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Entry 2020/05/14
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どんでん返し映画『無明長夜の首無しの怪獣』感想考察。ウルトラセブンや怪奇大作戦などの往年の名作特撮ドラマを彷彿|邦画特撮大全68

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第68章

若手コント芸人「そんたくズ」のコンビ結成3周年記念コントライブが、2020年5月16日19時よりYou Tube内の「そんたくズコントチャンネル」にて生配信されます。

ライブタイトルは『そんたくズトリエンナーレ オリンピックVSメカオリンピック~キング・オブ・モンスターペアレンツ』。このタイトルにピンと来たらあなたも特撮ファン。『ゴジラVSメカゴジラ』(1993)と『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)のパロディとなっているのです。

「そんたくズ」は田中寿司ロボットこと田中義樹と、ペットロスター井上こと井上森人の2人からなるお笑いコンビ。井上森人は特撮ファンで映画監督しても活動しており、全国自主怪獣映画選手権 東京総合大会で2連覇を記録しています。

今回は井上森人が監督した自主怪獣映画『無明長夜の首無しの怪獣』(2018)を紹介します。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

映画『無明長夜の首無しの怪獣』の作品概要

【公開】
2018年(日本映画)

【脚本・監督】
井上森人

【キャスト】
佐田淳、櫻井保幸、板倉光隆、阿部達也、カメレオール

【作品概要】
映画『無明長夜の首無しの怪獣』はお笑いコンビ“そんたくズ”のペットロスター井上こと井上森人監督の自主映画作品です。第11回全国自主怪獣映画選手権の最優秀賞を受賞し、昨年2019年11月に開催された熱海怪獣映画祭でも上映されました。

映画『無明長夜の首無しの怪獣』のあらすじ


(C)ビビットマン製作委員会

夜の街に首のない怪獣が出現します。引きずっている首からこの首無し怪獣は、以前サビュラス星人が地球侵略に利用した怪獣ガサンガクと同一の個体だと考えられていました。

住民が避難する中、高藤という男はひとり家に籠り経を唱えたり、九字を切ったりしています。高藤の家へやって来たサビュラス星人の男は、怪獣の出現が彼らの侵略作戦ではないと言いました。

高藤は元自衛隊員であり、前回のガサンガク出現時に現場で作戦にあたっていたのです。その時、高藤は怪獣の死体と目が合ったことから、怪獣が自身に復讐するために現れた幽霊だと考えていました。

高藤とサビュラス星人、さらに高藤の家にいた幽霊の3人は、怪獣の正体がいったい何なのか、謎を推理していきます。

映画『無明長夜の首無しの怪獣』感想と評価


(C)ビビットマン製作委員会

本作品『無明長夜の首無しの怪獣』は怪獣映画にミステリーものの要素を導入した一風変わった作品です。

夜の街を怪獣が歩く様子と、テーブルを囲んで元自衛隊の高藤とサビュラス星人、幽霊の3人が怪獣の正体について推理をめぐらすやり取りを交錯させて描いています。

井上森人監督によれば本作のヒントになったのは、「着ぐるみの改造」と推理小説の「首のない死体のトリック」の2つだったそうです。

『ウルトラマン』(1966~1967)をはじめ特撮作品では、それまで登場した怪獣の着ぐるみを改造し、新たな怪獣の着ぐるみとして作り上げることがよく見られます。

これは既存の着ぐるみを再利用する事で予算をおさえるという経済的な製作手法です。

例えば『ウルトラQ』(1966)に登場した地底怪獣パゴスは、東宝の特撮映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965)に登場したバラゴンの改造です。

さらにこのバラゴンの着ぐるみは次作『ウルトラマン』でも改造され、透明怪獣ネロンガ、地底怪獣マグラー、ウラン怪獣ガボラへと変化しました。

視聴者の視線が一番集中する頭部を改造したり、怪獣のカラーリングを変えたりすることで、すでに登場した怪獣を新たな怪獣へと変化させるのです。

本作『無明長夜の首無しの怪獣』に登場する着ぐるみも、実は既存のものの流用です。

自主製作映画にどうしてもつきまとう低予算という問題をカバーするこの手法に、推理小説で用いられる古典的な「首のない死体のトリック」を応用することで、本作は個性的な作品として成立しています。

特撮と推理小説のそれぞれでポピュラーな手法である、「着ぐるみの流用」と「首のない死体」を掛け合わせたその着眼点は非常にユニークなものでしょう。

そして元自衛官の高藤、サビュラス星人、幽霊の3人が怪獣の正体を推理していく場面は、コミカルな描写をはさみながら、テンポよく進んでいきます。

3人が少しずつ打ち解けていく様子は微笑ましくもありました。しかしその微笑ましさやコミカルさを打ち破ってしまう結末が待っています。

満月の夜を歩く首のない怪獣の鮮烈なイメージ、極端にかたよった構図、どんでん返しのラスト、など、本作『無明長夜の首無しの怪獣』には、『ウルトラセブン』(1967~1968)や『怪奇大作戦』(1968~1969)などの往年の名作特撮を彷彿とさせる感慨がありました。

まとめ


(C)ビビットマン製作委員会

『無明長夜の首無しの怪獣』は着ぐるみの流用と「首なし死体のトリック」という2つのアイディアの融合を、確かな映像表現で魅せた作品でした。

井上森人監督とそんたくズの今後のさらなる活躍に期待します。

そんたくズのコンビ結成3周年記念コントライブ『そんたくズトリエンナーレ オリンピックVSメカオリンピック~キング・オブ・モンスターペアレンツ』は、2020年5月16日19時からYou Tube内の「そんたくズコントチャンネル」にて生配信されます。

次回の『邦画特撮大全』は…


(C)石森プロ・東映

次回の邦画特撮大全は2020年公開予定の映画『がんばれいわ!!ロボコン』から、オリジナルの『がんばれ!!ロボコン』とリメイク版『燃えろ!!ロボコン』の2作品を紹介します。
お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら


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