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Entry 2020/07/15
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映画『アンチグラビティ』ネタバレ感想評価とラストまでのあらすじ。異次元世界の謎が次々と明かされるロシア発のSFアクション|サスペンスの神様の鼓動34

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動34

こんにちは「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介する作品は、昏睡状態の人間の記憶が作り出した異世界を舞台に、記憶を失った主人公が、陰謀が渦巻く戦いに巻き込まれるSFアクション『アンチグラビティ』です。

本作はSFアクションではあるのですが「異世界の秘密」「それぞれに与えられた能力の理由」「指導者の陰謀」など、サスペンス色の強い作品となっており、今回は謎解き要素に注目しながらご紹介します。

自身の記憶を失った男が、建物が浮遊する不思議な世界を舞台に、黒い怪物「リーパー」との戦いに巻き込まれる姿を、最新のVFX技術で描いた、ロシア映画。

本作の制作には、ロシアで社会現象を巻き起こし、日本でも熱狂的なファンを生み出した戦車アクション映画『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』のプロデューサー、ルーベン・ディシュディシュヤンが携わっています。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『アンチグラビティ』のあらすじ


(C) LLC «KINOKOMPANIYA BOLSHOE KINO», 2020
(C) LLC «FRESH-FILM», 2020
(C) LLC «MARS MEDIA ENTERTAINMENT», 2020
(C) LLC «GPM KIT», 2020

自分の部屋と思われる場所で目覚めた、記憶の無い男。

部屋には建築物の模型が置かれており、恋人と思われる女性の写真が置かれています。

男は部屋の中を散策しますが、黒い粒子の塊が部屋中を移動しており、不安を感じた男は外に出ます。

外には、建物が浮遊している不思議な光景が広がっていました。

また、道を歩く人も、首から上が黒い粒子の塊で消えているなど、やはりおかしな光景が広がっています。

状況が把握できない男が、そのまま街を歩いていると、突如、黒い怪物に襲われます。

怪物から逃げる男を、3人の戦士が救い出します。

戦士のリーダーと思われる「ファントム」、女性戦士の「フライ」、男性戦士の「パイロット」は、男を連れて、空中に浮いた建物を飛び移りながら怪物から逃げますが、怪物はどこまでも追いかけて来ます。

その怪物との戦いで、ファントムも負傷し、「逃げられない」と感じた戦士達ですが、パイロットが爆弾を抱え怪物に特攻し、自らの命を犠牲にして怪物を倒します。

戦士達の基地に向かう道中、男はフライから、この世界の秘密を聞かされます。

この世界は、昏睡状態の人間の記憶の集合体であり、男も何かしらの事故で、昏睡状態である事を聞かされます。

そして、黒い怪物は「リーパー」と呼ばれ、この世界に多数存在しており、リーパーに襲われると現実世界でも命を失ってしまいます。

男は戦士達の基地「工場」に辿り着きます。

工場には、多数の戦士と住人が存在しており、これらを率いているのが「ヤン」と呼ばれる指導者でした。

ヤンは、リーパーが存在しない平和な島の存在を探しており、それを導くのが男であると語ります。

男には記憶が無く、自分の名前も覚えていませんが、自分の部屋に建築物の模型が置かれていた事から、職業が建築家だったらしいと考え、自身を「建築家」と名乗るようになります。

建築家は、工場内の自分が住む部屋に通されますが、そこには自動車事故の瞬間と思われる光景が広がっていました。

その光景を見た瞬間、建築家は自身が恋人と車に乗り、どこかへ向かっている、事故の前の記憶が一瞬蘇ります。

ですがファントムに、部屋に広がっている光景は「夢」であり「夢に迷い込むと抜け出せなくなる」と忠告を受けます。

建築家はヤンに「この世界の住人には、何かの能力に目覚める者がいる」と聞かされます。

フライには傷を癒す能力がある他に、戦士の中には、霊能力に優れ、幻覚を見せる能力を持つ「スピリット」、世界の地図を作り出す能力を持つ「アストロノーマ」など、特殊な能力を持つ者がいます。

