ハリウッドの音楽業界を舞台に人とのつながりや絆の大切さを描く
『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のダコタ・ジョンソンと、ダイアナ・ロスの娘トレイシー・エリス・ロスが主演を務めたヒューマンドラマ『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』。
ハリウッドの音楽業界を舞台に、長年トップに君臨する伝説の歌姫と彼女のパーソナル・アシスタントの心のつながりと信頼を描く音楽ファン必見の映画です。
歌姫にはダイアナ・ロスの娘で、女優として活躍しているトレイシー・エリス・ロスが扮し、アシスタントを務めながら密かに音楽プロデューサーをめざしている女性をダコタ・ジョンソンが演じています。
『レイトナイト 私の素敵なボス』で知られるニーシャ・ガナトラが監督を務め、ケルヴィン・ハリソン・Jr、アイス・キューブらがガッチリ脇を固めたハートフルな物語です。
映画『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』の作品情報
【日本公開】
2020年公開(アメリカ・イギリス合作映画)
【監督】
ニーシャ・ガナトラ
【原題】
The High Note
【キャスト】
ダコタ・ジョンソン、トレイシー・エリス・ロス、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ビル・プルマン、ゾーイ・チャオ、エディ・イザード、アイス・キューブ
【作品概要】
ハリウッドの音楽業界を舞台に、スター歌手とそのアシスタントのつながりと信頼を描くヒューマンドラマ。
憧れのスター歌手のアシスタントをしながら音楽プロデューサーを夢見る女性・マギーを『サスペリア』などのダコタ・ジョンソンが演じ、伝説の歌姫をダイアナ・ロスの娘であるトレイシー・エリス・ロスが演じている。
ケルヴィン・ハリソン・Jr、アイス・キューブらが共演。『レイトナイト 私の素敵なボス』で知られるニーシャ・ガナトラが監督を務めた。
映画『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』あらすじとネタバレ
ショウビジネスの頂点に君臨し続けている伝説の歌姫、グレース・デイヴィス。40代になった今も全米ツアーは毎回盛況で、ベストアルバムや、ベストライブアルバムなども好調な売れ行きを示していました。
ただ、長年、新曲を出すことはなく、ライブのセットリストも過去のヒット曲で構成されていました。
マネージャーのジャックは、ラスベガス公演を強く勧めてきます。ラスベガス公演の契約を交わすのは、過去の人となったアーティストの常套手段でした。最近はその傾向も幾分変わってきていると諭されますがグレースは気が進みません。
そんなグレースのパーソナル・アシスタントであるマギー・シャーウッドは、歌手だった母とラジオのDJの父という音楽好きの両親の影響を受け、大の音楽ファンです。
気まぐれなグレースに振り回され続ける毎日ですが、もう3年間も仕事を続けているのは彼女のことをリスペクトしているからです。
そんなマギーにはひそかな夢がありました。それはいつか音楽プロデューサーとして自立することです。マギーは、グレースは新作アルバムを出すべきだと考えていました。
マギーはグレースのアルバムを内緒でリミックスしていましたが、そのことがジャックにばれて、自分の夢を叶えるために俺たちを利用するなと言われてしまいます。
ある日、マギーは才能あふれる若きシンガー、デヴィッドに偶然出会い、その歌声に惹かれます。
マギーは自身をプロデューサーと名乗り、彼をデビューさせることを思いつきます。デヴィッドはお金には困っていないようでしたが、マギーの熱意に撃たれて、レコーディングに乗り気になってくれました。2人の仲も急速に進展していきます。
ある日グレースのところに音楽会社の重役たちがやってきました。グレースが「新アルバム」を出したいというとそれまでふざけた調子で話していた彼らは固まってしまいます。
彼らは、誰も新しいアルバムなど期待していないと言い、グレースにラスベガスの話を受けるようにと言って帰っていきました。
その夜、マギーはグレースにアルバムを作るべきですと訴えますが、グレースは「全米ナンバー・ワンになった40歳以上の女性アーティストはたった5人だけ。そのうち黒人は一人だけ」と言い、マギーに噛みつきました。
そんな中、パーティーの席でグレースの前座を務めるアーティストがキャンセルを伝えてきたと連絡が入ります。デヴィッドのレコーディングに気を取られて、アシスタントの仕事が少しおざなりになっていたせいでした。
マギーはダン・ディーキンスを代役に立てますが、あることが頭に浮かび、ダンの付き人を訪ね、代役をキャンセルしてくれと頼みます。デヴィッドをグレースの前座にすれば、彼にとって大きなチャンスになるに違いないと思ったからです。
