2019年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、アマゾン・スタジオズが全米配給権を獲得した映画『レイト・ナイト(Late Night:原題)』
映画『レイト・ナイト(Late Night:原題)』は、エマ・トンプソン主演のコメディ映画。
脚本を執筆したのは、ロマンティック・コメディ『ミンディ・プロジェクト』のクリエイターであり『オーシャンズ8』等俳優もこなすミンディ・カリング。
トークショー唯一の女性司会者・キャサリンは視聴率低迷で解雇寸前。インド系アメリカ人のモリーは脚本家として採用されますが、職場は白人男性ばかり…。女性の生き難さを本音で描いたハートフルコメディ。
映画『レイト・ナイト』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Late Night
【監督】
ニーシャ・ガナトラ
【キャスト】
エマ・トンプソン、ミンディ・カリング、ジョン・リスゴー、エイミー・ライアン、デニス・オヘア、レイド・スコット、ヒュー・ダンシー、アイク・バリンホルツ
【作品概要】
ミンディ・カリングはエマ・トンプソンのファンで、彼女に合う役を書こうと脚本を執筆。アポなしでトンプソンの宿泊先ホテルへ訪れて脚本を渡し、出演を打診。
ニューヨークを拠点にコナン・オブライエンのレイト・ショーでインターンを経験していたカリングは、本作の脚本執筆に伴い、一番人気の司会者スティーヴン・コルベアの脚本家達を取材。
映画『レイト・ナイト』のあらすじとネタバレ
キャサリン・ニューブリーは、長く冠番組のトークショーを司会し数々の賞を受賞したキャリアウーマン。
プロデューサー・ブダッッドリーから女性に厳し過ぎると忠告を受けたキャサリンは、皆能力が無いと一蹴するものの女性スタッフを雇用することに同意します。
薬品工場で働くモリー・パテルは大のコメディファン。様々なルートを辿り、局の脚本家募集の面接に訪れます。
ショービジネスでキャリアは無くてもスタンドアップコメディの経験があるとアピールするモリー。
実際は、工場内のアナウンスに使うマイクで工員相手に冗談を飛ばすだけ。しかし、化学を専攻した人にはうけるとモリーは売りこみます。
そこへキャサリンから内線で連絡があり、「とっとと女性を雇用して」と言われたブラッドリーは、女性の候補者が他に居ない為仕方なくモリーを雇います。
かなり男っぽい職場だとブラッドリーは忠告しますが、モリーは嬉しさのあまり全く気にしません。
ライター室では、9人(全員白人)の脚本家がミーティング中。ブラッドリーが紹介したモリーに対し、「本日のスープが何なのか調べてくれる?」と言葉が飛びます。
ブラッドリーは、新人のライターだと9人を戒めますが、作家達は嘘だろ!?という表情。
生番組を終えたキャサリンが控室に戻ると、局の社長キャロラインが待っていました。
キャロラインは今期が最終シーズンだと通告。番組をキャンセルするのかキャサリンが訊きかえすと、「あなたをキャンセルするの」と社長は鋭い眼差し。
裏番組のジミー・ファロンがロバート・ダウニー・Jrをゲストに迎えたのに対し、キャサリンはアブラハム・リンカーンの伝記作家を招きウケないと批判。
キャサリンはいつもの調子で高飛車に返しますが、キャロラリンは、過去10年間視聴率が低迷しているにも関わらず、無頓着なキャサリンの態度はイギリス人らしい高慢さだと皮肉をお見舞い。
帰宅したキャサリンは夫・ウォルターにぶちまけます。しかし、ウォルターもトークショーが面白くないと本音を話します。
キャサリンが何故もっと早く行ってくれなかったのか問い質すと、ウォルターは、キャサリンが気にもしていない様子だったと答え、視聴者を取り戻せと励まします。
翌日、脚本家の部屋へ来たキャサリンは、私用で遅れたライターを即刻解雇しつつ、番組の内容を改善するよう残りの脚本家に檄を飛ばします。ライターの名前も覚えていないキャサリンは、全員に番号をつけて呼ぶ始末。
