連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第1回
映画ファンには毎年恒例のイベント、令和初となる劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」が、今年も1月3日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷で開催。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、また一部上映作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
さて玉石混合、埋もれた佳作から珍品までそろった「未体験ゾーンの映画たち2020」、全54作品を2020年もすべてを見破し、ご紹介していきます。
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「未体験ゾーンの映画たち2020」の第1回は、ゴシックな雰囲気漂う音楽ホラー映画『デビルズ・ソナタ』。
『ジャージー・ボーイズ』のフレイヤ・ティングリーが主人公ローズを演じ、謎めいた作曲家マーロウを『ブレードランナー』で知られ、2019年7月19日にオランダの自宅で闘病後に惜しまれつつ亡くなったルトガー・ハウアー。
美しいバイオリニストのローズのもとに、幼い頃に生き別れた父から遺産を受け継ぎます。その父とは、かつてクラシック音楽界に高名をはせ、一斉を風靡しながら突如として姿を消した作曲家マーロウでした。ローズに遺された物とは、広大で怪しげな屋敷と遺作となる謎多き楽譜でしたが…。
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CONTENTS
映画『デビルズ・ソナタ』の作品情報
(C)2018 THE PROJECT FILM CLUB – FEATURISTIC FIMS – CTB FILM COMPANY – TASSE FILM
【日本公開】
2020年(フランス・イギリス・ロシア・ラトビア合作映画)
【原題】
The Sonata
【監督】
アンドリュー・デズモンド
【キャスト】
フレイヤ・ティングリー、シモン・アブカリアン、ジェームズ・フォークナー、ルトガー・ハウアー
【作品概要】
世間から身を隠した天才作曲家が残した楽曲に秘められた謎と、恐怖を描くホラー映画。
主演のバイオリニストをクリント・イーストウッド監督作『ジャージー・ボーイズ』で、悲劇的な最期を遂げる主人公の娘役を演じた、オーストラリア出身の女優フレイヤ・ティングリー。そのマネージャーを『007 カジノ・ロワイヤル』で悪役の武器商人を演じたシモン・アブカリアン、謎を解く鍵となる人物を映画「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズや、テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に出演のジェームズ・フォークナー。
恐るべきバイオリンソナタの楽譜を娘に遺した高名な作曲家を、ポール・バーホーベン監督作品に出演して名を挙げ、『ブレードランナー』のレプリカント役で強烈な印象を残し、2019年に死去したルドガー・ハウアーが演じています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『デビルズ・ソナタ』のあらすじとネタバレ
(C)2018 THE PROJECT FILM CLUB – FEATURISTIC FIMS – CTB FILM COMPANY – TASSE FILM
演奏をレコーディング中の新進気鋭のバイオリニスト、ローズ(フレイヤ・ティングリー)を、マネージャーのチャールズ(シモン・アブカリアン)が訪れます。彼はローズに、父の死去を伝えに現れました。
他に身寄りの無いローズの父は、フランスの森の中にある、かつて貴族が住んでいた古く広大な洋館を彼女に遺していました。その人物が作曲家のマーロウ(ルドガー・ハウアー)と知り、チャールズは驚きます。
マーロウは1980年代に、低迷するクラシック音楽界を1人で救ったとまで評された作曲家でした。その楽曲の権利を相続すれば、ローズには大変な財産が手に入ります。チャールズは彼女が、父マーロウの存在を自分に隠していた事に驚き、2人は口論になります。
