カンヌ騒然、巨匠ジム・ジャームッシュが放つゾンビ映画がついに日本公開
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)、『ゴースト・ドッグ』(1999)のジム・ジャームッシュ監督の新作映画『デッド・ドント・ダイ』が、2020年3月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷にて先行上映されたのち、全国で6月5日(金)より公開となります。
気心の知れたスタッフと豪華キャストのファミリーを招集して完成した、ジャームッシュ・テイスト満載なゾンビ映画の見どころをご紹介しましょう。
CONTENTS
映画『デッド・ドント・ダイ』の作品情報
【日本公開】
2020年(スウェーデン・アメリカ合作映画)
【原題】
The Dead Don’t Die
【監督・脚本】
ジム・ジャームッシュ
【製作】
ジョシュア・アストラカン、カーター・ローガン
【撮影】
フレデリック・エルムス
【編集】
アフォンソ・ゴンサウベス
【キャスト】
ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ロージー・ペレス、イギー・ポップ、RZA、セレーナ・ゴメス、トム・ウェイツ
【作品概要】
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)、『ゴースト・ドッグ』(1999)のジム・ジャームッシュによる、『パターソン』(2016)以来約3年ぶりとなる監督作品。
アメリカの田舎町を舞台に、天変地異によって死者がゾンビ化したことによるサバイバル劇を、コメディータッチで描きます。
キャストとして、『パターソン』に続き主演に抜擢されたアダム・ドライバーを筆頭に、ビル・マーレイ、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーブ・ブシェミ、イギー・ポップ、RZA、トム・ウェイツといったジャームッシュ作品の常連がそろい踏み。
さらに、ダニー・クローヴァー、セレーナ・ゴメス、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズらが名を連ねます。
映画『デッド・ドント・ダイ』のあらすじ
アメリカの田舎町センターヴィルで、内臓を食いちぎられた女性2人の変死体がダイナーで発見されるという事件が発生。
町内で警察官は、クリフ署長とロニーとミンディの両巡査の3人だけ。これまで他愛のない住人トラブルの対応しかしていませんでしたので、この前代未聞の怪事件に困惑します。
折しも、世界では夜になっても太陽が沈まず、スマホや時計が壊れ、動物たちが失踪する異常現象が続発していました。
いち早く、事件がゾンビの仕業と推理したロニーの言葉どおり、無数の死者たちが蘇って地元民に襲い掛かります。
ロニーの「頭を殺れ!」を合言葉にゾンビと闘うクリフ、そして町民たち。
しかし、彼らの行く手にはさらなる衝撃の光景が…。
ジム・ジャームッシュ発、どこか奇妙で可笑しいゾンビ映画
2016年の前作『パターソン』では、バス運転手の何気ない日常を切りとったジム・ジャームッシュ監督。
その彼による新作『デッド・ドント・ダイ』では、なんとホラー映画の王道であるゾンビものに挑戦しました。
ゾンビといえば、フィルムメーカー次第でさまざまな設定を盛り込みやすいホラーキャラクターですが、ジャームッシュは恐怖よりも、どこかとぼけた滑稽さや、牧歌的なゆるやかさを内包したゾンビをクリエイト。
“Wi-Fi”という言葉を繰り返して接続ポイントを求めてさまようWi-Fiゾンビ、酔っ払った状態のシャルドネ・ゾンビ、テニスラケットを振り回すスポ根ゾンビなど、生前の欲に捉われた奇妙なゾンビたちが大量に登場します。
とりわけ、事件の発端となる、“コーヒー”という言葉を繰り返してさまようコーヒー・ゾンビを、ジャームッシュ作品の常連であるミュージシャンのイギー・ポップが演じているあたりが、可笑しさを誘います。
常連俳優たちが織りなすクセのある怪演
そんなゾンビたちに立ち向かうセンターヴィルの住人たち。
事あるごとにダイナーのドーナツとコーヒーを欲する署長クリフと、「まずい結末になる」という口グセを連呼し、冷静沈着かつ無表情でゾンビを始末する部下ロニー。
警察以外の住民も、偏屈な白人至上主義者のフランク、ホラーオタク青年のボビー、日本刀さばきが巧みな葬儀場主人のゼルダ、そして町の変貌を森で見守る世捨て人のボブなど、やっぱりどこかクセのある連中ばかりです。
彼らを演じるビル・マーレイ、ティルダ・スウィントン、スティーブ・ブシェミ、トム・ウェイツといった俳優たちの大半は、ジャームッシュ作品の常連。
ジャームッシュが脚本を書く段階からキャストを当て書きしていたというだけあって、気心知れた面々ならではの怪演技のアンサンブルも見ものです。
さらには、ロニー役のアダム・ドライバーが「スター・ウォーズ」シークエル三部作(2015~2019)に出演していたことにちなんだ小ボケや、クリフ役のビル・マーレイ出演のゾンビ映画『ゾンビランド』(2009)を意識した細かすぎて見落としてしまいそうな小ネタまで盛り込むなど、とにかく至れり尽くせりです。
革新的かつバック・トゥ・ベーシックなオマージュ
ジャームッシュが『デッド・ドント・ダイ』を構想したのは、2016年のドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』の撮影中に、一心不乱にスマホ画面に見入って歩く人々を見たのがきっかけでした。
そんな、“スマホ・ゾンビ”をベースに、ジャームッシュは物欲に従って行動する屍たちを映像化。
ゾンビ映画の生みの親であるジョージ・A・ロメロは、デビュー作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)と続編『ゾンビ』(1979)で、生前に夢中だった場所や物を求めて徘徊するゾンビに現実の人間を投影させることで、俗社会への風刺を込めました。
人間はみな物欲に囚われさまよう生物であり、傍目にはゾンビと変わらない――ジャームッシュ自身、ロメロにオマージュを捧げたと公言しているように、本作はゾンビ映画の原点に立ち還った作品といえます。
また、セレーナ・ゴメスらが演じる、ピッツバーグからセンターヴィルにやって来る3人の若者が乗る車が、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の冒頭で出てくる車と同型のポンティアックだったり(ピッツバーグはロメロの活動拠点でもある)、ゾンビの造形も『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を意識したメイクを施すなど、細部でもオマージュを捧げています。
まとめ
2019年(第72回)のカンヌ映画祭のオープニングで上映された本作『デッド・ドント・ダイ』。
上映時は、ロニーがマイクロコンパクトカーの“スマート”で登場するシーンで笑いが起こった一方で、ラストの展開には観客全員がア然となったとか。
観る者の予想をはるかに凌駕するであろうラストは、とにかく必見。
ジャームッシュ直々の依頼を受けて、グラミー賞アーティストのスタージル・シンプソンが書き下ろしたタイトルと同名のカントリーソング『デッド・ドント・ダイ』の、流麗で悲しげなメロディも印象的です。
レイティングこそ「R15+」となっていますが、残酷描写もやっぱりユルめなので、「ジム・ジャームッシュ映画は好きだけど、ゾンビ映画はちょっと…」という方も見やすいのではないでしょうか。
ジャームッシュ・ワールド満載のゾンビ・アポカリプスに、ご期待ください。
映画『デッド・ドント・ダイ』は、2020年3月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷にて先行上映されたのち、全国で6月5日(金)より公開。