隠された仕掛けといくつもの伏線が絶妙な『パラサイト 半地下の家族』
2019年度の映画賞を軒並み獲得し、アジアからアカデミー賞を総なめする作品となった韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。ポン・ジュノ監督と名優ソン・ガンホが4度目のタッグを組んだ作品です。
裕福な家庭に貧しい家族が仕事人として入り込んだことから起こる悲喜劇の数々。コメディのようでもありますが、ただのコメディではありません。
この映画が、なぜこんなにも高評価が獲得できたのか……。序盤に配された伏線、そしてクライマックスの仕掛けとして、目で見ることが出来ない物を表現させるなど、ポン・ジュノ監督の粋な演出をたっぷりと感じることができる作品です。
CONTENTS
映画『パラサイト 半地下の家族』の作品情報
【日本公開】
2020年(韓国映画)
【原題】
기생충/Parasite
【監督】
ポン・ジュノ
【キャスト】
ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム
【作品概要】
前半と後半で、ガラリと展開が変わるネタバレ厳禁の厳戒令が敷かれた、細かくジャンル分けするのも困難な韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。
韓国映画において史上初めてとなるパルム・ドールを受賞し、2019年度のアカデミー賞をも席巻し、アジア映画=韓国の存在を決定づけたスペクタクル作品です。2013年から構想を思いつき、徐々に練っていったポン・ジュノ監督の意欲作!
映画『パラサイト 半地下の家族』のあらすじとネタバレ
窓を覗くと頭の位置に地面がくる半地下に暮らす、4人の家族。父ギテク、母チュンスク、息子ギウ、娘ギジョンのキム一家は、いわゆるお金が無い貧困層に属しています。
Wi-Fiも無料の電波を探し、部屋の隅っこにかろうじて入るものを兄妹で使っていました。母親のチュンスクから、ピザの内職の連絡があるはずだからカカオトークをチェックする様に言われます。
この内職も、ピザの宅配の箱を家族4人でこなすなど、まともな仕事すら就けません。
キム一家の自宅は半地下のため、街で害虫駆除のスプレー散布もダイレクトに被害が出て、まともに息すらできません。
しかし家に出る便所コオロギの駆除にもなると父親のギテクが言い、スプレーの煙が部屋に蔓延した真っ白な状態で箱折りを続けます。
ある日、ギウの友達で大学生のミニョクがやってきました。彼は、キム家にお土産として山水景石という大きな石を贈ります。父ギテクは、その石の価値を理解していて、お礼を言います。
ミニョクがギウの元を訪れたのは、あるお願い事があったからでした。それは、ミニョクが家庭教師をしているダヘという女の子の勉強を、留学に行く自分の代わりに見てほしいとのことだったのです。
でもギウは浪人生で、大学生ではありません。ミニョクは、チャランポランの現役大学生よりも4浪もしているギウの方が学力は高いし、信頼しているとのこと。
どうやらミニョクはダヘのことが好きらしく、大学に入ったら彼女と付き合うのだと。そういった面からも、ミニョクはギウのことを信頼しているからこその打診でした。
しかし、ギウは浪人生…経歴をでっち上げる他ありません。ここは、妹のギジョンの出番です。ギジョンは、パソコン関係にめっぽう強く、偽造文書などはお手のもの。
あっという間に、大学の書類などを作成してしまうギジョン。家族の関心を買い、その才能を発揮していました。
父のギテクは、ギウを送りだす時に誇らしいと伝えます。その言葉を受け、ギウはこの偽造文書は犯罪では無いと応えます。
なぜなら来年この大学に入るから、書類を先に受け取っただけと意欲を示し、面接へと向かうのでした。
家庭教師先の家は、高台に位置する庭がとても綺麗な豪邸。この家の奥様と思わしき上品なおばさまに出迎えられるも、その人はお手伝いさんでした。その家にはヤンチャな子供がいる様で、おもちゃが散乱しています。
奥の中庭には、その家の奥様がいました。奥様は、前任のミニョクを気に入っていて、”ブリリアント”だと、どこか違和感のある表現をあえて英語にして使っている様に見えます。