ローズにとってマーロウは、生後14ヶ月の頃に自分と母を捨てた人物。彼女は父に強い反発を覚えて成長しており、相続する財産にも興味を持っていませんでした。
しかし他に遺産を継ぐ者はいません。ローズは公証人の手から、古い洋館の鍵と彼女の名が記された、小さな鍵の入った封筒を受け取ります。
次の日ローズはレコーディングを切り上げると、フランスの森の中に建つ父の洋館に向かいます。
ローズは1人、散らかったままの洋館に入ります。突如現れた老女にローズは驚きますが、彼女はマーロウ邸を週1回木曜だけ通いで訪れ、マーロウの世話していた家政婦のテレサでした。
ローズはテレサに父について訊ねますが、彼女も人を避ける様に暮らしていたマーロウについて、詳しく知りませんでした。テレサは人手の無いローズのために、今まで同様に通いで館に来て世話すると約束します。
そしてローズは彼女の口から、父マーロウは自分の身に火を放って自殺した、と聞かされます。
テレサが去った後、ローズは父の部屋で、自分の名を書いた封筒にあった鍵に合う引き出しを見つけます。そこには奇妙な紋章の入った書類入れに保管された、「バイオリンソナタ54」と題された楽譜が入っていました。
その楽譜には音楽記号と異なる、謎のマークが記されていました。試しにその曲をローズがピアノで弾くと、怪しい気配が近づきます。
ローズは発見した楽譜について、マネージャーのチャールズに相談します。彼は亡きマーロウの遺作となる楽曲の発見に驚き、喜んで彼女のために楽譜の謎について調べると約束します。
彼が動画を検索すると、マーロウのインタビューが見つかりました。その中で彼は質問に対し、音楽は言葉と異なる心の叫びだと語っていました。
自分はその声を聞いて記しているだけだ、と彼は答えます。それは神の声かと聞かれると、似たようなものだとだけ返すマーロウ。今手掛けている曲は、少なくともある人の心には響くだろうと、彼は言葉を結びます。
その頃、入浴中のローズは怪しい気配と子供の声に誘われ、館の中を探し歩きます。突如ベルが鳴った置時計に驚いた彼女は、その時計に楽譜に記されたマークの1つと、全く同じものが刻まれていると気付きます。
翌日、近隣の村の居酒屋で煙草を購入したローズ。しかし彼女がマーロウの館から来たと知ると、住人の表情は固くなります。居酒屋の壁には行方不明の子供を探す貼り紙がありました。
その頃チャールズはかつて世話をした音楽家のジェームズに、マーロウの遺した楽譜を見せていました。彼にも記された記号の意味は分かりませんが、これが何か隠された意味を持つものだと推測します。
ジェームズは記号の意味を知るかもしれない人物として、一時期マーロウと共に仕事をした、少々偏屈な人物と噂されるヴィクトル(ジェームズ・フォークナー)を紹介します。
ヴィクトルを訪ねたチャールズは、彼に楽譜を見せます。記号について訊ねられた彼は、チャールズに一冊の本を示します。それは秘密結社“闇の騎士団”について記した書物でした。
楽譜に書かれた記号は、“闇の騎士団”が使用していた紋章でした。ロマン主義を継承する彼らは、音楽こそ未知の世界への扉を開く、魔法のようなものだと信じていました。正しいメロディを1つも外さず、正しいピッチで奏でれば、悪魔を呼び出せると彼らは信じていました。
マーロウもそれを信じ、生後間もないローズ以外の彼の持てる全てを捧げて、悪魔を呼び出す曲を作曲してたのです。こうして完成した曲を正しく演奏するには、楽譜に記された記号の謎を解く必要があります。
ヴィクトルから“闇の騎士団”の本を借りると、ローズの元へと急ぐチャールズ。
ローズは館で父の残した、新聞記事の切り抜きを見つけていました。それはバイオリニストとして成功した彼女に関する記事でした。マーロウは娘が育つ様を、深く気にかけていたのです。
その時、暖炉の中で炎に煽られた壁面に、楽譜に記された記号の1つが浮かび上がります。
マーロウに館に現れたチャールズは、ローズにヴィクトルから聞いた話を聞かせます。この館にはかつて、秘密結社“闇の騎士団”のリーダーが住んでいました。
楽譜に記された4つの記号は、“闇の騎士団”が使用した紋章でそれぞれ“権力”“不死”“出現”そして“双極性”を示すものでした。
暖炉の中にあった、“権力”の記号の書かれた楽譜の箇所を炎であぶると、音符が浮かび上がりました。“不死”の記号を刻んだ時計は、1時間遅れていました。楽譜のその箇所は前に、ずらして演奏すれば良いと判明しました。
