可愛さと怖さで世界を魅了したSFブラックコメディ映画を解説
特殊撮影技術(SFX)が進歩した1980年代。SF・ホラーだけでなく、ファンタジー要素を持つファミリー向け映画も続々作られるようになりました。
その中でも「ギズモ」と名付けられたキャラクター、愛くるしい“モグワイ”の姿が記憶に残る作品が、『グレムリン』です。
奇妙で愛くるしい生物”モグワイ”は、3つのルールを破ると恐ろしい”グレムリン”に変身し、街中を大混乱に陥れます。
今も人気のキャラクターを生み出した、クリスマスに見るべき定番映画の1つとなった名作を紹介します。
映画『グレムリン』の作品情報
【公開】
1984年(アメリカ映画)
【原題】
Gremlins
【監督】
ジョー・ダンテ
【脚本】
クリス・コロンバス
【キャスト】
ザック・ギャリガン、フィービー・ケイツ、ホイト・アクストン、フランシス・リー・マッケイン、ディック・ミラー、ジャッジ・ラインホルド、コリー・フェルドマン、ケイ・ルーク
【作品概要】
スティーブン・スピルバーグが製作し、ジョー・ダンテ監督の代表作、そしてクリス・コロンバスの出世作となった、ブラックユーモア溢れるファミリー向けファンタジー映画。
当時アイドル的人気を誇ったフィービー・ケイツと共演したザック・ギャリガンは、本作で一躍スターとなりました。後に『グーニーズ』(1985)や『スタンド・バイ・ミー』(1986)に出演するコリー・フェルドマンも共演しています。
『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)の特殊効果を担当した特殊メイクアップアーティスト、クリス・ウェイラスが”グレムリン”を創造し、後にアカデミー賞メイクアップ賞を受賞する『ザ・フライ』(1986)と共に、彼を代表する作品となりました。
映画『グレムリン』のあらすじとネタバレ
今一つ役に立たず、売れない物を作る発明家のランダル・ペルツァー(ホイト・アクストン)。
彼は発明品のセールスに訪れた街で、息子にクリスマスプレゼントを買おうと、チャイナタウンの1軒の怪しげな店を訪れます。
そこで歌が大好きな奇妙な生き物、”モグワイ”を目にしたランダル。買おうとしますが店の主人の老人(ケイ・ルーク)は、これは売り物ではないと断りました。
しかし店の経営が苦しいと知る老人の孫が、内緒でランダルに”モグワイ”を売ります。そして”モグワイ”を飼うなら、3つの約束を必ず守るよう教えます。
1つ目は、”モグワイ”は光を嫌うので、明るい所には出さないこと。特に太陽の光に当たると死んでしまいます。2つ目は、絶対に水に濡らさないこと。
そして一番気を付けて欲しい3つ目の約束は、どんなに”モグワイ”がねだっても、真夜中を過ぎたら食べ物を与えないこと…。
愛犬のバニーと暮らすランダルの息子ウィリアム、通称ビリー(ザック・ギャリガン)。
彼はコミック作家になることを夢見ていましたが、今は地元の町の銀行に勤めていました。
出勤した彼は同じ職場で働く仲の良い、勤務外はパブで働くキャサリン、通称ケイト(フィービー・ケイツ)からパブ存続の嘆願書への署名を求められます。
地主で銀行のオーナー、ディーグル夫人は町の住人の憩いの場であるパブを、容赦なく取り壊そうとしています。強欲な夫人は町の嫌われ者でした。
銀行に現れた夫人は、雪ダルマ像を壊した犬のバニーを処分しろとビリーに迫り騒ぎになります。そんなビリーを取締役のジェラルド(ジャッジ・ラインホルド)は馬鹿にします。
勤務後パブでビリーに絡んだジェラルドは、そこで働くケイトを誘いますが、彼女が気にかけているのはビリーでした。
帰宅したビリーを料理中の母リン(フランシス・リー・マッケイン)が迎えます。そこに浮かれた様子で帰ってきたランダル。
