Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/01/17
Update

映画『血筋』感想とレビュー評価。消息不明の父親と再会した息子の愛憎の先にあるもの|だからドキュメンタリー映画は面白い36

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第36回

音信不通だった父親と18年ぶりに再会した青年が知る、切っても切れない親子の血筋。

今回取り上げるのは、2020年3月14日(土)より新潟シネ・ウインドで先行公開、3月28日よりポレポレ東中野ほかで全国順次公開予定の『血筋』です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『血筋』の作品情報

(C)Ryuichi

【日本公開】
2020年(日本映画)

【外国語題】
핏줄(英題:Indelible)

【監督・製作・撮影・編集】
角田龍一

【製作】
山賀博之

【音楽】
郷古廉

【作品概要】
韓国・北朝鮮の他に、もう一つ存在する「中国朝鮮民族」に密着したドキュメンタリー映画。

彼らの多くが韓国へ憧れ、出稼ぎに行ったという、これまで注目されてこなかった中国朝鮮民族を、とある一組の家族の父子を通じて追っていきます。

監督兼プロデューサーの角田龍一は、資金難による幾度の製作中断に陥るも、クラウドファンディングを活用したのち、5年の歳月をかけて完成こぎつけました。

国内外での映画祭に出品された本作は、カナザワ映画祭2019「期待の新人監督」部門において、グランプリを受賞しています。

映画『血筋』のあらすじ

青年のソンウは、中国朝鮮族自治州・延吉で生まれ、10歳のときに日本へ移住。

20歳を迎えた時に、自らのルーツを探るため、画家だったという父を探すことを決意します。

中国の親戚に父の行方を尋ねるも、誰も消息を知らないばかりか、父の話題にすら触れたがりません。

それでも、叔父の助けにより再会を果たした父は、韓国で不法滞在者として日雇い労働をしながら、借金取りに追われる日々を送っていたのです。

そんな父親と、数日間行動を共にすることにしたソンウは…。

長年会っていなかった父親を追う息子

長らく不明となっていた家族の消息やルーツを探る内容のドキュメンタリー映画は、これまでいくつも存在します。

主なところだと、前回コラムで取り上げた『ティーンエイジ・パパラッチ』(2011)の監督エイドリアン・グレニアーが行方知れずの父親を追う『Shot in the dark』(2002、日本劇場未公開)や、女優のサラ・ポーリーが自らの出生と亡き母の人生を探る『物語る私たち』(2014)などがあり、これらは観る側も被写体と同化するかのように、一緒になって事の顛末をたどっていく構成です。

本作『血筋』も、青年のソンウが、幼少時以来会っていなかった父親と再会するというテーマですが、前出の作品と大きく異なるのは、作品序盤でその父がすぐに登場する点。

父親との再会以降の親子関係に、本作はあくまでも重きを置いています。

虚栄と金銭欲に浸かる父親

参考映像:『血筋』を観た観客の反応

叔父の導きにより18年ぶりに父親と再会したソンウでしたが、彼は韓国で不法滞在者として日雇い労働をしながら、借金取りに追われる日々を送っていると知ります。

わざわざ会いに来てくれたお礼として、ソンウを食事に連れて行き、隣の席の客に自慢の息子だとアピールする父親。

ですが、それらの行為は、父としての威厳を示すためだけの虚栄から来るものであることが、すぐに露呈します。

金がなくなると「仕事の同僚から借りればいい」と語り、しまいにはソンウにまでせびろうとする始末。

「兄貴には金銭問題でこれまで散々迷惑をかけられた」として愛想をつかした叔父の言葉が、痛烈にリフレインします。

血は嘘をつかない

息子に責められ屁理屈のような反論をしたかと思えば、「俺みたいな父親になるな」と寂しげに諭したりと、支離滅裂な言動を繰り返すソンウの父。

第三者から見ても、確かにこの父親はどうしようもない人物ですし、ソンウも再会したことを後悔するかのように、一旦は彼から離れます。

しかし、町の人たちが二人の顔を見て「よく似ている」と口々に言うように、いくら反発しても親子は親子。

何もそれは容姿に限ったことではありません。作品中盤、画家志望だった父親がソンウの自画像を描きます。

「もう何十年も描いていない」と言いながら、サラサラとペンを走らせる父。

ゴッホやピカソ、ダリといった芸術家が、破滅的かつ破天荒な人生を送るも後世に名を遺したように、もしかしたらこの父親も、なすべきことをしていたら大成してたのかも…そんな「たられば」を連想させます。

そもそも、ソンウと父親のルーツである、中国・延辺朝鮮民族自治州内に暮らす「朝鮮民族」とは、朝鮮戦争や文化大革命といった動乱の歴史に翻弄されながらも、成功を夢見て生き延びた一族。志半ばで夢破れるも、ソンウの父もまた、画家として名を成そうとした人物でした。

そして、そんな父の血筋を間違いなく受け継いでいるソンウ。

血は争えないし、血は嘘をつかない──それは誰しも逃れられない宿命なのかもしれません。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング|あらすじと感想。エイミー・シューマー主演の傑作コメディ|銀幕の月光遊戯17

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第17回 今年最後を締めくくり、新しい年を迎えるにふさわしい最高に可笑しくて、ハートフルな映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』をご紹介します。 主役のレ …

連載コラム

【映画2022ネタバレ】ゼンカイジャーVSキラメイジャーVSセンパイジャー感想評価と結末あらすじ解説。ゼンカイ脳とファンサ全開で勇姿再び!|邦画特撮大全108

連載コラム「邦画特撮大全」第108章 今回の邦画特撮大全はVシネクスト『機界戦隊ゼンカイジャーVSキラメイジャーVSセンパイジャー』を紹介します。 2022年2月27日に最終回を迎えたスーパー戦隊シリ …

連載コラム

映画『英雄の証明』あらすじ感想と評価考察。アスガー・ファルディが描く借金苦にあえぐ男が遭遇する“事件の真実”|タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』10

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第10回 『別離』(2011)、『セールスマン』(2013)でアカデミー賞外国語映画賞を二度にわたり受賞したイランの巨匠、アスガー・フ …

連載コラム

【ネタバレ】ジャンゴ 繋がれざる者|あらすじ解説と感想評価。タイトルの意味?西部劇で黒人ガンマンが暴虐白人を血の海に沈める【すべての映画はアクションから始まる38】

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第38回 日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画は …

連載コラム

映画『夜の伝説マダムクロード』ネタバレあらすじと感想評価。ラスト結末【実話実録で売春業界で繁栄と埋没した女帝を描く】|Netflix映画おすすめ27

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第27回 今回ご紹介する映画『夜の伝説 マダム・クロード』は、1960年代後半にマフィアから政財界、世界の要人を顧客に持つ、パリにあった“高 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学