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映画『詩季織々』あらすじネタバレと感想評価。新海誠ファンで知られるリ・ハオリン監督が日中合同で実現させた念願のコラボ作品

  • Writer :
  • からさわゆみこ

テーマに織り込まれた思い出の記憶が若者の未来を後押しするアニメ『詩季織々』。

アニメ映画『詩季織々』は、日本のアニメ制作会社の「コミックス・ウェーブ・フィルム」と、中国のアニメ制作会社「絵梦」による日中合同アニメ映画です。

中国の暮しの基礎を表す「衣・食・住・行(交通・移動)」の4つをテーマにし、3つの都市をベースにした短編物語を展開しています。

3つのオムニバス作品をイシャオリン、竹内良貴、リ・ハオリンがそれぞれ手掛け、総監督は、中国アニメ界をけん引する、“ハオライナーズ(絵梦)”の代表リ・ハオリン。

ハオリン監督は新海監督の熱烈なファンであり、コラボレーションを夢見て、オファーをし続けてきました。紆余曲折を経て2015年7月に『君の名は。』が完成したのちに、ハオリン監督の念願かなって制作された作品です。

映画『詩季織々』の作品情報

(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

【公開】
2018年(日本映画)

【総監督】
リ・ハオリン

【原案/監督】
イシャオリン、竹内良貴、リ・ハオリン

【声の出演】
『陽だまりの朝食』坂泰斗、伊瀬茉莉也、定岡小百合
『小さなファッションショー』寿美菜子、白石晴香、安元洋貴
『上海恋』大塚剛央、長谷川育美、中務貴幸

【作品概要】
映画『詩季織々』は、中国の暮しの基礎を表す「衣・食・住・行(交通・移動)」の4つをテーマにし、3つの都市をベースにした短編物語を展開しています。

『陽だまりの朝食』を担当したイシャオシン監督は、2013年のネットドラマ「万万没想到」で初監督を務め、その後は役者としても活躍。映画では『ストームブレイカーズ 妖魔大戦』(2015)、アニメ作品は本作が初監督です。

『小さなファッションショー』は竹内良貴監督が担当。新海誠作品の全ての背景美術・CG制作に携わってきました。『言の葉の庭』(2013)、『君の名は。』(2016)では3DCGチーフを務め、他にもCMや他作品の演出や監督を経て、本作が初のオリジナル作品を手掛けました。

『上海恋』のリ・ハオリン監督は、自身が触発された新海誠監督の『秒速2センチメートル』のオマージュということで、制作をすすめました。初監督映画は『LU’s TIME』(2013)で、現在は制作の傍らハオライナーズの作品を積極的に世界へ発信し、中国文化への貢献にも務めています。

映画『詩季織々』のあらすじとネタバレ

「陽だまりの朝食」(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

≪陽だまりの朝食≫

北京で働くシャオミンは仕事を終え、地下鉄を乗り継ぎ帰路につきますが、北京では珍しい土砂降りの雨に見舞われました。

都会の喧騒に暮す日々の中で、シャオミンは好きだったものや大事にしていたものを失いかけ、中でも大好きだった食べ物の味ですら忘れかけています。

シャオミンの思い出の味は湖南省名物の“山川ビーフン”です。幼い頃のシャオミンの両親は共働きで忙しく、祖母に面倒を見てもらいながら育ちました。

祖母は朝になると近所の小さなビーフン専門店で、山川ビーフンを買ってきてシャオミンと食べていました。

北京でお抱え調理人として腕を上げた店主の店は、美味しいと評判が広がり、遠く離れた街からも食べにくるお客がいたほどです。

祖母は「食べることが好きな人は、美味しいものにありつける運を持っている」と、近所に味の名店がある喜びを教えてくれました。

しかし、ある年の冬に店主はとつぜん店を閉めて、どこかへ越して行ってしまいました。幼かったシャオミンには事情はわかりません。

時が経ちシャオミンは地元の高校に通い始め、今度は通学途中にあるビーフン屋を利用するようになりました。

≪小さなファッションショー≫
「小さなファッションショー」(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

