第32回東京国際映画祭・特別招待作品/GALAスクリーニング作品『カツベン!』
2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭がついに2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されます。
そして本映画祭の特別招待作品/GALAスクリーニング作品として選ばれたのが、日本映画の黎明期を支えた「活動弁士」の物語にして、名匠・周防正行監督の映画への愛が溢れんばかりに込められた『カツベン!』です。
本記事では作品情報やあらすじ、映画に対する感想はもちろん、周防正行監督が登壇した10月28日・東京国際映画祭レッドカーペットでの様子もご紹介させていただきます。
映画『カツベン!』の作品情報
映画『カツベン!』は2019年12月13日(金)より全国ロードショー公開!
【上映】
2019年(日本映画)
【脚本・監督】
周防正行
【キャスト】
成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、山本耕史、池松壮亮、竹野内豊、小日向文世、竹中直人、渡辺えり、井上真央
【作品概要】
周防正行監督待望の最新作にして、日本映画の黎明期を支えた活動弁士=「カツベン」たちの物語。周防監督の映画の愛が全編に渡って綴られています。日本における映画の黎明期を支え、時には俳優をしのぐ人気を誇ったカツベン。そんなカツベンを目指す主人公に成田凌、女優を目指すヒロインを黒島結菜が演じています。
周防組初参加のキャストが多い中で、草刈民代や上白石萌音、竹中直人や渡辺えりといった周防作品お馴染みの俳優たちの顔をもあります。
映画『カツベン!』のあらすじ
子供のころ、カツベンに憧れていた俊太郎は「活動写真の女優になる」という夢を持つ梅子と出会い、仲良くなりますが、あることからすれ違いが起きてしまい離ればなれに。
それから10年後、活動弁士として活動している俊太郎の姿がありました。とはいえ、彼は「本物のカツベン」ではありませんでした。
強盗団の仲間にされた俊太郎はカツベンとして各地を巡業し、地元の人々を活動写真に釘付けにさせている間に強盗団の頭・安田が率いる本隊が盗みを働くという行為を繰り返していました。
そんなある日、活動写真好きの木村刑事によって正体がばれてしまった強盗団。逃亡を図ったものの安田は逮捕され、俊太郎は逃げる一団が乗るトラックから零れ落ちてしまいます。
逃げる鷲太郎はとある町にたどり着き、人手を探している映画館「靑木館」に転がり込みます。
待望の映画館の仕事を得て張り切る俊太郎でしたが、靑木館はライバルである「タチバナ館」によって人材の引き抜きに遭っていました。
「タチバナ館」の主である橘重蔵と琴江は安田の親玉でした。さらに警察の拘留から逃れてきた安田は、「靑木館」に俊太郎が転がり込んでいたことを知ります。逮捕劇のドタバタで強盗団の大金を持ち逃げしていた俊太郎を安田は追っていたのです。
「タチバナ館」は「靑木館」をつぶすために人気弁士の茂木の引き抜き、工作を仕掛けます。その傍らには、女優の夢を叶えた梅子の姿がありました。
一方、過去の錚々たる弁士のマネによって一躍売れっ子となった俊太郎は、上映された映画の中に若手女優「沢井松子」を見つけます。彼女こそが、かつて互いに夢を語り合った梅子その人でした。
梅子との再会を喜ぶ俊太郎でしたが、それは俊太郎の弱点ができることでもありました。
「タチバナ館」の命令で安田とその手下たちは「靑木館」に侵入。隠し持っているであろう大金を探しながら部屋中を荒らして回り、やがて命ともいえる映画フィルムもズタズタにしてしまいます。
途方に暮れる「靑木館」の館長夫婦でしたが、「無事だったフィルムを繋ぎ合わせて奇想天外な映画を仕上げ、俊太郎が言葉で映画を盛り上げる」という奇策に打って出ます。
ところが、何としてでも「靑木館」の営業を妨害し、大金を取り戻したい安田は梅子を誘拐。助けてほしければ、持ち逃げした大金を持って来いと俊太郎に迫ります…。
映画『カツベン!』の感想と評価
映画研究者・映画評論家の中には、「日本映画において本当の意味での“サイレント”映画はなかった」と分析する人間が多々存在します。
というのも、日本におけるサイレント映画の上映には、日本映画界独自の存在「活動弁士」がいたからです。
活動弁士。彼らは、まだ映画(=「活動写真」と呼ばれていたころの映画)に僅かな文字情報と楽師たちによる音楽という音声情報しかなかった時代に、その「語り」によって作品を何倍にも盛り上げた存在です。
そんな「カツベン」たちの姿に幼い頃から憧れを抱き、映画への深い愛情とともに生きてきた主人公・俊太郎の姿は、時代も環境も違えど、「映画が好きになった瞬間」という原体験を思い出させてくれます。
劇中におけるフィルムの取り扱いに四苦八苦するところなども、デジタル化が当然となった現在の映画界では貴重な風景です。
本作を観るだけでも、「最低でも一つは、どの町にも映画館がある」とされていた時代、映画が「娯楽の王様」だった時代における、映画というエンターテインメントの偉大さはよくわかります。
昔を無暗に褒め、現在を卑下するつもりはありませんが、それでも今の日本における映画の在り方(劇場における映画上映の現実もふくめて)と比べると、やはり「羨ましい環境だな」と思ってしまいます。
映画『カツベン!』東京国際映画祭レッドカーペット
本作を手がけた周防正行監督
この度制作した『カツベン!』が『舞妓はレディ』(2014)以来5年ぶりの新作映画となる周防正行監督。
『シコふんじゃった。』(1992)『Shall We ダンス?』(1996)『それでもボクはやってない』(2006)など様々な題材を取り上げながらも常に名作を生み出してきた名監督の佇まいは、レッドカーペット上でも変わることはありませんでした。
まとめ
映画黎明期を生きた活動弁士たちを描いた映画『カツベン!』は、その映画の作りや演出にも当時のサイレント映画を彷彿とさせるものを見出せます。
各キャスト陣がオーバーアクト気味なのも、サイレント映画時代のアクション映画・コメディ映画を彷彿とさせ、周防監督の演出の中ではかえって映えて見えます。
また永瀬正敏、高良健吾、山本耕史、池松壮亮、音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、小日向文世、竹野内豊、井上真央といった豪華すぎる面々の、内に秘めているであろう映画出演への喜びが垣間見える演技だけでも、「みな映画が好きなんだ」ということがよく伝わってきます。
劇中に登場する映画(=活動写真)についてもそれぞれ「元ネタ」が存在し、名作サイレント映画へのオマージュ・パロディが多々描かれていますが、「元ネタ」の雰囲気をうまくとらえています。
その一方で、本作のエンドロールに流れる傑作サイレント映画『雄呂血(おろち)』はパブリックドメインになっているオリジナルフィルムをそのまま使用しています。
ちなみに、田村高廣・田村亮・田村正和兄弟の父親にして剣劇の大スター・阪東妻三郎(愛称は「阪妻」)の代表作でもある『雄呂血』は、元々『無頼漢(ならずもの)』というタイトルで作られたものの検閲によってズタズタにカットされたという、日本映画における「苦い過去」を象徴する作品。
日本映画・黎明期の明るい時期だけでなく、最後にはほろ苦い部分もしっかりと描くそのスタンスは、周防監督の映画への想いが本物だということがより一層分かります。