映画『BOLT』が、いよいよ2020年12月11日より、テアトル新宿ほか全国順次公開!
われわれは、なぜこうなったのか。やり直せないか、われわれは。
「私立探偵 濱マイク」シリーズ、『弥勒MIROKU』の林海象監督が、俳優・永瀬正敏と再びタッグを組み、3年の年月をかけ完成させた7年ぶりの長編映画『BOLT』。
あの日、日本を大地震が襲った。原子力発電所内で漏れ出した高放射能冷却水を止めるため、男(永瀬正敏)はボルトを締めに原子炉へと向かう。
現代美術家・ヤノベケンジが、香川県高松市美術館内に作り上げた巨大セットの中で、撮影された映像は、近未来的アートと緊迫した「魔の1日」のみごとな融合空間を作り上げました。
第22回上海国際映画祭パノラマ部門にて正式招待作品、京都国際映画祭2019に特別招待作品に選ばれ、劇場公開が待ち望まれていた『BOLT』。いよいよ、2020年12月11日劇場公開となります。
ボルトを締め続けたとある男の物語を、「BOLT」「LIFE」「GOOD YEAR」の3つのエピソードで描きます。
映画『BOLT』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【脚本・監督】
林海象
【キャスト】
永瀬正敏、佐野史郎、金山一彦、後藤ひろひと、テイ龍進、月船さらら、吉村界人、佐々木詩音、大西信満、堀内正美、佐藤浩市
【作品概要】
「BOLT」「LIFE」「DOOD YEAR」の3つのエピソードで構成された映画『BOLT』。林海象監督が3年の年月をかけ制作、7年ぶりの長編映画完成となりました。
「私立探偵 濱マイク」シリーズをはじめ、何度も林海象監督とタッグを組んできた俳優・永瀬正敏が主演を務め、佐野史郎、金山一彦らが共演。
そして、原子力発電所内に聞こえてくる指令の声を、佐藤浩市が担当。声のみの出演にもかかわらず、その存在感が発揮されています。
また、現代美術家ヤノベケンジが、香川県の高松市美術館に実際に作り上げた巨大セットを使用し撮影された映像にも注目です。
映画『BOLT』のあらすじ
グラッ、海が大きく歪みました。とある原子力発電所内では、作業員が点検をしています。ネジが落ちる音と共に、サイレンが鳴り響きました。「全員、直ちに退避せよ」。
荒れ狂う海の中、赤い靴の女が漂うのが見えた気がします。250、500、900シーベルト、放射能計測器の数値が急上昇していきます。
「状況を確認せよ」。「漏えい水を確認」。訪れる暗闇。その中で緑に煌めき流れ落ちる水。「メルトダウン」。次々倒れて行く作業員たち。
特殊防護服に身を包んだ男たちが、高放射能冷却水の漏えいを止めるため、圧力制御タンクの配管ボトルを締めに原子炉へと向かいます。
締めても締めても溢れ出す水。「うわぁーー」悲痛な叫び声が上がります。水は、警報の赤い光に反射し、ゆらりゆらりと光り揺らめいていました。
その後の男は、避難指定区域となった被災地で遺品回収の仕事をしていました。あの日の水の揺らめきに似た眩暈と耳鳴りが続いています。
「これでやっと誰もいなくなった」。原発避難指定区域に何度目かの冬がやってきました。
クリスマスの夜。男の車修理工場にマリアと名乗る女が現れます。あの日、海の中を漂っていた赤い靴の女でした。男がよく知った女と似ています。
近所の子供たちは知っています。「あの修理工場の中にある巨大な水槽には人魚がいるんだよ。人魚の肉を食べると人は死なないんだって」。
あの日から現実と幻想の中を漂い続ける男に、ボルトを締め終える日は来るのでしょうか。
映画『BOLT』の感想と評価
