結婚40周年の代償が、世界規模で起こった「正直者が馬鹿を見る」巨大違法取引の巻き添えに…それは詐欺事件だった!?
今回ご紹介する『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』は、お金に関する実際に起きた事件を基にした5つの秘密を、“詐欺師”の目線で正当化しているブラックユーモア映画です。
不慮の事故というものは避けることはできませんが、万が一に備えての保障のために入るのが保険です。当たり前にもらえると思った保険金がもらえない……そんなことがありうるのでしょうか?
自分の加入した保険や投資した信託の証券など、安心できる会社のものなのかどうか。映画を観たあとに、慌てて確認することになるかもしれません。
CONTENTS
映画『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』の作品情報
【配信】
2019年(アメリカ映画)
【監督】
スティーブン・ソダーバーグ
【原作・著者】
『SECRECY WORLD』ジェイク・バーンステイン
【キャスト】
メリル・ストリープ、ゲイリー・オールドマン、アントニオ・バンデラス、ジェフリー・ライト、ロバート・パトリック、デヴィッド・シュワイマー、シャロン・ストーン
【作品概要】
監督は1989年26歳の時に初めて制作した長編映画『セックスと嘘とビデオテープ』で、サンダンス映画祭観客賞とカンヌ国際映画祭パルム・ドールを史上最年少で受賞した、スティーブン・ソダーバーグです。
主演はアカデミー賞に19回、ゴールデングローブ賞に29回ノミネートという史上最高の記録を持ち、2011年公開の『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』で、アカデミー主演女優賞を受賞したメリル・ストリープ。
弁護士詐欺の2人に『レオン』(1994)『ハンニバル』(2001)など多くの作品で狂気じみた悪役を演じて有名となり、第90回アカデミー賞ではついに『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)で、主演男優賞受賞したゲイリー・オールドマンと、『スパイ・キッズ』、『レジェンド・オブ・ゾロ』などで人気のアントニオ・バンデラスなど、超豪華な俳優や女優が出演しています。
本作は2019年9月1日の第76回ヴェネツィア国際映画祭で世界初上映され、同年10月18日にNetflixでの配信が開始し、劇場での公開は限定的に行われました。
映画『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』のあらすじとネタバレ
誠実かつ平凡に人生を送り、40年間一途に一人の女性を愛し続けたジョー・マーティンは、その妻と共に結婚40年を祝うための旅行をしていました。
風光明媚な景色を観に遊覧船に乗りますが、不幸にも船は高波にのまれて転覆。乗船客のうち21名が死亡する大惨事となりましたが、その中にジョーがいたのです。
妻のエレンは悲しみにくれましたが、弁護士は船会社が保険金で賠償金が出るから、それで示談するように話し、エレンは損害賠償をあてにして、ジョーとの思い出のラスベガスにある高層マンションの部屋を購入しようと思いました。
ところが購入を決めた高層マンションはロシアの大富豪が即金で購入したと不動産屋から告げられます。さらに船会社が“節約”のために加入した格安保険会社が詐欺師だったことで、再保険グループが会社が補償できる金額が大幅に減額されたことがわかりました。
エレンは弁護士からジョーの残してくれた生命保険と、和解金で手を打つように諭されますが納得いかずに、独自でユナイテッド再保険グループに直談判しようと動き出します。
映画『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』の感想と評価
本作は金融に関する専門用語が多くでてくるので、初見だと内容が全くつかめずにどういう内容なのか、説明することが大変難しい作品です。
弁護士のモサックとフォンセカは合法的に、金の隠し場所を提供したにすぎないという話しです。そういった案件が増えはじめたゆえに、2015年8月にいくつかの条件にあてはまる国や地域を有害税制リストに載せ、タックス・ヘイヴンを利用した企業の過度な節税策を防ぐ税制を用いはじめました。
こういった一般的ではない内容はさておき、この映画の見どころは、ゲイリー・オールドマンとアントニオ・バンデラスの全く悪びれた様子のない演技で小憎らしさを助長させているところと、メリル・ストリープがラストで、内部告発をしたとみられる“エレーナ”という女性も演じていたところがサプライズでした。
エレーナの特殊メイクを取り払い素のメリル・ストリープが、世界中にはびこる腐敗に終止符を打つよう訴えかけるシーンは、2017年のゴールデングローブ賞でのメリルのスピーチを彷彿させます。
「無礼は新たな無礼を呼び、暴力は新たな暴力を誘発する。権力を持つ人が、他人を傷つけるためにその立場を利用すれば、私たちはみんな破滅してしまうわ」。
「パナマ文書」が示していること
「パナマ文書」が流出したことで世界中の名立たる富豪や政治家の名前が開示され、出所のわからないお金や資産を隠し持っていることが露呈しました。
多くは税金逃れをするものであったり賄賂だったりするため、悪質な犯罪性も浮き彫りになります。そして、国家としても財政に関わってくる内容なので問題となりました。
まとめ
この映画は実際に起きた事件を基にしてあるため、リアルな演出にすると映画としての娯楽性が損なわれます。
『オーシャンズ11』(2001)を手掛けたスティーヴン・ソダーバーグ監督ならではの、ウィットに富んだコメディータッチが、特殊な事件ゆえに醸し出すうやむや感が強く伝わる映画でした。
つまりお金持ちばかりが得をしている酷い状況が白日の下に晒され、実際に名前が公表された人物達は世界中の恥さらしになります。
それでも、モサックとフォンセカは合法の中で法律を捻じ曲げたにすぎず、たいした罪には問われないため痛快感がないのです。
単純に「パナマ文書」とは何だったのか、その事実を伝える再現フィルムのようであります。
また、作中に「柔和な者」という言葉が出てきますが、これはキリスト教の教えにある「神がどのように自分を取り扱われても、それを良しと認めて、文句を言ったり抵抗したりしない」そういう人を指します。富裕層の私利私欲のために、普通に暮らす人たちが損をしてしまっているということです。
「柔和な者」つまり誠実な庶民をおちょくるように、贅沢な暮らしをする人達がいることを知らしめ、コミカルな演技演出を観せることでまったく笑えないという、リアルな怒りを生ませたのではないでしょうか。