幼い頃に両親を亡くした、イリンとルルの姉妹は親戚の家にそれぞれ預けられて育ちました。

イリンはスラッと高身長に成長したことを活かして、ファッションモデルとして広州で成功をしていました。

イリンは別の親戚に預けられていた妹のルルを引き取り、モデルとしてもルルの保護者としても、完璧に生きることをモチベーションに努力していました。

しかし、そんな人気モデルの地位も新しい世代のモデルの躍進によって、脅かされ仕事だけではなく、プライベートにもかげりがみえてくるのでした。

“大事なことは、失ってから気づく……”というイリンは、プライドが高く目先のことにしか興味のない女性です。

妹のルルが姉の誕生日にご馳走を作って待っていても、メールに気づくのが遅かったり、ルルが学校で何を学んできているのかも興味がないような人でした。

いつしか若いモデルが頭角を表してくると、イリンの不安と焦りは彼女をどんどん追い込み、ついに事故につながってしまいました。

≪上海恋≫
「上海恋」(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

2008年秋、上海石庫門は新開発に向けて古い建物の取り壊しが進み、新しいホテルの建設案を提出したリモは、上司から厳しく叱責され建築模型を払い落されてしまいます。

仕事のことで上手くいっていないリモは些細なことでイライラし、とうとう一人暮らしをするために家を出て行くのです。

新居で荷造りを解いていると、一つの段ボール箱から古いカセットテープが出てきます。それはリモの中学時代の思い出のテープでしたが、なぜそこに入っていたのか記憶に残っていませんでした。

石庫門はリモが生まれ育った街です。幼なじみのパンとシャオユは同じ中学に通い、毎日一緒に遊ぶ仲良し三人組です。

ある日、老朽化した石畳につまづいて転んだシャオユは足を痛めてしまいます。足が痛くて歩けないシャオユは試験が近いから、授業の内容をテープに録音してほしいとリモに頼みます。

その時から2人は、テープに自分の事やお互いに考えていることを録音し、交換日記のようにやりとりしていきます。

パンとリモは地元の高校に行くと決めていましたが、シャオユは父親の強引な薦めで、遠く離れた進学校を受験すると言います。

リモとシャオユは密かにひかれあってきましたが、進学先のことで気持ちがすれ違い、次第に運命そのものもすれ違い流れて行きました。

以下、『詩季織々』ネタバレ・結末の記載がございます。『詩季織々』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

「陽だまりの朝食」(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

≪陽だまりの朝食≫

シャオミンが学校に行く途中の立ち寄る店のビーフンは工場で作られた麺で、味も普通で格別差はありません。それでも毎朝そこでビーフンを食べる理由は、一つ年上の憧れの先輩がその店の横を通るからでした。

しかし、その店もまた鞍替えで釣具店となってしまい、シャオミンの密かな楽しみはなくなってしまいました。

ある日、シャオミンの学校で傷害事件がおこります。釣具店となった元ビーフン屋の息子が、同級生にナイフで足を切りつけられてケガをしたのです。

救急車で搬送される時、おかみさんは夫に「あんたのせいよ!いつもそうやって何も言わないでいるから!」と、責めたてていました。

そして1年後、釣具店は再び以前のビーフン屋の姿に変えて、戻ってきました。店先に立っていたのは、おかみさんの夫とその息子でした。

また、憧れの先輩は卒業し遠くの学校へ行ってしまい、シャオミンは初恋の終りを知ります。

仕事の帰りにファストフード店で山川ビーフンを食べて出ると、実家の父親から祖母の危篤を伝える電話が入りました。

シャオミンは北京から飛行機で2時間だからと、疎遠にしていたことを後悔しますが、なんとか死に目には会うことができました。

大好きな祖母と最期の別れをした朝、思い出の通学路へ行くとビーフン屋は親子3人で続けています。

シャオミンは二度と戻らない淡い日々の奇跡は、ふがいない「自分」の背中を押してくれたと感じました。

≪小さなファッションショー≫

イリンは若手のモデルに対抗心を抱きながら、無茶なトレーニングや乱れた食生活で体に不調をきたします。

そして、ファッションショーでとうとうステージから転倒し、ケガをする事故をおこしました。イリンは病床で、ルルとおそろいの赤いワンピースを着た幼い頃の夢を見ます。

亡くなった母親が「イリンはその色の服が本当に好きね」と言いました。目が覚めると看病をするルルにそのことを話します。

イリンがケガでモデルの仕事からしばらく離れていた間に、ファッション誌は若いモデルにとってかわっていました。時代の流れを感じたイリンは引退を考えて、家にひきこもります。

そして、手に何か技術を得て職を得ようと、軽い気持ちでルルに裁縫を教えてほしいと言います。デザイン学校に通うルルは「バカにしないでよ!」と反発し、イリンも「誰のためだと思ってるの!?」とつい言ってしまいました。

それからというものルルの帰宅時間は遅くなっていきます。イリンは迷った挙句に、マネージャーのスティーブを呼び出し弱音を吐きました。

スティーブはイリンの引退宣言に失望しますが、この時とばかりにイリンの短所を指摘します。そして、いつもの強気なイリンが戻ってくると、一枚のメモを渡し、明日そこに来るように言って立ち去りました。

