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Entry 2020/09/21
Update

犬鳴村の怖い歌「ふたしちゃろ」ネタバレ考察。成宮健司が演じる“幽霊”が突然に現れた謎も解説

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

最強の心霊スポットであるトンネルを撮影に使用した清水崇監督『犬鳴村』

九州に実在する、最恐の心霊スポットとして知られる「旧犬鳴村トンネル」。

「旧犬鳴村トンネル」の先には、「犬鳴村」があるとされ、ネットの書き込みなどから、都市伝説として語られています。

この「犬鳴村」を題材に、「呪怨シリーズ」で知られる清水崇監督が挑んだ、新たなJホラー『犬鳴村』。

すでに鑑賞した人の中には「ラストの展開が唐突」と感じた人もいるのではないでしょうか?

今回は、作中に流れるわらべ歌「ふたしちゃろ」から、ラストシーンの意味を考察していきます。

映画『犬鳴村』あらすじ


(C)2020「犬鳴村」製作委員会

恋人の西田明菜の動画撮影に付き合わされ、日本屈指の心霊スポットと呼ばれる「旧犬鳴村トンネル」に立ち入った、森田悠真。

不気味なトンネル内の空気に触れ、悠真は先に進む事を躊躇しますが、明菜はどんどん先に進んで行きます。

そして、トンネルの出口に置いてある「この先、日本国憲法通用せず」の看板。それは、この場所が「旧犬鳴村トンネル」の先に存在すると言われる村、「犬鳴村」である事を意味します。

不気味な廃墟が集合した村で、悠真は更に恐怖を感じますが、何も気にしていない様子の明菜は、廃墟の中のトイレを使います。

トイレを使用した明菜は、廃墟の外に出ようとしますが、扉が閉ざされ出る事ができません。すると、大勢のうめき声のようなものが聞こえ、廃墟の窓から出てきた腕に、顔を掴まれます。

村の中を散策していた悠真は、明菜の悲鳴を聞き、廃墟へ助けに行きますが、廃墟から飛び出した明菜は、取り乱した様子で「旧犬鳴村トンネル」へ走って行きます。

悠真も明菜を追って、「犬鳴村」から逃げ出しますが、そこでとんでもない事態が…。

映画『犬鳴村』の感想と考察


(C)2020「犬鳴村」製作委員会
映画『犬鳴村』は、実在する心霊スポットをモデルにしたホラー作品です。

過去に実在した「犬鳴村」の悲劇と、主人公である奏の運命を描いた本作は、ただの怖いだけの作品ではなく、悲哀を感じる独特の世界観を持っている事が特徴です。

「呪いによる死」や「異形の存在に襲われる恐怖」という設定が多い、Jホラーの中でも、かなり独自路線を打ち出す事に成功しています。

ただ、中盤からラストまでの展開が、若干唐突に感じる方も多いのではないでしょうか?

何故、奏は突然「犬鳴村」へ行く事ができたのか?そして、自身の先祖とも呼べる摩耶と出会ったのか?など、考察していきます。

突然、成宮健司が現れた理由


(C)2020「犬鳴村」製作委員会

映画『犬鳴村』は「血筋」の物語となっています。

奏の母親、綾乃は「犬鳴村」の血が受け継がれており、父親の晃は「交わってはいけなかった血」と、綾乃だけでなく自分の子供である奏達も忌み嫌っており、作中では「俺はお前たちが怖い」とまで言っています。

本作の中盤まで、奏が「自分の中に流れる血」の秘密を探ろうとする展開が続くのですが、父親の晃は「犬鳴村」の血筋を恐れて何も語らないうえに、綾乃は精神的におかしくなってしまっており、話が出来る状況ではありません。

そこで、奏は母方の祖父にあたる、中村隼人を訪ねますが、ここから展開が急変します。

奏は隼人を訪ねた事で、幼少期に祖母から、あるおまじないをしてもらい、以降幽霊が見えるようになった事を思い出します。

そして、幼少期の奏が見えていた幽霊が、後に奏へ「犬鳴村」の真実を伝える成宮健司だったのです。

物語が進む中で、健司は奏の先祖である事が分かります。

大人になり臨床心理士として忙しい生活を送る中で、奏は祖母との思い出を忘れてしまっていました。

ですが、隼人を訪ね幼少期の記憶が蘇った事で、再び健司が見えるようになったのです。

日本には「お盆」のように、先祖の事を忘れ無い為の行事があり「先祖へ常に感謝をする事が大切」と考えられています。

自身の血筋の秘密を探る奏が、祖母との過去を思い出した事で、先祖である健司が現れ、奏に真実を伝える手助けをしてくれたと、解釈できます。

そして、物語は後半の展開へと繋がっていくのです。

わらべ歌「ふたしちゃろ」に込められた怨念


(C)2020「犬鳴村」製作委員会

奏は健司により、「犬鳴村」の悲しい過去を伝えられます。

江戸時代より以前に、迫害された人たちが住む村だった「犬鳴村」は、電力会社の罠にハマリ、最後はダムに沈められてしまいます。

「犬鳴村」の住人の恨みは、そうとうなものであったと想像できます。

そして、その「犬鳴村」の住人の恨みが、作中に流れるわらべ歌「ふたしちゃろ」から読み取れます。

「ふたしちゃろ」の歌詞は以下となります。

くさかろ わるかろ
こめこもできなきゃ ふたしちゃろ ふたしちゃろ
わんこがねぇやにふたしちゃろ
あかごはみずにながしちゃろ

「ふたしちゃろ」には、世間から迫害され、隔離されてしまった「犬鳴村」の住人の無念さが込められています。

「わんこがねぇやにふたしちゃろ」という歌詞は、「わんこ=犬」「ねぇや=女性」と解釈すると、犬と交わり子供を作っていたと噂された「犬鳴村」の住人が、自虐的な意味を込めて歌ったのかもしれません。