そして、モリーの経歴をネットで調べた脚本家達は、有色人種の女性ならどんな仕事でもゲットできる世の中だと陰口。
品質管理のスペシャリストとして工場で勤務するモリーは、番組を客観的に分析し、翌日のミーティングで、キャサリンに番組の不備を説明。
しかし、改善策も無く批判だけしたモリーに対し、キャサリンは怒りを露わにします。
泣き出したモリーに、ベテラン職員は、脚本家として雇われたなら、意見ではなく番組に役立つことを脚本に書くよう忠告。
気を取り直したモリーは、番組冒頭のキャサリンのお喋り(モノローグ)に使うトピックに、政治的な議論を呼んでいる中絶を取り上げます。
周囲は反対しますが、女性の選択を擁護するキャサリンは気に入ります。いよいよ本番になり、モリーはスタジオに忍び込みます。
しかし、キャサリンは土壇場でモリーのジョークをスキップ。ブラッドリーの提案でゲストに呼んだユーチューバ―がキャサリンの態度に腹を立て、年よりだと馬鹿にして番組を退場してしまいます。
更に、キャサリンは、キャロラインが番組の新司会者を決定したことを知り、増々窮地に追い込まれます。
映画『レイト・ナイト』の感想と評価
主人公のキャサリンはエミー賞やゴールデン・グローブ賞を受賞した輝かしい実績を持ちますが、局の社長に折り返しの連絡さえしない高慢なキャリアウーマン。
白人男性が支配するトークショーの時間帯で唯一の女性司会者であり、テレビの顔として長年君臨しています。
キャサリンを演じるエマ・トンプソンは、ポジションに安住した為、視聴者が何を求めているかさえ気にしなくなった主人公を好演。
トンプソンの強みは、敬遠されるような性格の人物を憎めないキャラクターに変えてしまうことです。
モノローグを書く脚本家達の名前も面倒くさがって覚えず番号で呼ぶ態度もトンプソン持ち前のコミカルさと柔らかさで、観る人はキャサリンを憎めません。
27才までスタンドアップコメディで経歴を積んだだけあり、トンプソンは絶妙な間でシニカルさやひょうきんな側面を表現します。
『いつか晴れた日に』で米アカデミー賞脚色賞を受賞したトンプソンと共演した『輝ける人生』(2018)のイメルダ・スタウントンも同様に、コメディを得意とする俳優は、引き出しが多く選択する表現に幅広さがあります。
最近の60代女性俳優は、周囲の男性が密かに想像する老いに対する憂いなど全く無く、自信に溢れ円熟味が増して魅力的。
エマ・トンプソンはその代表格でもあり、本作の脚本を書いたミンディ・カリングや監督を務めたニーシャ・ガナトラ、そしてテレビ局の社長キャロラインに扮した『ゴーン・ベイビー・ゴーン』のエイミー・ライアンもトンプソンのファン。
男性より何倍も実績を上げなければ女性は同じ立ち位置を確立できず、まして白人男性が圧倒的優位に立つアメリカのショービズでは、有色人種で女性の場合、キャリアを築くために分厚い壁を幾つも超えなければならないのが現実です。
しかし、最後に実力が物を言うのもアメリカ。カリング同様インド系カナダ人のガナトラは、地位を獲得したマイノリティの女性には、苦心惨憺する同じ境遇の女性達が後に続けるよう扉を開けて置いて欲しいと本作に込めたメッセージを話しています。
包容力のあるキャサリンの良き夫・ウォルターを演じるのはジョン・リスゴー。
昨年、独り芝居『Stories by Heart』でブロードウェイの舞台に立った名優は、本作が低予算のインディペンデント映画でありながら、ストーリーに共感して出演を決めました。
まとめ
トークショー司会者を長く務めるキャサリン・ニューブリーは視聴率低迷で方向転換を迫られ、インド系アメリカ人女性・モリーをイメージアップの為に雇用。
最初はモリーの正直で率直な意見が癇に障るものの、キャサリンは次第に女性だからこそ気づくモリーの視点が需要だと気づくようになります。
有色人種であるがゆえに受ける職場の差別をリアルに描く『レイト・ナイト』は、男性優位の社会で居心地の悪さを感じる女性達が奮闘するコメディ映画。キャスト&クルーの半数が女性で製作された作品です。