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Entry 2020/11/06
Update

【ネタバレ罪の声】実際の事件とキツネ目の男など犯人の人物関係を解説。望はなぜ現れなかったかの理由も

  • Writer :
  • 河合のび

映画『罪の声』は2020年10月30日(金)より全国ロードショー公開!

「戦後最大の未解決事件」「日本初の劇場型犯罪」と称された実在の事件を基に、元新聞記者である塩田武士が執筆・発表した同名ベストセラー小説を映画化した『罪の声』。

事件を追う新聞記者を小栗旬、幼い頃の自身がその事件に関わっていると知ってしまった男を星野源が演じ、35年の時を経た未解決事件の全貌と真実を明らかにしていきます。

本記事では「犯行グループ」と「“声”によって事件に巻き込まれた子どもたち」の各視点から、作中事件の発端と顛末、事件に関与した登場人物たちを解説。また未解決事件の「モデル」として知られる事件との共通点も併せて紹介します。

映画『罪の声』の作品情報


(C)2020「罪の声」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【原作】
塩田武士『罪の声』(講談社文庫)

【監督】
土井裕泰

【脚本】
野木亜紀子

【キャスト】
小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、市川実日子、阿部純子、原菜乃華、阿部亮平、宇野祥平、尾上寛之、川口覚、火野正平、宇崎竜童、梶芽衣子

【作品概要】
塩田武士の同名ベストセラー小説を『いま、愛に行きます』の土井裕泰監督が映画化。また脚本を『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』などで知られる野木亜紀子が手がけています。

主演は小栗旬と星野源。共演陣には、星野と同様に野木亜紀子脚本作品への出演経験がある古館寛治、松重豊、市川実日子。さらに宇崎竜童、火野正平、梶芽衣子などベテラン俳優も並ぶ重厚な布陣となっています。

映画『罪の声』のあらすじ

35年前、日本中を巻き込み震撼させた大事件。食品会社を標的とした企業脅迫事件は、誘拐や身代金要求、毒物混入など数々の犯罪を繰り返す凶悪さと同時に、警察やマスコミまでも挑発したのち忽然と姿を消した謎の犯人グループによる、日本の犯罪史上類を見ない劇場型犯罪だった。

大日新聞記者の阿久津英士は、既に時効となっているこの未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、取材を重ねていた。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也は、家族3人で幸せに暮らしていたが、ある日父の遺品の中に古いカセットテープを見つける。

「俺の声だ」それは、あの未解決事件で犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声だった。

事件の深淵に潜む真実を追う新聞記者の阿久津と、脅迫テープに声を使用され、知らないうちに事件に関わってしまった俊也を含む3人の子どもたち。昭和・平成が幕を閉じ新時代が始まろうとする今、35年の時を経て、それぞれの人生が激しく交錯し、衝撃の真相が明らかになる……。

「ギンガ・萬堂事件」犯行グループ解説


(C)2020「罪の声」製作委員会

計画の始まり

「戦後最大の未解決事件」と称された「ギンガ・萬堂事件(以下:ギン萬事件)」。その計画は、滋賀県警で暴力団事件を担当していた警察官であり「潰れた耳の男」生島秀樹が、ヤクザから賄賂を受け取っていたことで懲戒免職された後、かつて柔道の道場で面識を持っていた曽根達雄に連絡を取ったことから始まります。

俊也の叔父であり、俊也の父・光雄の兄にあたる達雄。彼はギンガの社員であった父・清太郎(俊也の祖父)が、かつての学生運動での過激派同士の対立に巻き込まれて命を落とした際、「清太郎が過激派に関与していた」と疑い曽根家を見捨てたギンガへ怒りから、自らも学生運動に参加。その後活動に疲弊しイギリスで潜伏していた時に、生島からの連絡を受けました。そして「警察や企業に一発ガツンと食らわせたい」という生島の言葉で「心が奮い立った」ことで、彼は計画に加担したのです。