作中で、「犬鳴村」の真実から目を逸らそうとする奏に、健司は「目を逸らすな、お前たちはそうやって都合の悪い事にはふたをする」と言い放ちますが、ダムに沈められ、村の存在すら無かった事にされた、健司をはじめとする「犬鳴村」の住人の、村を見捨てた人間への恨みが伝わる言葉です。

健司の言葉から、歌詞の中の「わんこ=村を見捨てた人間」と受け取ると、「村を見捨てた犬のような人間に、村をダムに沈められた(ふたをされた)恨み」が、この歌詞には込められているように感じ「犬鳴村」の住人の、強い怨念を感じますね。

さらに「あかごはみずにながしちゃろ」には、映画『犬鳴村』のクライマックスでの展開が示唆されています。

奏が「犬鳴村」の血に目覚めた必然性

本作の後半で、奏は健司に導かれる形で、消えたはずの「犬鳴村」へ入っていきます。

そこで、奏の祖母の母親、奏からすると曽祖母にあたる、籠井摩耶と遭遇します。

奏は健司に、産まれたばかりの祖母を託され「犬鳴村」を脱出しますが、ここが「ふたしちゃろ」の歌詞、「あかごはみずにながしちゃろ」が現わす部分ではないでしょうか?

「水に流してでも、赤子だけは助けたい」という、「犬鳴村」の住人の想いをを感じます。

「犬鳴村」から脱出した奏は、隼人の家に辿り着き、現在の時間軸へと戻ってきます。

こうして、奏は「自身の血筋」と「犬鳴村の悲劇」を解き明かし、自分の存在意義に目覚めます。

本作のラストで、奏は突然、犬のような牙を見せます。

この時に「ふたしちゃろ」を奏が口ずさんでいる事から、奏は自身の血筋を受け入れ、「犬鳴村」の子孫として生きていく事を覚悟したと読み取れます。

そもそも、奏は作品の冒頭では「犬鳴村」の存在すら知らなかったのですが、兄の悠真が「旧犬鳴村トンネル」に足を踏み入れた事で、家族がおかしくなり、自身の運命と対峙する事になります。

もし悠真が「旧犬鳴村トンネル」に行かなくても、森田家は「汚れた血筋」と近隣の住人からは認識されていた為、奏は、いつかは自身のルーツについて、対峙する時をむかえていたでしょう。

つまり、奏が「犬鳴村」の血筋に目覚め「犬鳴村」の住人の恨みを背負い生きていく事は、必然的だったという事です。

まとめ


(C)2020「犬鳴村」製作委員会
映画『犬鳴村』を「先祖の霊」「ふたしちゃろ」「奏の血筋」から考察しましたが、本作は、まだ謎の部分が多く残っています。

まず、同じ血筋のはずなのに、何故、奏は助かり、兄の悠真は捕まってしまったのか?という部分ですが、これも奏は祖母のおまじないを受けたからという解釈が出来ます。

さらに物語の冒頭で「犬鳴村」の秘密を知る山野辺が「長女は感が鋭い」と言っていた事から、「犬鳴村」の女性には何かしらの能力があるのかもしれません。

また、奏が足を踏み入れた「犬鳴村」の正体も明確ではありません。

「旧犬鳴村トンネル」で、行方不明になった悠真と、奏の弟の康太が村に閉じ込められていたり、「犬鳴村」に足を踏み入れて亡くなってしまった明菜の幽霊が「犬鳴村」にいた事を考えると、奏は過去に戻った訳ではないのでしょう。

犬鳴村」は、住民の強い怨念から、時間や空間を超越した場所にあると解釈できます。

唯一、夜中の2時に現世に繋がってしまい、面白半分で足を踏み入れた者は生きては帰れないという、そんな存在ではないでしょうか?

作中で晃が「何故、トンネルを全部封鎖しないんだ?」と言っていますが、本当に何故なんでしょうか?

実際の「旧犬鳴村トンネル」も、封鎖しきれていないので、もしかすると「犬鳴村」の住人が誘っているのかもしれませんね。

ただ、絶対に入ってはいけません、復讐されますよ。

映画『犬鳴村』は、独特の世界観を作り上げているので、分かりやすく怖いホラー映画ではありません。

何度か鑑賞すると新たな発見があり、いろいろと深読みできるので、1度目で中盤以降の展開に混乱した方こそ、もう一度見返してほしい作品です。




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