連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile126
サバイバルにおいて生死の境を分けるのは知識の有無であると言われています。
しかし、時に知識の力を遥かに凌駕するのは本人の「生きる意志」。
今回は「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020開催記念特集」第5弾として、事故により身体が自由に動かない少女がウイルスにより凶暴化した犬に襲われるサバイバルスリラー映画『VS狂犬』(2020)の魅力をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『VS狂犬』の作品情報
(C)SUBETE AL TREN 2019
【原題】
Cuerdas
【公開】
2020年(スペイン映画)
【監督】
ホセ・ルイス・モンテシノス
【キャスト】
パウラ・デル・リオ、ミゲル・アンヘル・ジェネール、ジョルディ・アギラル
『VS狂犬』のあらすじ
(C)SUBETE AL TREN 2019
事故により四肢が麻痺し、電動車椅子での生活を余儀なくされたエレナ(パウラ・デル・リオ)。
自殺未遂を父に目撃され、かつて家族で暮らした家に戻ることとなったエレナは介護犬のアトスと出会います。
しかし、家の中に侵入してきた蝙蝠にアトスが接触したことをきっかけにアトスは凶暴化し始めます。
自身の介護のために様々な改修が成された家で、エレナはアトスから身を守るため奮闘しますが……。
絶望感を煽るワンシチュエーションスリラー
(C)SUBETE AL TREN 2019
数々の短編映像作品を製作したスペインの新進気鋭の映像作家ホセ・ルイス・モンテシノス。
彼が長編映画として製作した映画『VS狂犬』は、家の中だけを舞台にしたワンシチュエーションスリラーでありながら、上映時間中にさまざまな方面から感情を揺さぶられる作品でした。
足を動かすことも腕を大きく上げることが出来ない少女エレナの命を脅かす1匹の犬。
電動車椅子の速度では簡単に追いつかれる犬を相手に、圧倒的に不利な戦いを強いられる絶望感が見どころとなります。
家全体を舞台にした手に汗握る攻防
(C)SUBETE AL TREN 2019
本作の舞台となる一軒家は、エレナの父が四肢が麻痺したエレナのためにさまざまな改修をしています。
介護犬であるアトスを立ち入らせないための柵や、車椅子のまま階段を昇降する装置、そして腕の上がらないエレナのためにドアやカーテンの開閉をロープで行えるようになっています。
作品の原題でもある「Cuerda(s)」はロープのことを指しており、エレナはこれらの装置を駆使しながら、アトスに立ち向かっていくことになります。
鋭い爪も生き残るために特化した筋肉も持たない「人間」は、小型犬にすら勝つことは厳しいとされています。
しかし、「道具を利用する力」を用いて不利な状況を覆すべく奮闘するエレナを心から応援したくなるような、手に汗握る攻防が繰り広げられる作品でした。
必要なのは「生き残る意志」
(C)SUBETE AL TREN 2019
映画『127時間』(2011)の題材ともなった登山家のアーロン・ラルストンは、滑落し数日が経過しても救助が来ないことから死を覚悟します。
しかし、予想に反し自身が長期間生きていたことから、「生きるため」に自身の腕を切り落とすという行動を起こす奇跡の生還を遂げました。
サバイバルに取って重要なことは、破れかぶれではなく生きるために命を賭けることの出来る強靭な意志にあると言えます。
本作ではホセ・ルイス・モンテシノス監督がその演技と雰囲気にほれ込んだとされる女優パウラ・デル・リオが少女エレナを熱演。
自殺未遂を行うほどに追い込まれていた少女が、窮地に陥り「生き残る意志」を見せ始める演技に圧倒されます。
絶望と希望を与える心優しき登場人物たち
(C)SUBETE AL TREN 2019
本作の登場人物はそれぞれが深い過去と想いを抱えながら、家族を心の底から愛する心優しき人間になっています。
それゆえに登場人物の死はエレナと鑑賞者に深い絶望感を与え、また彼らの言動が希望にも繋がっていきます。
その心優しさは人間だけに留まらず、本作の敵となる介護犬のアトスも本来は家族想いであり、狂犬病ウイルスの恐ろしさをより引き立てることになります。
自身に深い絶望を抱えてしまったことで他者の優しさに気づくことの出来ないエレナが、絶望の淵で希望を見出していく物語にも注目して欲しい作品です。
動物好きには少し辛い…けど見て欲しい
(C)SUBETE AL TREN 2019
本作には介護犬のアトスとフェレットのルーク、そして他の犬たちも多数登場します。
凶暴化する前のアトスやエレナになつくルークの姿はとても愛らしく、動物好きにはその映像だけでたまらない作品です。
もちろん本作は凶暴化した犬に襲われると言う物語の性質上、アトスとの敵対は避けては通れません。
それがアトスの意思ではなくウイルスによって引き起こされたものだと分かるからこそ、すべてのシーンが辛くのしかかってきます。
しかし、本作が単なる人間対犬ではなく、家族の物語であると感じることが出来るのも動物好きだからこそと言えます。
そのため、辛い気持ちになることを覚悟の上、動物好きの人にも鑑賞して欲しい作品です。
まとめ
凶暴化した犬とのワンシチュエーションな攻防を全編で描いた作品でありながら、決して飽きることなくラストには感動も出来る秀作映画『VS狂犬』。
本作は「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」において劇場で公開予定。
「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020」はヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、シネマスコーレ(名古屋)の3劇場で開催予定。
日程をご確認の上、ぜひ会場に足を運んでみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile127では、引き続き「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション2020開催記念特集」として、ディストピアとなったトルコを舞台に描かれるエンジニアの死を追ったSFスリラー映画『恐怖ノ黒電波』(2020)をご紹介させていただきます。
次回は予定を変更し10月30日(金)に掲載予定です、お楽しみに!