「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」は2019年10月11日(金)より全国3か所で開催。
スペイン・バルセロナ近郊のリゾート地シッチェスで毎年10月に開催されている映画祭「シッチェス映画祭」。
「シッチェス映画祭」で上映された、選りすぐりの作品を日本で上映する「シッチェス映画祭」公認の映画祭「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」が、東京と名古屋、大阪で開催されます。
今回は「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」上映作品となる『血を吸う粘土~派生』をご紹介します。
CONTENTS
映画『血を吸う粘土~派生』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
梅沢壮一
【キャスト】
藤井愛稀、AMIKO、藍染カレン、正本レイラ、美鈴、やね、ろるらり、笹野鈴々音、笠原紳司、津田寛治、黒沢あすか
【作品概要】
映画、テレビ、CM等で活躍する特殊メイクアーティスト梅沢壮一が、監督と脚本を担当した長編デビュー作『血を吸う粘土』の続編。
生き物を襲う事で成長する吸血粘土「カカメ」の恐怖を、『ファミリー☆ウォーズ』などで知られる藤井愛稀を始めとした、新進気鋭の若手女優出演で描いています。
前作に引き続き、津田寛治や黒沢あすかも出演しています。
前作『血を吸う粘土』(2017年)のあらすじ
まずは前作『血を吸う粘土』(2017年)のおさらいから。
造形作家の工房だった場所を利用し、地方で美術専門予備校「アイナアカデミー」を運営している、藍那ゆり。
藍那は、「アイナアカデミー」の近くに埋まっていた、ある粘土を掘り起こします。
「アイナアカデミー」の生徒たちは、東京の芸術学校へ進学する為に、日夜勉強をしていました。
そこへ、東京で美術の短期間の研修を積んだ、日高香織が戻ってきます。
東京で格段に腕を上げた香織の存在が、「アイナアカデミー」に新たな刺激を与え、特に友人の望月愛子は、香織の成長に焦りを感じます。
ある日、造形の課題に取り掛かろうとした香織は、これまで自分が使っていた粘土が見当たらなかった事から、藍那が掘り起こした粘土を使用します。
その日を境に「アイナアカデミー」の生徒が、次々と何者かに襲われて姿を消していくようになります。
残された、愛子と藍那の前に現れたのは、怪物の正体を知っている男、伏見恭三でした。
恭三は、かつて友人だった、彫刻作家の三田塚をマネジメントしていました。
三田塚は、自身の作品で東京に出る事を夢見ていましたが、借金を抱えていた恭三に、作品の売り上げをごまかされていた事を知ります。
病気を患い、自分に先が無いと感じた三田塚は、東京進出の夢を自身最後の作品「カカメ」に託します。
三田塚の生き血を吸った粘土で作られた「カカメ」は、生き物の血を吸う事で成長していきます。
自身の過去の過ちと対峙するように「カカメ」に立ち向かった恭三も命を落とす中、愛子と藍那は「カカメ」を止めようとしますが…。
映画『血を吸う粘土~派生』のあらすじ
「カカメ」により命を落とした伏見恭三の娘、果林。
家族を捨てた恭三を憎んでいた果林ですが、火葬場で焼かれた恭三の遺骨を渡されます。
芸術学校への進学を希望しながらも、金銭的な事情で叶わない果林は、アーティストの木多天が主催する、美術作品制作キャンプに参加し、5人の女性と共にプロジェクトに挑む事になります。
しかし、キャンプに持ち込まれた恭三の遺骨から、「カカメ」が復活を遂げます。
一方、病院で意識不明の状態から目覚めた藍那ゆりは、警察に「カカメ」の事を話ますが全く相手にされず、伏見恭三の死は、殺人事件として扱われます。
病院を脱走した藍那は「カカメ」の動きを察知し、果林達のいる美術作品制作キャンプに向かいますが…。
映画『血を吸う粘土~派生』の感想と評価
恐怖の粘土人形「カカメ」
彫刻作家の三田塚が、東京へ進出する願いを込めた、恐怖の粘土人形「カカメ」。
生き物の血を吸うことで成長し、殺した生き物に姿を変える「擬態能力」を持っています。
刃物を振り回しながら攻撃をしてくるのですが、映画『チャイルド・プレイ』の殺人人形、チャッキー同様「人形が殺意を持って、刃物を振り回してくる」光景というのは、かなり異様で恐ろしいです。
「カカメ」最大の特徴は、完全に消滅させる事が無理という点です。
弱点である火で、体を固くして粉砕させる事はできますが、元々が命の無い存在なので、粉上になっても水分を吸収すると復活し、また生き物の血を吸い、成長していくのです。
「不死身」というシンプルですが、この上なく厄介な特徴を持つ「カカメ」。
この恐怖を描いたのが「血を吸う粘土」シリーズです。
『血を吸う粘土~派生』では、粘土で作られている「カカメ」が『遊星からの物体x』を連想するような動きを見せるなど、不気味さが増しています。
1作目のラストの秘密が明かされる
伏見恭三の意思を継ぎ、「カカメ」と戦う役回りになるのが、前回に引き続き、黒沢あすか演じる藍那ゆり。
警察すらも存在を信じない「カカメ」と、1人で戦う事になる『ターミネーター2』のサラ・コナーのような存在となっています。
前述したように、「カカメ」は不死身の存在。
一時的に倒す事は出来ても、消滅させる事は不可能な「カカメ」に、立ち向かう術はあるのでしょうか?
そして、前作で「カカメ」により命を落とした恭三は、今作でも登場するのですが、かなりインパクトの強いシーンとなっていますので、そこも注目して下さい。
また、1作目を鑑賞した人であれば、「何が起きたのか?」と必ず気になっているラストの真相が、2作目の本作で明らかになります。
ストーリーも1作目と2作目が続いているので、前作をチェックしての鑑賞を、お勧めします。
まとめ
「血を吸う粘土」シリーズは、芸術という特殊な世界に足を踏み入れた人々の、人間ドラマでもあります。
他者に評価される事で成立する、芸術の世界は、決まった道筋も保証もない、不安定な世界と言えます。
1作目では、地方にいる事の葛藤を抱えた若者を描き、2作目では、芸術家になれても、そこから1つ抜け出さなければならない、厳しい現実が描かれています。
成功するのは、本当に一握りの人間である芸術の世界は、他人への妬みや自己嫌悪が渦巻いているのかもしれません。
東京で成功する事を果たせなかった、三田塚の怨念が込められた「カカメ」は、消滅させる事が不可能な辺り、究極の作品と言えなくもありません。
「血を吸う粘土」シリーズに登場する人物は、ほぼ全員が芸術の世界を目指す人々なので、誰もが三田塚の様な、異常な領域に足を踏み入れる可能性があるのです。
では、異常な領域に足を踏み入れかけた時、それを止めるのは誰か?
おそらく家族や友人といった「大切な存在」となるでしょう。
本作では、そんな人間関係の大切さも描かれており、「カカメ」に対抗する手段ともなっています。
2作続けて鑑賞すると、作風の違いやテーマなど、テイストの違いに気付き更に楽しめますよ。
『血を吸う粘土~派生』は「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション」にて上映される作品で、10月よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、名古屋のシネマスコーレの3劇場で開催されます。
「カカメ」の恐怖を、ぜひ味わって下さい。