3.11東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故現場を彷彿させる映画『BOLT』。実際に、林海象監督が震災の翌年、京都で開催された写真展で、福島第一原発の作業員の方から聞いた話が制作のきっかけとなったそうです。
高濃度の汚染の中、作業員たちはボルトを締める回数は一回だけと決められ時間の制限もありました。多くの緩んだボルトを締めるのには、何百人という人員が必要だったと言われます。
危険を承知で、原子炉へと向かう作業員たち。どのくらい決死の覚悟があったのかと、想像するだけで身が震えあがります。
映画内での会話は実にリアルです。「状況を確認せよ。漏えい水を確認」「止めなければ、汚染水は未来へ流れ続ける」「俺たちが止めねば」「あったなどこ、もう行ぎだくね」。
若い作業員が我先にとボルトを締める役目をかって出た時、「若い者ほど放射能は影響する。死ぬにも順番があるんだ」と、ベテラン作業員に止められるシーンもあります。
どんどん緊迫していく声と、ブォーンブォーンと響く鈍い機械音、警報機の赤い点滅、全体を通してミシミシと骨にくる感覚が押し寄せ、酸素不足になっていることに気付きます。「ボルトよ、締まれ!」と願わずにはいられません。
また、止まらない水は、赤紫、緑、青、ピンクと妖艶に光り、油膜を張ったようにねっとりと見えてくるから不思議です。
本作のために制作されたという現代美術家ヤノベケンジ氏の近未来的な巨大セットは、防護服で未知の領域に足を踏み入れる作業員の姿と、宇宙飛行士の姿が重なって見えます。
映画は「BOLT」「LIFE」「GOOD YEAR」と3つのエピソードで構成されており、それぞれが少しづつ関連づけられています。
エピソード1でボルトを締めに向かった男のその後の人生を、エピソード2・3で追っているかのようで、まるで違う次元に迷い込んだような不思議な錯覚に陥ります。
「LIFE」は、原発事故の後、避難指定区域で亡くなった老人の遺品回収をしに行く男の話となります。
一度離れても、どうしても家に戻ってしまう老人。危険と知りながら、そこでしか生きられない孤独な生活。その家の状態は悲惨なものでした。
「なんで、この仕事をしているのか」という同僚の質問に、「誰かがやらなければならないでしょ」と返す男の言葉が印象に残ります。
「GOOD YEAR」はクリスマスの奇跡ともいえるファンタジーな話になっています。
何の装置がわからない部品のボルトを締め続ける男。男の元に現れたのは、都会からきたマリアという女。
彼女は何もかも捨ててきたと言います。仕事も彼も、そして子供も。その女と海の中に沈んだ赤い靴の女、そして机に飾られた写真の女・アキコはそっくりでした。アキコは、人魚だったのかもしれません。
三部作に登場する男を演じるのは、林海象監督と数々の作品を共にしてきた盟友でもある永瀬正敏。今作では名もない「男」役として登場しています。
原子力発電所に勤務していたその男は、感情をあまり表に出さないタイプではありますが、誰よりも事の重要さを理解し、己を犠牲にしてもなお任務遂行に挑みます。
その行動は無謀のようにも映ります。その後のエピソードからは、男の体が蝕まれていることが垣間見えます。
それでもなお現場に戻る意思を最後まで見せます。男は無謀なうえに刹那的でもありました。
永瀬正敏の訥々とした物静かな演技がリアルでもあり、どこか浮世離れした雰囲気も漂わせています。
まとめ
林海象監督の7年ぶりとなる新作長編映画『BOLT』が、いよいよ2020年12月11日より、テアトル新宿ほか全国順次公開となります。
あの未曾有の大惨事から人生を翻弄された男の物語。「心も体ももう苦しまないで」と願いたい。誰のせいでもありません。それでも生きて下さい。
締めても締めても締まらないボルトのように、ぬぐってもぬぐってもぬぐえない痛みがあること。忘れてはいけません。