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Entry 2021/01/23
Update

『私たちの青春、台湾』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。傳楡が意味を問う!ひまわり運動で見せた“発言や行動”への責任

  • Writer :
  • もりのちこ

学校、組織、会社、国家のこと。
あなたは自分の意見を持っていますか?

2014年、台湾で起きた学生たちによる社会運動「ひまわり運動」。そのリーダーと、中国人留学生の人気ブロガーを追ったドキュメンタリー映画『私たちの青春、台湾』を紹介します。

台湾出身の陳為廷(チェン・ウェイティン)は、台湾学生運動の中心人物とし「ひまわり運動」のリーダーを務めました。

また、中国出身の蔡博芸(ツァイ・ボーイー)は、台湾への留学中に社会運動に参加。活動をブログで配信し、書籍化もされました。

監督の傳楡(フー・ユー)は、そんな2人の若者に社会運動の未来を期待し撮り続けます。

台湾、香港、中国が抱える問題の根深さ、相互理解の難しさ。民主主義を望む若者たちはいったい何を求め戦うのでしょうか。

映画『私たちの青春、台湾』の作品情報


(C)7th Day Film All rights reserved
【日本公開】
2020年(台湾)

【監督】
傳楡(フー・ユー)

【キャスト】
チェン・ウェイティン、ツァイ・ボーイー、リン・フェイファン

【作品概要】
第55回、金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『私たちの青春、台湾』。台湾の学生たちによる社会運動を追った作品です。

2014年の「ひまわり運動」のリーダー陳為廷(チェン・ウェイティン)と、人気ブロガー蔡博芸(ツァイ・ボーイー)の活動を通して、台湾がぶつかる民主主義の葛藤や、中国との政権問題に迫ります。

監督は、台湾出身の傳楡(フー・ユー)。これまでも、若者の台湾政治や経済に対する理想や態度を扱ったドキュメンタリー映画製作に力を注いできた監督です。

映画『私たちの青春、台湾』のあらすじとネタバレ


(C)7th Day Film All rights reserved

2017年、台湾。スクリーンに映し出されている映像は、傳楡(フー・ユー)監督が、これまで撮りためてきた学生社会運動の記録映像です。それを見つめる人物がいました。

ひとりは、台湾出身の陳為廷(チェン・ウェイティン)。彼は、2014年に台湾で起きた学生たちによる社会運動「ひまわり運動」のリーダーを務めた人物です。

そして、もうひとりは中国出身の蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。中国人留学生だった彼女が、台湾で参加した学生運動の様子を綴ったブログ「台湾で過ごす青春」は、話題を呼び書籍化もされた人気ブロガーです。

この映画は、台湾学生運動の前線に立ち、社会運動に青春を捧げたウェイティンとボーイーを追ったドキュメンタリーです。

第二次世界大戦後、日本退去により台湾は中華民国に復帰します。1949年、中国大陸での支配権を失った中華民国政府が台湾へ撤退。

これにより中国大陸は、国民党率いる中華民国(台湾)と、共産党率いる中華人民共和国(中国)に別れます。

互いが中国の正当な政権であるとし主権を譲らない中、中国の社会主義に対して、台湾は独立国を目指し民主主義を進めます。

その後も「ひとつの中国」を掲げ統制を計ってくる中国に対し、台湾では受け入れ態勢を見せる政府の政策に反対する社会運動が起こっていきます。

そして2012年。反メディア独占運動に学生として参加するウェイティンとボーイーの姿がありました。

言論とメディアの自由を求め声をあげ続ける2人。街頭演説、座り込み、侮辱者との衝突、自らの体を動かし激しい抗議に身を置くウェイティン。

中国からの留学生であるという敵対視されてもおかしくない立場にありながら、台湾の社会運動へ参加し、その活動をブログを通し伝え続けるボーイー。

ボーイーのブログは話題を呼び書籍出版が決まります。タイトルは「台湾の若者たち」。母国である中国での出版イベントに出席するボーイー。

ボーイーは、帰国するたびに中国の公安に呼び出され取り調べを受けます。身の危険を冒してまで活動を続けるボーイーに、両親は「政治に首をつっこむな。留学は間違っていた」と嘆きます。

