連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile092
1980年代に入るとSF映画の技術が映画界に普及し始めたことにより、スペースオペラや特殊なVFXを使ったSF映画が多く登場します。
この年代からは数えきれないほど数多の名作が生み出され、5個に絞りご紹介するこの企画も映画の選出に悩みに悩んでしまうほどでした。
しかし、今回はそんな作品群の中から選び抜いた、ぜひ見て欲しい作品や外すことの出来ない大ヒット作を5本、ランキング形式で紹介させていただきます。
CONTENTS
1980年のおすすめSF映画:5位『マッドマックス2』
映画『マッドマックス2』の作品情報
【原題】
Mad Max2: The Road Warrior
【日本公開】
1981年(オーストラリア映画)
【監督】
ジョージ・ミラー
【キャスト】
メル・ギブソン、ブルース・スペンス、ケル・ニルソン、ヴァーノン・ウェルズ、エミル・ミンティ
【作品概要】
ジョージ・ミラーが1979年に製作した映画『マッドマックス』(1979)の続編として製作されたシリーズ第2弾。
名優メル・ギブソンが脚光を浴びることになったシリーズであり、「ポスト・アポカリプス」と言うジャンルの世界観を決定づけた作品としても有名です。
【映画『マッドマックス2』のあらすじ】
大国が起こした世界大戦により、地球上の文明は崩壊し世界は荒野と化しました。
少ない資源を巡り争いの絶えない世界を犬と共に進む元警官のマックス(メル・ギブソン)は、ヒューマンガス(ケル・ニルソン)率いる暴走族に狙われた石油精製所にたどり着くことになり…。
「ポスト・アポカリプス」を語る上で外すことの出来ない傑作
アカデミー賞を始め、世界各国の様々な賞を受賞した「マッドマックス」シリーズの4作目『マッドマックス/怒りのデスロード』(2015)は、日本でも4DXや爆音上映などが繰り返し行われるほどの熱狂的なファンを生む作品となりました。
しかし、そんな「マッドマックス」シリーズの中でも、荒廃した世界を描いた「ポスト・アポカリプス」と言うジャンルのビジュアルを確立した2作目『マッドマックス2』(1981)は、「SF映画」に大きく貢献した作品と言えます。
本作では砂漠のようになった世界をボロボロの服で生きる住民、単純な構造の銃や、槍や弓と言った一昔前へと逆行した武器、そして略奪者となった男たちなど「ポスト・アポカリプス」の定番の世界観が展開されます。
特にヒューマンガス一派の幹部であるウェズは、特徴的な服装と赤髪モヒカンで日本漫画の名作『北斗の拳』など様々な作品に影響を与えたヴィランとして有名であり、ウェズを演じたヴァーノン・ウェルズは本作を機に『コマンドー』(1985)への出演を果たし名悪役俳優としても名を残すことになります。
主人公であるのにセリフが殆どないマックスや物持ちを大事にするヒューマンガスなど、小ネタも多く何度見ても楽しめる名作の1つです。
1980年のおすすめSF映画:4位『ゼイリブ』
映画『ゼイリブ』の作品情報
【原題】
They Live
【日本公開】
1989年(アメリカ映画)
【監督】
ジョン・カーペンター
【キャスト】
ロディ・パイパー、キース・デイヴィッド、メグ・フォスター、ピーター・ジェイソン、レイモン・サン・ジャック
【作品概要】
ホラー映画の名作『ハロウィン』(1979)や『遊星からの物体X』(1982)、SF映画界でも奇作『ニューヨーク1997』(1981)を生み出したことでも知られるジョン・カーペンターが製作したSF映画。
1980年代のアメリカン・プロレス人気を牽引したとされるプロレスラー兼俳優のロディ・パイパーが主演を務めたことでも話題となりました。
【映画『ゼイリブ』のあらすじ】
職を求め各地を転々とする肉体労働者のナダ(ロディ・パイパー)は、たどり着いた肉体労働者の集う集落でテレビ放送の電波ジャックを目にします。
集落の近くにある教会で電波ジャックに利用された違法電波を流していることに気が付いたナダは、ひょんなことから世界の真実を知ることになり…。
資本主義を痛烈に批判した社会風刺ムービー
地球は既に宇宙人によって支配されており、宇宙人は支配層の人間に擬態することでその支配を完璧なものにしていた、と言う一風変わったSF映画『ゼイリブ』(1989)。
