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映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』作品情報
【公開】
2016年(アメリカ)
【原題】
EIGHT DAYS A WEEK-The Touring Years
【監督】
ロン・ハワード
【キャスト】
ザ・ビートルズ、ウーピー・ゴールドバーグ、エルヴィス・コステロ、エディ・イザード、シガーニ―・ウィーヴァー
映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』あらすじとネタバレ
スター誕生
1963年11月。マンチェスター。ビートルマニアと呼ばれる、熱狂的なビートルズ・ファンがイギリスを席巻していました。若い女性ファンが「音楽も髪型も素敵」と言う一方で、大人達の反応は「彼らは若者を駄目にする」でした。
当時を振り返ってポール・マッカートニーは語ります。「ビートルズは一夜にしてスターになったと思われているが、それは違う」。無名時代はドイツへ渡り、ハンブルグのクラブでパフォーマンス。1日8時間演奏する日もあったと言います。
同年12月。アメリカのラジオで、初めて「I Wanna Hold Your Hand」が流れます。翌年、フランスの音楽チャートで1位を記録した彼らは、NYへ飛び立ちます。
女優ウーピー・ゴールバーグは当時の興奮を語ります。「彼らの登場は、まさに“啓示”だった。音を聞いた途端、子ども心に何かがひらめいた。世界が光り輝いて見えたの。ビートルズのファンになること。それだけでもう最高だった」。
ビートルズの成功は、マネージャーのブライアン・エプスタインなしではあり得ませんでした。彼は当時27才。実家はレコード店を経営。知的で洗練されていたエプスタインは、ビートルズの曲を聴いた途端、彼らのスター性を見出します。
当時のビートルズは皮ジャンにジーンズ。どちらかといえば不良っぽいイメージだった彼らを、仕立て屋に連れていったエプスタイン。彼は4人にスーツを作ってやります。ビートルズのイメージを決定づけたのは、エプスタインのセンスでした。
‘64年4月。アメリカンチャートのトップ5を独占するという史上初の記録を達成。続いてオランダ、レバノン、香港、オーストラリアで次々とナンバーワンを記録。ジョンは言います。「ビートルズはまるで、次々と新大陸を発見する船のようだ」。
初の映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!(原題:Hard Days Night)』が完成。この頃の彼らは、自分達のやることを心から楽しんでいる時代だったといいます。しかし大人達の関心は、「ビートルズのブームはいつ終わるのか?」でした。
ツアー
当時のツアーに同行したジャーナリストのラリー・ケインは語ります。「ステージに押し掛ける何千人もの人々。何百人もの失神する少女達。暴動が起きるほどの熱狂。これは現実なのか?と思ったほどだ」。
彼らのコンサートを見た女優、シガ二―・ウィーバーは当時を振り返ります。「彼らを見るためにドレスも選んだ。本当に興奮したわ。あの頃はジョンに恋していたから」。
アメリカ南部では公民権運動が起きていました。会場のゲイターボウルが人種隔離されていると知ったメンバーは、これに抗議。「あの人のため、この人のために演奏するんじゃない。人々のために演奏するんだ」。4人の若者の発言に世界が驚きます。
一方、彼らはツアーに疑問も感じていました。つねに自分達の演奏の出来が気になります。何故なら、観客はまともに演奏を聴いていないとわかったからです。4人がどんなに頑張って演奏しても、そこにあるのは悲鳴と歓声と混乱だけでした。
彼らが自由に表現できる場所は、レコーディング・スタジオだけでした。スタジオは4人にとってまさに“聖域”。‘64年12月。「Eight Days A Week」は音楽チャートで11週1位を独走します。
‘65年。新作映画『ヘルプ!4人はアイドル(原題:Help!)』を発表。ポールは「実は興味がなかった」と本音を吐露します。「映画制作も、二度目になると刺激がなくなる」。
同年、世界中のスタジアムで大規模なツアーを行うビートルズ。最大の規模を誇るNYのシェイスタジアムでは5万人以上の観客を前に演奏します。当時の音響システムでは限界があり、メンバー本人ですら演奏が聞こえないという過酷な状況でした。
「僕らが4人でよかった。エルビスだったら一人きりだ。僕らは気持ちを分かち合える。こんなツアーはもうやりたくない」。メンバーの気持ちはすでに限界でした。
同年。アルバム「Rubber Soul」は8週間第1位。エルビス・コステロは言います。「アルバムを聴いて“正気か?”と疑った。以前のビートルズとまるで違う。でも6週間後には夢中になってたよ。人々を新たな世界へ導く素晴らしい音楽だ、と」。
終焉
そして有名なエピソード、バッキンガム宮殿でのMBE(大英帝国勲章)受賞式へ。マスコミは「“反逆の音楽”が勲章に値するのか?」と辛らつな質問を彼らに投げかけます。4人の発言は世間によって捻じ曲げられ、音楽以外でも叩かれます。
