得のように感じるかもしれません。
ですが、柴咲組と敵対していた侠葉会は「暴力団対策法」の影響を受けずに生き延びています。
義理と人情を重んじていた柴咲と違い、侠葉会の加藤は、時代の先を読んで手を打っていました。
柴咲組が裏で、トラブルを収める「必要悪」であれば、侠葉会は稼ぎの為に覚せい剤や臓器売買など、なんでもやる「絶対悪」です。
ヤクザと一言で言っても、その本質はさまざまなはずで、全てを「反社会勢力」と括ってしまっていいのでしょうか?
藤井監督は、2019年の賢治や柴咲組の姿を通して「個性を殺され、社会から弾き出された人間は、どう生きればいいのか?」と問題定義をしています。
作中では「暴力団対策法」は皮肉な事に、「必要悪」を潰して「絶対悪」を残す結果になってしまいました。
これだと、本作は悲惨なだけの物語ですが、賢治には自らを慕う翼という存在がいます。
翼が犯罪に手を染めないように、賢治が加藤と大迫の命を奪ったのは、「必要悪」としての最後の役目を全うしたと言えます。
本作は、賢治を父親のように感じている翼が、賢治の本当の娘である彩に、話を聞かせる場面で終わります。
望んだ形では無かったにしろ、賢治は間違いなく「家族」を残していったという、僅かながらですが希望を感じるラストシーンでした。
まとめ
1999年から2019年という変わりゆく時代の中で、ヤクザという存在を描いた本作。
「反社会勢力」という言葉が、メディアで飛び交う中、この企画を実現させたのは、かなりの覚悟が必要だったでしょう。
ただ、本作でも描かれているように、かつてヤクザは「必要悪」であった時代があり、今の価値観にそぐわないからと、全てを排除する潔癖すぎる世の中も、また異常と言えます。
捉え方が難しいのですが、本作はヤクザを正当化している作品ではありません。
前述したように、社会から弾き出された賢治の姿を通し、多様性を認めない世の中に、問題定義をしているのです。
また、本作は家族を求め、守ろうとした山本賢治という男の、半生を描いた人間ドラマでもあるので、このドラマに込められた、本当に重いテーマを、是非受け取って下さい。
映画『ヤクザと家族』は、2021年1月29日よりロードショーです。