いつしか2人は、マーロウの残した楽譜の謎を解き明かすことに熱中していたのです。
映画『デビルズ・ソナタ』の感想と評価
(C)2018 THE PROJECT FILM CLUB – FEATURISTIC FIMS – CTB FILM COMPANY – TASSE FILM
格調高い雰囲気で見せる音楽ホラー
バイオリンの名演奏で人々を魅了し、その超人的な技術は「悪魔に魂を売って得た」と噂された19世紀のバイオリニスト、ニコロ・パガニーニ。その生涯は音楽映画の巨匠、同時にホラー映画『キャンディマン』の監督でもある、バーナード・ローズにより伝記映画化されています。
こういった背景もあってホラーと相性の良い音楽の世界。クトゥルフ神話の創造者、H・P・ラヴクラフトは、ヴィオルの演奏が異界の怪物を呼び出す小説、『エーリッヒ・ツァンの音楽』を著しています。
ちなみにパガニーニが活躍したのは19世紀の欧州、本作に登場する“闇の騎士団”も、同じ時代にロマン主義を掲げ暗躍した設定の秘密結社。設定の様々な部分でつながっていると思われます。
音楽が魔女を復活させるロブ・ゾンビの『ロード・オブ・セーラム』や、安っぽいヘビメタで悪魔を呼び出すコメディホラー『デビルズ・メタル』など、実は結構豊富な音楽ホラーの世界。その正統派の1本と呼べるのが『デビルズ・ソナタ』です。
ゴシックホラーを成立させたイイ顔の役者たち
(C)2018 THE PROJECT FILM CLUB – FEATURISTIC FIMS – CTB FILM COMPANY – TASSE FILM
雰囲気のあるホラー映画、そして本作はその定番“館モノ”ですから、かつての怪奇スターの様な雰囲気ある役者が不可欠です。
主人公ローズを演じたフレイヤ・ティングリーは、時に『サスペリア』のジェシカ・ハーパーの様な表情を見せながら、繊細さと父譲りと思われる気の強さを表現しています。
シモン・アブカリアン、ジェームズ・フォークナーの落ち着いた演技も見物。そして本作は没後の公開となったルドガー・ハウアー、明らかに1人別撮りでの出演ですが設定上問題無し、若い頃からお馴染みの狂気を秘めた男を演じています。
このルドガー・ハウアーが楽譜に仕掛けた謎は、解いたところで本当に悪魔の注文通りの演奏が出来るのかね、という素朴な謎は残りますが些細な問題、映画全編に漂うゴシックホラーの雰囲気に浸り楽しみましょう。
まとめ
(C)2018 THE PROJECT FILM CLUB – FEATURISTIC FIMS – CTB FILM COMPANY – TASSE FILM
格調高い正統派ホラーが好きな方におすすめの『デビルズ・ソナタ』。フレイヤ・ティングリーの今後の活躍にも要注目です。
ややこしい楽譜の謎を解いてもらえなければ自殺が割に合わない上に、この壮大な計画のために幼い娘を手放した、よく考えたらツッコミ所だらけのルトガー・ハウアー。娘が自分の思うように成長しなかったら、どうするつもりだったんでしょうか。
好意的に解釈すれば、娘が順調にバイオリニストとしての成長している姿を確認しながら、「よぉし、パパ頑張っちゃうぞ!」と子供をさらって拷問しながら、1人コツコツ作曲していたのかもしれません。
ともかく己が仕組んだの野望の為に、子供が自分が望むようにに成長すると賭けて、ウン十年かけた無理の多い企てを実行する姿は、石井輝男監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の土方巽とイイ勝負です。
土方巽の野望は明智小五郎に断たれましたが、石井輝男に匹敵する凶悪映画を撮り続けた、ポール・バーホーベン監督の盟友、ルドガー・ハウアーは企てを見事達成させました。流石はレプリカント俳優、最後までタダ者ではないですね。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
(C)Quotes from the story “The Mrs. And the peddler” by Shmuel Yosef Agnon from ‘Smoch ve’nire’ publisher shaken 1950. All rights of the story “The Mrs. and The Peddler” reserves to Shoken publishers
次回の第2回は女たちが運営する、男子禁制の秘密文学クラブの闇を描く『リーディングハウス』を紹介いたします。
お楽しみに。