義理と人情の阿岐本組長は社会奉仕に目がなく、ついには経営不振の高校の建て直しまでやる⁈
人気俳優・西島秀俊とベテラン俳優・西田敏行がダブル主演を務め、今野敏の小説「任侠」シリーズを映画化。
「義理と人情」を重んじるヤクザが、「普通である事」を重視する学校の、経営再建に立ち上がった姿を描いたコメディ映画『任侠学園』。
西島秀俊が、新境地とも言える役柄に挑んだ、本作をご紹介します。
映画『任侠学園』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【原作】
今野敏
【監督】
木村ひさし
【脚本】
酒井雅秋
【キャスト】
西島秀俊、西田敏行、伊藤淳史、葵わかな、葉山奨之、池田鉄洋、佐野和真、前田航基、戸田昌宏、猪野学、加治将樹、川島潤哉、福山翔大、高木ブー、佐藤蛾次郎、桜井日奈子、白竜、光石研、中尾彬、生瀬勝久
【作品概要】
今野敏の人気小説「任侠」シリーズの第2作目『任侠学園』を、『ATARU』や『99.9 刑事専門弁護士』などの数々の人気ドラマを手掛けた、木村ひさしが映像化。西島秀俊と西田敏行のW主演に加え、伊藤淳史や池田鉄洋、生瀬勝久などの個性派俳優が出演。
映画『任侠学園』あらすじ
ヤクザではありますが、指定暴力団ではない小さな組「阿岐本組」。
義理人情を重んじる「阿岐本組」は、以下の3箇条を厳守しています。
1.カタギに手を出さない
2.勝負は正々堂々
3.出された食事は残さず食べる
「阿岐本組」のNO.2である日村誠司は、サポート役で元高校球児の二之宮稔、大卒で料理が得意な三橋健一、チャラ男風の志村真吉、ネットワーク系に強い市村徹と、義理人情を重んじながら、商店街の平和を守っていました。
「阿岐本組」の組長、阿岐本雄蔵はヤクザながら、社会貢献に力を入れており、兄弟分の永神から潰れかけの事業を買い取っては、再生させる為に尽力しています。
今回、永神が持ち掛けたのは経営不振に陥った高校「仁徳京和学園高校」でした。
「最近の若い奴は、心にバネが無い」と嘆く雄蔵は、日村達が止めるのも聞かず、「仁徳京和学園高校」の経営権を買い取ってしまい、日村を理事にし学校の再建を託します。
学生時代から問題児で、学校に良い思い出の無い日村は、嫌々ながら「仁徳京和学園高校」に出向きます。
「仁徳京和学園高校」の校長、綾小路は事なかれ主義で、学校の学力を平均に保つ為、全ての部活を廃止し「何の特色も無い高校」に作り変えていました。
綾小路は「ずば抜けた生徒もいないが、問題児もいない」と主張しますが、学園内で騒動が起きます。
日村と稔が駆け付けると、「学校一の問題児」と呼ばれる沢田ちひろと、学校一の優等生、小日向美咲が揉めていました。
「問題児がいない」という綾小路の言葉が、早速嘘であった事を感じる日村は、雄蔵から「花が咲けば人が寄って来る」というアドバイスを受け、学校に特徴を作る事を考えます。
次の日、「阿岐本組」の構成員と「仁徳京和学園高校」を訪れた日村は、学校のガラスが全部割られている事に気付きます。
商店街のガラス屋、西潟の好意で、格安でガラスを入れ替える事ができた日村は、稔とガラスを割った犯人の捜索を始め、「夜中に忍び込んでいた」という目撃情報から、ちひろを捕まえます。
日村は、稔とちひろを、使用されていない教室へ連れて行き「好きなだけガラスを割ってよい」と伝えます。
日村の提案を、最初は馬鹿らしく思っていたちひろですが、日村と稔が、楽しそうにガラスを割り始めた事をキッカケに、ちひろも一緒にガラスを割り始めます。
ちひろは「ガラスを割ったのは自分では無い」と日村に告白、日村も「知っていた」と答えます。
日村は「誰も信じてくれなくても、本当の事を伝える大切さ」を、ちひろに伝えます。
その時、何者かが日村達を盗撮していました。
盗撮に気付いた日村は、犯人を追いかけて捕まえます。
盗撮犯は、ちひろと同じクラスの黒谷祐樹でした。
黒谷は、ちひろのファンで、持っていたカメラには、多数のちひろの写真が残されています。
日村は、この写真の中の一枚を、商店街の写真コンクールに応募して、「仁徳京和学園高校」をPRする事を考えます。
その日の夜、「阿岐本組」は、ガラスを割っている犯人を捕まえる為に、学校内に待機していました。
監視をしていた市村が、怪しい人影に気付き、日村が捕まえると、それは学校に潜入したちひろでした。
「何となく学校に潜入した」と言うちひろと、日村は学校に花を咲かせる為に、球根を植えていきます。
作業が、ひと段落した時、学校にマスク姿の五人組が侵入し、金属バットでガラスを割ろうとします。
「阿岐本組」の構成員は、五人組を取り押さえますが、その中の1人は、生徒会に所属する江守太一でした。
