オバマ前大統領が年間ベスト映画に選出したことでも話題の青春映画
生まれた時からウェブサイトやSNSが存在する、若き少女たちのリアルな葛藤や恋愛。
そして、父親との家族関係を描き、全米で公開4館からわずか3週間で1084館に急拡大、評判を集めた青春映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』。
初監督を務めた、俳優出身のボー・バーナム監督が自身の経験をベースに脚本を執筆。
SNS時代を生きる少女ケイラの“いま”を描き、社会現象を巻き起こした映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』をご紹介します。
CONTENTS
映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』の作品情報
【公開】
2019年公開(アメリカ映画)
【監督】
ボー・バーナム
【キャスト】
エルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソン、ジェイク・ライアン、ルーク・プラエル、ダニエル・ゾルガードリ、フレッド・ヘッキンジャー
【作品概要】
ウェブサイトやSNSを幼い子ども時代から操り育った“ジェネレーションZ世代”のティーンたちのリアルな日常を描き、全米で社会現象を起こした青春ドラマ。
ボー・バーナムがニューヨーク映画批評家協会賞新人監督賞を、エルシー・フィッシャーが放送映画批評家協会賞若手俳優賞を受賞している。
映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』あらすじとネタバレ
ケイラ・ディは、ニューヨーク州の公立中学校の8年生(=エイスグレード 中学校最終学年)です。
食事中、中学卒業まであと一週間だな、と父から声をかけられますが、ケイラは食事にも手をつけず、スマートフォンばかり見ています。
父に注意されたケイラは、「金曜日は好きにしていいって言ったじゃない!」と思わず抗議の声をあげます。
お前はイケてるよ、でももう少し社交的になったほうがいい、なんておせっかいなことを言ってくる父にはまったくうんざりしてしまいます。
ケイラは他者に元気を与えるための動画チャンネルを開設していて、”一歩踏み出す勇気”や“自分に自身を持つこと”などを語っていますが、閲覧者はほとんどいません。
学校では生徒たちの投票で決まる「学校で最も○○な人」というイベントで「最も無口な子」に選ばれてしまいました。
中学に入ってすぐに埋めたタイムカプセルが掘り返され、各自持って帰ることになりました。タイムカプセルの箱には「世界で一番クールな女の子へ」とエイス・グレードを迎えた自分への呼びかけの言葉が記されていました。
放課後、クラスの人気者・ケネディの母親から声をかけられ、ケネディの誕生パーティーに招待されます。ケネディ自身は乗り気でなさそうでしたが、母親に言われて、渋々インスタグラムで招待状を送ってきました。
ケイラは、最初は行かないつもりでしたが、勇気を振り絞ってパーティーに参加することにしました。ケネディの家まで父に車で送ってもらい、家のチャイムを鳴らすと、ケネディの母親が快く迎えてくれました。
でも、あまりにも緊張していたためトイレで過呼吸になりかけます。なんとか落ち着きを取り戻し、水着に着替えてみんなが集まっているプールに向かいました。
誰もケイラに話しかけてくる子がいない中、唯一、ケネディのいとこだという少年ゲイブが声をかけてきました。
お誕生日プレゼントが披露されていく中、ケイラが贈ったゲームにはケネディは何の反応も見せませんでした。
あまりの居心地の悪さに父親に迎えて来てほしいと電話していると、ケイラが憧れているクラスメイトのエイデンがやってきて、なんでひとりでいるの、みんな向こうだよ、と話しかけてきました。ケイラは戸惑いつつも皆のいる部屋に向かうのでした。
翌日、ケイラはケネディに声をかけ、昨日の礼を述べ、手紙を渡しましたが、彼女はスマフォを見るのに忙しく、何も聞いていませんでした。
エイデンのことを目で追っていると、「好きなの?」とクラスの女子生徒に尋ねられました。あわてて否定すると、「ゲス野郎よ。自撮りエロ写真を送って来ないからってガールフレンドを捨てたのよ」と女子生徒は吐き捨てるようにいいました。
エイデンに近寄りたいために、ケイラは、自身のエッチフォルダーがさもあるように彼に匂わせます。すると、エイデンは真剣な顔で話に食いついてきました。けれど彼の希望にはとても応えることができません。