達雄は計画の立案にあたって、オランダで発生したビールメーカー社長誘拐事件を模倣することを提案。同事件の詳細を独自に調査し、その後俊也が見つけることになる手帳に記録しました。その調査によって、彼はオランダ警察などから「謎の中国人」としてマークされるという結果が生じたのです。

調査を通じて「身代金の受け渡しは実質不可能」と判断した達雄は、誘拐・脅迫による現金強奪の方法を「身代金の要求・受け渡し」から「企業株式の不正操作に基づく“空売り”」へと変更。誘拐・脅迫事件を起こすことで大企業の株価を暴落させ、その裏で株式取引を行い儲けを得ようと考えたのです。

計画のため集められたメンバー:「キツネ目の男」も


(C)2020「罪の声」製作委員会

達雄が立てた案を元に、生島は経済ヤクザであり「派手なスーツの男」青木龍一とともに、計画実行に必要なメンバーを関西圏を中心に集めていきました。

業界の大物ニシダから株取引のイロハを学び、金儲けの要である仕手筋(脱法・違法まがいの手法で株価操作を行う不正な売買筋)を管理していた「垂れ目で刈り上げ頭の男」吉高。その金主(スポンサー)の上東。自動車の修理工で、犯行用の車を調達していた森本。電電公社(現在のNTTの前身)の社員で無線に精通していた谷。生島の後輩であり、当時産廃処理会社に勤め工業用青酸ソーダ(「ギン萬事件」でお菓子に混入された毒物)の入手が可能だった山下。そしてメンバーの中には、「ギン萬事件」の犯行現場で度々目撃されていた「キツネ目の男」こと林(偽名の可能性)もいたのです。

そこに警察の内部事情をよく知る生島、計画の立案者本人である達雄が参加。森本の愛人であった女将が営む「割烹 し乃」で会合を続けながら、ギンガの社長誘拐事件、萬堂製菓への毒入り菓子脅迫事件などを実行していったのです。

「寄せ集め」ゆえの仲間割れ


(C)2020「罪の声」製作委員会

しかし、誘拐・脅迫による企業の株価暴落は成功したものの、肝心の儲けは芳しくなく、想定していた「億」どころか、一人につき2〜300万円程度の儲けしか出せませんでした。無論、「一枚岩」とは到底呼べなかった犯行グループでは仲間割れが発生。青木は計画立案者の達雄、「儲け話」を持ちかけてきた生島の責任を追及し、当初の方針とは異なる「身代金の要求・受け渡し」での現金強奪へと計画を変更することを告げます。

「絶対に成功しない」と反対する達雄に対し、家族との生活のために青木の案へと「転向」した生島は、達雄に「必ず全員の取り分を得る」と約束し青木の事務所へと向かいます。しかし事務所前で監視を続けていた達雄が目にしたのは、死体となって運ばれる生島の姿でした。

達雄は急ぎ生島家と向かい「生島が殺された」と告げ、自身が手に入れた現金を全て渡すと一家に逃亡を促しました。そして生島家が「失踪」した1984年11月14日に実行された大津サービスエリア付近での身代金受け渡しを妨害。その後も脅迫・身代金受け渡しが次々と失敗と繰り返す中、達雄はイギリスへと戻ったのです。

「罪の声」を持つ子どもたちと家族解説


(C)2020「罪の声」製作委員会

「罪の声」を背負わせた大人たち

「ギン萬事件」で使用された3種類の脅迫テープ。「16歳前後の女の子」「6〜8歳前後の異なる2名の男の子」の声によって構成されたテープは、「当時の声紋分析ではアシがつきにくく、男の子なら“声変わり”もする」という達雄たちのアイデアから録音されたものでした。

達雄は俊也の母である真由美に、まだ幼かった俊也の声で脅迫テープを録音することを依頼します。実は真由美には、落し物を届けただけの自身の父に窃盗の濡れ衣を着せ、自殺にまで追い込んだ警察権力への怒りから、学生運動に参加していた過去がありました。そして達雄は学生運動の頃に真由美と知り合い、弟の光雄が彼女と結婚したことで偶然再会。その過去を見込んでの依頼だったのです。真由美も達雄の説得によって「心が奮い立った」ことで、彼からの依頼を実行。何も知らない俊也に脅迫文を読ませ、その声をカセットテープに録音してしまいました。