太一以外の4人も「仁徳京和学園高校」の生徒で、ストレス解消の為に、ガラスを割った事を日村に伝えます。
日村は「落とし前をつける」事を求めます。
次の日、学校に潜入していた生徒たちは、「落とし前」の為、朝から学校の掃除をしています。
ですが、太一の姿だけがありません。
そこへ、慌てた様子の綾小路が日村を校長室へ連れて行きます。
校長室には、太一と太一の母親、父兄会の会長を務める小日向泰造の姿がありました。
日村は、名目上は理事長となっている雄蔵と同席します。
太一の母親は「息子が脅された」と主張し、泰造は「理事会が暴力団の噂がある」と伝えます。
雄蔵は「阿岐本組」はヤクザではあるが、暴力団ではない事を説明し「今回の件を訴える」と主張する泰造に、「逃げも隠れもしない」と正面から対峙します。
ですが、裁判になると、太一が夜中に学校へ忍び込んでいた映像を提出する事になる為、太一の母親の希望で、裁判沙汰になる事は回避されました。
雄蔵は泰造が「カタギの人間では無い」と見抜き、周辺を探るように指示を出します。
商店街の写真コンテストに応募する写真を選ぶ、「阿岐本組」の構成員と生徒たち。
黒谷が撮影した、多数のちひろの写真の中から、日村はある写真を気にします。
それは、夜の学校でダンスの練習をしていたちひろの姿で、ちひろは黒谷以外には秘密にしていました。
日村は、ちひろに学校のPRの為に、ダンスコンテストへ出場する事を勧めます。
黒谷の、写真に燃やす情熱に感化され、他の生徒たちも自主的に部活を始めるようになります。
生徒たちは、太一を野球部に誘いますが、太一は断ります。
実は、太一は元野球部で、去年野球部が問題を起こした事で、野球だけではなく、全ての部活が廃止になった過去がありました。
その事実を知った日村は、部活復活にノリ気ではない綾小路を説得しようとします。
また、泰造の周辺を探っていた市村から「泰造の経営する企業が、暴力団の準勇会と関りがある」事を知ります。
そして、その夜、太一が何者かに暴行を受けるという事件が発生します。
『任侠学園』感想と評価
義理と人情を重んじるヤクザが、経営不振の学校を再建させるという本作。
なかなか皮肉の利いたコメディ作品となっています。
破天荒な人物が、学校を立て直すというと、近年では『GTO』や『ルーキーズ』などがありますが、本作の特徴は、生徒個人に向き合うのではなく、学校の本質そのものを変えていく部分です。
平均を重視するあまり、部活さえも潰してしまった「仁徳京和学園高校」は、「普通」という事が重視される、現代の世の中を反映させたような学校です。
そんな「仁徳京和学園高校」の理事を任された日村は、時代に取り残されたような男で、時代錯誤とも言える判断基準だけで、学校を変えていきます。
本作はエンターテインメント性の強い作品なので、現実に日村のような人間がいたら、本当に学校が良い方向に変わるかは疑問ですが、ただ「普通である事」「人と同じである事」を教える教育より、「自分の好きな事で勝負」させようとする、日村の方針は、胸を打つものがあります。
そして、勝負する事で初めて見える事もあり「負ける事の価値」も、本作では語られています。
下手をすると、無気力、無関心な若者に向けた、説教くさい映画になりがちな本作ですが、監督の木村ひさしはドラマ『99.9 刑事専門弁護士』などに代表されるようなコミカルな演出を得意としています。
本作でも、シリアスで重いシーンが続いた後には、必ず「オチ」となるようなコメディシーンが入っており、最後まで楽しい映画となっています。
まとめ
本作は、実に豪華なキャストが集まっています。
主演の西島秀俊が、純粋で昔気質な日村を好演しており、本人も「これまで演じた事が無いキャラクター」という、新境地を見せています。
そして「阿岐本組」の組長、阿岐本雄蔵を演じる西田敏行は、お人好し過ぎず、時には恐ろしい一面を見せる雄蔵を見事に演じており、特にクライマックスで、白竜が演じる唐沢との一触即発状態での交渉は、手に汗握る緊迫のシーンとなっています。
本作では、「Vシネ」世代の日村と、「Vシネ」を知らない世代の高校生との「世代間ギャップ」をネタにした笑いが多いのですが、その最後に、数々の「Vシネ」に出演してきた、白竜を出してくる辺り、なかなか心憎い演出ですね。
「善人のヤクザが学校を救う」という、ある意味ファンタジーな展開を、豪華なキャストで説得力のある物語にした本作。
善い事と悪い事の境界線が曖昧になった昨今で「人に迷惑をかける事が、一番の悪である」という、最も単純ですが、忘れがちな事を「阿岐本組」は教えてくれます。
最後まで楽しめて、いろいろ考えさせられるテーマもある、エンターテイメント作品となっています。