連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第20回
毎年恒例となった劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品は青山シアターにて、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第20回で紹介するのは、香港、そしてブダペストを舞台にしたアクション映画『ザ・ルーキーズ』。
この世のどこかに存在し、密かに世界を守る秘密組織。ある日平凡な人物が、組織にスカウトされ大活躍、というお話はスパイアクション映画の定番です。
そんな映画が中国から世界に飛び出しました。 香港のお騒がせ男とその仲間たちが、ミラ・ジョヴォヴィッチと共に悪の組織に立ち向かう!
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CONTENTS
映画『ザ・ルーキーズ』の作品情報
【日本公開】
2020年(中国・ハンガリー合作映画)
【原題】
素人特工 / The Rookies
【監督・脚本】
アラン・ユエン(袁锦麟)
【キャスト】
ミラ・ジョヴォヴィッチ、ダレン・ワン(王大陸)、チャン・ロンロン(張榕容)、デヴィッド・マクイニス、ラム・シュー(林雪)
【作品概要】
偶然秘密組織に加わることになり、世界を救おうと奮闘する若者たちを描いた、スパイアクション・コメディ映画。
監督はジャッキー・チェンの『香港国際警察 NEW POLICE STORY』の脚本を書き、アンディ・ラウ主演の『ファイヤー・ストーム』で監督・脚本を務めたアラン・ユエン。彼が「バイオハザード」シリーズなどでお馴染みの国際女優、ミラ・ジョヴォヴィッチを起用して描く作品です。
主演は『私の少女時代 Our Times』や『台北セブンラブ』、「未体験ゾーンの映画たち2018」上映作品『レジェンド・オブ・パール ナーガの真珠』のダレン・ワン。『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』で楊貴妃を演じたチャン・ロンロン、香港映画界のバイプレイヤーとして長らく活躍する、ラム・シューが共演を務めます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『ザ・ルーキーズ』のあらすじとネタバレ
どこかの孤島にある研究施設内でガラス容器が砕けると、白い煙が立ち上ります。その煙から逃れるようと多くの研究員が走り出しました。しかし彼らは次々煙に包まれ倒れます。トランクケースを持った男、Mr.xだけがヘリコプターに乗って逃れようとします。
そのヘリに何人かの研究員がしがみつきますが、Mr.xはケースからガラス容器を取り出し、中身をしがみつく研究員に散布します。赤い煙に包まれた研究員の体から、みるみる植物が芽吹き出して落ちていきます。無数の死体が倒れる島は、煙に包まれました。
世界有数の資産家で鉄の拳を持つ男、アイアン・フィストこと鉄拳(デヴィッド・マクイニス)は、Mr.xから完成した新兵器、DM85を売りたいとのメールを受け取っていました。
かつて自然保護活動家であった恋人と死別した鉄拳は、保存容器に保管した彼女の眼球に、間もなく野望が実現すると語りかけます。
香港でインターポールのツァイ警視(ラム・シュー)のチームと共に、容疑者を監視していた捜査官のミャオミャオ(チャン・ロンロン)。ところが彼女はツァイの心配した通り、容疑者のセクハラ行為にブチ切れ、警視の制止を聞かず容疑者どころか、同僚まで叩きのめします。
捜査は台無しで、彼女はツァイにお説教をもらいます。やる気ゼロで事なかれ主義の警視の発言に、またも彼女は切れかけますが、処方された心を落ち着かせる薬を流し込み、どうにか落ち着きを取り戻したミャオミャオ。
同じ香港の街で、高僧ビルの屋上に立つフォン(ダレン・ワン)。彼はその姿を自撮りし中継してネットに流し、視聴者の注目を集めていました。自信たっぷりにビルの上に組まれた鉄骨の上にそびえ立つ、避雷針の頂上に駆け登ると宣言します。
おどけて余裕たっぷりに喋っていたフォンですが、近くにライバルの男・フェニックスがいる事に気付きます。2人はどちらが先に頂上へ到着するか、競って登り始めます。
