連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第8回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信サービス【U-NEXT】で鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第8回は、マーク・アトキンス監督が、脚本、撮影、演出を務めた、ファンタジーと戦争映画の融合させた『ドラゴン・オブ・ナチス』です。
素晴らしき飛行機野郎・ロビンス役を務めるのは、俳優であり、本作の原案とプロデューサーを兼務するスコット・マーティン。マドンナの看護師マッキー役には、映画『Big Kill』で、マーティンともタッグを組んだステファニー・ベランが扮しています。
世界大戦時のドイツ軍は戦いを有利に進めるため、生物兵器のドラゴンを孵化させ、魔女たちのテレパシーによって自在に操っていました。奇想天外なファンタジーと戦争アクションの2大人気ジャンルの合体!
まさにB級映画の香りがプンプンとなった本作『ドラゴン・オブ・ナチス』は、前代未聞のドラゴンvs.連合軍P51ムスタングが空中戦を見せる戦場ロマン作品です。
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CONTENTS
映画『ドラゴン・オブ・ナチス』の作品情報
【公開】
2014年(アメリカ映画)
【原題】
P51 DRAGON FIGHTER
【原案・脚本・撮影・監督】
マーク・アトキンス
【キャスト】
スコット・マーティン(野口晃)、ステファニー・ベラン(平田由季)、ロバート・パイク・ダニエル(松島淳)、オスマン・ソイカット(藤原満)、トム・ラシュフォード(岡本未来)、ハーウッド・ゴードン(前田弘喜)、トレイ・マッカーリー(安井崇人)、ロス・ブルックス(桜悟)、マイケル・ハンプトン(橘諒)、ジョニー・コストレー(野村達也)、アンソニー・デュプレー(濱岡敬祐)、スティーブン・ブラックハート(神村駿助)、ベン・ウィンドル(内田吉則)、ライリー・リットマン(本多諒太)、スティーブン・スーツ(佐々木義人)、ポール・ウェットストーン(西村建志)、クリント・グレン・フンメル(加藤優季)マディソン・ボイド(岡本瑠美)
*カッコ内は日本語版吹替声優
【作品概要】
主人公ロビンス役のスコット・マーティンが原案・製作を兼務し、マーク・アトキンス監督も原案から参加して、脚本・撮影・演出を務めたファンタジー戦場ロマン作品。またマドンナのマッキー役はステファニー・ベランが務めています。
ドイツ軍が組んだ魔女たちがドラゴンの群れを調教し、連合軍のP51ムスタング戦闘機に搭乗するパイロットたちとの空中戦が大きな見どころです。
映画『ドラゴン・オブ・ナチス』のあらすじとネタバレ
おそらく第二次世界大戦の少し前。ナチスの考古学探検隊が長年探し求めていた、黄金色に輝くドラゴンの卵をついに捕獲。それを孵化させることでドラゴンの軍事仕様に努めました。
このドラゴンは雌単体で繁殖が可能な個体であり、1匹のドラゴンの雌さえいれば、何度も繁殖することが可能でした。
また、ドラゴンの調教には、美しい歌声と共に翼竜怪物と精神的な繋がりを持てる、アーリア人の魔女ヴリルら4人によって行っていました。
1942年、ドラゴン繁殖プログラムを担当する、ナチスドイツ軍の未確認生物学者であるハインリッヒ・グドルン博士(オズマン・サーグッド)が、コードネーム「スカイワード」を連れて到着します。
成長したドラゴンと魔女のヴリルたちは、陸軍元帥のアーウィン・ロンメル上級大将(ロバート・パイク・ダニエル)の指揮の下、アフリカ軍団を支援する北アフリカ戦線で、地上と制空権のいずれをも制圧しつついました。
彼らの思いのままにドラゴンを使い、連合軍の戦車を火炎に包み、また戦闘機も追い回し、玉砕していました。
一方のアメリカ軍も事態を静観しているばかりではありません。
ドラゴンが激しい火炎を吐き出して、味方の戦闘機を撃破するところを撮影したフィルムを手に入れ、強靭な生物兵器のドラゴンがいた情報を得て、立ち向かうための作戦部隊を招集します。
飛行隊部隊に招集されたのは、ジョン・ロビンス中尉(スコット・マーティン)が率いる、精鋭揃いの若者たち。腕に自身があり、少し荒くれ者でもある連合国戦闘機のパイロットで構成されることになりました。
ワード将軍(トム・ラシュフォード)が、作戦の指揮官となったドイツナチスが開発した生物兵器のドラゴンを始末する、秘密作戦を実行する飛行部隊は、隊員たちによって「ゴースト飛行隊」と名付けられました。
