連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile129
サスペンス映画でもホラー映画でも、人に襲い掛かるものが「理不尽」であればあるほど人は恐怖を覚えます。
「なぜ」「どうして」が無いからこそ覚える圧倒的な恐怖。
今回は、理不尽すぎる草の迷宮に迷い込んだ人々の恐怖を描いたNetfli映画『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』(2019)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
Netfli映画『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』の作品情報
【原題】
In the Tall Grass
【配信】
2019年(Netflix限定配信)
【監督】
ヴィンチェンゾ・ナタリ
【キャスト】
ハリソン・ギルバートソン、ライズラ・デ・オリヴェイラ、エイヴリー・ホワイテッド、ウィル・ビュイエ・Jr、レイチェル・ウィルソン、パトリック・ウィルソン
【作品概要】
『スタンド・バイ・ミー』(1987)や『グリーンマイル』(2000)など様々な名作映画の原作を執筆したスティーヴン・キングとその息子のジョー・ヒルによる短編小説を映像化した作品。
『ウォッチメン』(2009)でスーパーヒーローのナイトオウルII世を演じたパトリック・ウィルソンが出演しました。
映画『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』のあらすじとネタバレ
人の背丈以上もある広大な草むらが続くカンザス州の道を車で走るカルと妹のベッキー。
ベッキーは相手方の認知を得ることの出来ない妊娠をしており、つわりの吐き気によって路肩に停めた車の外へ吐いてしまいます。
ベッキーの容態が落ち着くと、草むらの中から少年の「助けて」と叫び声が聞こえます。
トービンと名乗る少年は草むらの中で迷ってしまったと言い、近くには母親もいる様子でしたが2人とも草むらから出ることが出来ないようでした。
ベッキーとカルは車を近場の教会に停め、トービンを助けるために草むらに入っていくことにします。
別々の場所から草むらに入ったカルとベッキー。
ベッキーは草むらの異常性をすぐに感じ、911に電話を掛けますがすぐに切れてしまいます。
2人は声を掛け合いお互いの位置を確認しようとしますが、声を上げる度に声のする方向が変わります。
カルとベッキーは同時にジャンプをし位置を確かめますが、その場から動かずもう一度ジャンプするとお互いの位置そのものが変わっていることに気づきます。
外への脱出方法も分からないまま夜になると、ベッキーは草むらの中から現れたロスと言う男に出会います。
ロスはトービンの父であり、行方不明になったトービンと妻のナタリーを探すため草むらに入ったと言い、ベッキーをカルの場所まで連れていくと言います。
しかし、大量の薬瓶と血の付いた髪の毛に気を取られている間にベッキーの前からロスは姿を消していました。
一方、深夜になり途方に暮れるカルはトービンと出会います。
トービンも助けを求める声に誘われこの草むらに入りかなりの時間が経っていると言い、草むらは生きている動物を動かすことは出来るが死体は動かせないとカラスの死体をその場に置きます。
説明もしていないのにカルが探しているのが「妹」のベッキーであると見抜いていたトービンを不審に思ったカルがそのことを聞くと、トービンは黒い岩が教えてくれたと言いカルをその岩の場所まで連れていくことにします。
開けた場所にある黒い岩を目にしたカルは、トービンに「岩に触れてみて」と言われ岩に近づくとそこからは奇妙な声がしていることに気づきます。
カルが岩に手を触れようと時、遠くからベッキーが叫ぶ声が聞こえトービンが「間に合わなかった」と言うと、カルは声の聞こえる方向へ走っていきました。
行方不明になったベッキーを探すためカンザス州の道を走るトラビスは、「救世主黒い岩の教会」と書かれた教会にベッキーの兄カルの車が停まっていることに気づきます。
長年放置されたような車の近くにベッキーの愛読書が落ちており、トラビスは何かを感じ草むらへと入っていきます。
草むらの中では日の位置が目まぐるしく変わり、トラビスはその異常性にすぐ気が付きます。
その後、トービンに出会ったトラビスはトービンが自身のことを知ってるかのように話しかけてくることに違和感を覚えますが、彼にベッキーのことを訪ねます。
トービンの案内の先にベッキーの死体を見つけたトラビスは失意に暮れその場に伏せます。
気が付くと朝になっており、トービンの姿の無いことに気づいたトラビスは草むらの外から声がすることに気づき助けを求めます。
ロスとナタリー、そしてトービンは休日にカンザス州の道を走っていました。
ロスの仕事の電話で教会に車を停めていると犬のフレディが草むらに入ってしまいます。
フレディを追いかけ草むらに入るトービンを追い、ロスとナタリーも草むらに入っていきます。
