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Entry 2020/10/05
Update

感動と涙のおすすめ映画『ミッドナイトスワン』【ネタバレあり】結末ラストこそ、日々の生活で生きづらさを感じた人に見て欲しい!

  • Writer :
  • もりのちこ

朝がくれば白鳥に戻ってしまう。
呪いをかけられた悲しいお姫様たちの物語。

トランスジェンダーで女性として生きる凪沙(なぎさ)と、母親に育児放棄された少女一果(いちか)の、血のつながりを超えた親子愛を描いた映画『ミッドナイトスワン』。

生きづらい世界で孤独な2人が出会い、頼りなくも身を寄せ合い、懸命に幸せを掴もうともがく姿に心揺さぶられる作品。

凪沙を演じる草彅剛と、一果を演じる14歳の新人・服部樹咲の演技力が、公開まもなくすでに話題となっています。

心が伴わない体を持つ苦しみ、愛を知らず自分の体を傷つける痛み、目を逸らしたくなるような暗闇の中で見つけた一筋の光とは。映画『ミッドナイトスワン』を紹介します。

映画『ミッドナイトスワン』の作品情報


(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
内田英治

【キャスト】
草彅剛、服部樹咲、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨子、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖

【作品概要】
トランスジェンダーの主人公と、親の愛情を知らない少女の絆を描いた映画『ミッドナイトスワン』。

元アイドルの草彅剛がトランスジェンダーの凪沙を熱演。バレリーナを夢見る少女一果役には、新人・服部樹咲がオーディションにより選ばれました。

監督は、映画『下衆の愛』『獣道』、NETFLIX『全裸監督』など、大胆な性描写や暴力、社会問題を真っ向から映し出す内田英治監督。

他の共演者には、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖など安定感あるベテラン俳優が勢揃い。そして、こちらも気鋭の新人となる上野鈴華の演技にも注目です。

映画『ミッドナイトスワン』のあらすじとネタバレ


(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
新宿のニューハーフショークラブ「スイートピー」の楽屋では、バレリーナの衣装に身を包んだキャスト達が、お化粧に恋バナにと忙しそうです。

「男に消化されたら負けよ、うちらみたいなのは」。そうアドバイスするのは、トランスジェンダーの凪沙(なぎさ)です。

皆は揃いの赤いトゥシューズを履きステージへと上がります。「白鳥の湖」のコール・ド・バレエの一糸乱れぬ動きと踊り、とは言えませんが煌びやかステージが幕を開けました。

その頃、凪沙の故郷でもある広島のスナックでは、従妹の早織が酔っ払いぶっ倒れていました。

早織の娘・一果(いちか)が迎えにきます。「なんや、あんたのために働いとるんで!」。一果を殴る早織。

「ごめんな、ちゃんとしようと思おてもダメなんよ」。一果は、やり場のない感情を自分の腕を噛むことで耐えていました。

凪沙のもとに実家の母から電話が来たのはそんな時でした。早織が育児放棄になり、少しの間、一果の面倒を見て欲しいという内容でした。

田舎の親には、東京で女性として生きていることを打ち明けていない凪沙は、しぶしぶ一果を受け入れることにしました。

新宿駅で顔を合わせた凪沙と一果。互いに第一印象は最悪でした。親戚のおじさんが迎えに来ると思っていた一果の前に現れたのは、女装した男の人?。無表情で何もしゃべらない一果に、「子供は嫌い」と凪沙はイライラをぶつけます。