何がボーイーを突き動かすのか。そのきっかけは、1989年の天安門事件にありました。民主化を求め集結したデモ隊に、国は武力行使で弾圧。多数の死傷者を出しました。中国ではこの事件を取り上げることは許されず、メディアも規制されています。

「自分の国は自分で救う」。自由に自分の考えを主張できる社会を願います。

ボーイーの中国での出版イベントを祝福し、ウェイティンは中国へと渡ります。中華民国のパスポートで台湾を出国し、台湾居民来往大陸通行証に記入し中国へ。

「連行されるかも」という言葉も飛び出しますが、さすがに学生ひとりにそこまでの監視は行われていません。

ウェイティンはこの機会に、中国、香港の社会運動に参加する同世代の学生に会おうとしていました。

中国での社会運動は民主化、格差社会、労働と様々な要因が挙げられますが、学生たちは「台湾の独立はない」とし、考えも様々なようです。

ウェイティンは香港に向かいます。香港の学生運動は、平等選挙を掲げた熱いものでした。のちの香港・雨傘運動のリーダーとなる黄之鉾(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)との出会いでもありました。

中国、香港、台湾。それぞれをめぐり、ウェイティンは大陸の民主化、台湾独立、そして同士を助けたいという思いを強くします。

そして、時は2014年。ウェイティンら学生たちは、中国と台湾間に締結された「サービス貿易協定」への異議を訴え、台湾の国会に相当する立法院になだれこみ、24日間にわたり議場の占拠に乗り出しました。のちに一連の抗議活動は「ひまわり運動」と呼ばれます。

「ひまわり運動」は、「反服貿(サービス協定反対)」「反黒箱(反密室政治)」をスローガンに掲げ、政府が国民の同意を得ずに独断で中国有利な協定を結んだことへの抗議運動です。

学生たちの活動は多くの民衆に支持され、立法院に賛同者が押し寄せます。収まり切れない人々が立法院の周りを埋め尽くします。その数50万人とも言われています。

予想外の反応に嬉しい反面、問題も浮上してきます。外では柵が壊され、警察との衝突で暴動が起こっていました。マスコミの対応に追われるリーダーらがいる中と、声が届かない外との確執が生まれます。

「これじゃあ、まるで政府と一緒じゃないか!」厳しい意見が飛び交います。外の人の意見をネット記事にし、中に届けたいボーイー。抗議の対象が対政府ではなく、反大陸になっていることにショックを受けます。

一方リーダーのひとりとして注目されるウェイティンは、まるでスターのような人気です。「漂っている感じだ」。ウェイティンは高揚しているようでした。

学生側と政府とのやり取りは何度か続き、最終的に立法院院長により学生側の要求に応じ、サービス貿易協定の審議を行わないと表明が出されます。

これにより、学生側は退去を約束。「全台湾の友人ありがとう」、ウェイティンは撤退あいさつを行いました。

以下、『私たちの青春、台湾』ネタバレ・結末の記載がございます。『私たちの青春、台湾』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)7th Day Film All rights reserved
「ひまわり運動」のあと、ウェイティンとボーイーはどのような歩みを進めたのか。

大学の自治会選に出馬したボーイーは、国籍を理由に不当な扱いを受け、正当な選挙を行えず敗退となります。

これまで学校のために社会運動活動をしてきたボーイーでしたが、やはり中国人だからという壁は崩されることはありませんでした。

今まで共にしてきた活動はなんだったのか。根深い大陸との確執。個人としての力の弱さ。悔しさに泣き崩れるボーイーでした。

一気にスターとなったウェイティンは、立法院補欠選挙に出馬します。挨拶まわりにポスター撮影にと大忙しの日々です。

しかし、過去に起こした痴漢行為のスキャンダルが発覚。自ら出馬を取りやめる事態となります。

両親がいない子だから。高校生の頃から常習犯だ。様々な誹謗中傷を受けウェイティンは、出国も考えています。「自分は神ではなくなった」。

監督のフー・ユーは、彼らが最前線に突き進むのを見ながら、「社会運動が世界を変えるかもしれない」と期待を胸いっぱいに広げていました。

彼らの失速していく姿に、失望を隠し切れないフー・ユー監督。2017年、これまで撮りためてきた映像をもう一度彼らに見せ、思いをぶつけよう。まだ同じ気持ちがあることを信じて。