翌年。4年間、音楽で突っ走ってきた彼らは、初めて3カ月の休暇を取ります。「何か新しいことがしたかった」とポール。ジョージはインドに影響を受け、リンゴも妻子のために新居を購入。4人がいつも一緒に過ごすという時代は終わりを迎えます。
‘66年、日本公演。同年、ジョンの「ビートルズはキリストより有名」発言がアメリカで波紋を呼びます。当時、教会の信者が減少する中、ジョンの発言は反キリスト教と取られ、各地でビートルズのレコードが焼かれ、デモ行進まで起こります。
同年のサンフランシスコのツアー。彼らの気持ちはついに限界に来ます。「誰も音楽を聴いていない。自分達はただの見世物。僕らはサーカスじゃない。音楽をやるためにここにいるんだ」。
3月後、レコーディング・スタジオに入った4人は、音楽を創造することで忘れていた力を取り戻します。「別人になりたかった。ビートルズではない何かに」と、ポール。サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドの誕生でした。
ニューアルバムは、米・英で1位を獲得。さらに全世界で3年間チャート・イン。2012年、ローリング・ストーンズ誌のオールタイム・ベストアルバム1位にも輝きます。しかしそれ以降、彼らの活動はスタジオ中心に移行していきます。
その後、ビートルズは4年間で5枚のアルバムを発表。そして’69年1月30日。ロンドンのアップル本社の屋上で、一度だけのライブを行います。「Don’t Let Me Down」が、ロンドンの空に響き渡ります。
『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』の感想と評価
「シューベルトは、800曲のうち美しいのは100曲。ビートルズと比較するなら、それはモーツァルトだ。創造性の見事さでは負けていない」。劇中でそう評されるビートルズ。
見た覚えのある映像を含め、デジタル化された4人の美しいこと!特に’65年までの、演奏することが楽しくてたまらない!という気持ちを全身で表現しているライブ映像の素晴らしさは、ファンでなくとも胸に迫るものがあるのではないでしょうか。
静止画にゆれ動く煙草の煙やコーヒーの湯気など、映像の遊びもセンス抜群です。余談ですが、4人のヘヴィースモーカーぶりにはびっくりです。あの様子で、よくステージであそこまで声が出ていたなと。
また、インタビュー映像の数々も楽しませてくれます。マスコミの意地の悪い質問に即答するジョンやポール。それもユーモアと皮肉たっぷりに。一人が答えにつまると、誰かが必ず面白おかしくフォローする。本当に頭のよい人達なのだと思います。
ビートルズへの思いを語る、関係者のインタビューも素晴らしい内容です。ビートルズの登場で、初めて人種を超えた自由を感じたというウーピー・ゴールドバーグ。ジョンに恋していたのと当時の自分を思い返すシガ二―・ウィーバー。時代と共に変わりゆく、ビートルズの行方を考察するエルヴィス・コステロ。
鮮明化された映像は、ノスタルジーをリアリティにまで高めました。と同時に4人の当時の苦悩まで、観ているこちらにずしんと響きます。’64年のステージでは輝いていたリンゴの笑顔も、’66年の武道館では消えています。
誰も自分達の演奏を聴いていない。信じられない話ですが、映像を見て驚きました。人気が出れば出るほど、観客が増えれば増えるほど、自分達の音は軽視される。
これはあくまでロン・ハワードの映画なので、レコード会社との契約問題、エプスタインやオノ・ヨーコなど、ドキュメントであるなら触れるべきエピソードが一切描かれていません。さらにはアップルの屋上ライブで締めるという中途半端さです。
しかし、敢えて「ライブで輝いていた時代」に焦点を当て、4人の音楽への情熱と苦しみを際立たせることで、逆にビートルズの本質を鮮やかに見せてくれました。
まとめ
ビートルズの元メンバーであるポール・マッカートニーとリンゴ・スター、そしてオノ・ヨーコら関係者の協力を得て作られた公式ドキュメンタリー映画。
‘63年のビートルマニア誕生から’69年のルーフトップコンサートまで、貴重なライブやインタビュー映像、関係者や当時ファンだったというハリウッド・スター達の証言などを交えて描かれます。
メガホンをとるのは、『アポロ13』(1995)、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)、『インフェルノ』(2016)などのロン・ハワード監督。
人間を優しい目線で描くことを得意とするロン・ハワード。そこにお馴染みの映像の美しさ、音の良さ、編集の巧みさも加わって、正直、ドキュメンタリーというよりは「ロン・ハワード映画」という印象のほうが個人的には強かったです。
スタジオ時代に至るまでの、もっともキラキラした時代の4人の姿。彼らの全てを熟知するマニアより、ビートルズ・ビギナーに新鮮に受け入れられそうです。この映画で改めてビートルズを聴いたという人なら、たちまちファンになってしまうかも。