彼は息子ビリーにプレゼントを渡し、クリスマス前だが早速開けるよう言います。包まれた箱の中には、あの”モグワイ”が入っていました。
“モグワイ”にギズモと名付けようとランダルは提案します。そして息子に飼うために守るべき注意事項、3つの約束を伝えたランダル。
演奏に合わせ歌う、愛くるしいギズモをすっかり気にいったビリー。
翌朝、近くに住む少年ピート(コリー・フェルドマン)が、ペルツァー家にクリスマスツリーを配達に来ました。ビリーはピートにギズモを見せました。
ところがピートは、誤ってギズモに水をかけました。やがて苦しみ出したギズモの背中から、5つの毛玉が飛び出します。
毛玉はそれぞれ新たな”モグワイ”に成長しました。その中の一匹の、頭にストライプがある”モグワイ”に噛まれたピート。
“モグワイ”が増えたと聞かされ、これをペットとして売れば人気になると考えたランダルに、5匹はギズモとは何かが違うと告げるビリー。
穏やかな性格のギズモと異なり、きままに騒いでイタズラをする5匹のリーダーはストライプのようです。
翌朝、ビリーはピート少年の通う学校にギズモを持って行き、理科の教師ハンソン先生の前で水を1滴垂らしました。
1匹増えた”モグワイ”を、研究用にハンソン先生に預けたビリー。
その夜、ビリーがケイトが働く閉店間際のバーを覗くと、そこには隣人で気は良いが、外国製品嫌いで知られるファッターマン(ディック・ミラー)がいました。
酔ったファッターマンは、外国製の機械には故障を引き起こす妖精、”グレムリン”が潜んでいると呟きます。
ファッターマンを見送り、雪の降る中で家路についたビリーに、クリスマスは人が落ち込む時期だと語るケイト。
彼女は皆が幸せな気分になる時だから、落ち込んでしまう人もいると訴えます。その言葉に戸惑うビリーですが、彼女とのデートを約束しました。
その夜、ビリーはギズモとは会話を交わすほど仲良くなりますが、他の5匹の”モグワイ”は餌が欲しいと騒ぎます。まだ12時前だと確認し、”モグワイ”に餌を与えたビリー。
同じ深夜にハンソン先生に採血され、研究されていた”モグワイ”も食べ物を口にします。
翌朝、5匹の”モグワイ”は奇妙な繭に姿を変えていました。ビリーが時間を確認した時計は、何者かの手で壊されていました。そしてハンソン先生の”モグワイ”もまた、繭になっていました。
その日母リンが残った家の中の、ギズモの目の前で5つの繭は羽化します。同じ頃ピート少年のいる教室でも、ハンソン先生の前で羽化する繭。
ハンソンから連絡を受け学校に現れたビリーが目撃したのは、注射器を突き立てられ倒れた先生の姿でした。
教室に潜む何かを追うビリー。彼が目撃したのは小さな怪物、”グレムリン”と化した”モグワイ”です。
同じ頃、ペルツァー家では5匹の”グレムリン”がギズモを虐めて騒いでいました。その物音に気付いたリン。
ビリーは家に電話をかけ、すぐ逃げるよう母に伝えます。しかし”グレムリン”は電話を壊し通話を遮ります。
母の危険を察したビリーは、学校を飛び出し家へと急ぎます。その頃リンは、台所で食べ物を食い荒らす、醜い”グレムリン”の姿を目撃していました。
映画『グレムリン』の感想と評価
3つの約束を守らないと怖い目に…
1つ目は光を当てないこと。2つ目は水に濡らさないこと。そして最も大切な3つ目のルールは、真夜中を過ぎたら食べ物を与えないこと…。
ルールを守らないと、可愛い”モグワイ”=ギズモが、イタズラ好きの”グレムリン”に変身する。
このファンタジー的な設定と、クリス・ウェイラスが創造した機械仕掛けのパペットによる、アナログ感が生むリアルさを持つ、ギズモの愛らしい姿が世界を魅了しました。
本作は学生時代にクリス・コロンバスが書いた脚本に、スティーブン・スピルバーグが目を付けたことから製作がスタートします。