一方の生島は、自身の娘であり当時中学生だった望、当時小学生だった弟の聡一郎を利用し同じように音声を録音。こうして揃えられた3本のテープが「ギン萬事件」の犯行に使用されたのです。

「罪の声」を背負わされた子どもたち

生島望・聡一郎姉弟の「その後」


(C)2020「罪の声」製作委員会

しかし上述の通り、儲けが想定をはるかに下回る結果に至り、生島が青木に殺されてしまったことで、1984年11月14日、生島姉弟と母の千代子は逃亡を余儀なくされます。そして逃亡中に青木に捕まってしまったことで、青木の傘下にある建設会社の社員寮で「裏切った達雄らを捕まえるための人質」として軟禁生活を強いられることになりました。

自身の「声」が世間に知れ渡ったことで学校にも通えず、自身の「映画字幕の翻訳者」という夢が断たれてしまった状況に、望の心は追い詰められていました。やがて彼女は、失踪後も連絡を取っていた同級生の幸子と会う約束をすると、母と弟の聡一郎を置いてひとり逃亡することにします。

ところが聡一郎にその姿を目撃され、仕方なく望は彼を喫茶店に連れ出します。そしてメロンソーダを楽しむ聡一郎を置いて再び逃げようとしますが、青木の追っ手に見つかってしまいます。そして自身の腕を掴む手を必死に離そうとする中で、望は誤って道路に飛び出してしまい、トラックに轢かれました。それはトラックが接近してきた刹那、追っ手が故意に望の腕を離したことによる「殺人」でした。


(C)2020「罪の声」製作委員会

姉が殺された瞬間を目の当たりにした聡一郎は、やがて自身を捕らえた男に「静かに暮らせ」「お母ちゃんも死ぬぞ」と脅されました。彼はその言葉に従い、建設会社内の使いっ走りとして6年の時を過ごしましたが、男たちに辱められる母の姿を目撃してしまうなど、その心は限界を迎えつつありました。

そして遂に、彼に優しくしていたものの、違法賭博での揉め事からリンチを受けた社員の津村に唆され、聡一郎は会社に火を放ちました。火も騒ぎも大きくなる中、息子を見て状況を察した母の千代子は、自分を置いてでも逃げるよう聡一郎を促しました。その結果、聡一郎は津村とともに逃亡。各地を転々としながら、35年もの間ひとり逃亡生活を続けていたのです。

曽根俊也の「その後」


(C)2020「罪の声」製作委員会

一方、達雄が直接的な接触をできうる限り避けイギリスへ逃亡したことから、青木に追われずに済んだ俊也と真由美。成長した俊也は父の光雄が営んでいた「テーラー曽根」を継ぎ、妻の亜美と一人娘の詩織とともに幸せな日々を送っていました。ところが、偶然見つけた父の遺品の中から脅迫テープと英語のみで記された手帳を見つけたことで、自身が「声の子ども」の一人であることを知ってしまいます。

俊也は当初「自身の父が事件に関わっている」と疑ってしまいますが、光雄は英語に堪能な人間ではなかったこと、父と長く仕事を続けてきた仕立て職人の河村の言葉から、手帳の持ち主が自身の叔父である達雄ではないかと考え始めます。そして幼い自身が達也と遊園地「阪神パーク」へ行ったことを母の真由美から聞き、その際に件の脅迫テープが録音されていたのではと推測したのです。

「死んだ」と聞かされていた叔父の達雄が、どう事件に関わっていたのか。その真実を知ろうと俊也は調査を始めますが、「真実」にたどり着くことへの恐怖、自身が「声の子ども」と世間に知れ渡った時に現在の生活がどうなるのかという不安から、一度は事件の真相を新聞記者として追っていた阿久津英士に怒りを露わにするほどに動揺します。


