Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/12/22
Update

映画『どん底作家の人生に幸あれ!』感想評価と考察レビュー。原作「デイヴィッド・コパフィールド」から作家のユーモラス人生を描く

  • Writer :
  • 咲田真菜

2021年1月22日(金)映画『どん底作家の人生に幸あれ!』がTOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほか全国順次公開されます。

映画『どん底作家の人生に幸あれ!』の原作は、2020年が没後150年にあたるチャールズ・ディケンズの代表作『デイヴィッド・コパフィールド』。

『スターリンの葬送狂騒曲』のアーマンド・イアヌッチ監督が手掛けて、ブラックユーモアあふれる作品に仕上がりました。

幸せな少年時代が母の再婚とともに一変。家を飛び出し都会の工場で強制労働をするデイヴィッド。あることがきっかけで、どん底人生から這い上がろうとするのですが……。

主人公デイヴィットは『LION/ライオン~25年目のただいま~』のデヴ・パテルが務め、奇人変人が続々出て来る楽しい作品となっています。

映画『どん底作家の人生に幸あれ!』の作品情報

【日本公開】
2021年(イギリス・アメリカ合作映画)

【監督】
アーマンド・イアヌッチ

【脚本】
アーマンド・イアヌッチ、サイモン・ブラックウェル

【キャスト】
デヴ・パテル、アナイリン・バーナード、デイジー・メイ・クーパー、ヒュー・ローリー、ピーター・キャパルディ、ロザリンド・エリーザー、ティルダ・スウィントン、ベン・ウィショー、モーフィッド・クラーク、ベネディクト・ウォン

【作品概要】
文豪チャールズ・ディケンズの半自伝的傑作小説『デイヴィッド・コパフィールド』を『スターリンの葬送狂騒曲』(2017)の鬼才アーマンド・イアヌッチ監督が映画化。英国屈指の豪華なキャストで、ディケンズの波乱万丈ストーリーを描きます。

デイヴィッドを演じたのは、『LION/ライオン~25年目のただいま~』(2016)でアカデミー賞®にノミネートされたデヴ・パテル。伯母には、『フィクサー』(2007)でアカデミー賞®助演女優賞を受賞したティルダ・スウィントン。その同居人に、人気TVシリーズ「Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-」のヒュー・ローリー。さらに「007」シリーズ最新作の公開も控えるベン・ウィショーなど、現代にふさわしいダイバーシティなキャスティングによって、奇人変人を嬉々として演じる豪華アンサンブルは見逃せません。また、イギリス・ヴィクトリア朝時代の上流家庭から最底辺まで、人々の暮らしぶりを再現した美術セットや衣装も見どころとなります。


映画『どん底作家の人生に幸あれ!』のあらすじ

(C)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

デイヴィッド(デヴ・バテル)は少年の頃、周囲の“変わり者”たちのことを書き留めては、空想して遊んでいました。

優しい母と家政婦の3人で幸せに暮らしていましたが、暴力的な継父の登場によって人生が一変。都会の工場へ売り飛ばされ、強制労働をするハメになります。

しかも里親は、借金まみれの老紳士。歳月が過ぎ、ドン底の中で逞しく成長した彼は、母の死をきっかけに工場から脱走します。

たった一人の肉親である裕福な伯母(ティルダ・スウィントン)の助けで、上流階級の名門校に通い始めたデイヴィッドは、卒業後に法律事務所で働き始め、さらに令嬢ドーラ(モーフィッド・クラーク)と恋に落ち、順風満帆な人生を手に入れたかに見えました。

しかし、彼の過去を知る者たちによって、ドン底に再び引き戻されそうになります。

デイヴィッドの数奇な運命の行方は!? すべてを失っても綴り続けた、愛すべき変人たちとの《物語》が完成した時、彼の人生に“奇跡”が巻き起こります。

映画『どん底作家の人生に幸あれ!』の感想と評価

(C)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

波乱万丈なデイヴィッドの人生をコメディタッチに表現

主人公のデイヴィッドは、心優しい母親と世話好きで気のいい家政婦ペゴディと幸せな暮らしをしていました。

そんなデイヴィッドの平穏な生活は、母親の再婚で大きく変化をしてしまいます。義理の父親は威圧的で気に入らないことがあると暴力をふるう人物。その姉は氷のように冷たい女性でした。

義理の父親に反抗したデイヴィッドは、家を追い出され、ロンドンの工場で働くことになります。「お坊ちゃん」だったデイヴィッドが、一気に貧乏人へ転落していく瞬間でした。

青年になるまでロンドンの工場で真面目に働き続けますが、継父とその姉から心無い言葉で母親の死を知らされた瞬間、デイヴィッドはこれまで耐えてきたものがプツンと切れてしまいます。

そして「自分にふさわしい人生があるはず」と言い放ち、唯一の親族である伯母を頼り、自分の人生を切り拓こうとしていきます。

一見変わった人だけれども心優しい伯母とそのいとこであるミスター・ディック(ヒュー・ローリー)と出会ったことで、デイヴィッドの人生は大きく変わっていきます。

貧乏のどん底で波乱万丈な人生を送るデイヴィッドですが、アーマンド・イアヌッチ監督は、おもしろおかしく描いています。

例えば、ロンドンの工場から逃げ出し、満身創痍で伯母の家に到着したデイヴィッドの場面。不審者だと勘違いし、自分の甥だと気付かない伯母に対して必死にアピールするデイヴィッドに、思わずクスッと笑ってしまいます。