ただしオリジナルの脚本は、スプラッター映画が流行した当時らしい、かなり残酷な物語。スピルバーグとジョー・ダンテ監督は、これをファミリー映画にすべく手を加えます。
さらに当初のストーリーでは、ギズモがストライプに変身する展開でした。
しかしクリス・ウェイラスが作ったギズモを見たスピルバーグは、この可愛いキャラクターを最後まで登場させようと決断しました。
その結果、映画の中で「良い子」として勇敢に”グレムリン”に立ち向かう、ギズモが誕生し現在まで続く人気を獲得したのです。
スピルバーグに見出されたクリス・コロンバスは、後にクリスマス映画の大ヒット作『ホーム・アローン』(1990)を監督し、今もファミリー映画の監督・製作者として活躍しています。
クリスマスを楽しめない人々に捧げた映画
誰もが楽しいはず、と決めつけられたような雰囲気に包まれてしまうクリスマスシーズン。
とはいえ劇中でフィービー・ケイツが語ったように、そんな時期だからこそ寂しさが募り、苦しく感じる方もいるでしょう。
そんな方の胸をスカっとさせる、少しホラータッチでクリスマスの大騒動を描いた本作。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)の世界観を先取りした作品とも言えます。
狼男映画『ハウリング』(1981)で注目され、オムニバス映画『トワイライトゾーン 超次元の体験』(1983)に続き、本作を監督したジョー・ダンテ。
彼の特徴であるブラックユーモアは本作で冴えわたり、ギズモとは対照的である子供に少々過激なシーンの数々は、幅広い観客を集める要素となりました。
またB級映画やクラシック映画の熱狂的ファンである監督は、劇中に数々のパロディシーンを挿入しています。
“グレムリン”が誕生するシーンに『ボディ・スナッチャー 恐怖の街』(1956)が流れるなど、TVの画面に数々の古典的映画が登場します。
発明家の集会に『禁断の惑星』(1956)のロボット”ロビー”や、『タイム・マシン 80万年後の世界へ』(1960)のタイムマシンが登場するなど、映画ファンは画面の隅々まで注目必至。
これに味をしめたのかジョー・ダンテは、続編『グレムリン2 新・種・誕・生』(1990)でファミリー層が引いてしまう程の、大量のパロディを登場させ映画ファンを狂喜させました。
様々な作り手のこだわりが楽しめるのも、映画『グレムリン』の魅力です。
まとめ
80年代、スピルバーク製作娯楽映画が世界を席巻した時代を代表する映画『グレムリン』。
決して単純な家族向けクリスマス映画ではなく、ブラックな描写の中にユーモアと、寂しい思いを抱く者が共感を覚える、優しさが秘められた作品です。
それは当時の特殊効果スタッフが生んだ、ギズモの愛くるしい姿と共に、これからも親しまれるでしょう。
ギズモに注目が集まりますが、TVを見て影響を受けたのか人間を真似た扮装をまとい、人間を真似た愚かな振る舞いを楽しむ、過激なイタズラ者の”グレムリン”も実に愉快な連中です。
そして幼児語的な、奇妙な片言の言葉を話す”グレムリン”たち。日本語字幕や吹替は、これをどう表現するか苦労しています。
この”グレムリン”に似た性格のキャラクターをご存知ないでしょうか。そう、『怪盗グルー』シリーズや『ミニオンズ』(2015)に登場する、今や世界で人気の”ミニオン”たちです。
後のクリスマス映画や、家族で楽しむ大人向けの笑いを含むファミリー映画のお手本となった『グレムリン』は、”ミニオン”のキャラクター創造にも大きな影響を与えました。
片やCGで描かれた”ミニオン”たち。片や機械仕掛けのパペットで生み出された、独特の魅力を持つギズモと”グレムリン”たち。
それぞれの魅力と、時代と共に移り変わる映像表現を比較するのも映画の楽しみ方の一つです。