ほぼ同時に頂上へ到着した2人。インターポールの香港支部で悶々としていたミャオミャオにとって、世の中のルールを無視したフォンのお騒がせ動画は目障りそのもの。気付いた彼女は早速中傷コメントを書き込みます。
どちらが先に到着したか言い争うフォンたちですが、雲行きが怪しくなり雷が鳴りだして慌てます。隙を見てフェニックスを蹴落とし、ドヤ顔で頂上一番乗りを宣言するフォン。しかしライバルの逆襲で落とされ、パラシュートを開いて香港の街を滑空するフォン。
これこそ見せ場、とカメラに向くフォンですが、先程の格闘でカメラを失い中継出来ず。おまけにパラシュートはコントロールを失い、とある高層ビルの物々しい一室に飛び込みます。
そこには見るからに危険な連中がいましたが、偶然にも彼らの待つ時間通りに現れたフォンを、自分たちの取引相手と勘違いします。フォンは持ち前のお調子者な態度を発揮して、取引相手のふりをして調子を合わせ誤魔化します。
男たちはあのDM85を売ろうと待ち構えていました。そこに本当の取引相手が現れます。とっさに知恵を巡らせてフォンは仲介者を装い、口八丁手八丁でこの場を乗り切ろうとします。
しかし取引を巡り両者は対立、銃を突きつけ合います。巻き込まれては大変と仲裁を買って出ますが、新たな訪問者が到着し、これ幸いと彼を迎い入れたフォン。
ところがこの訪問者、背中にナイフで致命傷を負っていまいました。彼から逃げるよう言われ、慌てて逃げ出したフォン。この物騒な取引現場にさっそうとブルース(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が乗り込みます。
華麗なアクションとスパイグッズの秘密兵器で、その場の男たちを倒していくブルース。しかしDM85の買い手Mr.xの正体は暴けず、DM85も爆破処分され回収できませんでした。
その頃ミャオミャオは、ツァイ警視からブタペストに送る捜査資料を渡されます。警視から適当に処理するよう言われた彼女は、資料を開封しフォンの動画との関連に気付きます。憎きファンを調べようと、まずネットを通じフェニックスに接触を試みるミャオミャオ。
ミャオミャオに接触されたフェニックスは、慌ててフォンにメールを送ります。お調子者のフォンですが、家では同居している母から将来を心配されていました。
母はなぜか自宅に送りつけられた大金を見て、息子をロクでもない事をやったのかと問い詰めます。しかし心当たりの無いフォンは、それよりベットの上に横たわる、母に見られては恥ずかしい物を隠すのに大わらわです。
ようやく母が去ると、部屋にはいつの間にかブルースが忍び込んでいました。見た目の割りにいい加減な通訳を介して、自分を”幽霊騎士団”の一員と名乗ったブルースは、今回の件に関わったフォンをスカウトに現れたのでした。
18世紀に密かに結成された”幽霊騎士団”は、人知れず悪の組織やテロリストを始末し、世界の平和を守っている秘密組織でした。フォンが居合わせた取引に関わった人物Mr.xを、ブルースは危険人物として追っていました。
ブルースはブタペストにいるDM85の買い手が、騒動でMr.xをフォンと勘違いしている事を利用し、彼を囮にして捕えようと計画、協力を求めに現れたのです。目の前の大金と、色々と経費名目で引き落とせる便利なカードに目がくらみ、危険な任務を引き受けたフォン。
ブタペストに到着すると、スパイ気取りで”幽霊騎士団”に接触するフォン。彼が何かを犯罪に関わっていると睨んだミャオミャオも、資料を引き渡す名目で到着し、現地の頼りない捜査官ビーフィーに出迎えられると、独断でフォンの後を追います。
現地でネット中継の相棒で、メカに強い友人シャンと合流した後、”幽霊騎士団”の秘密列車に乗り込んだフォン。幹部に集まった会議では間抜けな姿を披露しますが、地元の犯罪組織を率いるフラミン家が持つ宝物の聖杯と、DM85の交換をMr.xが望んでいると知らされます。
“幽霊騎士団”は聖杯を奪い、DM85の回収を計画します。フォンは自分も参加させろと訴えますが、彼がインターポールのミャオミャオに尾行されていると指摘し、彼に出番がくるまで大人しくしていろと命じるブルース。
その言葉に反発し、スパイ映画よろしく自らの手で聖杯を奪い、事件を解決しようと思い付くフォン。シャンに近づいたミャオミャオと、シャンのアシスタントで友人の女の子LVに、実は自分は世界を守るエージェントだと打ち明けます。