しかし、映像を見終わった2人の反応は、非常に現実的なものでした。「監督の想いを個人に押し付けるのは、人質行為だ」。ボーイーは語ります。

「理想への議論は大事であり、そのことを止める気はない。自分が今できること、それは様々な記事を書くことにある」と。

ウェイティンも歩みを止めることはありませんでした。英語のレッスンを受けながら、自分には他国をみて学ぶことがあると言います。

道は違えど、大志は変わらない。現在もまた魅力的な2人であると、フー・ユー監督は感じたのでした。

そして自らの気持ちに整理をつけます。「もう2人に期待を押し付けることは止そう。自分は何が出来るのか。私は一人立ちしなくては、真に自分の力で進むために」。

映画『私たちの青春、台湾』の感想と評価


(C)7th Day Film All rights reserved
中華圏での映画の祭典「ゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)」にて、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した際、台湾出身の傳楡(フー・ユー)監督は涙を流しながら、こうコメントを残しています。

「いつか台湾が真の独立した存在として認められることが、台湾人として最大の願いだ」。台湾人としてのアイデンティティを持ち、台湾独立を願う熱い思いが伝わってきます。

いま現在、「ひとつの中国」を掲げる中国に対し、台湾、香港は独立運動を続けています。自分たちの「自由」を守るためです。

中国の社会主義は一党独裁で、市民の言論やメディアの規制も厳しいものがあります。これまで民主主義のもと、全く違う文化や習慣で暮らしてきた台湾の人たちにとって、社会主義は受け入れがたいものです。

最近では香港のデモが過激化していますが、「雨傘運動」の走りは台湾の「ひまわり運動」の成果を受けて決行されたものです。

映画では、雨傘運動のリーダーとなる黄之鉾(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)と、「ひまわり運動」のリーダー陳為廷(チェン・ウェイティン)の交流も記録されています。

私たち日本人はこれらのデモ活動の様子を、テレビ越しにどこか遠い国のように見ているかもしれません。

しかし、それは決して他人事ではないのです。日本は民主主義で言論、メディアの自由があると言っても、偏った放送やSNSの誹謗中傷が加速化しています。

自らの発言や行動に責任を持つということ。これは、どこの国に住んでいたとしても同じです。

この映画で印象深いのは、フー・ユー監督が、完成したこの映像を、後のウェイティンとボーイーに見せ、涙をこらえながら自分の想いを伝えるシーンです。

監督は、どこか蚊帳の外から勝手に2人の行動に期待し、その勢いが失速していくと思い通りの結果にならなかったことを嘆きました。

しかし、フー・ユー監督はその後の2人の人生との向き合い方を見て気付かされます。自分は、自ら行動を起こすのではなく、2人に己の想いを背負わせていただけなのだと。

フー・ユー監督は、これからは人に期待するのではなく、自分の出来るやり方で自分の声を上げ続けようと決意します。

ウェイティンとボーイーそしてフー・ユー、3人はこの経験を通して、改めて人生の進むべき道を決めていきます。立場は違えど熱き思いのもと青春を捧げた社会運動。

この映画は、立ち向かう壁は高く、思わぬ痛みと挫折を味わうとしても、傍観してばかりでは何も変わらないということを教えてくれます。

まとめ


(C)7th Day Film All rights reserved

2014年に台湾で起きた「ひまわり運動」に関わった2人の学生を追いかけたドキュメンタリー映画『私たちの青春、台湾』を紹介しました。

台湾、香港、中国の社会運動からみる若者の情熱と挫折、夢見た未来への記録が綴られています。

世の中を、国を大きく変えることは出来ないかもしれないけれど、現在自分がいる周りの環境はどうでしょうか。

不満を抱えイライラをぶつけるだけでななく、声に出して自ら行動することで、明るい未来への道が開けるかもしれません。


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