映画『スクールズ・アウト』は10月より全国順次公開「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」にて上映!
1968年に創設された「シッチェス映画祭」は、スペイン・バルセロナ近郊の海辺のリゾート地シッチェスで毎年10月に開催されている映画祭。
SF、ホラー、サスペンスなどのジャンル映画を特化して扱う「世界三大ファンタスティック映画祭」の1つです。
そこで上映された作品の中から厳選した作品を日本で上映する、シッチェス映画祭公認の映画祭シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション。
今回は、その中の一本として上映されるフランス映画『スクールズ・アウト』で監督を務めたセバスチャン・マルニエ監督のインタビューをお届けします。
セザール賞にもノミネートされたサイコスリラー『欲しがる女』で絶賛を浴びたセバスチャン・マルニエ監督の“恐怖”への追求とその原点を探ります。
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ジャンルを横断して様々なものを見せたい
──監督自身がこれまで、影響を受けたホラー、サスペンス作品を教えていただけますか?
セバスチャン・マルニエ監督(以下、マルニエ):好きなホラー映画は何千とありますが、まずはジョン・カーペンターの『光る眼』(1995)、ミヒャエル・ハネケの『白いリボン』(2010)、どちらの作品もちょっと変わった子どもたちの集団が出てきます。
特に『白いリボン』は、戦前を舞台に、敵愾心の強い子どもたちが登場し、将来的に彼らはナチスになっていくという非常に恐ろしい話だなと思います。それからパラノイアという点では、ジェフ・ニコルズの『テイク・シェルター』(2012)でしょうか。
『エクソシスト』(1973)を意識した部分もありますし、『悪魔のいけにえ』(1974)、これも大好きな映画なんですが、これらの作品を意識し、影響を受けている部分があります。
──監督にとって、この映画はどういうジャンルの作品なのでしょうか?
マルニエ:ジャンルはひとつではないですね。次から次へといろんなジャンルを横断していきます。学園ドラマかと思いきやスリラーであったり、ゾンビが出てくるホラーだったり、最終的には世界の終わり、終末的な要素まで加わっています。様々なジャンルを使い、主人公のピエールの目を通していろんなものを見せたかったのです。
クリストフ・デュフォッセの小説に惹かれて
──本作の映画化に至るまでの経緯、企画の成り立ちについて教えてください。
マルニエ:原作はクリストフ・デュフォッセによる小説なのですが、初めて読んだのは15年前でした。出版当時、フランスでもかなりヒットした部類の小説で、すぐに映画化したいと思い、映像化の権利を買い取ったんです。
とはいえ当時、私は25歳で、映画化するための資金もありませんでした。その後、1作目の映画を監督し、それがある程度ヒットしたので、プロデューサーに「映画化したい原作がある」という話をし、そこから話が動き始めました。
最初に原作を読んだときに、第1稿となる脚本を書いたんですが、プロデューサーと話をした後、もう一度、権利を買い直し、脚本ももう一度書き直しました。ただ、第2稿に関しては、原作をあえて読み直さず、15年前に第1稿を書いた時の記憶や感覚を元にして書きました。
なぜ自分は15年間、この原作を映画化したいという思いを持ち続けたのか、ということを考えながら書きました。“印象主義”と言ってもいいような形で、自分の印象だけを元に執筆したので、オリジナルの原作とはかなり違ったものになっています。
原作は、思春期の不安や現代社会の問題を扱っていますが、15年も経てば世界の状況、社会の問題も変容していますので、そこも現代に合わせています。
どうすればより恐怖を感じさせられるか
──原作で最も印象深い部分を教えてください。原作のどういう部分に惹かれて映画化したいと思ったのでしょうか?