付き人にそう伝えているといつの間にやって来たのかダンがそれを聞いていました。「デヴィッドというのはそんなにいいのかね」と彼はマギーからデモテープを受け取り、前座を降りることを了承してくれました。
映画『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』感想と評価
監督を務めたるニーシャ・ガナトラには『レイトナイト 私の素敵なボス』(2019/AMAZONにて配信)というとても素敵な作品があります。
テレビ業界を舞台に業界のパイオニアとして長年トークショーの司会を務めてきたエマ・トンプソン扮するキャサリンが、女性なのに女性を嫌っていると批判されたため、一人の業界未経験の若い女性モリー(ミンディ・カリング)を雇います。男ばかりのチームに加わったモリーでしたが、チームからはまったく相手にされません。
しかし、モリーは自身に向けられる偏見を打破し、低視聴率に陥っている番組とキャサリンのために奮起し、やがて二人の女性の間に信頼関係が生まれてくるというお話です。
『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』は音楽業界を舞台にしていますが、ショービジネスのスターでキャリアに行き詰まりを感じている女性と若いアシスタントの女性の関係を描くという点などに共通点があります。
どちらの作品も、スターである年長の女性のやや高慢な部分も描かれているのですが、それをエマ・トンプソン、そしてトレイシー・エリス・ロスがそれぞれ、絶妙な塩梅で演じていて、決していやな憎まれ役ではなく、共感を持って観られる役柄にしているのが流石です。
『レイトナイト 私の素敵なボス』ではエマ・トンプソン演じる女性は50代。『ネクスト・ドリーム』のトレイシー・エルス・ロス演じるグレースは40代という年齢で、彼女たちは年齢を経ていくうちに徐々にキャリアが狭まってくるという現実に直面しています。
グレースが、新曲を出したいと思っても聞き入れられず、「出すべきです」とコメントしたマギーに向かって思わず「女性アーティストで40歳を超えてから全米ナンバー・ワンになったのはたった5人だけ、そのうち黒人は1人だけ!」とあたってしまう場面があります。
実際、男性歌手なら、40代、50代といえばまだまだこれからの時期。でも女性アーティストはそろそろ終わりが見える年齢といった扱いを受けてしまう。だからグレース自身も挑戦を恐れてしまうのです。
『ネクスト・ドリーム』では、スター歌手を統括している音楽業界の重役たちは皆、白人男性で、彼らはグレースで稼ぐだけ稼ごうとしています。彼女が何を望んでいるかなんてどうでもいいのです。
また、若いマギーのような女性は軽くあしらわれ、せいぜいアシスタントが身の丈などと思われています。
そうした現状はアメリカのエンタメ業界に限らず、多くの女性が少なからず、日々感じている事柄でしょう。
映画はそうした面に焦点をあてながら、それでも夢を諦めず前向きに生きる主人公たちの姿を生き生きと捉え、女性同士の連帯を描いています。
作風自体はオーソドックスなハートフルコメディと呼べるもので、観ていてとても爽やかになる愛すべき作品に仕上がっています。
まとめ
本作の最大の魅力はなんといっても音楽です! 冒頭、グレースの全米ツアーの盛況ぶりが描かれていますが、トレイシー・エルス・ロスの歌とダンスのかっこいいことと言ったらありません。
トレイシー・エルス・ロスは普段、女優として活躍していて、作品で歌声を披露したのはこれが初めてということですが、ダイアナ・ロスのDANを引き継いでいるだけに、それはそれは堂々たる歌いっぷりです。
堂々たる歌声といえば、デヴィッドを演じたケルヴィン・ハリソン Jr.にはすっかり驚かされました。『ルース・エドガー』や、『WAVES/ウェイブス』で主演を務め、今、最も力のある若手俳優の一人ですが、こんなに歌える人だったとは! 勿論、吹き替えなしで自力で歌っています。
ダコタ・ジョンソンが演じたマギーはかなりの音楽通。彼女の口から出てくるミュージシャンの名前はブライアン・ウィルソン、ニーナ・シモン、サム・クック等々。「カリフォルニア」がつく曲についてデヴィッドと議論する場面ではイーグルスの「ホテルカリフォルニア」にダメ出しするなど興味深い会話が目白押し。思わず誰かと音楽談義したくなります。
冒頭映し出される円形の特徴あるキャピタルレコードの建物も、音楽好きの人にはたまらないでしょう。
また、グレースと二人三脚のように歩んできたマネージャーに扮しているのはミュージシャン&役者のアイス・キューブです。
厳しい態度を取りながらも、ずっとグレースを見守り、彼女の幸せを願っている人物を好演していて、温かな気分にさせられます。