連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第17回
多様なジャンルの映画の祭典「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第17回で紹介するのは、アクション映画『ハード・ナイト』。
クリスマスの夜、高層ビルを襲撃したテロリストと闘ったのは、”死んでも死なないタフな奴””世界一運の悪い奴”こと、ブルース・ウィリス演じる『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン刑事。続編『ダイ・ハード2』はその1年後、クリスマスの空港を舞台に死闘を演じます。
その『ダイ・ハード2』を監督したのが、レニー・ハーリン。彼が香港を舞台に”ダイ・ハード”な設定で描かれた、新たなアクション映画を生み出しました。
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CONTENTS
映画『ハード・ナイト』の作品情報
【日本公開】
2020年(中国・香港合作映画)
【原題】
沈黙的証人 / Bodies at Rest
【監督】
レニー・ハーリン
【キャスト】
ニック・チョン(张家辉)、ヤン・ズー(杨紫)、リッチー・レン(任贤齐)、フォン・ジアイー(冯嘉怡)、カルロス・チェン(陈家乐)、マー・シューリアン(马书良)
【作品概要】
クリスマスイブの夜、香港の高層ビルに現れた武装した男たちと、監察医とその助手が繰り広げる死闘を描いた、バイオレンス・アクション映画。
主演はジョニー・トー監督の『エグザイル 絆』や、ハリウッド映画『セルラー』の香港リメイク版『コネクテッド』、格闘技映画『激戦 ハート・オブ・ファイト』に出演のニック・チョン。彼と共に侵入者に立ち向かう助手を、華流ドラマ『霜花の姫~香蜜が咲かせし愛~』『龍珠伝 ラストプリンセス』のヤン・ズーが演じます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『ハード・ナイト』のあらすじとネタバレ
クリスマスイブの夜に相応しくない、激しい雨に見舞われた香港。そのビルの1つで監察医のニック(ニック・チョン)は、遺体を解剖していました。
警備員のキン(マー・シューリアン)と言葉を交わした助手のリン(ヤン・ズー)が、コーヒーを持ちニックのいる解剖室に入って来ます。解剖を終えた遺体に事件性は無し。解剖記録を録音して、作業は無事終了しました。
リンはニックの優秀な教え子でその腕を買われ、間もなく北京に転勤する事が決まっていました。今夜は2人で過ごす、最後のクリスマスとなります。
ニックは自分のロッカーを開け着替えますが、その扉には新聞記事の切り抜きが貼られていました。それは過去に、ニックと妻が宝石店で強盗に遭遇し、巻き込まれた妻が射殺された事件を伝える内容でした。彼のネックレスには、その思い出の指輪がかかっています。
リンが遺体を冷凍保管室に運んでいると、着替えを終えたニックが現れます。一息入れようと彼は保管室に保存した冷凍ピザを取り出します。2人が職場でクリスマスイブの夜を楽しんでいる時、夜勤のキンを残し他の警備員は帰宅していました。
ビルの外には帰宅する警備員の姿を見つめる、バンに乗った3人の男がいました。仮面を付け、拳銃を用意する男たち。男たちは身元がバレないよう、互いを仮面の名で呼び合います。
ニックとリンが解剖室に戻った時、男たちがセキュリティを破り、ビルに乗り込みます。警備員のキンに銃を突き付けスマホを取り上げ、電話やネット回線を切断、ビルを孤立化させます。
人質にしたキンに案内させ、侵入者は解剖室に乗り込んできます。リーダーはサンタの面を付けた男(リッチー・レン)で、トナカイ=赤鼻のルドルフの面の男(フォン・ジアイー)とエルフの面の男(カルロス・チェン)と共に、ニックとリンに銃を突きつけます。
サンタの要求は今日送られてきた女、アンキー・チェンの遺体から、銃弾を取り出し引き渡せというものでした。ニックとリンのスマホを取り上げますが、キンがもう1台持っていたスマホで通報しようとしたと気付き、彼を殴りつけます。
リンを人質にとられたニックは、サンタの指示通りに動くしかありません。彼はルドルフに見張られ冷凍保管室に移動します。ルドルフが気味悪がるのも構わず、そこで遺体にメスを入れたニックは、銃弾を取り出して渡します。
銃弾を得て目的を果たした侵入者たちは、リンとキンを冷凍保管室に連れて来ると、セキュリティカードを取り上げ、3人を閉じ込め引き上げます。喘息の持病のあるキンを救うためにも、急ぎ冷えきった保管室から脱出しなければならないニックたち。
