映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は2019年9月27日公開。
あのマカロニウエスタンの傑作『ウエスタン』がスクリーンでフルバージョンで蘇ります。
セルジオ・レオーネの代表作にして史上最も美しい西部劇と言われた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』が50年の時を経て完全版として2019年9月27日より公開されました。
映画ファン必見の西部劇映画の到達点の見どころをご紹介します。
CONTENTS
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』の作品情報
【製作】
1968年(アメリカ・イタリア合作映画)
【リバイバル版日本公開】
2019年
【英題】
C’era una volta il West
【監督】
セルジオ・レオーネ
【脚本】
セルジオ・レオーネ、セルジオ・ドナティ
【キャスト】
クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、ジェイソン・ロバーズ、チャールズ・ブロンソン、ガブリエル・フェルゼッティ、フランク・ウォルフ、キーナン・ウィン、ウディ・ストロード、ジャック・イーラム、パオロ・ストッパ、マルコ・ザネッリ、ライオネル・スタンダー、ジョン・フレデリック、 エンツォ・サンタニエッロ
【作品概要】
マカロニウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネの代表作『ウエスタン』が原題通りの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』というタイトルで50年ぶりにリバイバル公開。
1969年時の141分の短縮版ではなく165分のノーカット版での上映です。
スペインとアメリカでとられた美しい風景、数々の豪華キャスト、エンニオ・モリコーネのエモーションに訴えかける音楽によってかつて存在した西部時代の男たちの最後の輝きと時代の移り変わりを描く一大叙事詩。
クエンティン・タランティーノ、ジョン・ウー、ジョン・カーペンターら様々な作家に影響を与えた西部劇の金字塔です。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』あらすじとネタバレ
19世紀の西部開拓時代のとある駅に3人組の男たちが馬でやってきます。彼らは駅長を脅して別室に閉じ込めたあと、延々と汽車の到着を待っていました。
汽車が来ると彼らは銃を構えます。汽車が去っていくとハーモニカの音色が聞こえ、一人のガンマンが現れました。
彼は3人組を見て「フランクはどこだ」と聞きますが、彼らは答えません。
3人組の1人が「馬が1頭足りない」といいますが、ハーモニカの男は「いや、2頭余る」と言ってその直後に3人を目にも止まらぬ早業で撃ち殺しました。
近くの平原に住むマクベイン一家はその日、父親が再婚した女性を迎えるべく準備をしています。
しかし、そこに殺し屋の集団が現れ、マクベイン氏も、子供達3人も無惨に射殺されてしまいました。主犯はハーモニカの男が探していたフランクという初老の殺し屋でした。
その頃、汽車でマクベインと再婚したジルが西部にやってきます。迎えに来るはずのマクベインがいないことを不思議がるも、彼女は御者に頼んでマクベイン家を目指します。
途中、御者の頼みもあってジルが酒場に寄ると、外から銃声が聞こえてきました。保安官に護送されていた盗賊団の首領のシャイアンが隙を突いて見張りを撃ち殺して脱走したのです。
シャイアンは悪党ながらもジルに対しては紳士的でした。
その酒場には先ほどのハーモニカの男がいました。シャイアンはその場で男にハーモニカというあだ名を付けます。
ハーモニカはシャイアンの手下のコートが、殺した3人と同じことに気づきました。
それからマクベイン家についたジルは、一家が皆殺しにされて近辺の十人が集まっているところに出くわします。ジルはそんな状況でも気丈に振る舞い、戻ることを提案されるも残るといいます。
みんなは現場にシャイアン一味のコートの切れ端が落ちていたことから彼らが犯人だと言いました。
ジルは誰もいないマクベイン家を探り、「Stasion」と書かれた看板がある家の模型を発見します。
その頃、西部の鉄道事業を牛耳っていた実業家のモートンがフランクと面会し、「脅すだけでよかったのになぜマクベイン家を殺したのか」と問い詰めていました。
しかしフランクはモートンを睨みつけて自分に任せろと言います。