ファンはミャオミャオの正体を知らぬふりを装い、セクハラ行為でイライラさせながらも仲間に引き入れます。潜入活動に大乗り気のシャンと、LVとブタペストの仲間が作った特殊グッズを使用し、フラミン家の娘の誕生パーティーに忍び込み、聖杯を奪おうと計画するフォン。
4人の”ド素人エージェント”は、パーティーで演奏するパンクバンドとそのマネージャーに変装し、フラミン家のパーティーに潜入します。
映画『ザ・ルーキーズ』の感想と評価
ジャッキー・チェン映画の遺伝子を持つお騒がせアクション活劇
台湾映画界で大ブレイク中のダレン・ワンが、フランスのストリート・アクロバティック・アクション映画『YAMAKASI』ばりの、体をはったパフォーマンスを見せる映画です。
お調子者の主人公にギャグの嵐、変わった乗り物(サイドカーです)でのチェイスに、急にお笑いを忘れて涙腺に訴える展開、ジャッキー・チェンの冒険活劇映画そのままの展開です。
さて台湾・香港の俳優陣に、ミラ・ジョヴォヴィッチを加えた中華テイストの作品が、ハンガリーと合作でブタペストを舞台にしているには、世界の映画業界の動静が関わっています。
旧共産圏であった東欧諸国には民放TVが無く、その当時から映画文化が力を持っていました。冷戦後もその傾向は続き、映画の観客数はさらに増加したといいます。
映画産業を支えるスタッフが豊富で、人件費が安く、様々なロケ地に恵まれた東欧諸国に欧米の映画界は目をつけ、様々な作品の撮影が行われるようになります。東欧諸国は海外の撮影に税金の優遇処置を設け、積極的に誘致しました。
さらに自国の映画産業に助成金を投入し、東欧諸国の映画界は活況を呈しています。文化・文芸的な作品だけでなく、東欧発の「未体験ゾーン」的な、アクション・ホラー映画が続々誕生しているのも、こういった背景が存在します。
元気のある中国映画界とハンガリー映画界が、タッグを組んで娯楽作を生み出したのも、当然の流れといえるのです。
やりすぎ感と人命の軽さが中華風?
まるで中華料理の満漢全席のように、娯楽要素をこれでもか!と詰め込んだ感のある『ザ・ルーキーズ』。あらすじ紹介でスパイグッズの紹介は最小限に止めましたが、描写するのに時間を要するトンデモな品々が続々と登場します。
その中身は007、というよりドラえもんの秘密道具といった、悪ノリ系のアイテムです。本作の悪ふざけ部分は、相当タガの外れた状態で画面に登場します。
軽業・格闘アクションシーンはてんこ盛り、異国の風景は無論、サーカス場まで舞台にした、実にサービス過剰なロケーション。軽い下ネタ、くどい小ネタで笑いを取りながら、ここぞとばかり泣かせにもかかるベタな展開です。
軽い娯楽映画にしては、妙に命の軽い描写の数々。80年~90年代の香港映画をご存知の方なら平常運転、と感じるでしょうが、ご存知無い方だとこの展開には困惑を覚えるでしょう。
しかしハリウッドのアクション映画が忘れかけたノリを持つ、香港映画だけでなく60年代のジャン=ポール・ベルモンド主演の、フランスアクションコメディ映画にまでつながる系譜の作品として楽しめます。
とはいえここまでサービス過剰な映画も、疲れてしまうので少々考えモノです。
まとめ
色々と盛り込み過ぎと紹介した『ザ・ルーキーズ』、実は紹介した以外にも様々な要素がトッピングされています。
オープニング・エンドロールが凝っているのは勿論、ありがちですが主人公の飛行機移動はCGアニメ&キャラで表現。そして何故かミャオミャオの描く絶望的な未来は、独特のタッチのアニメで表現。実写以外の様々な表現技法も試したかった模様です。
冒頭で主人公、フォンと高層ビル登りを競うフェニックス、このシーンにしか登場しない人物を演じるのは、2015年中国のオーディション番組から芸能界デビューを果たしたショウ・セン(肖戦)。華流アイドルファンの注目を集める人物です。
あらゆる要素が詰め込まれたこの作品、色んなシーンが見る人それぞれが持つアンテナに、何かが引っかかるはずです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第21回は紛争の地で奮闘する、ロシア特殊部隊の活躍を描いたアクション映画『バルカン・クライシス』を紹介いたします。
お楽しみに。
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