それでも一果の新しい学校へ転入手続きに出向く凪沙。案外、面倒見が良い性格のようです。

学校では凪沙の恰好をみた男子生徒が、「あれってお前の父さん?いや、母さんだったりして」と、一果をからかいにやってきます。一果は何も言わず、イスを投げつけました。

転校早々、問題を起こした一果のおかげで、凪沙は学校から呼び出しをくらいます。理由も聞かず怒る凪沙に、一果は心を閉ざしたままです。

そんなある日、一果は学校の帰り道でバレエ教室を見つけます。凪沙の部屋で舞台衣装のチュチュをこっそり身に付けていた一果は、バレエに興味を抱いていました。

バレエの先生・実花に声をかけられた一果は、一度逃げ帰りますが、どうしてもやりたい気持ちを抑えることが出来ず、体験レッスンに飛び込みます。

バレエを続けるにはお金が必要なことは、一果も知っていました。諦めかけていた時、同級生の桑田りんが一果を家に招きます。りんは、バレエ教室の生徒でもありました。

裕福な家庭で育ったりんは、バレエ経験者である母の期待を受け、何一つ不自由のない暮らしをしていました。

りんは、お金がなくてバレエを続けられないと言う一果に、バレエの練習用レオタードやトゥシューズなど自分のお下がりをあげ、割の良いバイトも紹介してくれました。

バレエに夢中でのめり込む一果は、先生も驚くほどにめきめきと上達していきます。あわせて立ち振る舞いや顔つきも変化し、笑顔と口数が増えたようです。

ある晩、凪沙がひどく汗ばみ苦しそうに帰ってきました。驚く一果を前に、凪沙は薬を飲み込み「泣けばだいたい治まるわ。なんで私だけ、なんで、なんで……」と泣き続けました。凪沙の生きる辛さを目の当たりにした一果は、公園でひとりバレエを踊ります。

一果のバレエの才能に気付いた実花先生は、指導にも力が入ります。一果中心のレッスンに生徒たちからの不満がつのり、りんは嫉妬を覚えます。

事件が起こったのはそんな時でした。警察に呼び出された凪沙は、一果が違法のバイトをしていたことを知ります。りんに紹介されたバイト先は、お金をもらって写真を撮られるという違法なお店でした。

さらに、りんは一果に、バレエコンテストに出場するためにもっとお金を稼ぐ必要があると言い、危険な撮影をすすめていました。個室での撮影に身の危険を感じた一果は、大声で叫び出します。

バレエのこと、バイトのことを何も聞かされていないと怒る凪沙に、「もういい」と言い残し逃げ帰る一果。

「めんどくさっ」と言いつつも後を追いかけた凪沙は、泣きながら自分の腕に噛みつく一果を見つけます。

とっさに後ろから強く抱きしめる凪沙。「もっと自分を大切にし、うちらみたいなんは、ずっとひとりで生きて行かなきゃいけんけえ、強うならんといかんで」。

一果の体からひしひしと伝わってくる心の痛みを、凪沙は誰よりも理解していました。その日、凪沙は一果を自分の店に連れていきます。

ニューハーフショーのステージで、バレエの衣装に身を包み「白鳥の湖」を踊る凪沙たちの姿に、一果の目は釘付けです。

しかしステージの途中で、タチの悪い客がヤジを飛ばしてきたことで、店は乱闘になってしまいます。

その中で、ステージにひとり立つ一果。まるで音楽が流れているかのように、バレエを踊り出します。気付くと、軽やかで可憐な一果の踊りに、誰もが惹き込まれていました。

先生が言っていたことは本当でした。一果の才能に凪沙は驚かされます。衣装で使った白鳥の頭飾りを一果にあげる凪沙。

この子にバレエを習わせてあげたい。凪沙はそう決意するのでした。

以下、『ミッドナイトスワン』ネタバレ・結末の記載がございます。『ミッドナイトスワン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
凪沙は、一果にバレエを続けさせるために就職を考えていました。トランスジェンダーを受け入れる会社はあっても、やはり好奇の目にさらされてしまいます。

夜の公園でバレエの練習をする一果に付き添い、一緒に踊るのが凪沙の楽しみでもありました。じゃれ合い踊る2人の姿は、まるで本当の母子のようです。

バレエの実力をあげていく一果は、実花先生の協力もありコンテストに出場することが決まりました。しかし、そのことは多くの犠牲を払うことになるのでした。

学校の屋上に、りんと一果がいます。一果がバレエの練習をしている様子を、りんは煙草を吸いながら見守っています。

「一果、変わったよね、可愛くなった。バレエが上手になった。キスしていい?」。「変わってないよ」。そう否定する一果でしたが、りんからのキスを受け入れます。

りんは、足を怪我したことで、もう以前のようにバレエを踊ることは出来ませんでした。親の言う通りにバレエを続けていたりんでしたが、踊ることが好きだったのでしょう。その悔しさに涙を流します。

