『鋼の錬金術師』は、原作者・荒川弘の人気コミックをファンの間では通称ハガレンと呼ばれ多くの支持を集め、テレビアニメで2回、劇場用アニメの2回を経て、ついに実写映画化され、2017年12月1日より公開されています。
亡き母親にもう一度会いたいと思う気持ちから、錬金術最大の禁忌である人体錬成してしまった“等価交換”の代償に、兄エドワードは身体の右手左足を失い、弟アルフォンスは身体すべてを失い鎧に魂のみを定着させた鎧の姿になってしまう…。
CONTENTS
1.映画『鋼の錬金術師』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【原作】
荒川弘
【脚本・監督】
曽利文彦
【キャスト】
山田涼介、水石亜飛夢(声の出演)、本田翼、ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、佐藤隆太、小日向文世、大泉洋、夏菜、原田夏希、松雪泰子、本郷奏多、内山信二、國村隼、石丸謙二郎
【作品概要】
2001~10年に漫画家荒川弘によって描かれた大ヒットコミック『鋼の錬金術師」の映画化。主人公エドワード役を自身もハガレンファンを公言する「Hey! Say! JUMP」の山田涼介が務めます。演出は『ピンポン』の曽利文彦監督。
2.映画『鋼の錬金術師』のあらすじとネタバレ
草原の中の一軒家に母親と暮らす幼ない兄エドワードと弟アルフォンスのエルリック兄弟。
しかし、前触れもなく母親が亡くななってしまったことで、2人きりになってしまいます。
エルリック兄弟は母親に会いたい一心で、決して錬金術で行なってはならないとされる人体錬成の術を使い母親を生き返らせようします。
すると錬成陣の中では、いつもとは激しく異なる竜巻が巻き起こり、母屋は破壊され何もかもが吹き飛ばされ、弟のアルフォンスもどこか竜巻の向こうに飲み込まれてしまいます。
数年後、兄エドはインチキ教主コーネロを追いかけ、彼の指にはめられた赤い指輪(賢者の石)を追っています。
しかし、コーネロは賢者の石の力で巨大な石柱を次々に登場させると、錬金術師のエドを攻撃。
そのうえ、石獣どもを操りエドを逆に追い込みます。
だが、反撃するをエドは軽い身のこなしと、錬成陣を使用しない錬金術で、逆に追い詰めコーネロを倒します。
ですが街中でチビの錬金術師が暴れているとの通報で、軍が到着すると兄エドは連行されていますます。
残された弟アルは変わり果てた町の光景を錬金術を使用して、ことを納めておきます。
実は兄エドは最年少12歳で国家錬金術師の資格を取得。
そのエドの容姿は右腕と左足が機械鎧のオートメイルであることから、人々からは“鋼の錬金術師”と呼ばれ知られた存在でした。
一方の弟アルは兄の背格好の小さな容姿とは違い、大きな鎧の姿であり、性格も優しい存在。時にアルの方が“鋼の錬金術師”ではないいかと他人には間違えられることもしばしばありました。
そんな彼らと行動をともにする幼なじみのウィンリィはオートメイル技師で、兄エドワードの機械鎧の制作とメンテナンスを引き受けた、何事にも明るく活発な少女です。
エドたち一行がアメストリス軍のマスタング大佐からイーストシティーに置かれる東方司令部に招かれると、そこにはマスタングと同期のヒューズ中佐がいました。
何やら軍内部の密命を帯びたヒューズ中佐は、セントラルにある軍から、妊娠中の妻とともに赴任して来たと言います。
また東方司令部には、人当たりが良いハクロ将軍がおり、エドとアルの兄弟が探し続けている“賢者の石”について、軍の貴重な情報源を共有したいと優しく応援を申し出てくれました。
その夜、エドたち一行は親友であるヒューズ中佐の屋敷に夕食に招待され、泊めてもらうことになります。
