「誰のための人生?」順風満帆と人は言うけど、私の生き方は私にしか決められない。52歳の誕生日に両親や家族を捨ててまでマナナが選んだ生活とは?
皆さんは“ジョージア”という国をご存じですか? 聞き慣れない国名ですが、グルジア国といわれたらニュースなどで聞いたことがある人もいるかもしれません。
ジョージアは東ヨーロッパのコーカサス山脈の南麓と黒海の東側に位置する国です。1997年に旧ソビエト連邦から独立し、2015年まで日本では“グリジア”と呼ばれていました。
そんなあまり知られていない、ジョージア映画の『マイ・ハッピー・ファミリー』は、高校で教師をし、両親と夫、成人した一女一男と暮す平凡な女性が、52歳の誕生日を境に自分の人生と向きあい新たな生活を掴んでいくホームドラマです。
映画『マイ・ハッピー・ファミリー』の作品情報
【配信】
2017年(ジョージア映画)
【監督】
ナナ・エクチミシヴィリ、 ジーモン・グロス
【脚本】
ナナ・エクチミシヴィリ
【キャスト】
イア・シュグリャシュヴィリ、メラーブ・ニニッゼ、ベルタ・ハパヴァ
【作品概要】
本作はナナ・エクチミシヴィリと ジーモン・グロスの2人が監督を務め、この映画で2人はソフィア国際映画祭の最優秀監督賞を受賞しました。
2人の監督は2012年に初めての長編映画『In Bloom』で、第63回ベルリン国際映画祭にて国際芸術映画連盟の賞のCICAE賞を受賞しており、ヨーロッパでも有望な監督として注目されています。
なお、本作は2017年度サンダンス映画祭のワールドシネマドラマティックコンペティション部門で上映がされ、第67回ベルリン国際映画祭のフォーラムセクションで世界初公開されました。
映画『マイ・ハッピー・ファミリー』のあらすじとネタバレ
マナナは街の売店で賃貸情報誌を購入し、とあるアパートの一室に向かいます。アパートのオーナーは「ここはすごいアパートよ。幸運を与えてくれるの。運を信じる?」と、見学をするマナナに物件を薦めます。
帰宅したマナナは母親の用意してくれた夕食を食べず、ケーキを切り分けて食事を済ませようとします。そんな娘を母のラマラは、“ケーキは食後のデザート”にして夕食を食べるように注意をします。
マナナの家は彼女の実家で、両親と夫ソソ、23歳の娘ニノとその夫ヴァホ、20歳の息子ラシャの合計7人家族です。
母親のラマラはこの家の家事一切をしていますが、小言が多く家族から煙たがられる存在です。昔からの習慣や自分の価値観を守らせようとしていました。
例えばマナナの誕生日を祝うためにソソに覚えているか確認したり、料理に腕を振るい祝いにくる人をもてなそうとします。
それは母親の愛ではあるのですが、52歳を迎えるマナナにとっては重荷であり、自分主体でないことにうんざりしています。
朝には祈りの言葉が家の中に流れてきます。
「幸福は家族のもとにある。温かな母親がいる家庭に幸福は存在するのだ。母が家族に身を捧げ子供を育て上げていく」。
つまり、この教え通りのことをラマラはしているだけなのです。
ラマラはマナナに料理に使うチキンとハーブ(ディル)などを、仕事の帰りに買ってくるよう頼みます。しかし、マナナは望んでいない誕生会にこき使われることに不満を抱いていました。
夫のソソも祝い事には親族や友人を招くのが当たり前と思う人で、誕生会に気乗りをしていないマナナに疑問を感じます。
そして、マナナが言いつけられた買い物をラマラに渡すとこう言われます。「頼んだのは“ディル”でフェンネルじゃない。違いがわからないの?」。
さらに娘からは「服は朝じゃなくて前の晩に出しておいて。“タンス”の音がうるさいの」。
息子のラシャはマナナに誕生日祝いを言いますが、1日中家にいてパソコンばかりに向かう孫にラマラは小言ばかり言っているのです。
そして、マナナのための花束を物入れに隠していたソソにも、「そんなところに隠すなんて……枯れるわ」と、とにかく一言多いのがラマラでした。
ソソはマナナの誕生祝いに自分の友人たちを呼び、あいさつに来ないマナナを友人たちと強引に合わせます。
そのうちマナナの兄家族もやってきて大騒ぎになります。マナナは頼んでもいないこの来客に疲弊してしまうのです。
そして、誕生日会が終わり日付を越えると、マナナは自分の意志を家族に宣言するのでした。
映画『マイ・ハッピー・ファミリー』の感想と評価
本作は遠い国の映画なのに日本にもある、親子や家族の「あるある」と感じた人も多くいることでしょう。日本のドラマでいうと『渡る世間は鬼ばかり』のジョージア版というと、イメージがしやすいでしょう。
日本も宴会好きで人情味がある国民性ですが、ジョージアの人たちの様子を見ているととてもよく似ています。
また、本作はありきたりな家族の様子や熟年夫婦の別れ話、主婦の反乱というドタバタストーリーの中に、ジョージアの国に伝わる宗教感や家族の絆、その裏にある10代の女の子の結婚妊娠問題にもスポットをあてていると考えられます。
ジョージアの児童婚問題
ジョージアの法律では18歳になれば婚姻が認められます。しかし、現状は18歳未満で結婚していると国連人口基金の記録から推測され、本作でも17歳の少女が離婚したという場面が出てきます。
ヨーロッパの中でもジョージアは10代の結婚率が高いといわれ、それは何世紀も前から続いてきた慣習のひとつからだといいます。
結婚しても学校に通えますが妊娠をし出産をすることで、足が遠のき十分な教育をうけないまま成人する女性も多いのです。
まとめ
本作はマナナの目線でストーリーは進みます。古い慣習に囚われた家族は悪気は全くなく、むしろ家族のために献身的なはずなのですが、その気持ちは十二分にわかっていても、マナナは「うっとおしい存在」に感じてしまったのです。
冒頭のシーンでマナナはアパートを探していたので、すでに我慢の限界がきていたところからのスタートでしたが、ストーリーが進むと確かに耐えられそうにもない環境です。
マナナが家族と別居をすることで彼女が精神的に健全となって、他の家族も自立していくことだろうと想像できます。
ジョージアは古来から複雑な歴史を経てロシアからソビエト連邦に統合され、1991年にソ連の承認を得ないまま独立宣言をし、今日の穏やかで平和な国となりました。
これはまるで親族の証人を得ないまま独立をした、マナナそのものではないでしょうか。