この家は、パク家の豪邸。奥様は綺麗な方で、絵に書いた様な裕福な家庭だったのです。
ミニョクの紹介ということもあり、難なく家庭教師の仕事につくことが出来たギウは、最初の授業からすでにその手腕を発揮し、教え子であるダヘも含めて奥様からも気に入られます。
ギウはケビンと名乗り、見事に身分を偽って、家庭教師の職にありつくことに成功したのでした。
すると末っ子のダソンが、インディアンの格好をしておもちゃの矢を放ってきます。どうやら奥様も、ヤンチャなダソンに手を焼いていることが判明。
するとギウは、壁に飾っていたダソンの絵を見て何か感じる物があると言い、知り合いのジェシカという美術の教師を紹介すると言い、連れてくることにするのです。
次にやってきた時には、ジェシカと名乗る妹のギジョンを同行させるギウ。するとダヘは、そのジェシカにやきもちを焼き、ギウは初めて会ったしそんな関係では無いと答える。そして、少し見つめ合い2人は、キスを交わすのでした。
一方、ダソンとギジョンの方は、奥様が最初の授業を見学したいという申し出を断り授業を進めます。奥様が差し入れを持って行こうとする間もなく、ギジョンはリビングにダソンと共に座っていました。
そこでギジョンは、ダソンの絵からその一家の過去にまで迫る考察を展開します。見事に言い当てていたギジョンを、ジェシカ先生として受け入れることにした奥様でした。すると、旦那様が帰ってきます。
奥様から紹介されると、ダソンをよろしくと、上品で貴賓がある方でだということが伝わります。そして先生を送って行く様にと、若い運転手に頼むのでした。
ここから、ギジョンの仕掛けが繰り出されます。運転手が家まで送るというと、ギジョンは執拗に駅までと頼みます。ここのやりとりにつけ込んだギジョンは、自分が履いている下着を脱ぎ、わざと車に忘れて行くのでした。
今度は運転手として父のギテクを、パク家に送り込む計画であることが、翌日の食堂での会話で判明。そして案の定、事態はギジョンの思惑通りに進んでいきます。
旦那様が、車の中で下着を発見。そして家に持ち帰り奥様と良からぬ想像を繰り広げ、仕事に来ていたギジョンに尋ねます。前回送っていってもらった時に何か無かったかと。
ギジョンは、そこで執拗に家まで送ると言われたと伝え、運転手をクビにしたことが発覚するのです。そしてギジョンは、知り合いのベテラン運転手を奥様へと勧めます。
すると父のギテクは、旦那様と同じ車種が売っているディーラーに行って、カーナビなどの細かい操作を覚え面接へと向かうのでした。昔取った杵柄で運転の技術もそれなりに高いギテクは、無事に採用されることが決まります。
ここまでくると残るは母親のチュンスクだけ……。当然標的は、家政婦です。しかし家政婦は、古くからこの家に支えており、パク一家がこの豪邸に越す前からずっと務めていた古参のムングァン。
彼女の牙城を崩すのはとても難しいと見られていましたが、ある事がきっかけに一気に事態は好転していきます。
パク家では、桃が出ません。桃は、家政婦のムングァンが重度のアレルギー持ちの為、パク家では一切出されませんでした。その桃を突破口にして、ムングァンを追い込むことに成功します。
桃を使って、アレルギー症状を出してムングァンを病院に向かわせると、ギテクがその現場を抑えます。そしてそれを奥様に報告し、結核であることをでっち上げるのでした。
その計画は見事でした。小さい子供がいるパク家では、伝染病である結核はとても危険で、見事にムングァンを追い出すことに成功します。
架空の高級派遣会社を装い、母のチュンスクを家政婦としてパク家に送り込み、計画を見事にやり遂げたキム一家。そしてパク家では、これまで出なかった桃が食卓に並ぶのでした。
パク一家は、キャンプに出かけます。
豪邸の主がいなくなった瞬間、家の中ではキム一家の4人が羽を伸ばしています。お酒を飲んで、庭で騒いだり、何も考えずに楽しい時間が過ぎていきました。
すると、そこに予期せぬ訪問者が訪れます。
それは、みるも無残な姿になった前任の家政婦であるムングァンでした。
家政婦の時はしっかり者という印象がありましたが、よく笑い、どこか異様な雰囲気を醸しています。台所の地下室に、忘れ物をしたとのこと。
