2021年1月23日に一足早く特別上映された映画『愛うつつ』。
現在、新型コロナの影響でユーロスペースでの上映は延期、2021年春公開予定。
「愛しているからこそ抱けない」新⽥純と「愛しているからこそ抱かれたい」白井結衣。
本作『愛うつつ』が長編映画デビューとなる葉名恒星監督が自身の実体験をもとに、あるカップルの愛とセックスの形を描いた人間ドラマ。
主人公新⽥純を演じるのは映画『佐々木、イン、マイマイン』で印象的な演技を見せた新鋭若手俳の優細川岳。その恋人役・結衣役をシンガーソングライターとしても活躍するnagohoが演じています。
映画『愛うつつ』の作品情報
【日本公開】
2021年
【監督・脚本】
葉名恒星
【キャスト】
細川岳、nagoho、佐藤岳人、井上実莉、大澤由理、黒木克幸
【作品概要】
監督を務めるのは本作が長編映画監督デビューとなる葉名恒星。自身の実体験を元に本作を構想し、映画を作る前から友人であった細川岳に主人公・新田純の役をオファー。白井結衣を演じるのは、シンガーソングライターとしても活躍するnagoho。
映画『愛うつつ』のあらすじとネタバレ
人材会社の営業職で働く新田純(細川岳)。彼は大学生の白井結衣(nagoho)と付き合っていました。2人は仲睦まじく家に泊まり合う仲であるが、新田純は彼女に性欲を感じることが出来ず、抱けないことに思い悩んでいました。
ある時結衣が純に女性経験がないのかと尋ねます。本当のことを言えず、ふざけて誤魔化す純。
自分に魅力がないのかと不安がり結衣に純は会う回数を増やそう、一緒に住むのはどうかと提案します。お金は心配しなくていいとも言う純の提案に結衣も賛同します。
かつてアルバイトの教師と生徒であった純と結衣。だからこそどこかでまだ生徒だと思われているのか、それとも女性経験がないのかと悩む結衣はアルバイト先の友人(井上実莉)に相談します。
友人も何か訳があるのではと冗談半分に言います。しかし、結衣は純を信じ、一緒に住む気でいることを友人に告げます。友人はそんな結衣に呆れています。
純は結衣を抱けないことに思い悩むだけでなく、結衣に言えない秘密を抱えていました。それは仕事場の上司(佐藤岳人)に誘われ出張ホストを行っていることでした。
年上の女性やさまざまな女性と性行為をすることでお金をもらっている純。上司にも、今まで普通にしてきたのに何故出来ないのか、純と結衣の関係は普通じゃないと言われてしまいます。
純自身も自分たちの関係が普通ではないことをどこかで分かりながらもどうすれば良いのか分からず思い悩んでいます。
そして、ついにジャケットに入っていた名刺で純の秘密を結衣が知ってしまいます。
映画『愛うつつ』の感想と評価
本作『愛うつつ』は監督自身の実体験を元に、「愛とは何なのか」という疑問を純と結衣の恋愛を通して観客に訴えかける映画となっています。
純が「普通って何だよ、あんたが普通の恋愛語るなよ」と上司に怒りをぶつける場面や、結衣が友達に対し、「正しいことばかり言わないで」という場面があります。そのような場面を通して、誰もが漠然と恋愛はこういうものと思っている価値観が揺らぎはっとさせられます。
恋愛も愛も答えはありません。確かに、出張ホストで客の女性とは性行為ができるのに、恋人とは出来ないというのは変だと思うかもしれません。
でもそれが愛ではないとは言い切れるでしょうか。何かおかしいと漠然とした“普通”の恋愛を人は求めてしまいます。
しかし、そもそも“普通”の恋愛が何なのか答えられる人などいるのでしょうか。
本作で結衣は合コンで出会った男性と行為に及んだかどうかまでは描かれていません。
しかし、純が置いていった煙草を一人部屋で吸い、客としてホストの純に会いに行った結衣はどうにかして純と一緒にいる方法を探し求めていたのでしょう。
一方で純も抱くことはできないけれど一緒にいたい気持ちを結衣に伝えようとします。
結衣の気持ちに答えようとした純は結衣を抱きます。そして迎えた朝。結衣は純の愛を受け止め純といることを選んだのか、それとも純を理解できずに別れを選んだのか。
最後に結衣が言った「バイバイ」は、お互い歩み寄ろうとした結果、別れを選んだ前向きな次の一歩のための「バイバイ」だったのはないでしょうか。だからこそ純はそのまま駅には行かずに歩いてきた道を戻ったのかもしれません。
まとめ
「愛しているからこそ抱けない」新⽥純と「愛しているからこそ抱かれたい」白井結衣、2人の恋愛を通して“普通”とは“愛”とは何なのか問いかける映画『愛うつつ』。
どこか歪のように見えるかもしれない2人の葛藤と不器用ながらも愛を伝えたい姿はいつかの自分や、ふと感じたもやもやを思い起こさせる、パーソナルであり、どこか普遍的な問いかけである映画になっています。
映画『佐々木、イン、マイマイン』で佐々木と言う印象的な役を演じていた細川岳さん。本作は『佐々木、イン、マイマイン』よりも前に作られた映画ですが、どこか掴みどころがないようで人間味に溢れた新田純を魅力的に演じていました。
監督を務めた葉名恒星さんとは葉名恒星さんが映画を作る以前から友人であり、本作の最初の脚本をもらった時に色々と話し合ったそうです。そんな2人だからこそ出来たリアルな葛藤、既存の価値観に対する問いかけがこの映画にはつまっています。