しかし、本作は宇宙人による地球侵略を描いた映画でありながら、その本質は現代社会を痛烈に批判した社会風刺であり、監督のジョン・カーペンターが脚本も兼ね製作するなど本作に対する熱の入れようも感じることが出来ます。
宇宙人は街で見かけるあらゆる広告に文字を隠し入れ、「サブリミナル効果」によって人々の購買欲を煽ります。
マスコミも時に不安を煽り、時に耳障りの良い情報を与えるなど企業や政府にとって都合の良いことのみを放送し格差社会を助長します。
作中ではこうした情報操作は宇宙人によって行われていますが、現実の社会でもこれらのことは人間によって実際に行われおり、本作の鑑賞後は人間の醜悪さをより感じることになるかもしれません。
カーペンター監督自身は本作を現在に至るまで政治批判に使われること忌避しており、時代の移り変わりによる資本主義の変化にも注目できる作品と言えます。
1980年のおすすめSF映画:3位『トロン』
映画『トロン』の作品情報
【原題】
Tron
【日本公開】
1982年(アメリカ映画)
【監督】
スティーブン・リズバーガー
【キャスト】
ジェフ・ブリッジス、ブルース・ボックスライトナー、デビッド・ワーナー、シンディ・モーガン、バーナード・ヒューズ
【作品概要】
1982年にスティーブン・リズバーガーによって製作されたコンピューター・プログラムの内部世界を描いたSF映画。
2009年に出演した『クレイジー・ハート』(2010)でアカデミー主演男優賞を受賞した名優ジェフ・ブリッジスが主人公のフリンを演じました。
【映画『トロン』のあらすじ】
ゲームなどのコンピューターソフトウェアを手掛けるエンコム社に勤めるフリン(ジェフ・ブリッジス)は、自身が開発したゲームを同僚のデリンジャー(デビッド・ワーナー)に盗まれた上に閑職へと追い込まれてしまいます。
エンコム社で働くアラン(ブルース・ボックスライトナー)の力を借り、エンコム社の電脳世界へと侵入したフリンとアランは盗作の証拠をつかむべく行動しますが…。
電脳世界の内部を描いた全く新しい映画体験
1960年代に製作された『ミクロの決死圏』(1966)で人の体内に侵入する映画が描かれたように、身近な世界に人間が侵入していくと言うのは1つの夢であり、その世界の体験をいち早く可能にするのがSF映画です。
1982年に製作された映画『トロン』(1982)では、コンピュータープログラムで構成されたいわゆる「電脳世界」へと人間が侵入し、擬人化されたプログラムと協力や対立を繰り返し目標を達成していく物語が描かれています。
本作が「斬新」と呼ばれる特に大きな要因は、特殊すぎる映像にあると言えます。
電脳世界を黒を基調とした世界観で描く本作は「CG」と「実写」の合成の仕方が独特であり、電脳世界内で行われるゲームの描き方や、どことなくシュールさを感じさせる服装など作中の要素の全てが「視覚」に訴えかけてきます。
およそ28年ぶりに製作された続編『トロン:レガシー』(2010)と合わせて、映像技術の進化と「コンピュータープログラム」の認知に対する時代の進化を楽しむことの出来る名作です。
1980年のおすすめSF映画:2位『ブレードランナー』
映画『ブレードランナー』の作品情報
【原題】
Blade Runner
【日本公開】
1982年(アメリカ・香港合作映画)
【監督】
リドリー・スコット
【キャスト】
ハリソン・フォード、ショーン・ヤング、ルトガー・ハウアー、エドワード・ジェームズ・オルモス、M・エメット・ウォルシュ、ダリル・ハンナ
【作品概要】
数多くの名作SF小説を世に送り出した小説家フィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を映像化した作品。
主人公のデッカードを演じたのは『スター・ウォーズ』(1978)や『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)で主演を務め、当時人気の絶頂だったハリソン・フォード。
【映画『ブレードランナー』のあらすじ】
21世紀、タイレル社は人造人間「レプリカント」を作り出し過酷な肉体労働や戦争兵器として利用しました。
