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映画『細い目』あらすじと感想レビュー。ヤスミン・アフマド監督が描く偏見や差別を超えたラブストーリー|銀幕の月光遊戯 42

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第42回

映画『細い目』(2004)が、2019年10月11日(金)より、アップリンク渋谷、アップリング吉祥寺他にて全国順次公開されます。

2009年に51歳で他界したマレーシアの名匠ヤスミン・アフマド監督が2004年に発表した長編第2作目にあたる本作は、マレー系の少女と中華系の少年の初恋を描いた作品。

当時マレーシア映画界が描こうとしなかった民族や宗教の問題を取り上げ、検閲でカットを受けながらも、圧倒的な支持を得たヤスミン・アフマド監督の代表作の一つです。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『細い目』の作品情報

【日本公開】
2019年公開(マレーシア映画)

【原題】
Sepet

【監督】
ヤスミン・アマフド

【キャスト】
ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チュン、タン・メイ・リン、ハリス・イスカンダル、アイダ・ネリナ、アディバ・ヌール

【作品概要】
2009年に51歳で急逝したマレーシアの名匠ヤスミン・アフマド監督が2004年に手がけた長編第2作。オーキッドという名の少女が登場する“オーキッド3部作”の第1作にあたる。

マレー系少女と中華系少年の恋を描き、マレーシア・アカデミー賞でグランプリ、最優秀監督賞、最優秀脚本賞をはじめ6部門を独占。

第18回東京国際映画祭で「アジアの風」部門の最優秀アジア映画賞を受賞している。

映画『細い目』のあらすじ

少年が母に詩を読み聞かせています。母はその詩を気に入ったようでした。作者がインドの人だと知った母は言うのでした。「不思議ね。文化も言葉も違うのに心の中が伝わってくる」

オーキッドは映画スター・金城武が大好きなマレー系少女です。友だちと市場にでかけた彼女は、香港映画の海賊版VCDを売る店で、金城武の作品はないかと売り子の少年に尋ねました。

彼女の顔を見た少年は何もかも忘れて彼女に見とれてしまいます。一瞬にして恋に落ちたのです。

彼女に促されて、あわてて金城作品出演作品のタイトル名を言う少年。そのうちの一本を彼女は購入し、立ち去ろうとしますが、少年は彼女を呼び止め、『恋する惑星』のVCDがはいった袋を手渡しました。「気に入らなかったらお代はいいから」と言って。

少年は自分をジェイソンと名乗り、袋の中に電話番号をかきつけた紙を入れていました。

オーキッドが彼に電話して、2人は会うようになりました。民族や宗教が違う2人の恋は、周りにさざ波を起こしますが、彼らの家族は、そんな彼らを静かに暖かく見守っていました。

そんな中、ジェイソンが過去につきあっていたよくない仲間との関係でトラブルを起こしてしまいます・・・。

映画『細い目』の解説と感想

マレーシアのヤスミン・アフマド監督が描く世界

ヤスミン・アフマドはマレーシアの映画監督で、2009年、脳内出血で緊急入院し51歳で亡くなるまで、6本の長編映画を製作しました。遺作となった2009年の作品『タレンタイム~優しい歌』は、日本では2017年にロードショー公開され、大きな話題を呼びました。

彼女の作品は、多民族国家マレーシアにおける民族や宗教に対する圧力や壁というこれまでマレーシア映画では描かれてこなかったタブーをそのまま映し出しているところに特徴があり、偏見や差別を超えた恋や友情の可能性が、強い意志とユーモアを交えたタッチでいきいきと描かれています。

『細い目』は彼女の第二作目です。マレー系の少女と中華系の少年の初恋がみずみずしく描かれ、2人の家族や、友人たちも巻き込んだ幼い恋の行方と、マレーシアの様々な社会現象を映し出しています。

タブーの部分に触れているため、賛否両論巻き起こり、いくつかの場面は検閲を受けたそうですが、封切られるや、どの海外作品よりも話題となり、DVDも爆発的に売れたといいます。