「能力は実戦の中で覚醒する」と考えるヤンにより、建築家はロボットと戦わされますが、何の能力にも目覚めません。

ファントムは建築家を「役立たず」と決めますが、建築家は戦士達と外の世界に向かい、実戦に参加する事を希望します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『アンチグラビティ』ネタバレ・結末の記載がございます。『アンチグラビティ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C) LLC «KINOKOMPANIYA BOLSHOE KINO», 2020
(C) LLC «FRESH-FILM», 2020
(C) LLC «MARS MEDIA ENTERTAINMENT», 2020
(C) LLC «GPM KIT», 2020

建築家は戦士達と、リーパーと戦う為の魚雷を手に入れる目的で、潜水艦が格納されている倉庫へ向かいます。

倉庫へ向かう途中、アストロノーマから、リーパーは脳死した人が、機械で生かされ続けている事で生まれた怪物である事と、昏睡から目覚めるには、自分の記憶を辿り続けるしかない事を聞かされます。

潜水艦の格納庫に到着した戦士達は、格納庫を守る兵士達と銃撃戦を展開します。

その際、ファントムの身勝手な行動で、戦士達は危機的な状況に置かれますが、ファントムは何も気にしていない様子でした。

そして、潜水艦が格納されている場所に辿り着いた戦士達は、魚雷を取り出そうとしますが、そこへリーパーが出現します。

ファントム達は逃げようとしますが、老兵士が魚雷を取り出そうと残っており、逃げ出す事が出来ません。

絶対絶命の状況の中、建築家が頭に指を当てて集中すると、何も無かった場所に滑車台が出現し、老兵士は滑車台を滑って脱出します。

工場に戻り、建築家の能力について話を聞いたヤンは、建築家の能力を使えば、リーパーが来ない場所に安全な住居を作り出せると考えます。

工場は既にリーパー達に気付かれている可能性が高い為、戦士達は新たな住居を求めて、リーパーのいない場所へ旅立ちます。

ですが、格納庫での身勝手な振る舞いが問題視され、ファントムはリーダーを解任されてしまいます。

新たな場所へ進む道中、建築家とフライは恋人関係になっていました。

建築家が作り出す、新たな住居に希望を抱く戦士達ですが、スピリットがリーパーの存在を探知します。

リーパーが存在しない場所を進んでいたはずですが、リーダーを解任されたファントムが、リーパーを呼び寄せる「笛」を使っていたのです。

また、ファントムはリーパーとの戦いで負傷した事から、自身もリーパーとなっていました。

リーパーから逃げる戦士達。

しかし、建築家の目の前が突然、不思議な光に包まれます。

現実の世界に戻り、昏睡状態から目覚めた建築家は、謎の施設のベッドの上にいました。

そして、建築家の記憶が蘇ります。

建築家は、新たな都市計画を作り出し、さまざまな場所へプレゼンしましたが、どこにも相手にされませんでした。

しかし、ある宗教団体だけが興味を示し、建築家は恋人と一緒に教祖に会いに行っていました。

その教祖は、異世界ではヤンと呼ばれていた男です。

教祖は、人間の頭の中に理想の世界を作り出す実験をしていました。

教団では、さまざまな人間を昏睡状態にし、教祖が作り出した世界へ送り込んでいました。

そして、教祖が作り出した世界に新たな建築物を作り出す為に、建築家が選ばれたのです。

建築家は、一度逃げ出そうとしましたが事故に遭い、恋人と共に昏睡状態に陥ります。

そして、恋人と共に教祖の世界に送り込まれ、恋人は異世界ではフライと呼ばれる女性戦士になっていたのです。

全てを知った建築家は、教祖に「全員を解放する事」を要望します。

教祖は自身の世界に、建築家が新たな建築物を作り出せば、皆を開放する事を約束し、建築家と教祖は再び昏睡状態の世界へ戻ります。