話し声から草むらの外に居たのが過去のトービンたちであることに気づいたトラビスは、草むらに入ることを必死に止めようとしますが3人の家族は既に草むらに入ってしまっていました。
ロスは妻と子供と離れ離れになり苛立ちを募らせると、黒い岩のある開けた場所に出ます。
次の朝になり、草むらに入ったばかりのトービンは外の人間に助けを求めます。
それはカルとベッキーであり2人はトービンの声に導かれ草むらの中へと入っていきます。
2人の声を聴いたトラビスはベッキーが草むらの中にいることを知ると2人に声を掛けます。
トービンが犬のフレディが何者かに殺され叫んでいる声を聴いたトラビスは「死体は動かせない」と言う草むらのルールを利用し、全員にトービンの位置に来るように言います。
トラビスの狙い通り、トービンの声の位置は変わることがなくトラビス、トービン、カル、ベッキーは合流することに成功。
カルとベッキーは、2人を追って数ヶ月後に草むらに入ったと言うトラビスを不審に思いますが共に草むらからの脱出を目指します。
脱出方法の当てがないため、トラビスはトービンを肩車し教会の見える方向に歩いていくことします。
歩いている最中に何者からか電話があり、女性の声で「カルがトラビスを殺そうとするのを止めないとまた失敗してしまう」と忠告がありました。
しばらく草むらを歩くと、妊娠による肉体的疲労が重なりベッキーがその場に倒れてしまいます。
そこに草むらからロスが現れ、心臓マッサージをしたことでベッキーは息を吹き返します。
ロスは一度草むらから出ることに成功していると話すと全員を引き連れ歩き始めました。
ロスは黒い岩の地点に案内すると、この場所がアメリカの中心地であり、この岩は人類よりも前にこの場所に存在したと話し始めます。
ベッキーが脱出路はどこにあるかと問うと、ロスは岩に触れてみるように言います。
岩に興味をひかれたカルが触れようとした時、その場にトービンの母でありロスの妻ナタリーが現れます。
Netfli映画『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』の感想と評価
一度踏み入れたら出ることの出来ない恐怖の草むらを描いた映画『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』。
草むらの内部は、生きている人間の位置を高い頻度で移動させるため自分の位置を把握することは困難であり、迷い込んだ人間同士ですら合流することが難しい最上級の難易度の迷宮。
さらに草むらが移動させるのは人間の場所だけでなく時間軸すらも移動させるため、死んだはずの人間が目の前に現れたりと物事の理解まで阻害します。
意志を持ち生きている草には目印もかき消され、常に迷宮の手玉となり続ける恐怖。
そして相手が「草」である故に「なぜ」「どうして」の一切通用しない「理不尽さ」が本作の恐怖度をより一層深めていました。
謎に包まれた「黒い岩」の正体とは?
本作で最重要と言える「黒い岩」の存在。
草むらを作り出し、登場人物全員を恐怖と狂気の渦に巻き込んだ黒い岩ですが、作中ではその正体がはっきりとは明かされません。
アメリカの中心地に存在する黒い岩は登場人物の発言から人間の文明の誕生よりも前に存在することが分かり、国の創造すら岩の行いであることをほのめかします。
「岩に触れることで知識を得る」と言う設定は映画化もされたSF小説「2001年宇宙の旅」に登場する「モノリス」を想起させます。
作中のロスがそうであるように岩に触れた人間は草むらからの脱出方法も知ることができます。
つまり草むらの外にある「救世主黒い岩の教会」は岩に触れた人間が建てたとも考えられ、岩に触れた人間は草むらの外にいて人類の平均知能を押し上げているのか、それともロスのように狂気に堕ちてしまっているのか。
草むらに取り込んだ人間に「知識を得るか」「野垂れ死ぬか」を選択させる黒い岩。
様々な考察を可能にする黒い岩の正体を、ぜひ皆さんも考察してみてください。
まとめ
本作では作品のメインとなる「草むら」の質感にこだわるため、CGを極力使わずに本物の草むらで撮影されました。
そのため撮影現場では1メートル前の人間を見失うことも多く、撮影スタッフたちが現場で迷子になる事例が頻発。
「黒い岩」の奇妙な力が無くとも、背丈ほどの草が生い茂るだけで人間の得ることが出来る視覚と聴覚の情報が簡単に遮断されてしまうことが分かります。
恩恵を多く与えてくれる存在でありながら時に「理不尽」に襲いかかる「自然」と言う人類の隣人。
その理不尽な恐怖を徹底的に、そして圧迫感たっぷりに描いた映画『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』です。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile130では、北欧神話をベースとしたイギリス産ホラー映画『ザ・リチュアル いけにえの儀式』(2017)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
次回の掲載をお楽しみに!