一方、凪沙は一果のバレエコンテストの費用を工面するために、髪を切り男の姿をし、慣れない力仕事に就きました。

それを見た一果は悲しみ「頼んでない!」と怒鳴ります。「これでバレエに集中出来るでしょ」。恰好は変わっても、凪沙は凪沙でした。一果は、実の親からも貰えなかった深い愛情を凪沙から感じるのでした。

いよいよ明日はバレエコンテストという前夜。一果が練習から戻るとアパートの前に実の母・早織が待っていました。「迎えにきたのよ。ママね、変わったんよ」。無理やり一果を抱き寄せる早織。

コンテスト当日です。昨夜のことを知らない凪沙は女性に戻り、一果と一緒に会場入りしました。応援には、ニューハーフショークラブ「スイートピー」の皆も駆け付けました。

りんが踊れななくなったことを気にかけていた一果の元に、りんから電話が入ります。「応援してるから」。その声はどこか切なく甘いものでした。

一果はとても不安でした。母・早織のこと、りんの存在。トイレに籠り、久々に腕を噛み耐えます。

一果の最初の演技が始まりました。りんは、両親と一緒に結婚式に出席していました。ビルの屋上で開かれたパーティーの最中、一果の踊りとシンクロするように踊りだす、りん。

曲は盛り上がりを見せ、クライマックスです。一果は見事に踊り遂げましたが、りんはテーブルの上を軽やかに跳ね、そのまま屋上の柵を飛び越え姿を消しました。

何かを感じた一果。次のステージでは一歩も踊れませんでした。立ち尽くす一果を客席から心配する凪沙の前に、茶髪のガラの悪い早織が現れ、「大丈夫じゃ」と一果を抱きしめます。

「お母さん」。ぽつりと反応を見せる一果。凪沙は、会場を後にしました。

海外で性適合手術を受ける凪沙の姿がありました。以前から望んでいたことでした。そして女性となった凪沙は、一果を迎えに故郷へ戻ります。

何も知らなかった凪沙の母親は、自分の息子の変わり果てた姿をみて「病院で治してもらい」と泣き崩れます。「お母さん、私は病気じゃないの」。凪沙の心は理解されません。

早織は、凄い剣幕で凪沙を追い払おうします。もみ合いになり倒れた凪沙の胸元が露わになりました。「この化け物が!帰れ」。凪沙はボロボロの姿で家を追い出されます。

凪沙の想いに戸惑いをみせる一果。そんな一果に凪沙は声を掛けます。「私、女になったから、お母さんになれるの」。

時が過ぎ、今日は一果の卒業式の日です。一果は笑顔でした。友達も出来たようです。母の早織も一緒に式に参加しました。親子は少しづつ良い方向へ変わったようでした。

そして、一果はバレエを続けていました。実花先生が東京から通いレッスンを付けてくれています。目指すはバレエの海外留学です。

一果は、母・早織と約束していました。学校を卒業したら、凪沙に会いに行っていいと。初めて出会った思い出の新宿駅でひとり降り、凪沙の元へ向かう一果。

久しぶりに再会した凪沙は、すっかり衰弱していました。手術の後遺症でしょうか。ひとりではトイレにも行けず、視力も弱っていました。

訪ねてきたのが一果だと分かった凪沙は、嬉しいながらも恥じらいます。そんな凪沙の面倒を見る一果。

凪沙のたっての希望で、一緒に海へと出かけます。体調を気遣う一果。凪沙はひどく無理をしていました。

一果からバレエ留学のことを聞き、心から喜ぶ凪沙は、一果に踊って欲しいとお願いします。一果はもう凪沙の生気がないことを感じます。「やだ、帰ろうよ」。「お願い、踊って」。