しかしニックはその前に、アンキー・チェンの遺体に向かいます。彼はルドルフが気味悪がって解剖を直視しない事を利用して、別の遺体から摘出した銃弾を渡していました。彼はアンキーの遺体から、侵入者が求めた銃弾を取り出し回収します。
その頃侵入者たちは計画通り銃弾を奪い、これで自分たちの身は安全と喜んでいました。岸壁で車を停め降りた3人。サンタは2人を密かに射殺しようとしていました。
しかしルドルフから、解剖を終始監視していなかったと聞かされたサンタが、改めて受け取った銃弾を調べると、アンキーに使われた銃弾と異なっていると気付きます。
その頃ニックは冷凍保管室のセキュリティ回線を切り、ドアのロックを解除してリンとキンと共に脱出していました。しかし電話やネットで事件を通報することが出来ません。
ニックはアンキー・チェンの記録を調べ印刷し、彼女が麻薬取引のトラブルで、撃ち合って死んだ4名と同じ現場で、射殺体となって発見されたと知りました。
キンの吸入薬を求め、正面玄関の警備受付に向かったリンは、戻って来た侵入者たちと出くわします。身軽な彼女をエルフが追ってきますが、何とか逃れたリン。
ニックとキンは戻ったリンと共に逃げますが、侵入者たちは発砲しながら追ってきます。食堂に逃れた3人はドアを封鎖し時間を稼ぎます。サンタはニックが落したアンキーの記録から、彼が事件について調べたと気付きます。
ドアを破り侵入者が食堂に入ると。そこに誰の姿もありません。倉庫を調べると火が付けられていました。火災警報が働くと通報されます。侵入者が慌てて火を消す隙に、隠れていたニックたちは食堂から逃げ出します。
しかし警戒セットされたビルは、あちこちのドアがロックされ、セキュリティカードの無い3人は逃れられません。扉の向こうに夜勤の清掃作業員がいますが、彼は気付いてくれません。
それでも3人は建物の裏口に出るドアを開け、そこに駐車していたバンに乗り込みますが、キーがありません。車を押してドアを塞ぎ、時間を稼ぐ間に柵を乗り越え、逃げようと試みる3人。
しかし手間取っている間に侵入犯らが現れ、銃を突き付けられた3人は逃亡を断念します。するとサンタは体調を崩した警備員のキンを射殺、怒って歯向かったニックを叩きのめし、改めてアンキーの遺体から銃弾を取り出すよう要求します。
するとインターフォンが鳴ります。銃で脅されたリンが対応すると、それは遺体を引き取りに来た、葬儀社のキットの声でした。サンタはリンを人質に、ニックに何事も無いよう振る舞い、遺体を引き渡し帰らせるよう命じます。
1人遺体保管室に入ったニックは、隙を見てアンキーの遺体の手を調べます。爪にはニックが睨んだとおり、頬に傷を付けられたルドルフの物と思われる、皮膚が付着していました。
ニックが引き渡す遺体をストレッチャーの乗せて現れると、サンタはルドルフにリンを倉庫に連れて行き、そこで監視するよう命じます。エルフには解剖させるアンキーの遺体を用意させ、ニックには引き渡す死体袋の中身を見せるよう告げるサンタ。
ニックが死体袋を開け、中の禿げた老人の顔を見たサンタは、思わず縁起でもないと呟きます。サンタとエルフに監視される中、ニックは葬儀社のキットをビルに入れます。
いつもいる警備員のキンがいない事を不審に思いながらも、クリスマスに浮かれたキットは異変に気付きません。ニックは室内用クレーンを操作し遺体を吊り下げ、キットの用意したストレッチャーに乗せますが、彼はその際自分の指を傷つけます。
リンはルドルフを挑発し抵抗しますが、その際インターフォンを操作し、清掃員に騒ぎを知らせようと試みますが、気付いてもらえません。ニックは死体袋に指の傷から出た血で、香港の緊急通報番号999の文字を書きましたが、その意図はキットに伝わりません。
リンとルドルフが争った際、誤って拳銃が発砲されます。キットもその音に気付きました。とっさにニックはこの後、自分が逃亡を試みた場合の展開を予想しますが、それは良い結果をもたらしませんでした。
ニックは逃亡を諦め、今の音はリンがアクション映画を見ているからだと誤魔化します。結局異変に気づかぬままのキットを、ニックは送り出しました。
一方リンはルドルフに反撃して倒すと、彼から銃とスマホを奪います。彼女が外にでると様子を見に現れたエルフと鉢合わせとなり、その胸に銃弾を撃ち込んで倒します。しかしスマホは外部につながらず連絡がとれません。
サンタに監視されアンキーの遺体を解剖するニック。そこに銃を手にしたリンが現れます。銃を棄てたサンタからスマホを奪い、通報を試みるニック。
そこにルドルフとエルフが現れ、ニックは通報した電話を切ります。ルドルフは気を失っていただけで、エルフは着用した防弾チョッキで弾を防いでいました。リンを殺そうとする侵入者たちに、ニックは早く解剖するには、助手である彼女が必要と説明して諦めさせます。