スティーブに指定した場所は、ルルがスティーブに協力を願って設定したファッションショーの会場でした。

イリンはルルの作った赤い服を着ると「ここから見えるもの……失いたくない。私の大切なもの絶対に手放すものか!」と、心に誓いランウェイを歩き出しました。

≪上海恋≫

リモはシャオユと同じ高校に行きたいと強く思い、猛勉強をしていました。落ちたら恥ずかしいからとシャオユには内緒にし、近くの高校を受験すると言います。

石庫門の開発とリモの受験を機に引越しを検討したリモの家では、附属高校の近くの物件に引っ越す準備が進んでいました。

そのため母親がパンからカセットテープを預かったと言っても、「その箱の中に入れて置いて」との一言で引越しの荷物に紛れ込んだのです。

荷ほどきをした段ボールの中に入っていたカセットテープは、受験勉強ですれ違いになったリモに宛てた、シャオユからのメッセージで、パンがリモの母に託していたのです。

長い時間を経て、シャオユからの気持ちが語られたテープの存在を知ったリモですが、再生できる機材はなく、頼みの綱であった石庫門に残る祖母の家に向かいます。

リモはシャオユが行くと言っていた付属高校の受験に合格し、喜び勇んでシャオユの家に行きますが、誰も出てきません。隣人からシャオユは受験に失敗し、激怒した父親から暴力を受け入院したと告げられたのです。

別々の高校に通い始めた3人は、石庫門に残った祖父母の家で久しぶりに会いました。

シャオユを家まで送る道すがら、シャオユは「パン君に聞いたけど、付属高校を受験したのは私のためって本当?」と、リモに聞きます。

ところがリモは「違うよ。親を見返したくて……シャオユとは関係ない」と、答えてしまいます。その後、シャオユは誰にも告げないまま、アメリカ留学に出発してしまいました。

そして、テープを見つけたリモは、祖母の家に行き残していったカセットデッキで、リモは聞かなかったシャオユとのやりとりを聞きます。

「シャオユが好きだと言ったひまわりみたいに、太陽に向かってまっすぐ生きたい。未来の自分に言い訳して後悔したくないんだ。」

「だったらこのテープ消しちゃダメだよ。大人になったら一緒に聞こう。考えたんだ、私もひまわりみたいにまっすぐ咲いていたい。後悔したくない。だから、付属高校を受験するのをやめる。リモ君と一緒にいたいから」

聞き終えたリモはシャオユのことも考えず、突き進んでしまった自分に後悔しました。そして、あの日見た夢の続きを今でもまだ願っていると、再び自分の仕事に打ち込むのです。

映画『詩季織々』の感想と評価

「小さなファッションショー」(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

映画『詩季織々』は、3人の監督によるオリジナルストーリーです。監督それぞれの思いが込められており、世知辛さや辛辣な経験を受けやすい若者の葛藤をそれぞれの観点で描き、未来への明るさを与えている作品です。

イシャオン監督の自叙伝

『陽だまりの朝食』は「食」をテーマに、北京で暮す青年のふるさと湖南省での物語

食べ物には食べた時に一瞬にして過去に引き戻す力があります。『陽だまりの朝食』は、イシャオン監督自身の故郷での思い出がベースとなっています。

実際に監督の祖母に捧げる作品として取り組まれましたが、公開される2カ月前に他界され映画のラストとリンクし、感慨深いものとなっています。

中国の近代都市の若者の営みを描く

『小さなファッションショー』は「衣」をテーマに、広州で暮している姉妹の物語

ファッション界を描く『小さなファッションショー』。ファッションにも時代を感じさせる要素がたくさんあります。

竹内監督は広州の街中を歩き回り、そこで生活を営む人々の息づかいを感じながら、制作に取り組み、古さと新しさ、多文化が混合しスピードをもって変化した街を、仲良し姉妹の姿を通して描いたそうです。

変わりゆく思い出の街と初恋の儚さ

『上海恋』は「住」をテーマに、上海の石庫門で生まれ育った青年達の物語です

リ・ハオリン監督が『秒速2センチメートル』を鑑賞したころ、自身も好きな人にふられたばかりだったというエピソードがあります。監督の生まれ育った時代背景と土地を描くにあたり、CWFの制作技術が不可欠となりました。

『上海恋』では、アメリカ留学に向かうシャオユの見送りに間に合わず、タクシーの窓ガラスに滴り流れる雨がリモの涙に見えます。そういう細やかなシチュエーションは日本ならではの発想でしょう。

まとめ

「上海恋」(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

映画『詩季織々』は、移ろいゆく街の風景や時間の速さと共に、大切な気持ちや思い出も記憶から薄れていく青年の姿を通し、過去を振り返りながら前向きに未来へ向かっていく“愛・家族・友達”の物語です。

中国三大都市「北京」「広州」「上海」を舞台に、20世紀の中国をけん引する今の青年達が、幼い頃どんな街で生活し、その土地の文化の中でどのように成長してきたかを、「食衣住」をテーマに今と昔を行きかう設定で描いた3つの短編映画

日本の文化風習と違う部分もあり、中国での公開ではセリフ部分は細かく修正があったようです。

しかし、日本語で観てもどこか懐かしさを感じ、自分の青春期を思い起こす出来栄えとなっています。

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