連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第34回
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』は、「シティ・ポップ」の総本山として近年再注目を集める東京・銀座のレコーディングスタジオ・音響ハウスにスポットを当てたドキュメンタリーです。
1974年に設立された音響ハウスはこれまでに数々の名曲を生み出し、昨年創立45周年を迎えました。
坂本龍一、松任谷由実、矢野顕子、佐野元春など、日本を代表するアーティストたちも音響ハウスをこよなく愛し、その関わりをアツく語ります。
なぜ、音響ハウスが長きにわたってアーティストたちに愛されて来たのでしょう。名曲を生むレコーディングスタジオの秘密に迫ります。
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』は、2020年11月14日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
CONTENTS
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
相原裕美
【撮影】
北島元朗
【出演】
佐橋佳幸、飯尾芳史、高橋幸宏、井上鑑、滝瀬茂、坂本龍一、関口直人、矢野顕子、吉江一男、渡辺秀文、沖祐市、川上つよし、佐野元春、David・Lee・Roth、綾戸智恵、下河辺晴三、松任谷正隆、松任谷由実、山崎聖次、葉加瀬太郎、村田陽一、本田雅人、西村浩二、山本拓夫、牧村憲一、田中信一、オノセイゲン、鈴木慶一、大貫妙子、HANA、笹路正徳、遠藤誠、河野恵実、須田淳也、尾崎紀身、石井亘〈登場順〉
【主題歌】
Melody-Go-Round / HANA with 銀音堂
作詞:大貫妙子 作曲:佐橋佳幸
編曲:佐橋佳幸、飯尾芳史 プラス編曲:村田陽一
【作品概要】
東京・銀座のレコーディングスタジオ・音響ハウスは、昨年創立45周年を迎えました。本作では、坂本龍一、松任谷由実、矢野顕子、佐野元春など、日本を代表するアーティストたちがこのレコーディングスタジオ・音響ハウスへのこよなく愛する想いを語ります。
レコーディングエンジニア出身の相原裕美が本作の企画・監督を務め、長い歴史を持つスタジオだからこそ起こせたマジックと奇跡も披露。相原裕美監督は、写真家の鋤田正義の偉業を追ったドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』(2018)を手掛けています。
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』のあらすじ
上映開始とともに、スクリーンにはレコーディングスタジオが映し出されます。
1974年東京・銀座に設立された音響ハウス。国内外の著名ミュージシャンたちに愛され、数々の名曲・名盤を生み出しながら、昨年創立45周年を迎えたといいます。
映画では、YMO時代からこのスタジオで試行錯誤を繰り返してきた坂本龍一をはじめ、松任谷由実、松任谷正隆、佐野元春、綾戸智恵、矢野顕子、鈴木慶一、デイビッド・リー・ロスら多彩な顔触れがスタジオへの思い入れと思い出を語りました。
さらに当時のプロデューサーやエンジニアにもカメラが向けられ、近年再び国内外で人気を集めるシティ・ポップがどのように形作られたのかにも迫ります。
なかでも、制作秘話とともに紹介される忌野清志郎と坂本龍一がコラボした「い・け・な・いルージュマジック」は必聴。
また、ギタリストの佐橋佳幸とレコーディングエンジニアの飯尾芳史が発起人となり、大貫妙子、バイオリニスト・葉加瀬太郎、井上鑑、高橋幸宏らゆかりのミュージシャンによるコラボ新曲「Melody-Go-Round」のレコーディングにも密着しました。
若干13歳の期待の女性シンガー・HANAが楽曲に歌声を吹き込む様子もつぶさに映し出されます。
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』感想と評価
昭和を彩る「シティ・ポップ」。その筆頭ともいえるミュージシャンの矢野顕子や佐野元春、松任谷由実、坂本龍一などが生出演で、レコーディングスタジオの音響ハウスについて自分の思い出を語ります。
45年の歴史を持つ音響ハウスから生まれたヒット曲の数々は、作る人も歌う人も聞く人も、心から楽しめる名曲ばかり。
チラリとサビの部分だけ紹介される曲は、題名はわからなくても、どこかで聴いたことがあるとか、聴いていてなんだか懐かしい気持ちになるというものがほとんど。知らず知らずのうちに、その曲が流行った当時の思い出に浸れました。
このような、音楽界を一世風靡したアーティストたちの生誕の地ともいえる音響ハウスでのレコーディングの様子や、彼らの思い出を収録しているのが、映画『音響ハウス Melody-Go-Round』なのです。
企画・監督は、レコーディングエンジニア出身の相原裕美。写真家の鋤田正義氏の偉業を追ったドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』(2018)を手掛けた監督です。
相原監督は、その経歴も生かし、ミュージシャンだけではなく、スタジオを維持する機材修理のベテランスタッフにも目を向けて、映画を製作しました。
『音響ハウス Melody-Go-Round』の舞台となっているのは、言わずと知れたレコーディングスタジオです。
映画が始まってすぐにその内部の様子が映し出されます。レコーディングの機材に埋め尽くされたスタジオは圧巻の光景。
そこは、バンド編成のレコーディングに適している2スタジオをはじめ、8型ストリングス同録ができる1スタジオや、5.1chサラウンドミックス対応の3スタジオ、Mix-Down用6スタジオなど、多彩な構成です。
加えて、全てのスタジオに共通するコンデションの良さや、「原音を忠実に録音できる環境を常に提供する」ことを念頭に置いた徹底したメンテナンス。
また、最新のレコーディング機材をいち早く導入し、日本のレコーディング技術の発展に貢献してきた実績もあるのが、音響ハウスなのです。
音響ハウスについて聞かれると、アーティストたちは口を揃えて、「音響ハウスに住んでいる」とか「気持ちの良い音楽を作れるのは、ここよ、ここ、ここ」と、その居心地の良さを絶賛します。
まるで本当に癒される我が家のように、音響ハウスがアーティストたちから愛されているのがよくわかりました。
本作は、アーティストばかりでなく、レコーディングスタッフが音楽を生み出すことに喜びを感じている様子が、次々と途切れることなく映し出され、音楽とスタジオへの愛が伝わって来る作品となっています。
まとめ
1974年12月に東京・銀座に設立され、昨年創立45年を迎えたレコーディングスタジオの音響ハウス。
本作で音響ハウスとの出会いや思い入れ、楽曲の誕生秘話を語るのは、YMO時代からこのスタジオで試行錯誤を繰り返してきた坂本龍一をはじめとする、松任谷由実、松任谷正隆、佐野元春、綾戸智恵、矢野顕子、鈴木慶一、デイヴィッド・リー・ロス(ヴァン・ヘイレン)ら多彩な顔触れです。
ミュージシャンとレコーディグスタジオは密接な関係にあるということが一目瞭然の内容でした。
レコーディングスタジオこそ、のちに語り継がれる名曲や名盤を生み出す誕生の場。
そこにあるのは、音楽を通した人と人とのコミュニケーションがあり、もの作りの醍醐味で、充実した達成感と喜びの中、数多くの名曲が誕生したといえます。
今後もこの音響ハウスから、次世代へ歌い継がれる名曲が誕生していくのに違いありません。
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』は、2020年11月14日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。