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Entry 2020/11/03
Update

『ファーストラヴ』映画原作小説ネタバレ感想と結末解説。事件の真相も調査

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『ファーストラヴ』は 2021年2月11日(木・祝)ロードショー。

第159回直木賞を受賞した島本理生の同名小説『ファーストラヴ』が映画化。2021年2月11日(木・祝)にロードショーされます。

映画では、『スマホを落としただけなのに』の北川景子ほか、『屍人荘の殺人』の中村倫也、『今日も嫌がらせ弁当』の芳根京子に、『源氏物語 千年の謎』の窪塚洋介といった実力派俳優が揃いました。『十二人の死にたい子どもたち』の堤幸彦監督が手掛けています。

父親を殺害した容疑で女子大生・聖山環菜が逮捕されました。彼女の「動機はそちらで見つけてください」という言葉が世間を騒がせます。

事件を取材する臨床心理士の由紀は、夫の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探ろうとしますが、二転三転する環菜の供述に翻弄され、真実が見えなくなっていました。

小説『ファーストラヴ』を、ネタバレあらすじありでご紹介します。

小説『ファーストラヴ』の主な登場人物

真壁由紀(まかべ ゆき)
臨床心理士で、夫と息子の3人暮らし。聖山環菜のルポタージュを執筆するため取材します。
映画のキャストは、北川景子。

真壁我聞(まかべ がもん)
由紀の夫。かつては報道写真家を目指していたが、由紀との結婚を機にその道を諦めます。
映画版は、窪塚洋介。

庵野迦葉(あんの かしょう)
弁護士で由紀とは大学の同期。幼いころ両親に捨てられ叔母(=我聞の母)のもとで育てられ、我聞とは兄弟同然の関係。国選弁護人として環菜の事件を担当。キャストは、中村倫也。

聖山環菜(ひりじやま かんな)
アナウンサー志望の女子大学生。都内で面接試験を受験した日、父親の那雄人を刺殺したとして逮捕される。
映画版は、芳根京子。

小説『ファーストラヴ』のあらすじとネタバレ


小説『ファーストラヴ』書影

臨床心理士の真壁由紀の元にある本の執筆依頼が入りました。

それは、アナウンサー志望の容姿端麗な女子大生が画家の父・聖山那雄人を刺殺した事件について、被疑者である聖山環菜を取材し1冊の本にまとめて欲しいというものでした。

周囲は「就活に反対されたから父親を殺害した」と犯行動機を推測しましたが、逮捕後の取り調べで、環菜は「父を殺さなければならなかった理由が自分でもわからないので、動機はそちらで見つけてください」と言い放ちました。

由紀の夫・我聞の弟である弁護士の庵野迦葉は、環菜の国選弁護人に選任されていました。

迦葉と由紀は大学の同級生です。環菜の母が検察側の証人に立つことを知り、迦葉は由紀に協力を依頼します。

はじめて由紀が環菜と接見したときも、環菜は「動機は自分でもわからないから見つけてほしいぐらいだと言った」と言いました。そして「私、嘘つきなんです」とも。

由紀と迦葉、それぞれが環菜との接見や手紙のやり取りを進めていき、2人が環菜から聞いた話の内容を突き合せますが、つじつまの合わない部分があることに気づきます。

「環菜は本当のことを話していない」と由紀は考えました。それを踏まえて、由紀と迦葉は環菜や彼女の父親の那雄人の知人らから家庭環境について話を聞くようにしました。

環菜は小学生の頃から、画家である父親の絵のモデルをしていたそうです。デッサン教室に来る生徒の前で、何時間も同じポーズをとるモデルをしていたといいます。

環菜は美しい少女でしたので言い寄る生徒もいたそうですが、環菜はどの人も断ろうとせずに、皆を受け入れていたとも。

由紀は環菜に聞いてみました。「絵の生徒さんは好きだったの? 彼らに対する印象を、一言で表すとしたら?」。

由紀はポツリと「気持ち悪い」と答えます。

環菜が過去に心に問題を抱えるに至った経緯があると察した由紀は、環菜の手にあるリストカット痕も確かめ、真実を突き止めようとします。

由紀はまず環菜の母親・聖山昭菜の元へと向かいました。母親は一貫して「ぜんぶ娘のせいだ」と主張します。

由紀が環菜のリストカット痕について尋ねると、「手首の傷? 知ってますよ。鶏に襲われて怪我したときのものでしょう」という答えが返ってきました。

娘の言うことの真偽もわからないほど、娘に愛情がなかったのかと由紀は愕然とします。

その後の情報収集により、見えてきた聖山昭菜の人物像は、“夫の機嫌を取り、夫に従うだけの妻”というものでした。

母は娘の環菜にも、聖山那雄人は恩人だから従うようにという態度を崩しませんでした。なぜなら、環菜の実の父親は、那雄人と別れていた時に昭菜が同棲していた別の男だったからです。