そしてそこに登場する、伯母の家に同居しているミスター・ディック(ヒュー・ローリー)がからみ、「疲れ果てたデイヴィッドを前に、その会話?」とツッコミを入れたくなるような会話劇が繰り広げられます。

幼い頃から、自分のまわりにいる「変わった人」を観察しては、その人たちが放つ言葉をメモに書き留めていたデイヴィッド。

そんなデイヴィッドは、変わり者であるミスター・ディックと馬が合い、彼との間で交わされる会話がこの物語のエッセンスになっています

デイヴィッドを取り囲む“癖の強い”人々

(C)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

デイヴィッドのまわりに集まってくる「変わった人」は、ミスター・ディックだけではありません。

デイヴィッドが家を追い出され、初めてロンドンに来た時の下宿先の主、ミスター・ミコーバー(ピーター・キャバルディ)は借金まみれで、常に借金取りが押しかけてくる家でした。

妻と子どもたちと、借金の肩代わりにモノを取られないよう、息をひそめて暮らしているものの、実際のところは一癖も二癖もある人物。「こんな人生はもうウンザリだ!かみそりで首を切って死ぬ」というミスター・ミコーバーに「だったら私も一緒に死ぬ」と叫ぶ妻。

大騒ぎをしながらも、デイヴィッドが放ったある言葉で、あっさり態度を変える姿に苦笑いしてしまいます。

そして成長したデイヴィッドが初めて恋に落ちる女性、ドーラは、愛犬・シップだけに心を許している世間知らずのお嬢様。

シップを交えてデイヴィッドと会話をするドーラは、どう見ても少し変わった女性ですが、恋をしてしまったデイヴィッドは気にも留めず、彼女に合わせようとします。二人が繰り広げる会話もなかなかの見ものです。

デイヴィッドを幸せな気分にさせるドーラとは反対に、奈落の底へ突き落とすべく、虎視眈々と狙っている男の存在もありました。

裕福な伯母のおかげで、有名進学校へ通うことができたデイヴィッドの世話係・ユライア(ベン・ウィショー)です。

最初はこびへつらうのですが、デイヴィッドの出自を知るやいなや、じわじわと嫌がらせをする姿は、まるでヘビのよう。何を考えているか分からないところは変わった人というよりも不気味です。

こうした人たちを観察し、印象に残った言葉をメモして、彼らの口真似をするデイヴィッド。積み重ねてきたものが、デイヴィッドの人生を大きく変えるわけですが、そういうことができるデイヴィッド自身も「変わった人」の部類に入るのでは…と感じる人も少なくないかもしれません。

まとめ

(C)2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

デイヴィッドが生きた時代は、ヴィクトリア朝時代のイギリスですが、本作ではその時代の雰囲気をうまく映像で表現しています。

少年時代に働いた工場の暗い雰囲気を出したかと思えば、美しい海岸線や草原、紳士・淑女たちが着る衣装に至るまで、「チャールズ・ディケンズが生きた時代はこうだったのだろう」と思いを馳せることができます。

不遇な時でも、自分のまわりにいる変わった人たちをネタに、空想をしてきたデイヴィッド。

それが文豪・チャールズ・ディケンズを生み出したのだと思うと、何が人生を変えるか分からないものだなあとしみじみ思います。

物語のラスト、デイヴィッドが少年時代のデイヴィッドに語り掛けるある言葉が、胸にズシンと響くことでしょう

映画『どん底作家の人生に幸あれ!』は、2021年1月22日(金)TOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほか全国順次公開




関連記事

ヒューマンドラマ映画

スピルバーグ映画『続・激突!カージャック』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。代表作の隠れた名作であり、劇場映画への思いが満載の作品を読み解く

スピルバーグ映画の代表作にして、改新的な劇場映画第1作『続・激突!カージャック』 スティーヴン・スピルバーグ監督の初期の代表作といえば、16日間で撮影を行ったテレビ映画『激突!』(1971)が高い評価 …

ヒューマンドラマ映画

映画『アルキメデスの大戦』ネタバレ感想と解説レビュー。巨大戦艦の建造と戦争を天才数学者は阻止できたのか⁈

史実に着想を得たコミック『アルキメデスの大戦』が、待望の実写映画化された! 第二次世界大戦前夜の日本海軍の建艦計画など、軍事技術を軸に歴史に埋もれた物語を取り上げ、漫画家・三田紀房がコミックとして世に …

ヒューマンドラマ映画

倉田健次映画『藍色少年少女』あらすじと感想。子どもたちの姿が心を動かす作品を生んだ

映画『藍色少年少女』は2019年7月26日(金)より、アップリンク吉祥寺にてロードショー! 今後映画製作を予定しているシナリオを対象とする、2009年サンダンス・NHK国際映像作家賞のグランプリを受賞 …

ヒューマンドラマ映画

映画『おろかもの』キャスト。南久松真奈は担任教師・吉岡秀子を演じる【演技評価とプロフィール】

2020年公開予定の映画『おろかもの』キャスト紹介 若手監督の登竜門として知られる田辺・弁慶映画祭の2019年(第13回)のコンペティション部門でグランプリを受賞した長編『おろかもの』が、「田辺・弁慶 …

ヒューマンドラマ映画

映画『JOINT』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。犯罪ドラマを表裏の狭間で葛藤する男の視野から現代日本の裏社会を描く

半端者の男の葛藤と、現在進行形の日本の裏社会を描いた犯罪ドラマ! 刑務所から出所し、表の世界で新たな人生を歩もうとする、半グレの石神武司。 しかし、裏の世界から抜け出すことは容易ではなく、さまざまな思 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学