そんな矢先、スクランブル発進をした連合軍の「ゴースト飛行隊」は、P51ムスタング戦闘機で扇編隊を組み、苦戦はするものの、ドラゴンを前に巧みな空中戦を見せています。
何とかパイロットの1人がドラゴンの弱点である首に、銃撃を打ち込むことで撃墜に成功。
しかし、ゴースト飛行隊のパイロットのマークスほかは、ドラゴンを始末する前に自ら激突をして爆破。双方に被害を与える熾烈な死闘の応戦を繰り広げました。
ハインリッヒ・グドルン博士は、ロンメル上級大将らに生物兵器のドラゴン部隊と、アーリア人の魔女ヴリルを紹介し、ドラゴンをいかに制御し続けることができるかを、誇らしげに証明して見せました。
ドイツ軍の上層部は改めてドラゴンの恐ろしさと、その忠誠心を目の当たりにして、究極の目的であるナチスの世界統一が実行できると確信を得ました。
そして、ドラゴンについての知識も聞かされます。単為生殖の雌が繁殖をするも、中にはドラゴンの雄の卵を産むことがあり、その事実はハインリッヒ・グドルン博士のひとつの懸念する課題であるもあると説明。
その雄は珍しいだけでなく、信じられないほど大きくて凶暴、また他の怪物に変化を見せるという太古からの伝説があり、その雄が解き放たれるとドイツ軍の計画のみならず、世界が終わると付け加えました。
ハインリッヒ・グドルン博士は、ロンメル上級大将(ロバート・パイク・ダニエル)に雄が生まれた際に、直ちに抹殺するとを約束。そして自分たちがドラゴン軍隊とロンメル軍隊が組めば、アフリカ戦線のみならず、欧州も支配できること告げます。
ロビンズ中尉と彼の仲間のパイロット3人は、撃墜したドラゴンの落下地点に向かい、生物兵器の遺体を4トントラックに乗せて回収し、調査をすることを決めます。
しかし、隙を見せた彼らは、ロンメル上級大将の指揮するドイツ兵に囲まれ、だ捕されてしまいます。
そしてロンメル上級大将は、整列させた捕虜のロビンズ中尉らに、ドラゴンがいかに優れているかということ、かつて1匹の雄のドラゴンのカルタゴが、ローマ帝国の崩壊を加速させたことを説明。
そして自分は独自に調査して、ドラゴン研究を行なった生物兵器は、多くの文明を滅亡させる危険にさらす危惧があると言い始めます。
そしてハインリッヒ・グドルン博士は、秘密基地として山の地下深くに隠して設計した、ドラゴン孵化施設を内部から通気口を解放するので、ロビンズ中尉に、空中からB-17爆撃機で殲滅させろと言い出します。
ロンメル上級大将の軍隊では、ドラゴンの卵を殲滅できないので、連合軍に頼むのだと語りました。ロビンズ中尉はロンメル上級大将に、それは罠ではないかと反論します。
しかし、ロンメル上級大将は自分も軍人だ信用しろと命令を下します。しかも、ドラゴンの孵化施設の基地には、内部に密偵が準備を進めているともいいます。
ロンメル上級大将は、ドラゴンの雄の卵が孵化することを何よりも懸念していたのです。そして解放されたロビンズ中尉は連合軍に戻り、ワード将軍にそのことを説明します。
にわかに信じがたいが、両者はロンメル上級大将の申し出をのみ、ドラゴンの卵殲滅の作戦を立てることにしました。
映画『ドラゴン・オブ・ナチス』の感想と評価
参考映像:『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)
ナチスドイツ軍はオカルト部隊⁈
本作『ドラゴン・オブ・ナチス』は、第二次世界大戦下を描いた戦争映画ですが、ファンタジー要素として人気の高いドラゴンや、魔女を登場させています。
如何にもアイデア勝負の設定は、“誰が観ても正真正銘”の「正統派なB級作品」の戦争映画です。
ドイツ軍が戦争を優位に進めるために霊的な力を使っていますが、かつて、1980年代にも、同じように霊的な力で戦争を描いた作品があります。
それは、アークを手に入れようとしたナチスを描いた、戦争と冒険活劇をミックスさせた作品で、1981年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』。
そう!「インディ・ジョーンズ」シリーズの第1作目となる作品です。失われたアークとは、モーセの十戒の書かれた石板を納めた聖櫃、契約の箱が秘宝でしたね。
一方の『ドラゴン・オブ・ナチス』では、イランのアーリア人である魔女とドラゴンという、オカルトファンタジーの要素が主軸にさせていますが、これはスピルバーグ監督を例に出すまでもなく、既にオカルト的な心霊をヒットラーが軍事利用しようとしたジャンルは存在しています。