こうして侵入者たちの監視の下で、ニックとリンは問題の遺体を解剖することになりました。
映画『ハード・ナイト』の感想と評価
「ダイ・ハード」シリーズの特徴である“心理戦アクション”
舞台はクリスマスイブの夜。アクション映画ファンなら、誰もが「レニー・ハーリンが監督してるこの映画、『ダイ・ハード』そのままだろ!」と思うはず。そして「良く考えたらレニー・ハーリンって、『ダイ・ハード2』の監督か…」と気付いたはず。
参考映像:『ダイ・ハード2』予告編(1990年日本公開)
ところが映画を見始めると、意外にも銃撃戦より心理戦、頭脳戦の要素が強いサスペンス展開。『ダイ・ハード』みたいな映画と思い込んでるいると、以外な展開にグイグイ引き込まれます。
一番の違いは主人公、皮肉屋の親父キャラ、「ダイ・ハード」シリーズのブルース・ウィリスに比べると、ニック・チョンは実に冷静沈着、頼りになる真面目キャラです。
レニー・ハーリンは2014年中国移住して以来、実生活や仕事仲間を通じ、中国の映画文化について多くを学んだ、と語っています。映画の中ににユーモアあるシーンを挿入するのは、ハリウッドも中国も同じ。しかし中国の観客に、アメリカ風の皮肉な描写は好まれないと知って、それがこの作品に反映されたと語っています。
中国でヒット映画を作るには、観客に好まれるストーリーに密着した感情のうねりが必要だ、とも語っている監督。中国の観客は登場人物の感情的な描写にのめり込み、それに感激して涙を流してくれる人々だと分析しています。
レニー監督が苦戦しながら挑んだ中国での映画作り
フィンランド出身のレニー・ハーリン監督は、『ダイ・ハード2』のクライマックスシーンに、”フィンランド第2の国歌”と言われる交響詩「フィンランディア」を使用、故国で上映されるや観客を熱狂の渦に巻き込んだ、というエピソードを残しています。
故国の人々が誇る、ハリウッドで大成功を収めた監督も、2000年以降はヒット作に恵まれず低迷。そこでジャッキー・チェンの新作映画の企画が持ち上がったのを機に、新天地を求め中国に移住しました。こうして完成した映画が『スキップ・トレース』です。
参考映像:『スキップ・トレース』予告編(2017年日本公開)
中国映画界に飛び込んだレニー・ハーリンは、中国資本を目当てに持ち込まれた、ハリウッド映画のリメイクや続編といった多くの企画が、とん挫してゆく姿を目にします。彼はその原因をハリウッドの映画人の、あまりに中国や他の国の文化に無頓着な姿勢にあったと語っています。
ロマンチック映画やアクション映画が、説得力を持つキャラクターを得て、観客と感情的に共鳴できる作品として作られてこそ、中国で受け入れられると語るレニー・ハーリン。
中国の映画作りには困難な側面もあります。元々英語で書かれた企画・原案の脚本を、まず中国の関係者に読めるよう翻訳、企画が動き出すと改めて中国語で脚本が書かれました。
監督にレニー・ハーリンが浮上すると、彼に読ませるため脚本を英訳されましたが、明らかに奇妙な部分があり、脚本制作の過程を聞き、元の英語の脚本を読んだ上で監督を引き受けました。
改めて脚本を、監督と映画に詳しいチームで書き直し北京語に翻訳、さらに広東語に訳し映画の撮影がスタートされた、と紹介しています。翻訳者には困難な仕事でしたが、それは様々な文化的側面を正す、監督の言葉を借りると「チーズバーガーを、団子や水餃子に変える」作業でした。
また映画の製作過程の分業化が進んだハリウッドと異なり、「同じ問題に取り組む、400名の仲間と共に映画を作った」とも紹介しています。
フィンランドからハリウッドに移ったレニー・ハーリン、齢50半ばにして中国に新たな活躍の場を求め、今も第一線で奮闘中です。
まとめ
『ダイ・ハード』の、そしてハリウッド映画の焼き直しに見えて、実は色々と中国仕様にローカライズされた、アクションサスペンス映画が『ハード・ナイト』です。
なるほどアクションはカンフー映画の流れを組んで見応えたっぷり、意外とあっさり人を殺した後に、情に訴えるフォローが入るのも中華テイストでしょうか。
ラストの大爆発が悪人退治に役立たず、これでは主人公サイドの自滅ですが、最後は爆発で締めるのはハリウッド映画も香港映画も一緒、お約束として楽しみましょう。
中国での実績を引っさげ、次はハリウッドで久々のアクション映画を撮る、雷尼·哈林(レニー・ハーリン)監督の今後の活躍にもご注目下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第18回は盲目の男と出産間近の妊婦がゾンビと対決するホラー映画『ブラインデッド』を紹介いたします。
お楽しみに。
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