ポン・ジュノ監督のカンヌパルムドール受賞『パラサイト 半地下の家族』。
映画『パラサイト 半地下の家族』は、世の中にベジタリアンを増やしたと言われるほど注目を集めた映画『オクジャ』(2017)に続く、ポン・ジュノ監督作品。
キム家の長男・ギウが豪邸で家庭教師を始めたことに端を発し、予測不可能な事態に発展していきます。
バイタリティ溢れる貧困家族のパラサイト振りをコミカルに描き、金持ち家族の矛盾を突く社会派コメディ映画。
主演は、ポン・ジュノ作品常連の演技派俳優ソン・ガンホ。
映画『パラサイト 半地下の家族』の作品情報
【公開】
2019年(韓国映画)
【原題】
기생충 (寄生虫)(英題:Parasite)
【監督】
ポン・ジュノ
【キャスト】
ソン・ガンホ、チャン・ヘジン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、イ・ジョンウン、チョン・ジソ、パク・ソジュン、パク・ミョンフン
【作品概要】
ポン・ジュノ監督は、6年前、『スノーピアサー』のポストプロダクション中に本作のアイデアを練っていたと話します。
トロント国際映画祭で史上最高の映画監督の1人と紹介されたポン・ジュノ監督。『パラサイト 半地下の家族』は、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したほか、北米、南米、欧州の映画祭で次々に賞を受賞し既に大ヒットを記録。2020年度のアカデミー賞にノミネートされる可能性が非常に高い映画です。
映画『パラサイト 半地下の家族』のあらすじ
キム家は、貧困地区の半地下で暮らす4人家族。夫・キテクは職を持たず、皆で宅配ピザの箱を折る内職で生活しています。
息子・ギウと娘・ギジョンは、上階の住人が新しいパスワードを設定した為、Wi‐Fiが使えないと文句。キテクの妻・チョンソクは、「ワッツアップ出来ないの?」とすかさず質問。
チョンソクは、寝た振りしても無駄だと側で横になっているキテクを足蹴り。「電話は差し止め、Wi‐Fiも使えないけど、どうするの?」
スマホの電波を求めて狭い家の中を歩き回るギウは、トイレによじ登り最近オープンしたカフェの電波をキャッチ。妹に知らせます。
そこへ行政に派遣された駆除業者が殺虫剤を巻きに地区へやって来ます。ギウが窓を閉めようとすると、キテクは、タダだから窓を開けて置けと指示。窓から入り込んだ殺虫剤の煙が充満し全員咳き込みます。
皆でお菓子を食べているとギウの友人・ミンがやって来ます。士官候補生だった祖父が収集していた岩を象った置物を持参し、富をもたらすという言い伝えを説明しキム家にプレゼント。
キテクは、感謝の意を伝えて欲しいとミンに頼みます。「食べ物の方が良かったのに」とボソボソ言うチョンソクの手を叩くギジョン。
ギウとミンはお酒を飲みに出かけます。高校生のダヘの写メを見せたミンは、自分が外国へ行っている間、家庭教師の代役をして欲しいと頼みます。お金持ちの家なので賃金も良いと補足
ミンは、生徒のダヘが大学へ進学したら正式に交際を申し込むつもりで、留守中ギウに面倒を見てもらいたいと説明。
ミンとは異なり大学生ではないとギウは難色を示しますが、ミンは、何度も大学受験したギウならうまく英語を教えられるはずで、自分が推薦するから大丈夫と説得。
ギウは、フォトショップが得意のギジョンに頼み手っ取り早く大学在籍書を偽造。出来栄えを見たキテクは、オックスフォード大学に偽造という専攻があれば、ギジョンはクラスでトップの成績を収めると誇らしげな表情。
高台に在るパク家を訪れたギウを家政婦のムングァンが出迎えます。広い邸宅へ案内しながら、ムングァンは有名建築家ムーン・フーンがデザインした家で昔住んでいたとギウに話して聞かせます。
犬を抱いて現れたパク・ヨンギョは、ミンの推薦なら身元に間違いないとギウの偽造書類に関心を寄せませんが、ギウの能力を確認する為に教える所を見学したいと言います。
貫録のある教師振りを見せたギウにすっかり感心したヨンギョは、早速ギウを雇うことに。
ケヴィンとニックネームを勝手につけ、必要な物があれば自分より家の事に詳しいムングァンに頼むよう笑顔満面。
そこへ幼い長男・ダソンが弓矢を撃って来ます。ヨンギョがケヴィンに挨拶をするよう言ってもダソンは無視して弓を撃ちまくります。
ヨンギョは、「アメリカから取り寄せたインディアンの弓矢なの。ダソンがインディアンになぜか凝ってるのよ」と悪びれない様子。
ヨンギョは、息子に生まれつき芸術センスがあると、ダソンがクレヨンで描いた絵をギウに見せます。
感心する振りをしながらテキトーにダソンを褒めるギウに、ヨンギョは、何人も美術教師を雇ったが落ち着かないダソンを教えるのに誰も1ヶ月たなかったとこぼします。