マルニエ:映画の冒頭にも出てきますが、教師が授業中に身投げするという描写、これは原作でも非常に印象的な場面です。
ここから何が始まるのかと惹きつけられる描写だと思います。原作者のクリストフ・デュフォッセは、もともと教師をしていて、学園生活や職員室の描写は彼自身の経験を元に執筆されているんです。
普通の学園生活なのに、いつのまにか不穏な空気に満ち溢れている。そこが原作の中で最も惹かれた要素であり、スティーヴン・キングの小説にも繋がるような雰囲気を持っていると思います。
──作り物のグロテスクな描写に頼らない“恐怖”の描写が印象的でした。また、映像の中には東日本大震災など、実際の映像も使用されていますね。
マルニエ:実際の映像をスポット的に見せるというのは意識しました。ただ現代社会で実際に起こっていること捉えた映像も混じっているので、これを作品の中に組み込むのは正しいことなのかという点はかなり議論しました。
実際にその映像の裏で、命を落としている人たちもいるわけで、そこは慎重であるべきだとも思いましたが、やはりそうした映像を入れることが必要、重要だという結論にいたりました。その際、どうすればより恐怖を感じさせられるアートディレクションになるかという点は非常に考えました。
そうやって映像を作っていくうちに、グロテスクな具体的な映像を見せるよりも、実際の映像を見せる方が、より怖いということに気づきました。
あとは、主人公のピエールの目を通して、子どもたちが何をしようとしているのか、 観客も少しずつ発見していくという構成を意識しました。
“サイコ”というよりも“メンタル”に訴えかける
──監督は、黒沢清監督の作品がお好きだと伺いました。人間の心理を描くことで恐怖を伝えるという点で、近い部分があるようにも感じました。そういった作品、恐怖描写がお好きなんでしょうか?
マルニエ:私は“サイコ”と“メンタル”というのは別々のものだと思っています。登場人物たちが激しく言い合ったり、感情がほとばしる部分から我々が何かを感じるというのがサイコサスペンスだと思います。
一方、私の作品はサイコというよりもメンタルに訴えかけるものです。つまり一見、何事もないようで、観客がそこからいろいろなものを受け取るというものだと思いますし、その点は黒沢清監督の作品と重なる部分があるのかもしれません。
彼も非常に抽象的な表現をされますよね。もちろん、私はまったく彼のようなレベルにはありませんが、方向性として重なる部分として、そう言っていただけるのは非常にうれしく思います。
映画の中でピエールは、何のために調査しているのかさえ分からない状態で、調査を進めていきます。そうしたぼんやりとした、得体のしれないものに私はすごく惹かれます。「何なのかわからないけどこれは大切なことなんだ」と直感的、本能的に感じてやるけれど、後々になってみないと、何のために何をしているのかもわからない。そういうあいまいで得体の知れないものを演出することに興味があります。
セバスチャン・マルニエ監督プロフィール
応用美術と映画を学び、“Mimi(ミミ)”(2011)、“Qu4tre(キャトル)”(2013)、“Une vie de patits fours(原題)”(2013)と3冊の小説を出版。
その後、漫画出版社であるデルクールから出版されたグラフィック・ノベルがフランスのアルテ局でアニメシリーズ“Salaire net et monde de brutes broadcast(原題)”(2016)として放送され、アニメの脚本も共同執筆します。
映画監督としては、3本の短編映画を監督し、2016年に映画『欲しがる女』で初の長編監督デビューを果たしました。
映画『スクールズ・アウト』の作品情報
【製作】
2018年(フランス映画)
【原題】
L’heure de la Sortie
【監督】
セバスチャン・マルニエ
【キャスト】
ロラン・ラフィット、エマニュエル・ベルコ、グランジ
【作品概要】
監督はセザール賞にもノミネートされたサイコスリラー『欲しがる女』で絶賛を浴びたセバスチャン・マルニエ。
映画『スクールズ・アウト』のあらすじ
名門中等学校で、先生が生徒たちの目の前で教室の窓から身投げする異様な事件が発生。
新たに教師として赴任したピエールは、6人の生徒たちが事態に奇妙なほど無関心なことに気付きます。
彼らの冷淡で気まぐれな振る舞いに翻弄され、やがて6人がなにか危険なことを企んでいると確信するようになり…。
『シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019』の開催概要
『シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション』とは
世界でも権威あるスペインで開催される映画祭「シッチェス映画祭」。
『シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション』は、シッチェス映画祭で上映された作品の中から厳選した作品を日本で上映する、シッチェス映画祭公認の映画祭です。
これまで2012年から2015年まで開催され、昨年の2018年、日本のホラーファンから復活を求める声が多数集まり、3年振りに完全復活を果たしました。
【場所と会期】
・東京…ヒューマントラストシネマ渋谷:10月11日(金)~10月31日(木)
・名古屋…シネマスコーレ:10月~より
・大阪…シネ・リーブル梅田:11月8日(金)~11月21日(木)
【料金】
一般料金:1600円
専門・大学生、シニア:1200円
高校生以下:1000円
【上映作品】
『パペット・マスター』『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』『スクールズ・アウト』『死体語り』『ザ・ゴーレム』『血を吸う粘土~派生』
※詳細につきましては、公式サイトをご覧ください。