戦士達をリーパーから救い出した建築家は、新たな場所へ皆を導きます。

そして、この世界が、ヤンと呼ばれる教祖が作り出した、人工的な世界である事を伝えます。

皆の前に現れた教祖は、戦士達が現実世界では、何も上手くいかず苦しんでいる人達である事を伝えます。

建築家も実際は、自身の都市計画が認められず、恋人と別れるなど、何も上手くいっていませんでした。

教祖は「ここに残りたい者以外は、約束通り開放する」と伝え、建築家に、新たな住居となる建築物を作らせます。

広大な都市が作られた後、現実世界では、昏睡状態の人達の生命維持装置が切られます。

世界の秘密を知った者達を、教祖は生かす事を考えていませんでした。

生き残るには、現実世界に戻り昏睡状態から目覚める必要があります。

アストロノーマに「目覚めるヒントは夢の中にある」と聞いた建築家とフライは、工場に戻り建築家の部屋から夢の中へ入ります。

夢の中で、現実に戻るヒントを探せば戻れますが、一緒に行動していた戦士達が次々と消えていき、建築家とフライの2人になります。

夢の中で、現実世界に飾られていた絵画と同じ場所を探し出した建築家とフライですが、そこに教祖が現れます。

世界を意のままに操れる教祖の力に、全く太刀打ちできない建築家とフライですが、リーパーと化したファントムが教祖を後ろから刺し、教祖は絶命します。

建築家とフライは、異世界から逃げ出し、現実世界に戻る事に成功します。

現実世界に戻った建築家は、フライとやり直し、新たに建築事務所に採用されました。

ですが、新たな新興宗教団体が、脳内に理想の世界を作り出せる事を発表し、脳内に逃げ込む事を望む若者が増えていると、テレビのニュースで報道されます。

建築家は、無言でそのニュースを見ていました。

サスペンス構築要素➀「突如出現した異世界の秘密」


(C) LLC «KINOKOMPANIYA BOLSHOE KINO», 2020
(C) LLC «FRESH-FILM», 2020
(C) LLC «MARS MEDIA ENTERTAINMENT», 2020
(C) LLC «GPM KIT», 2020

空中に建物が浮遊し、重力の法則が無視された独特の世界で展開されるSFアクション『アンチグラビティ』。

本作はSFアクションではあるのですが、物語は次々と謎や秘密が明かされる、サスペンス要素の強い内容となっています。

まず、作品の序盤ですが、前述したような異世界に、主人公の男性が放り込まれる所から始まります。

主人公は、自身の名前も覚えていない記憶喪失の状態で、訳も分からず街を彷徨い、リーパーに襲われ、戦士に助け出されるという展開が、何の説明も無く進んでいきます。

浮遊した建物を飛び移り、重力を無視したアクションで、リーパーと戦う場面は視覚的に非常に面白いのですが、目の前で起きている事が、全く理解できないという点で、観客は主人公と感覚を共有する事になるのです。

やがて物語が進むにつれて、戦士の1人であるフライから「この世界が昏睡状態の人々の、記憶の集合体である」事が説明されます。

世界の秘密は分かりましたが、では何故、主人公がこの世界に迷い込んだのか?そして戦士達は何故、主人公を助けに来たのか?

この新たな謎が、『アンチグラビティ』という物語の軸となります。

サスペンス構築要素➁「指導者の恐るべき正体」


(C) LLC «KINOKOMPANIYA BOLSHOE KINO», 2020
(C) LLC «FRESH-FILM», 2020
(C) LLC «MARS MEDIA ENTERTAINMENT», 2020
(C) LLC «GPM KIT», 2020

『アンチグラビティ』を語るうえで重要な部分が「異能力」の存在です。

戦士達には「異能力」に目覚めた者も存在しており、現実世界では看護師だったフライは「治癒能力」、現実世界で霊能力が強かったスピリットは「幻覚能力」など、現実世界での影響を強く受けている事が特徴です。