キム一家は仕方なく、その家政婦ムングァンを家の中へと入れるのでした。
映画『パラサイト 半地下の家族』の感想と評価
この映画は、公開当時ネタバレ厳禁として厳戒令が敷かれるなど、とにかく話題に挙がっていた作品です。
公開直前から、劇場公開の最中にレビューをする際にも、物語の確信に触れないように気を使っていたのも多く見られた光景でした。
それもそのはず。この映画『パラサイト 半地下の家族』には、数多くの伏線が散りばめられているのです。
「山水景石」を解く
先ず、最初に目につくのは、冒頭に登場する違和感。山水景石という石。
この石は、単純に山や川といった自然の風景を思わせます。これを、収入格差という当たり前の風景として暗喩で描いているのです。
貧困層の格差を風景として捉えこの山水景石を凶器にしているのは、その当たり前を壊すべきというメッセージが込められているのかもしれません。
次に登場するのは、「プリテンド」。ギウがダヘに教える時に例題として出した単語です。
これは、意味を調べると簡単にわかるので、ある意味であからさまなものでした。「プリテンド」の意味は、簡単に言えば、見せかけ。フリをするという意味も含まれています。これは、まさしくキム一家のことを刺している様な単語でした。
「家政婦ムングァン」を解く
次に、家政婦だったムングァンへの疑いです。ムングァンが解雇された際に、旦那様とギテクの車中での会話にて。
旦那様が家政婦ムングァンの愚痴をこぼす際、2人分の食事を摂っていたと漏らします。それはまさしく後に繋がる伏線的な会話でした。
キム一家の全員が、ついにパク家に支えることになり、最後の母チュンスクが家政婦としてやってきます。
するとダソンが、ギテクとチュンスクの臭いが同じと言い、次のシーンでギジョンが半地下の臭いと言っていました。
もちろんこの臭いというのは、クライマックスに向けて大きな鍵となるもの。しかしここでは、家族である事がバレない様にするためのミスリードを誘発させていたのです。
「大洪水」を解く
そして最後に紹介する伏線は、ギウが酔っ払いをペットボトルの水で追い払う場面。妹のギジョンがスマホで動画を撮り、そのシーンを撮影する際にいう言葉、「大洪水だ」。
もちろん、この後に本当に大洪水になるとは、この時点では、誰も思わないでしょう。
そしてこれらのシーンが、前半部分である開始1時間以内に全て登場するのです。もはや、注意深く観てさえいれば、この後に何が起きるかは全て最初の1時間ではっきりと予想がつくのです。
それだけ、この映画に配された仕掛けの多くに、改めて鑑賞すると圧巻と感じざるを得ませんでした。
そして最後の仕掛けである、見えない鍵。
それは当然”臭い”です。どんなに技術が進歩しようとも、映像では絶対に表現する事ができないもの。その”臭い”を使って、クライマックスを一気に戦々恐々の場面に仕立て上げるのです。
この目にみえない仕掛けこそ、この映画のハイライトでもありました。
ポン・ジュノ監督の見事な仕掛けに、アジア映画では頭一つ飛び抜けている韓国映画の素晴らしさを感じ、戦々恐々とする映画さながらの恐ろしさを覚えるとともに、これまでにないワクワク感がこみ上げてきます。
まとめ
この映画『パラサイト 半地下の家族』は、前半は見事なコメディでした。
キム一家が、徐々にあの豪邸にパラサイトしていく様子は、思わず笑いがこみ上げてきます。そして、後半の怒涛の展開に、想像を軽く超えてくる驚きを仕掛けを用意しているという作品です。
この映画を改めて見返すと、1度目の頃には気がつかなった幾つもの仕掛けがありました。その仕掛けに気がつくと、この作品が持つ意味などは、余計な考察かもしれません。
それは単純に映画としての質、エンターテイメントとしての映画の素晴らしさにやられたのですから。
そもそもこの映画のあらすじを聞いて、大洪水に巻き込まれラストにあんな殺戮ショーが展開されるなんて、誰が想像しますか?
しかもその引き金となるシーンを、主演のソン・ガンホの表情だけでもっていくなんて…
これぞ映画ができる素晴らしい表現方法だと、その評価の高さが物語っている事でしょう。