『窮鼠はチーズの夢を見る』は2020年9月11日(金)公開。大倉忠義と成田凌がボーイズラブを熱演
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の監督は、『劇場』『リバース・エッジ』などを手掛けた行定勲監督。水城せとなの原作漫画を、大倉忠義と成田凌の主演で映画化しました。
心の底から惚れた人との恋が成就することは、その人の人生を大きく変えてしまうことだった……。人を好きになることの喜びや痛みを描いた異色でピュアなラブストーリー。
“行定エロス”ともいうべき独特のエロティシズムを持つ行定勲監督。シリアスで激しい感情の起伏を描いたかと思えば、どこかのんびりとしたブラックユーモアも交え、行定勲監督の世界の真骨頂を堪能することができる映画です。
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
水城せとな
【脚本】
堀泉杏
【監督】
行定勲
【キャスト】
大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
【作品概要】
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』は、『劇場』『リバース・エッジ』(2018)の行定勲監督が、『失恋ショコラティエ』『脳内ポイズンベリー』などで知られる水城せとなの原作を映像化。
主演に大倉忠義と成田凌。共演として、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子らが登場しています。
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』のあらすじ
大学卒業後、今ヶ瀬渉は興信所で探偵として働いていました。ある日、ある依頼人から不倫調査を請け負うことに。その調査対象は大学の頃から思いを募らせてきた先輩の大伴恭一でした。
恭一の不倫現場を押さえた写真を携えてオフィスを訪ね、7年ぶりに恭一と再会する今ヶ瀬。不倫の事実をどうにか隠そうとする恭一に対して、今ヶ瀬は交換条件にホテルに誘います。
「ずっと好きだった」と想いを告げられる恭一は戸惑いながらも妻・知佳子との生活を守るために、今ヶ瀬のキスを受け入れてしまます。
ことは収まったかに見えましたが、懲りずに恭一は不倫相手の瑠璃子との不倫を続けます。しまいには浮気調査を依頼していた知佳子から自分も不倫をしていることを告げられ、離婚することに。
今ヶ瀬は、独り身となった恭一の隙を狙い新居に転がり込みます。なし崩し的に同居生活を始めることになる恭一と今ヶ瀬。
恭一は流されやすい性格もあり、男同士の気楽さもあって、同居生活をそれなりに堪能しますが、今ヶ瀬は恭一との関係をもう一歩深めたいという思いに駆られて、恭一の行動を監視、束縛するようになります。
それを受けた恭一は「付き合っているわけではない」と言い放ち、その言葉を受けた今ヶ瀬は怒りと悲しみを爆発させて家を飛び出してしまいます。
いざ、今ヶ瀬がいなくなると心細さをと寂しさを感じた恭一は数日後には食事に誘います。
「好きな人から呼び出されたらすぐに飛んでいくタイプ」だという今ヶ瀬は、嬉々として誘いを受け、その後元の同居生活に戻っていきました。
しかし、恭一の昔の恋人で今ヶ瀬にとっても大学の先輩でもある夏生と再会したことで、2人の関係に大きな変化が訪れます。
2人の関係を問い質す夏生に対して「初めて会ったときから、好きだった」と気持ちを隠さない今ヶ瀬。
夏生は「自分と今ヶ瀬のどちらと今夜共に過ごすのか」と恭一に迫ります。
恭一は今ヶ瀬に対して「普通の男には、無理だって」と、夏生と共にその場を去る恭一。しかし、夏生との時間も気まずいままで終わります。
家に戻ってきた恭一は今ヶ瀬に求められ、関係を持ちます。今ヶ瀬との関係が深まったことに戸惑う恭一。
そんな彼の前に会社の後輩であるたまきがアプローチしてきたことで、また距離が生まれることに……。
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の感想と評価
流されるように受け身的に恋愛をしてきた男・恭一に、今までにないほど気持ちをぶつけてくるのは、同性の大学時代の後輩・今ヶ瀬でしたー。
今ヶ瀬は自分の想いが相手に伝わり、恋が成就していくことに喜びを感じる一方で、今まで同性愛者でなかった相手を、“自分の側”に導いてしまったことに、心苦しさを感じます。
心の底から愛情を注ぐことで、相手の人生観・価値観を大きく変えてしまいます。恋が成就することは望ましいものの、自分の側に導くことにどこかうしろめたさを感じます。
この相反する感情をナイーブに演じるのがここ数年映画に出ずっぱり状態の成田凌。主役に回ってもわきに回っても、毎回違う顔を見せてくれる成田は、今回もまた今までになかったような顔を見せてくれます。
恭一を演じた大倉忠義は今ヶ瀬は女性脳の持ち主と表現していましたが、今作の成田凌は完全にヒロイン・主演女優といっていいでしょう。
相手役となる恭一を演じるのは大倉忠義。『100回泣くこと』(2013)で単独主演後もどちらかというと、非現実的というかどこかドラマティックで作りこまれた箱庭的な世界観の作品の中で存在感を発揮しています。
ドラマでいえば『モンテクリスト伯‐華麗なる復讐‐』(2018)も大仰な世界観の小悪党キャラがハマっていました。
この2人が構成するマッチョ感のない男の世界では、今時の映画では珍しい暗い女性が添え物になっています。
昨今の流れから、マッチョ感のある男性主体の世界を描くときは時代を遡らせるしか方法はありません。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)のブラッド・ピットのキャラもあの時代だから成り立つことで、現代では女性蔑視とも捉え兼ねられません。
そんな中で、こういう方法論で、男だけの世界を描くというのは、新しい道筋なのかもしれません。
まとめ
行定勲監督は『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)が引き合いに出されることで、爽やかな作風の人と思われたり、吉永小百合主演の大型企画『北の零年』(2005)や原作モノの映画化が多いことから、職人的な監督という風にも見られがちです。
けれども、実は独特のエロティシズムの持ち主です。『ナラタージュ』(2017)や『リバース・エッジ』(2018)などかなり濃密な愛情表現を盛り込んだ作品も多いです。
日活ロマンポルノを復活させた『ジムノペディに乱れる』を2016年に撮り上げたこともあり、岩井俊二監督が師匠格というのもわかります。
2020年公開予定の又吉直樹の同題小説を山﨑賢人、松岡茉優で映画化した『劇場』では半ば意図的に表現を削っている節がありました。
今作『窮鼠はチーズの夢を見る』は、大倉忠義と成田凌の色気・セクシーさをしっかりと把握したうえで、それを巧く活かし濃密な愛情の物語に仕上げています。
男性同士だけではなく男女間の愛情表現もかなり濃密な作品で、行定監督の本質がよくわかります。
映画『窮鼠はチーズの夢を見る』は2020年9月11日(金)公開です。