そのあと昭菜と那雄人はよりを戻すことになるのですが、那雄人が許したために環菜は中絶されずに生まれてくることになります。

聖山那雄人は、女の子が生まれたから、自分の娘として戸籍に入れたというのです。

「俺が生まれてくるのを許してやったんだから、おまえは俺に恩返しをしなければならない。言うことを聞かなければ戸籍を抜くぞ」。

父の歪んだ教訓は、環菜の精神をむしばんでいったと思われます。

環菜は、父からひどく叱られて家出をしたこともあると言います。その時は行き場のない環菜をコンビニ店員の小泉が助けてくれ、部屋に泊めてくれました。

優しく接してくれる小泉に環菜は魅かれていきますが、環菜が中学生ということもあり2人は別れますが。環菜は小泉とのことが初恋だったと言います。

環菜は父親に逆らえず、デッサン教室のモデルをしていましたが、それは決して好きなことではありませんでした。

そのうちに、身体に傷があればモデルをしなくてもいいことに気が付き、環菜はモデルをしたくない一心でリストカットをするようになったのです。

環菜の育った家庭環境を知るにつけ、由紀もまた自身の生い立ちや、迦葉との関係について向き合っていくようになります。

子どもの頃、由紀は実の父親からネチネチとしたいやらしい目で見られていました。

まだ幼い由紀にはそれが性的な視線だとは理解できていなかったものの、本能的な恐怖と嫌悪はひしひしと感じていました。

そして、成人式の日。由紀は母親から「父親は海外で少女を買っていた」と聞かされ、自分の身にどのような危険が迫っていたのかを知ります。

由紀は心から傷つき、現実から目をそむけるように自暴自棄な生活を送るようになりました。

「性的なことなんてたいしたことではない」と自分に言い聞かせるように、どうでもいい男たちと体の関係を持ったりもしましたが、結局最後はむなしく傷つき、疲労感が残るだけ……。

由紀が大学の同級生の迦葉と出会ったのは、そんなどん底にいるときでした。いつしか由紀は迦葉と遊ぶことを楽しみに思うようになっていました。

迦葉も実の母親から酷い虐待を受けて育ったという過去がありました。由紀は彼に同類という意識を迦葉に持っていたのです。

けれども、由紀が不用意に迦葉に投げかけた言葉がきっかけで、2人の仲に亀裂が入りました。その後迦葉のことが忘れられない由紀は、何気なくカメラマンである迦葉の兄・我聞の個展を訪れます。

これが我聞との出会いであり、恋の始まりでした。もちろん我聞は由紀と迦葉とのことは知りません。

由紀と我聞が結婚し、迦葉が由紀の義弟になった今も、2人が笑いあい、そしてすれ違った日々を我聞に隠し続けています。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ファーストラヴ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ファーストラヴ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

事件の裁判が近づく中、環菜は殺意を一転して否認。由紀は自身がクリニックで診療を受けていた頃を思い出しながら、初公判の日を迎えました。

事件のあった日、環菜は女子アナウンサーの採用試験の二次面接でした。せっかく二次面接まで進んでいたのに、環菜は急な体調不良で途中欠席しています。

なぜなら、アナウンサー二次試験の集団面接は、父親のデッサン会にそっくりだったのです。

男性ばかりの試験官からじろじろと見つめられる面接の場は、環菜にとって耐えられないものでした。

途中欠場によって面接試験に失敗したと思った環菜は、辛い現実から逃避するために、包丁を購入し、リストカットをします。

就活で失敗したから、自分で自分を罰して、それを父親に確認してもらわなければいけないと思った環菜は、手首から血を流したままで、父親の元へ行きました。

娘の自傷を目撃した聖山那雄人は、「もう子どものときに治ったと思ってた。おまえがおかしくなったのは母親の責任だから、あいつに電話してどこか頭の病院に連れていってもらう」と言いました。

父が環菜に背を向けてスマホを取り出そうとしたとき、止めようとした環菜ともみあいになり、父は足を滑らせます。支えようとした環菜の手に握っていた包丁が父の胸に刺さりました。

混乱した環菜はとにかく母親の指示を仰ぐため家に帰ります。「包丁が父親に刺さった」と説明すると、母親は言いました。

「勝手に包丁が刺さるわけがない」。そこからは口論です。

那雄人が死んだと悟ると、母親は叫びました。「私はこれからどうやって生きていけばいいのよ」。

母親は環菜が面接でパニックに陥ったことや、環菜の腕の傷については一切心配しなかったそうです。環菜は家を飛び出し、通報により逮捕されました。

法廷で当日の出来事を説明する環菜は、証言を次のように締めくくりました。

「亡くなってしまった父には申し訳ないことをしたと思います。だけど、じゃあ、どうすればよかったのか、私にもわからないんです」

「自分がおかしいことには気づいてたけど、病院にかかるようなお金もなかったし、母は自分で何とかしなさいと言うので、そうするものだとずっと信じてきました」

「私は、どうすればよかったんでしょうか。自分を抑えて試験を乗り切ることができたらよかったのに、と今でも思います。だけどあのときは無理でした」

裁判で環菜に下された判決は懲役8年。裁判中、由紀は環菜の母親の腕に環菜以上の酷い傷があることに気がつきます。

由紀は、多くの性虐待を受けた娘とそのことを見て見ぬふりする母親の事例を思い出しました。

性虐待を受けた母親もまた、誰かに性的な虐待や暴力を受けていた可能性があり、大人になると今度は自ら過去と似たような境遇に入っていくことがあるのです。

もしかしたら、誰よりも環菜が壊れていくことを恐れていたのは母親だったのかもしれません。それを直視すれば、自分自身の暗い過去と対峙することになるから、目をそむけたとしたら……。