しかも本作のドラゴンの翼には、何とナチスの鍵十字(ハーケンクロイツ)があります。
あれがペイントなのか、刺青なのか? それとも卵から孵化した時から魔女の妖術で描かれたものなのでしょうか。謎は残ります。(まあ、どうでもいいことですが…)
そのほかにも面白いエピソードが本作には隠されています。
しかし、これは映画スタッフの制作者の意図から外れて、“歴史的な無知”さから来るのか? あるいは、B級映画マニアの心情を掴む意外な要素かは定かさではありません。
実は主人公のロビンス中尉は、時空を超えた「タイムトラベル」で任務を遂行しています。(まあ、インチキ歴史なだけですが…もちろん好意的です)
タイムトラベラーのロビンス中尉⁈
参考映像:『砂漠の鬼将軍』(1951)
*巨匠ヘンリー・ハサウェイ監督の作品で、実際にロンメルが来ていた軍服をロンメル役のジェームズ・メイソンが着用しています。
あまり歴史や、軍事などに詳しい方ではないのですが、戦争を描いたテレビドラマ『コンバット』(1962〜67放送)や、戦争映画だけは子どもの頃から見続けてきたことから、直ぐに「ありゃ?」「マジ?」と首を傾げました。
主人公のジョン・ロビンス中尉が、恋に落ちた愛しい看護師のレイチェル・マッキーを前に、過去の失敗談を語った時に、「V2兵器」の秘密基地攻撃作戦を語ります。
おいおい、「あれ、ロンメル上級大将の北アフリカの舞台設定では?」「V2兵器って?」と、鑑賞中にツッコミを入れました。
実は、ロンメル上級大将がリビア入りしたのは、1941年2月であり、トブルクを攻略したしたのはその約1年後。一方で、V2兵器が実戦配備されたのは1944年9月のベルギー。しかも、1945年3月に連合国軍は、ハーグ近郊でV2兵器を爆撃の破壊を行い、誤って市民の死者を出したのです。
もちろん、そのことだとは劇中だけで断定はできませんが、ロビンス中尉が未来の作戦ミスでの後遺症を抱えて、過去に戻ってきたとは、ファンタジー戦争映画としても考えられません。(これ揚げ足取りでなく…あくまでB級映画ファンの好物です)
参考映像:『砂漠の鼠』(1953)
*巨匠ロバート・ワイズ監督の作品で、北アフリカのトブルク包囲戦を描き、ロンメル役は同じくジェームズ・メイソン。
参考映像:『オフサイド7』(1979)
*B級映画マニア御用達の名匠ジョージ・P・コスマトス監督の作品で、「V2兵器」が登場します。
つまり、飛行停止処分を受けていたロビンス中尉が起こしたであろう、女性や少年の殺害などの問題行動は約3年後の未来の話。彼は未来からやって来たタイムトラベラーな戦士となるのです。
まあ、本作はファンタジーであり、B級戦場ロマン映画なので時代考証は2の次、3の次。というか、いっその事、ロビンス中尉は未来で作戦失敗の問題行動を起こして過去に来たくらいのほうが、映画としては豊かになりますよね。
俳優であり、原案とプロデューサーを兼務するスコット・マーティン。なかなか良いB級映画センスをしています。
まとめ
本作『ドラゴン・オブ・ナチス』は、“自信”?を持ってB級映画と言い切れる、ファンタジーと戦争映画を融合させた作品です。
解説で紹介したヘンリー・ハサウェイ監督の『砂漠の鬼将軍』や、ロバート・ワイズ監督の『砂漠の鼠』と比べれば、予算もなければ銀幕の名優と呼ばれる役者も登場しません。
かつて、ロンメル役を演じた名優ジェームズ・メイソンは、ロンメル夫人から衣装を提供されたことから見れば、『ドラゴン・オブ・ナチス』に登場するドイツ兵の衣装は、これで仮装大賞は大丈夫か?という、ツッコミ入れたいほどダラシがありません。
まあ、それも戦時下ではリアル描写と捉える方が良いのかもしれませんが…。ただ、羨ましくもあります。
本作を見ながら、頭の中では零式戦闘機と龍が並走したり、戦っていたらどれほど楽しい戦争娯楽映画なのかと想像はつきません。(『仮面の忍者 赤影』があるから、ダイジョウブ⁈ なんだけど…)
ハリウッド超大作のみならず、本作『ドラゴン・オブ・ナチス』のようなB級映画が作品としてあることが、映画がエンターテーメントなアメリカならではなのです。
俳優であり、プロデューサー、脚本家でもあるスコット・マーティンという、B級映画の素晴らしきの出会いに感謝!
ちなみに、ドラゴンの雌と雄の違いは、サイズの大きさと、火を吹くことくらいの可愛らしさです。ポスター画像には注意しましょう。笑
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