(C)2020「罪の声」製作委員会

しかしその後、望のかつての同級生だった幸子と会い、望の無事を祈り続ける彼女の涙を目にしたことで俊也は覚悟を決めます。そして妻の亜美に現状を伝えた上で、「望と聡一郎の安否を確認したい」という思いから阿久津と協力しての調査を開始しました。

調査の果てに姉弟の「その後」を思い知らされた俊也は、「何も知らずに幸せに暮らしていた自身」に罪悪感を抱きます。けれども「本当の罪人」を引きずり出そうとする阿久津の意志を受け取り、イギリスで暮らす達雄の元へ向かった阿久津に対し、自身の母であり「幼い自身の声を録音した真犯人」であった真由美と対峙したのです。

「ギンガ・萬堂事件」と“モデル”解説


(C)2020「罪の声」製作委員会

作中事件と事件“モデル”との共通点は?

映画作中で描かれている「ギン萬事件」は、1984年から1985年にかけて発生し、「戦後最大の未解決事件」「日本初の劇場型犯罪(あたかも「演劇」であるかのような、大々的な犯行・報道が行われる犯罪)」と称された実在の事件がモデルとされています。

原作小説を執筆した小説家の塩田武士は、新聞記者の仕事を経て小説家へと転身した際に、本作の執筆を編集者に相談したものの「今のあなたの筆力では、この物語は書けない」と言われたことで執筆を一時断念。5年の取材と構想の期間を経た上で執筆を開始したのだそうです。

なお、小説ならび映画作中での犯人たちは、あくまで「フィクション」として描かれているものです。しかしながら、各事件の発生日時や現場状況、犯人による脅迫状・挑戦状の内容、各メディアでの事件報道の模様は「極力史実通りに再現」したと著者自身が単行本にてコメントしています。

それ故に、「ギンガ・萬堂事件」と「モデル」との共通点は挙げていくとキリがありません。実際の社名をもじりつつも登場させている有名企業はもちろん、例えば作中で幾度も登場する「1984年11月14日」の「大津サービスエリア付近での現金受け渡し」に関しても、日時・場所のみならず、犯行グループがいかに現金受け渡しに失敗したか、警察がいかに犯行グループの追跡に失敗したかがその裏事情を含め詳細に描写されています。もちろんそれは、原作小説のみならず映画でも踏襲されています。

そして何よりも、「ギン萬事件」の実行計画にはギンガの元関係者(元社員や親族など)である達雄や経済ヤクザである青木が絡んでいた、事件の真の目的が「企業株式の不正操作に基づく“空売り”」による儲けだったという設定も、「モデル」となった事件を起こした犯人像とその目的として、現在も議論され続けている仮説としてそれぞれ知られているものなのです。

まとめ


(C)2020「罪の声」製作委員会

本記事で解説した事件の顛末と「その後」、そこに関わる登場人物たちは、『罪の声』のほんの一部に過ぎません。ただそれは、阿久津や大日新聞社の上司たち、調査の中で出会った証言者たちといった登場人物たち全員を紹介し切れていないゆえの言葉ではありません。

新聞記者の阿久津と「声の子ども」の一人である俊也が事件の「真相」と「真実」にたどり着くまでに、二人は多くの人々と出会いました。そこで二人が聞き取り続けた人々の言葉は、「事件の全貌に触れた証言」であると同時に「“あの事件”が35年もの間心に残り続けていた人々の想いが込められた“声”」でもあるのです。

“声”は、文章だけで説明し切れるものではありません。そして、“声”は音だけでなく「それを発した人々の姿」があってこそ成り立つものでもあります。その最たる証明が、宇野祥平演じる聡一郎が作中、自らの身体全てを震わしながらも絞り出すように“声”を発し、その壮絶な半生を語る姿です。

事件の発端と顛末、そこに関わる登場人物など、物語の設定や背景を確認した上で、改めて映画『罪の声』における人々の“声”に耳を、全身を澄ませてみる。それもまた、本作の新たな楽しみ方の一つなのかもしれません。




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