夜中に独り目覚めたエドは部屋のドアを開けると、光眩しい世界が広がり、背にした扉はセフィロトの樹をあしらった重厚な扉に変わり、煙のような人影がエドに話しかけます。
そのモノは自分を人や物というより単に存在、あるいは概念と言った方が近く、「世界」「宇宙」「神」「真理」「全」「一」だと呼ばれる名乗り、エドの探している真理を見せようと告げます。
すると、かつて行った禁忌の錬金術の記憶が再び蘇り、幼い兄弟が集めた材料では人体錬成の錬金術が上手く行われずに等価交換されたのは、化物のような姿をした母親がエドを見つめていました。
しかもエドは左足を失って血だらけになりながらも、人体錬成の代償として連れ去られそうな小さな弟アルを救うため、自らの右腕と引き換えに魂だけを取り戻し、2人の子供部屋にあった鎧に定着させました。
身体にびっしょりと寝汗をかきながら、何度も見ている夢から目覚めると、そばには魘される兄エドを心配するアルが見守ってくれていました。
あくる日、エドはアルの失っていた身体を取り戻すため、“賢者の石”への何かの情報をハクロ将軍から紹介された合成獣のキメラ生成の国家錬金術師の権威ショウ・タッカーの屋敷を訪ねます。
タッカーは妻が出て行ってからというも部屋は散らかっていると話しながら、エドたちを好意的に招いてくれました。
そんなタッカーの家には幼い1人娘と大きな犬がいます。
また、彼は今年こそ良い結果を残さないと軍公認の“錬金術師”の資格が剥奪されてしまうと少し不安を抱えている様子でした。
鎧の姿で一切の睡眠をとることが出来ない弟アルを、睡眠療法の研究としてタッカーの元に残し、エドとウィンリィは以前軍の研究所に所属していたドクター・マルコーを探しに別の街に汽車で出かけます。
ようやくエドが見つけたマルコーは、いきなり銃弾をエドとウィンリィに放ち襲ってきます。
やがて、エドたちが軍の者ではないと知ると、かつていた研究所には戻りたくないと重い口を開き始めますが、そこに現れた人造人間のホムンクルスのラストが現れます。
ラストはいきなり鋭利が伸びる右手の爪でマルコーの肩を突き刺し、エドとウィンリィを左手の爪で身動きできないようにします。
そのラストは、マルコーの心臓のある胸をゆっくりと爪で刺殺していきます。
エドが叫んだ時には、もう、ラストの姿はそこにはありませんでした。
マルコーはエドに消えかかる声で最後の言葉「第5研究所」と伝え、“賢者の石”を作る魔法陣の紙を渡します。
生き絶えたマルコーとウィンリィをその場に残し、弟アルの身を案じたエドは急いでタッカーの屋敷に戻ります。
3.映画『鋼の錬金術師』の感想と評価
ハガレンの実写化は単なるコスプレなのか?
本作の実写映画化にあたり、原作者・荒川弘の大ヒットコミック『鋼の錬金術師』のファンである曽利文彦監督の念願の作品。
そしてハガレンファンを公言する「Hey! Say! JUMP」の山田涼介は、主人公エドワード役を演じてる重圧のなか、この作品を作り上げました。
また筆者もハガレンファン1人であり、これを読まれるあなたも、きっと、ハガレンファンの1人のはずです。
『鋼の錬金術師』の実写化決定時の当初から、ファンの間で賛否が多いことは確かです。
ハガレンファンの山田涼介自身も、実写化に二の足を踏みエド役のオフォーを辞退することも当初考えていたそうです。
しかし、ファンである自分以外の誰かが、エドを演じることもまた耐えられなかったようです。
それは彼がこの原作を紛れもなく愛した証拠ともいえ、ファンの独りとして実写化に責任を持ったことだと強く感じます。
それこそが弟アルを思いやる兄エドの責任感のように感じるのは褒めすぎですか?