一果は海に向かって踊り出します。見えないはずの凪沙にも伝わります。「綺麗、本当に綺麗」。一果が振り返ると、凪沙は微笑みながら眠っていました。

一果はそのまま海へと入っていきます。どこまでも。

ニューヨークの町並みをさっそうと歩く女性がいます。後ろ姿が凪沙にそっくりです。海外バレエのオーディション会場に向かう一果でした。

凪沙からもらった白鳥の頭飾りをつけ、ステージに立つ一果。「見てて」。

当時は一歩も踊れなかった「白鳥の湖」オデットを見事踊り抜きました。煙草を吸う凪沙の側で美しい白鳥が舞っています。

映画『ミッドナイトスワン』の感想と評価


(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
元アイドルの草彅剛が、トランスジェンダーの凪沙を演じることで話題となった映画『ミッドナイトスワン』。

映画は、草彅剛の存在感と合わせて、一果を演じる14歳の新人・服部樹咲の堂々とした演技にも注目です。

トランスジェンダーとして幼い頃から心が伴わない体を持つ苦しみ、愛を知らず自分の体を傷つける少女、目を逸らしたくなるような負の連鎖が続きます。

それでも、暗闇の中で見つけた光が輝きを増し、誰かのために生きる喜びを感じた時、生きる意味を見つけ前へ進む2人。

凪沙と一果の関係は、無償の愛とは血の繋がりばかりではないのだと教えてくれます。

また、そんな危げな凪沙と一果の生きる世界が、映像美にも反映されていて惹き込まれます。儚くも煌めく夜の街・新宿。手足の先までも命が宿るバレエの神聖さ。人間の欲と天使の無垢さが相反しイケないものを見ているかのような錯覚に陥ります。

映画のタイトル『ミッドナイトスワン』は、クラシックバレエの定番「白鳥の湖」を連想させます。呪いで白鳥にされ、夜にしか人間の姿に戻れないオデット姫の物語は、日陰を生きて行くしかなかった凪沙の人生と重なります。

映画のワンシーン、夜の公園でじゃれ合いバレエを踊る凪沙と一果の前に、現れる老人の言葉が印象的です。

「踊りが上手だね、お姫様たち。しかし、朝がくれば白鳥に戻ってしまう。なんとも、悲しいことだ」。朝が来ても、本当の自分で幸せに生きられる凪沙と一果の姿を願わずにはいられません。

現代では、LGBTという言葉も一般的で、性の多様性を認めようと活動も増えていますが、実際に理解出来ている人はどのくらいいるのでしょうか。

映画の中では、凪沙が女性の恰好で就職面接を受けるシーンがあり、面接官が「この会社はLGBTにも理解があります。流行ってますよね。大変ですね。私も勉強してるんですよ」と、口先だけの対応をみせます。その対応にドキリとさせられました。

今回、草彅剛が演じた凪沙は、トランスジェンダーです。物心ついた時には女性の心で、海へ行った時、「何で自分はスクール水着ではないのか」と疑問を持ったエピソードがあります。

身体の性と心の性が一致しないことで、体の性に違和感を持ち続け、外的手術を望むトランスセクシュアルです。映画ではホルモン注射や性適合手術についても細やかに描かれています。

そして、やはり草彅剛という俳優に触れなくてはなりません。ロングヘアーを上手に触って、長い手足を生かし踊り、凛とした歩き方を見せたかと思うと、本当に醜い泣き顔や、目を背けたくなるような衰退ぶりを振り切った演技で見せてくれます。

草彅剛になのか、性別は関係ない凪沙という人物になのか、とにかくひどく没頭させられます。草彅剛の憑依型演技、必見です。

まとめ


(C)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS
トランスジェンダーの主人公と、親の愛情を知らない少女との疑似親子的な愛を描いた映画『ミッドナイトスワン』を紹介しました。

日陰を歩いてきた孤独なトランスジェンダーが、夢を追う少女の母親になりたいと願った時。厳しい現実の中で、掴みかけた幸せの行方は・・・。

誰かのために生きるということ、無償の愛の美しさを感じる映画『ミッドナイトスワン』。生きづらさを感じた時におススメの映画です。

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