ヘイトの“仮面”を剥いで更生の道を歩んだネオナチ青年を描く実話
レイシストとして生きてきた若者の贖罪と苦悩を描く映画『SKIN/スキン』が、2020年6月26日より新宿シネマカリテほかにて公開となります。
2003年にアメリカで発足したスキンヘッド集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をベースに映画化したヒューマンドラマ。
本作が長編デビュー作となるガイ・ナティーヴが手掛け、『リトル・ダンサー』(2000)、『ロケットマン』(2019)のジェイミー・ベルが全身にタトゥーを纏った白人至上主義者を演じた、衝撃の実録ドラマの見どころを解説します。
CONTENTS
映画『SKIN/スキン』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
SKIN
【監督・脚本・共同製作】
ガイ・ナティーヴ
【製作】
ジェイミー・レイ・ニューマン、オーレン・ムーバーマン、セリーヌ・ラトレイ、トルーディ・スタイラー、ディロン・D・ジョーダン
【撮影】
アルノー・ポーティエ
【編集】
リー・パーシー、マイケル・テイラー
【キャスト】
ジェイミー・ベル、ダニエル・マクドナルド、ダニエル・ヘンシュオール、ビル・キャンプ、ルイーザ・クラウゼ、カイリー・ロジャーズ、コルビ・ガネット、マイク・コルター、ヴェラ・ファーミガ、メアリー・スチュワート・マスターソン
【作品概要】
2003年にアメリカで発足したスキンヘッド集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をベースに映画化したヒューマンドラマ。
全身に無数のタトゥーを入れたブライオンが、シングルマザーのジュリーとの出会いによりこれまでの悪行を悔い、更生を誓う様を描きます。
ブライオン役を『リトル・ダンサー』(2001)『ロケットマン』(2019)のジェイミー・ベル、ジュリー役を『パティ・ケイク$』(2017)のダニエル・マクドナルドがそれぞれ演じます。
また、反ヘイト団体を運営するダリル・L・ジェンキンスを、マーベルヒーローのルーク・ケイジ役で知られるマイク・コルターが演じます。
監督は、短編『SKIN』(2018)でアカデミー賞短編映画賞を受賞し、本作が長編デビュー作となるガイ・ナティーヴです。
映画『SKIN/スキン』のあらすじ
反ファシスト抗議を行う人々に、猛然と襲いかかるスキンヘッドの集団の中に、顔じゅうにタトゥーを施した男、ブライオン・“バブス”・ワイドナーがいました。
彼は10代で親に捨てられ、白人至上主義者グループを主宰するフレッドとシャリーンのクレーガー夫婦に拾われ、実の子のように育てられました。
今やグループの幹部となり、筋金入りの人種差別主義者となっていたブライオンは、とあるきっかけから3人の娘を育てるシングルマザーのジュリーと出会います。
彼女との出会いで、これまでの自分の人生に迷いが生じたブライオンは、次第にグループからの脱退を考え、更生することを誓います。
しかし、前科とタトゥーが障害となり仕事につけないばかりか、彼の裏切りを許さない元仲間たちからの脅迫に悩まされることに。
そんなブライオンに、反ヘイト団体を運営する政治活動家のジェンキンスが、転向の手助けを申し出て……。
映画『SKIN/スキン』の感想と評価
アメリカの病理、レイシズム問題を描く
本作『SKIN/スキン』は、元ネオナチのレイシスト、ブライオン・ワイドナーの半生をベースに描いた実録ドラマです。
白人至上主義者だったブライオンが更生すべく、計25回、16カ月に及ぶ過酷なタトゥー除去手術に挑む様に密着したテレビドキュメンタリー『Erasing Hate』(2011)に感銘を受けたイスラエル出身のガイ・ナティーヴ監督が、長編映画化を企画。
しかし、アメリカで映画製作の実績がなかったナティーヴは、資金調達のために、同じくレイシズムをテーマにした短編『SKIN』を製作します。
これが大きな反響を呼び、企画立ち上げから7年を経て、ようやく本作が実現しました。
なお、この短編『SKIN』は、2019年のアカデミー賞短編映画賞を受賞しています。
参考映像:短編『SKIN』(2019)
貧困、格差がヘイトやレイシズムを生む
本作の主人公ブライオンは、実の両親に捨てられた後、白人至上主義グループを主宰するクレーガー夫婦に拾われ、自らもレイシストの道を歩んできました。
主宰者のフレッド・クレーガーは、ブライオンのように家庭環境に恵まれなかったり、生活が苦しく学校に行けない少年少女たちに目星をつけてスカウト。
彼らに衣食住を与える代わりに、「黒人(アフリカ系)やヒスパニック系、アジア系、ユダヤ系、ホームレスや身体障害者といったマイノリティが、我々のような優れた白人の居場所を奪った」と扇動することで、ヘイトやレイシズムを植え付けて“構成員”にしていくのです。
クレーガーや実在のブライオンが創設した「ヴィンランダーズ」のようなレイシストグループは、アメリカ国内だけでも1,000以上存在すると云われます。
貧困や格差社会がヘイトやレイシズムに直結してしまう、多人種国家が抱える病理。
さらに構成員の中には、生きていくためにレイシストになった者もいることから必ずしも一枚岩ではなく、メンバー間にもヘイトが存在します。
ブライオンは、そうした上辺だけの負の感情でつながるファミリーに次第に嫌気が差し、シングルマザーのジュリーと慈しみのあるファミリーを築こうと、グループからの脱退を決意します。
ヘイトと不安の仮面を剥ぐ
ジュリーや反ヘイト団体主宰者ダリル・L・ジェンキンスの手助けにより、ブライオンは過去の自分との決別する証として、顔のタトゥーの除去手術に挑みます。
顔のタトゥーはヘイトの象徴であると同時に、ジェンキンス曰く「不安を隠す仮面」。
しかしながら、レーザーを照射してタトゥーを消す施術は、想像を絶する激痛を伴います。
ユング心理学において仮面を意味する「ペルソナ(Persona)」を、これまで犯した罪を心から悔やむ、文字通り「痛悔(つうかい)」の念を持って剥がすことで、彼は本当の意味での人間=パーソン(Person)となっていくのです。
そのブライオンを演じたジェイミー・ベルは、『ロケットマン』での名助演も記憶に新しいところですが、もはや「『リトル・ダンサー』の少年役でデビュー」という紹介文が不要なほど、順調に俳優キャリアを重ねています。
本作では、毎日3時間半の時間をかけてタトゥーや偽歯メイクを施し、肉体も短期間で20ポンド(約10キロ)も増量。
メイク時間を節約するために一日中タトゥーを入れたまま過ごす時もあり、その際は製作スタッフをも安易に寄せ付けなかったほど、ブライオンと完全に同化していたそう。
まとめ
ナティーヴ監督が本作『SKIN/スキン』の脚本を書き始めたのは、バラク・オバマ政権が2期目を迎えていた時期でした。
黒人大統領の誕生により、ヘイトやレイシズムが完全に無くなるのではと云われていたアメリカ。
ところがその期待はドナルド・トランプ政権になるとあっけなく瓦解し、全米各地で痛ましい人種間暴動やヘイトクライムが多発することとなります。
国のトップがヘイトスピーチを繰り返し、レイシストグループも年々増加する絶望的現状でありながら、それでもユダヤ人であるナティーブ監督は、アメリカにはブライオンのように更生できる希望もあることを本作で提示します。
今年11月に大統領選を控えるアメリカの今後を見据える意味でも、観てほしい一本です。
映画『SKIN/スキン』は、2020年6月26日より新宿シネマカリテ他で公開。