由紀もそんな経験を持っています。環菜の事件はどこか迦葉や由紀の過去とも重なるもので、やりきれない気持ちになりました。

その後由紀は学生時代に迦葉と別れることになった理由に思い当たり、迦葉と和解します。迦葉と和解したあと、夫・我聞から尋ねられます。

「由紀は僕と結婚してよかったと思う?」「もちろん。あなたと出会ってからの私はずっと幸せだった」

我聞も頷いて、言いました。

「僕もだよ。迦葉は大事な弟で、由紀は大事な恋人だった。2人が触れてほしくないだろうと思って、今日までずっと黙ってきた。だけど、もしいつか君たちが和解したら、言おうと思ってた。今日が来て、僕もようやく由紀を独占できる」

由紀はゆっくり息を吐き、長年抱え込んでいた秘密が、消えていくのを感じました。

小説『ファーストラヴ』の感想と評価

女子大生・環菜が父親を包丁で殺害する事件がおこり、なぜ彼女は父親を殺害したのかと、主人公・由紀が謎解きに奔走します。

由紀が環菜の周辺を調べると、その歪んだ家庭環境が露わになってきました。父親は血の繋がらない娘・環菜に対して、娘にしたのだからと恩返しを強制します。母親も父親には絶対服従。

素直な環菜は父親の命ずるままに、デッサンのモデルになり、父を怒らすのは自分が悪いという思想を植え付けられていきます。

今回の事件の真相は、このねじれた思想の延長戦上にあった悲劇と言わざるを得ません。

環菜が受けた表に出ない家庭内のパワハラや性的虐待は酷く、ストレスによって繰り返される自傷行為はかなり深刻なものでした。

小・中学生の年代の少女が、男性ばかりの生徒がいるデッサン教室のモデルとして、何時間も射抜くような視線にさらされるのは、決して気持ちの良いものではありません。

それを訴えようとしても、母は父のしもべです。行き場のない環菜のストレスは、自傷癖へと向かっていきます。

小説では目につくような暴力や騒ぎはほとんどありませんが、こんなところからも、当事者たちの心の葛藤がストーリーの半分以上を占めている心理サスペンスと言えるでしょう。

殺人犯とされる女子大生環菜の取材をする由紀もまた、幼少期に実父の性的悪趣味を知り、自暴自棄な暮らしに陥った経験を持っています。

環菜のことを知れば知るほど、捨て去りたい記憶が蘇ってくるというジレンマが由紀を苦しめるのです。

由紀と迦葉の切なく心に刺さるラブストーリーも展開するのですが、誰もが陥るかもしれない家庭の闇の重圧が気持ち悪くなるほどのしかかってくる小説でした。

父親が皆変質者で母親はそのロボットに思えそうなこの作品の中で、唯一救いになるのが由紀の夫・我聞です。

過去を知ったうえでも由紀を愛し、由紀の全てを受け入れる覚悟のある我聞は、この作品の中でも最も優しく包容力のある男性と言えます。

『ファーストラヴ』は、重苦しいテーマで複雑な女性の心理を抉り出していますが、穏やかで温かな気持ちになる結末も用意されています。明るい兆しの見える終章にホッとすることでしょう。

映画『ファーストラヴ』の作品情報


(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

【原作】
島本理生

【監督】
堤幸彦

【脚本】
浅野妙子

【キャスト】
北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介

まとめ

(C)2021「ファーストラヴ」製作委員会

小説『ファーストラヴ』は、複雑な家庭内虐待によって苦しむ女性の顛末を描いています。事件を解き明かそうとするのは、主人公である臨床心理士の由紀と、元恋人であり現在は義理の弟でもある弁護士の迦葉。

由紀を演じる北川景子と迦葉に扮する中村倫也がどんな元恋人を演じるのか、芳根京子がどこまで傷ついた精神を持つ女子大生環菜を表現できるのか、映画の見どころはたくさんあります。

特に、環菜を嘗め回すような視線で描かくデッサン教室の様子や、少女の由紀を見る実父の下心アリの視線は、この作品の“気持ち悪さ”を象徴していると思われますから、必見です。

そして気になるのはタイトル。『ファーストラヴ』は誰の初恋のことを指しているのでしょう。

由紀と迦葉? それとも環菜の初恋のことでしょうか。映画でどのように表現されているのか、楽しみです。

映画『ファーストラヴ』は2021年2月11日(木・祝)ロードショー






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