ジルが一人で家にいると、シャイアンがやってきました。彼はジルに自分はならず者だが、マクベイン家殺害の犯人では無いと言い、彼女に新犯人を突き止めると約束しました。
シャイアンが去った後、ジルはやはり元来たニューオーリンズの街に帰ろうとしますが、そこで家の暗がりにハーモニカがいることに気づきます。
ハーモニカはフランクが犯人だと目星をつけており、それまでジルをこの土地にいるよう説得し、フランクに協力していた男の後をつけ、モートンたちのアジトとして使われている汽車を突き止めます。
最初は列車の外から中を覗いていたハーモニカですがフランク達に捕まってしまいます。
フランクはハーモニカに一体何者なのか訪ねますが、彼が名乗る名前はすべて過去にフランクが殺した人物でした。
フランクはジルが自分が家族を殺害したことに気づいたのかと彼女のもとに向かいます。
しかし汽車にはシャイアンも忍び込んでおりフランクの部下たちを殺害、ハーモニカを救出しました。足が悪いモートンはただ見ていることしかできませんでした。
ジルの家の近くに戻ってきたハーモニカはシャイアンにマクベインが立てていた計画を話します。
彼は近くにある井戸を利用して蒸気機関車の駅を作り、辺り一帯に町を作って発展させるつもりだったのです。
それゆえにモートンの差し金で殺されてしまったマクベインの意志を無駄にしてはならないとハーモニカは語りました。
しかしその頃フランクはジルに土地を競売にかけるように勧めていました。ジルはやはり土地を離れようとしており、迷った挙句競売に参加します。
フランクは部下を利用して根回しをし、マクベインの土地を安く手に入れようとしていました。
土地がたった500ドルで売られそうになった時、ハーモニカとシャイアンが現れ、5000ドルという数字を提示します。
5000ドルはシャイアンの懸賞金の額で、彼は保安官に連れていかれてしまいました。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』の感想と考察
2019年はセルジオ・レオーネ生誕90周年、没後30周年の特別な年。
当時は『ウエスタン』という邦題だった本作が公開されてからも50周年です。
長すぎるという興業上の弊害により24分短縮の141分で公開された日本公開版は不評で大コケ、批評的にもヨーロッパ以外では散々たるものだった同作ですが、今では西部劇の金字塔、映画史を代表する傑作として評価されています。
特に大きく影響を受けたと公言しているのがクエンティン・タランティーノ監督で、「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を見て映画監督になろうと思った。この作品自体が自分にとっての映画学校だった」と語っています。
長尺によるゆったりした語り口やためてためてからの突発的な暴力描写など、見比べてみるとたしかにタランティーノはレオーネから大きな影響受けているのは明らかです。
そしてタランティーノの特徴といえば自分の好きな映画の演出やBGMを自分の映画に盛り込んでオマージュを捧げるところです。
レオーネ作品に対するオマージュも豊富で、例えば『レザボア・ドッグス』でクライマックスに三者三様に銃を突きつけ合って対峙する場面はレオーネの代表作『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』の終盤の三つ巴の決闘を意識しています。
ただそんな風にオマージュされるレオーネも、実は無類の映画オタク。特に西部劇の大ファンでこの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』でふんだんに自分の好きな西部劇の名作のオマージュを捧げています。
特に冒頭で駅舎に3人のガンマンが現れるのはフレッド・ジンネマン監督×ゲイリー・クーパー主演の名作『真昼の決闘』の有名な冒頭へのオマージュです。
最後にシャイアンが脇腹を撃たれていて息絶えるのは『シェーン』のオマージュでしょうか。とにかく考え出すと枚挙に暇がありません。
レオーネ自身もタランティーノのようにサンプリングを多用する作家だったのです。
しかしイタリア人のレオーネがなぜそこまで西部劇というジャンルに執着したのか。
それは彼の生い立ちに起因しています。
セルジオ・レオーネは1929年イタリアのローマに生まれます。
父親は映画監督、母親は女優という映画一家のサラブレッドでした。
そんな過程で育ったセルジオ少年は幼少期から映画に触れて育ち、とくに40年代に最盛期を迎えていた西部劇が大好きになります。