主人公は、現実世界で建築家だった事から、何も無い場所に建築物を造り出す能力を持ち、自身を「建築家」と名乗るようになります。

これらの能力は、戦士達の指導者であるヤンにより導かれ、ヤンはリーパーから戦士と住人を守る為、リーパーのいない場所に新たな理想郷を作る事を計画します。

異世界の中で、異能力に目覚めた主人公が、リーパーから全員を守る為、理想郷を求める戦いに出る…と思いきや、主人公は突如目覚めて、現実世界に戻ります。

これまで観客が、主人公を通して体感していた異世界は「教祖」と呼ばれる科学者が作り出した脳内世界でした。

教祖は人々の頭の中に「理想の世界」を作り出す実験を進めており、主人公が異世界の中で出会った戦士達が、ベッドの上で寝かされているという、衝撃的な光景が広がります。

教祖は異世界では指導者ヤンになっており、建築物を造り出す能力を持つ、主人公の能力に注目し、異世界へと導いたのです。

次々に明かされる、あまりにも残酷な真実に、主人公が異能力に目覚めて以降の、ワクワクした気分は一気に沈んでいきます。

これまで、異世界での戦いが中心だった本作は、真実が明らかになった中盤以降、主人公と教祖という、現実世界での対立構造が物語の主軸となっていきます。

サスペンス構築要素➂「理想の世界か?厳しい現実か?」


(C) LLC «KINOKOMPANIYA BOLSHOE KINO», 2020
(C) LLC «FRESH-FILM», 2020
(C) LLC «MARS MEDIA ENTERTAINMENT», 2020
(C) LLC «GPM KIT», 2020

『アンチグラビティ』では、作品後半は現実の記憶を持った主人公が異世界へと戻り、教祖と対決する展開となります。

残った戦士達に、主人公は、全てが教祖の陰謀である事を説明しますが、教祖は異世界にいる戦士達は「現実世界では全く成功していない人物達」と語ります。

異世界では、自由自在に建築物を造り出せる主人公も、現実世界では建築家として全く上手くいっておらず、教祖に「小屋1つ作れない」と罵倒されます。

それでも現実世界に戻る為、主人公が異世界からの脱出を目指す展開が、ラストへと繋がっていきます。

本作で提示されているテーマは「理想と現実」です。

ラストシーンでは、教団が作り出した脳内の世界に逃げ込む事を求める人達の姿が、ニュース映像で流されます。

その映像を無言で眺める主人公は、自らが考案した都市計画は全く認められていませんが、建築事務所に就職が決まるなど、現実世界での成長を見せます。

念じるだけで、理想の建築物を造り出せる異世界を捨て、現実に立ち向かう主人公の姿を通し、小さくても新たな一歩を踏み出す事の大切さを描いた作品、それが『アンチグラビティ』です。

映画『アンチグラビティ』まとめ


(C) LLC «KINOKOMPANIYA BOLSHOE KINO», 2020
(C) LLC «FRESH-FILM», 2020
(C) LLC «MARS MEDIA ENTERTAINMENT», 2020
(C) LLC «GPM KIT», 2020

異世界で、異能力に目覚めた主人公の戦いを描いた本作は「リーパー」や「夢」など、独特の設定も多い為、最初はとっつきにくい印象を受ける方も多いかもしれません。

ですが鑑賞していくと、この世界のルールは把握できますし、異空間と現実が交差しながら、次々と展開される「謎」が、観客を物語に引き込んでいきます。

『アンチグラビティ』での異世界は、教祖が作り出した脳内の世界ですが、現実世界でも「VR」や「ゲーム」など、異世界を体験できるコンテンツは多数あります。

特にゲームは、夢中になると、ゲーム内での能力がどんどん上がり、時間を忘れてしまいますが、ふと我に返ると現実では何も変わっていない事に気付き、虚しさと恐ろしさを感じる事がありますね。

現実逃避は時に大事ですが「逃げ続けても何も変わらない」と、現実と向き合う大切さを感じる作品でした。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


(C)COPYRIGHT LA CASA DE PRODUCCION – LES FILMS DU VOLCAN 2019
中南米に伝わる怪談をモチーフに、女性たちの復讐を描いたスリラー『ラ・ヨローナ 彷徨う女』をご紹介します。



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