思案を巡らせたギウは、ジェシカというイリノイ州の大学で美術を学んだ女性を知っていると話します。
イリノイに反応したヨンギョは、子供の扱いに慣れており、芸術学校へ子供を進学させることに長けていると説明するギウの言葉に乗り、ジェシカを紹介して欲しいと頼みます。
ギウに連れられてパク家へ来たギジョンは、ジェシカ、1人っ子、イリノイ、とギウがでっち上げた身元を復唱してからインターフォンを押します。
息子の殴り描いた絵を褒めちぎるヨンギョは、天才画家として有名なバスキアのようだと我が子を絶賛。ギジョンはテキトーに相槌を打ちます。
英語を教えに部屋へ入って来たギウに、ダヘはジェシカに興味があるのかと心配そうに尋ねます。
ギウは、今日会ったばかりだと苦笑。安心したダヘはギウの手を握り、雰囲気に乗じたギウはダヘにキスをします。
一方、ヨンギョは、じっとできない息子だと言いながらギジョンをダソンの部屋へ案内。
床で寝転がっているダソンを見ながら、ギジョンは、親の前では教えないと断り、階下でまつようヨンギョに言います。
家政婦に飲み物を持たせ偵察へ行かせようとしたヨンギョですが、ダイニングにギジョンとダソンが座っています。
ギジョンが部屋へ行くよう指示すると、ダソンは45度に腰を折ってお辞儀。ギジョンは、今ダソンが描いたばかりだと言って、ヨンギョに絵を見せます。
芸術心理学を学んだとうそぶくギジョンは、ダソンの絵から精神病の傾向が見えるとテキトーな分析を述べます。涙目になるヨンギョは、芸術療法と称するギジョンに吹っ掛けられるまま高い賃金で雇うことに。
そこへ、パク家の主人・ドンソクが運転手を伴い帰宅しますが…。
映画『パラサイト 半地下の家族』の感想と評価
ポン・ジュノ監督のウィットが炸裂する『パラサイト 半地下の家族』。資本主義社会の格差を描いた『スノーピアサー』(2013)、『オクジャ』(2017)に続き、本作は、キム家とパク家の2家族に視点を置いた物語です。
ポン・ジュノ監督の特徴は絶対悪を設定しないことで、金持ちが悪者ではなく貧乏にも同情していません。
一方、資本主義が生んだ格差社会そのものに対する批判も一貫しており、その中に埋もれた矛盾を言葉ではなく見せる才能に溢れたフィルムメーカーと言えます。
アメリカの畜産工場を訪れ衝撃を受けたジュノ監督は、『オクジャ』を製作し2ヶ月ベジタリアンの生活を送っています。
「韓国はバーベキュー天国で挫折しました」と話すジュノ監督は、同作でも実力派俳優ティルダ・スウィントン演じる強欲企業家が、金と引き換えという合理的な理由でアン・ソヒョン扮するミジャにオクジャを返すシナリオにしています。
『パラサイト 半地下の家族』に登場するお金持ちのパク夫妻は、子供に対し馬鹿馬鹿しいほど甘い一方、雇用している家政婦やキム兄弟を見下げるような態度をしない品も備えています。
また、世慣れたギウやギジョンも悪いことをしている意識は全く無く、旨い話に乗じただけという設定。
ジュノ監督の作品は、近年特に脚本のクオリティが増し、テンポが大変よいことが魅力です。
長い会話を削ぎ落とし、必要な場面だけを最低限の説明に留め、後は俳優の表現力で物語を動かしています。
脚本を何度も書き直して推敲し、場面ごとに何を俳優に求めるのか事前に全て構成済みであろうことが窺えるジュノ監督の卓越した技術です。
例えば、本作を観賞した人達から「驚きの展開」という表現がよく見られますが、実は『パラサイト 半地下の家族』には伏線が殆どありません。
それにもかかわらず、急展開するストーリーに納得してしまうのは、提示される理由づけが道理に叶うからです。
また、ジュノ監督のテーマである、絡み合う社会階層も引き続き題材になっています。
『スノーピアサー』では、列車の最前列と最後尾の乗客。『オクジャ』では、安価な食物を求める人間と日々悲惨な目に遭わされる動物たち。
そして、金持ち家族にパラサイトする貧困家族を描く『パラサイト 半地下の家族』は、資本主義が生んだ一見異なる2つの家庭が相互依存している様を見せる風刺でもあるのです。
まとめ
道路から半分下がった部屋で暮らすキム家は、タダで手に入れられる物を利用しながらめげずに貧困生活を送っています。
学歴を詐称し裕福なパク家で家庭教師の職を得たキム・ギウは、妹のギジョンをアメリカで留学経験のある美術教師だと紹介。
貧しいことは負けではないというメッセージを込めたポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』は、資本社会の成功者も下層階級に頼らなければ勝者でいられない様を浮き彫りにする映画です。女性俳優陣の演技が光る重厚で見応えのある作品。