『細い目』には緑あふれる美しい風景や、魅惑的な市場、カフェなどが登場しますが、そのロケ地となったのはマレーシアのイポーというところで、現在はヤスミン・アフマド記念館が建てられているそうです。

異文化に触れることの大切さ、重要さ

オーキッドというマレー系の少女は、中華ドラマ好きの母の影響もあって、香港映画に夢中で、とりわけ、金城武がお気に入りです。

その金城武が出演している映画を探して彼女が海賊版のVCDを扱っている店にやってきたことで、中華系の少年、ジェイソンに出会います。目が会った瞬間、ジェイソンは彼女に一目惚れしてしまいます。

オーキッドは、ウォン・カーウァイ監督の『天使の涙』の金城武がお気に入りで、ここで、同じくウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』を手渡されます。

さらに、オーキッドは、ジョン・ウーの『男たちの挽歌』も好きで、そのことでジェイソンの友人と意気投合して、ジェイソンが嫉妬する場面も出てきます。

香港映画スターを好きになったことで、彼女は広東語を勉強し、香港や中華文化を身近なものに感じています。

文化に興味をもつことで、偏見や差別的な意識は消え、フラットな視線で、先入観なしで、素直な気持ちで“他者”というものが受け入れられるのです。このことは、2人の恋の背景にとても重要な意味を持っています。

これこそが、まさに文化の交流というものであり、異なった者同士、あるいは国同士の理解につながっていくのではないでしょうか。そうして、映画というものが異文化の理解に大きな役割を果たせるのだということをこの作品は明快に表しているのです。

瑞々しい青春映画と人生の明暗

本作は若い2人の初恋を描いた作品として、その歓びや痛みが、みずみずしいタッチで描かれています。

オーキッドを演じているのは、シャリファ・アマニ。『細い目』をはじめ、『グブラ』、『ムクシン』、『ムアラフ-改心』と、ヤスミン・アフマド監督の4作品に出演し、ヤスミン作品のミューズとして知られています。

『細い目』に出演した際は17歳で、これがデビュー作でした。ジェイソンを演じたン・チューセンも本作がデビュー作で、これが唯一の映画出演作なのだそうです。

全編に、そんな2人の初々しさが溢れています。突然雨に降られた時の青々としたフイルムに焼き付けられた2人の姿や、緑の壁に囲まれたカフェで2人が並んですわっているのを真正面から捉える様に、爽やかな青春の匂いを感じます。

その一方で、香港ノワール映画を彷彿させる描写もあり、ジェイソンの友人が裏社会の男に追われる際のカメラの動きは驚くほどスピーディーで大胆なものです。

人生の歓びと絶望、可能性と現実、明と暗をまっすぐに見つめながら、それでも人間を信じて描いたヤスミン・アフマド監督の代表作の一つをこの機会に是非ご覧になってください。

まとめ

この作品でもう一つ特筆しなくてはいけないのは、オーキッドの両親たちの生き方です。

オーキッドの母は、お手伝いさんのヤムと対等な関係を築いていて、まるで中の良い友人のようです。

年頃の娘を心配しながらも、少年との交際を暖かく見つめ、頭ごなしに別れさせようとしたり、偏見を持つ両親ではありません。最後まで娘に寄り添い続ける姿はとても立派です。

でも、ヤスミン・アフマド監督はそんな両親を礼賛し、押し付けるようなことはしません。両親の描き方はとてもユーモラスで、くすりと笑わされる場面がたっぷり出てきます。

ところでタイトルの「細い目」というのはどういう意味なのでしょうか? それは中国系の人の目が細いことをからかうマレーシアの言い方からとられているそうです。

ですが、この映画がヒットしたことで、「細い目」が肯定的な意味へと変わっていったといいます。

それこそが、ヤスミン・アフマド監督が目指したものであり、映画が持つ力の1つなのです。

次回の銀幕の月光遊戯は…


(C)Darren Culture & Creativity Co.,Ltd.

2019年09月28日(土)より公開の台湾製のLGBTQ映画『バオバオ フツウの家族』をお送りする予定です。

お楽しみに!

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