高い知性と感情を持つレプリカントのバッティ(ルトガー・ハウアー)は、現状に不満を覚え脱走し、人間社会に溶け込みます。
レプリカントとしての運命に疑問を覚えるバッティを危険因子として判断したタイレル社は、レプリカント処理の専門家「ブレードランナー」のデッカード(ハリソン・フォード)を呼び寄せますが…。
「サイバーパンク」的世界観で描かれる哲学的ドラマ
「アンドロイド」が存在するような未来を描きながら、その世界観はスラム街のような退廃的な雰囲気を漂わせる、いわゆる「サイバーパンク」と呼ばれる世界観の1つの指標ともなった伝説的映画『ブレードランナー』(1982)。
キアヌ・リーヴス主演映画『JM』(1995)や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)など、本作の影響を受けた世界観の作品は多く、SF映画好きの中にはファンも多い作品です。
歌舞伎町と香港をごちゃ混ぜにしたような都市の外観の中で、僅か数年の命を与えられた「レプリカント」がその運命から逃れるために破壊と逃走を繰り返し、「ブレードランナー」のデッカードが始末のために追跡する。
特異な世界観と「命の意味」を問いかける物語が融合した本作は、映画をただ観ただけでは解決しない部分も多く様々な考察要素の存在も人気です。
ライアン・ゴズリングが主演した続編『ブレードランナー 2049』(2017)と共にSF映画好きにオススメしたい作品です。
1980年のおすすめSF映画:1位『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の作品情報
【原題】
Back to the Future
【日本公開】
1985年(アメリカ映画)
【監督】
ロバート・ゼメキス
【キャスト】
マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、トーマス・F・ウィルソン、リー・トンプソン、クリスピン・グローヴァー
【作品概要】
1994年製作の映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1995)でアカデミー作品賞及び監督賞を受賞したロバート・ゼメキスが監督したSF映画。
公開当時アメリカで社会現象と言えるほどの大ブームとなり、長い時間の経った現在でもベスト映画にあげられる名作。
【映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のあらすじ】
ロックを愛する高校生のマーティ(マイケル・J・フォックス)は、年の離れた友人科学者のドク(クリストファー・ロイド)が開発したタイムマシン「デロリアン」のテスト走行を目にします。
しかし、突如現れたドクを狙う男たちによってドクが殺害され、マーティはデロリアンに乗り込みその場を離れようとしますが…。
時間跳躍映画の面白さが詰まった傑作SF
映画好きにだけでなく、一般の人にも広く愛されている説明不要とすら言える大名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)。
過去へのタイムトラベルを描いた映画は数多くあれど、過去を変えることで未来が変わってしまう「タイムパラドックス」を物語の中枢に据えた上で、ハラハラドキドキや伏線回収の面白さを詰め込んだ本作はまさに傑作と言えます。
ロックをメインとした音楽も映像も軽快で不快感を一切残さない本作は数年に1度鑑賞したくなる作品です。
まとめ
画像:映画『ゼイリブ』
1980年代は『ターミネーター』(1985)、『ヒドゥン』(1988)、『E.T.』(1982)など、今回ご紹介することの出来なかったSF映画の傑作がまだまだ沢山ある宝箱のような年代。
ウイルスの蔓延により、外出を控えなければいけない今だからこそ、往年の名作を鑑賞する機会としてみてはいかがでしょうか。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile093では、巧みな脚本力でワクワク感を引き立てるNETFLIX独占配信映画『ARQ 時の牢獄』(2016)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。
3月11日(水)の掲載をお楽しみに!