しかし彼の少年期はちょうどイタリアがファシズム国家となり、連合国との戦争に入っていった時代だったため、アメリカ映画が見られなくなった時期が長く、セルジオ少年はアメリカ映画、そしてアメリカという国そのものへの憧れを募らせていきます。
しかし敗戦後にイタリア国内に入ってきたアメリカ軍人たちは、占領国故の横暴な態度をとる者も多く、レオーネの中での憧れの国、正義の国アメリカという印象が崩れてしまったのです。
しかし彼が幼少期から愛してきた西部劇への愛情だけは変わらず、1964年の『荒野の用心棒』を皮切りに彼はイタリア製西部劇マカロニウエスタンの新旗手になっていきました。
そしてイーストウッド主演で『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』のいわゆるドル箱三部作を大ヒットさせたレオーネは、パラマウントの親会社である「ガルフ・アンド・ウェスタン」からマカロニウエスタン史上最大級の破格の予算の300万ドルを取り付け、西部劇への個人的憧れと愛を詰め込んだ大作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を監督したのです。
この映画には彼のアメリカという国そのものへのアンビバレントな思いが詰まっています。
自分たちイタリア系も含むヨーロッパ人がアメリカ大陸に渡って築き上げた誰でも成り上がることができる自由の国。
しかしその内実は先住民を殺し、黒人を奴隷でこき使い、国内でも血生臭く殺し合ってきた国でもあります。
特に西部開拓地域は銃と暴力が幅を利かせ、弱者が踏みにじられる非情な世界でした。
レオーネは上記のように愛する西部劇へのオマージュを捧げながらもその負の側面を描くことから逃げていません。
何しろわざわざ『荒野の決闘』(46)で正義の保安官ワイアット・アープ役、『12人の怒れる男』で少年の無罪を唱えて司法の公正さを守った陪審員8番役などの演技で知られ、「アメリカの良心」と言われるヘンリー・フォンダを悪役フランクに起用しているのです。
「アメリカの良心」がいきなり子どもを含む何の罪もないマクベイン一家を虐殺する冒頭からして強烈。
もちろんレオーネはフォンダの大ファンでしたが、それでも彼をこの役に起用することは譲らなかったと言います。
ヘンリー・フォンダ演じるフランクは滅びゆく古きアメリカの象徴なのです。
モートンのように実業家になろうとしても結局無法者でしかない自分を変えられず、戦いに死んでいくフランク。
そんなフランクを追うハーモニカも、濡れ衣を着せられるシャイアンも、一応正義側に置かれてはいますが暴力でしか物事を解決できない古い男たちです。
だからこそ彼らはフランクやモートン一味を倒した後に去って行ってしまうのです。
特にシャイアンが油断したせいでモートンによる銃の傷で死んでしまうという描写は、西部の古いならず者が新しいビジネスと法の時代を生きる者たちに淘汰されていったという西部時代末期の様子を象徴しています。
そしてシャイアンの死を見届けハーモニカが去っていったタイミングで駅にやってくる汽車。
これも法と秩序の新しい時代の象徴です。
だからこの映画で最後に映されるのは土地に根差して生きていくことを決めたジルと駅を整備した真面目な労働者たちなのです。
この映画の真の主役は最後の最後にジルに受け継がれた自分の夢が叶ったマクベインかもしれません。
レオーネはそんな時代の移り変わりを描きつつ、「昔々…西部があった」と哀愁たっぷりに西部の男たちの落日を描き切ってみせました。
極端な引き絵で映される美しい映像も哀愁たっぷりのエンニオ・モリコーネの音楽もこの滅びの物語を大いに盛り上げます。
まとめ
本作が公開された1968年という時代はベトナム戦争がはじまり、若者の間で旧来的な生き方を否定するヒッピー文化が巻き起こり、アメリカンニューシネマが誕生して古臭いハリウッド娯楽映画が淘汰され始めていた時期でした。
そんな時代の移り変わりの時期ゆえに古臭い西部劇というジャンルの本作はコケてしまったのかもしれません。
しかし見直してみればこの映画で描かれる時代の移り変わりがそのまま当時のアメリカを象徴していたのが良くわかります。
ちょうど現在公開中のタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が同じ時期のハリウッドを描いています。
そういえば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』も時代に淘汰されそうな古い男たちが、新時代を象徴するような女性を救う物語です。
タランティーノはやはりこの映画から受けた影響が多いのでしょう。