山田涼介がエドを演じたことで、きっと“等価交換”で何かを失い、また得たのは間違いないはずです。
それこそが“等価交換の原理”だと、互いにハガレンファンとしてまずはエールを送りたい気持ちです。
色欲ラストの松雪泰子
この作品の大きな見どころは、女優の松雪泰子が演じたホムンクルス(人造人間)のラストだと言い切れます。
悪役は美しくなければ存在感はでないので、彼女の妖艶さに魅入られた観客も多いはず。
実写映画「鋼の錬金術師」がシリーズ化されるのであれば、個人的に松雪泰子には引き続き出演して欲しいです。
今回はムスタング大佐の活躍もあって、“賢者の石”を奪われてしまい「死ねるのね」と命を落としますが、生かして欲しいですね。
あるバラエティ番組に松雪泰子が出演していた際に、司会者から欠点は何かと尋ねられたところ、たくさん睡眠をとってしまうことだと述べてました。
ラスト役は眠らせてしまう訳にはいきません。ラストの次なる妖艶な美貌はスケールアップして再登場して欲しいものです。
松雪泰子のメイクとヘア担当者にもお疲れ様の拍手を送りたいですね。
ドクター・マルコー役の國村隼
映画『哭声/コクソン』予告編
もう言うまでもなく、脇役の國村隼はワン・シーン出演にも限らず絶大なる存在感。
國村隼の場合は、もちろんコスプレではなく、原作に似せたキャラクターの演技でもなく、配役された人物像を演じていました。
その俳優としての実力は、ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』で、謎まみれの“山の中の男”を熱演して、韓国スタッフの信頼も高く、韓国の批評家からも支持され映画賞受賞するほどでした。
2017年の國村隼は当たり年で、ベルギーのヴァンニャ・ダルカンタラ監督のベルギー・フランス・カナダ合作映画『KOKORO』にも元警官ダイスケ役を演じていました。
2018年公開の『追捕 MANHUNT』、『かぞくいろ』もとても期待できるはすです。
人体錬成から死生観からこぼれ話
本作のなかで人体錬成が行われた者の台詞に、死に向かうラストの「死ねるのね」の他にも、タッカーの妻の「死なせてはしい」の言葉が印象的にありました。
一方で人体錬成されたアルフォンスのみは、身体を取り戻して生きたい気持ちを持ち続けています。
また、映画『ジャスティス・リーグ』では、スーパーマンの復活が重要な見せ場となっていました。
クラーク・ケントは言いました、「お前は生きさせてもくれないし、死なせてもくれないのか」。
また『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でも、イットは恐怖を食べに蘇生しましたが、恐怖を感じて命を落としました。(?)
そのイットでは、“幼い兄弟の死の別れ”や、“父親越え”も重要なポイントでしたね。
この2作品はどちらも“生きる”や“復活”を強く意識した映画ではありましたよね。
さて、ここからは仮の話にはなりますが、弟アルを死に追いやった記憶のすべてがエドの罪悪感が生み出したもので、錬成によってエドの記憶の再生に過ぎないとアルフォンスが気が付いたことが真実であるとしたら。
すでにアルの魂もこの世には存在していないもので、真理の扉で見てきたアルはもうあの世のしかいない存在だと仮定しましょう。
“アルの鎧に入れた記憶”は、AIに入れたデータのようなものであるとすれば、彼だけが他の人体錬成とは違って「死」を口にしないことに疑問が湧きませんよね。
また、『ブレードランナー2049』の主人公Kのように、記憶が独自に自分は特別な存在だと認識していくこともあるのかも知れません。
また、人間が作り出した物や人体錬成された者、またAIなどが「自死」を口にしたらそれは怖いなと…。
例えば、「この冷蔵庫や自動車をそろそろ寿命だな!」とか言っているうちはいいですが、そのうち彼らの方が…。
『ジャスティス・リーグ』のフラッシュではないですが、彼の好きな人体錬成する映画『ペットセメタリー』の名台詞は、「お父さん、勝手だよ」。
『鋼の錬金術師』は何と言っても“父親越え”が重要なテーマであり、柱といっても良いでしょう。
弟のアルフォンス・エルリックは母親似だろうし、兄のエドワード・エルリックは、あの男の息子ですし、彼も父親似だとすれば…。
さて、もう一度、アニメ『鋼の錬金術師』が見たくなっちゃいましたね。
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*2018年9月20日 23:59まで配信
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まとめ
荒川弘原作の『鋼の錬金術師』は、ファンタジー作品として多くのハガレンファンを持つ傑作の1つです。
その多様なファンの数だけ独自のハガレンは存在し、それとともに生きたいと思わせる多様なコンテンツを生み出したのも、荒川弘の力のある作品としての証拠の様な者です。
コミック、テレビアニメ、劇場アニメ、ゲームなど、それぞれのハガレンファンが好きなものを選んで楽しめば良いのではないかと思います。
ぼくらの使う生きるため人生の錬金術は、いつだって“等価交換”なのだから。