「明日は高校の体験入学だな。感想を待ってるよ」と父が話しかけてきました。不機嫌そうに「私のことはもう心配しないで」とケイラは言い自室に引っ込みました。しかしすぐに真剣に神様にお祈りを始めました。
「いい一日にしてください。他の日はつらいことだらけでもかまいません。明日だけはいい日にしてください。お願いします」
体験入学は、高校生とペアになり、一日一緒に過ごすというものです。ペアの相手のオリヴィアは、優しく快活な女性で、ケイラにとても親切にしてくれました。神様は約束を守ってくれた! ケイラは歓びでいっぱいになりました。
体験入学を終えて家に帰ったケイラは、早速オリヴィアにお礼の電話をしました。するとオリヴィアは、今から友だちとモールで待ち合わせしてるんだけどあなたも来る?と誘ってくれました。
ケイラは歓びのあまりガッツポーズして、誘いに応じ、父に送迎を頼みました。高校生と遊ぶことに一抹の不安を覚えながらも父はモールまで車で送ってくれました。
フードコートに行くと、オリヴィアと3人の高校生が彼女を迎えてくれました。そのうちの2人は男子生徒です。
彼らの話になかなか入っていけないでいると、「退屈そう」と1人の男子が言いました。「そんなことない」と否定すると、「スナップチャットはいつからやってる?」と尋ねられました。「5年生から」と応えると、彼らは驚いて「違う人類だ」というのでした。
その時、女子生徒が「二階のあの男、ずっと私たちを見てる、気持ち悪い」と言い出します。見ると、それはケイラの父親ではありませんか。ケイラは「ちょっと」と言って立ち上がりました。
父は心配だったんだ、見張ってたわけじゃないと謝りましたが、帰りは友だちに送ってもらうと言って、ケイラは父に帰ってもらうのでした。
映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』の感想と評価
エイス・グレードとは、アメリカの小中学校における最終学年=8年生のことです。主人公のケイラはその8年生の13歳。中学卒業まであと一週間となり、もうすぐ高校生になる女の子です。
観ていて心がきりきりと痛む場面の連続で、それは彼女が自分のなりたい者になろうと懸命に努力しているのに、ことごとく報われないからです。
こうした心の痛みは、多かれ少なかれ、誰もが経験することで、そうした普遍的な痛みが共有される一方、SNSと共に暮らす現代のティーンの悩みが克明に描かれています。
ケイラは、ライフスタイルアドバイス動画をYouTubeにアップしていますが、視聴が伸びないことに悩んでいます。
動画を誰かの役にたとうと思って上げていることに嘘はないのでしょうが、そこには、同年代で多数のフォロワーを獲得しているインフルエンサーへの憧れ、自身もそうなりたいという思い、他者に評価されたいという強い承認願望が見て取れます。
そのメッセージの多くは全て彼女自身に返ってくるような内容なのですが、本人はそのことには気づいていないようです。学校での生活だけでも大変なのに、SNSという存在が、彼女たちを常に“人気者”と“そうでない者”に区分しているのです。
アメリカ学園ものといえば、高校生が主人公のことが多く、高校というある意味過酷な世界でサバイバルする少年、少女の悲喜こもごもが多くの人の心を捕らえてきました。
しかし、本作ではさらに若い世代の生活が描かれています。様々な事象がどんどん低年齢化していく様子がここでも見て取れます。
イケてる女の子、クールな女の子になるために、性に奔放であるようなふりをするなど、危なっかしい様子にはハラハラさせられてしまい、彼女を見守る父親の心情が手に取るように伝わってきます。
心配のあまり、こっそり様子を伺っていた父親が、一緒にいる相手から「あの男キモい」と言われるシ―ンなど、実にありそうな秀逸なエピソードです。
監督のボー・バーナムは、終始、ケイラに寄り添うようにして彼女の心情を映し出します。彼女の悲壮な現状をごまかしのない表現で描きながら、それでも、映画には優しく見守るような温かみが感じられます。
この若き才能あふれる青春映画には、ケイラと同世代の若い人々や、ケイラの父親と同世代の親世代など、すべての世代にその痛みを共有させると同時に、思わずヒロインを応援したくなるような暖かさが溢れているのです。
まとめ
監督のボー・バーナムは、1990年生まれ。高校生の時にYouTubeで上げていたコミック・ソング動画が大人気となり、コメディアン、ミュージシャン、俳優として活躍するようになりました。
俳優としても『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目覚め』(2017/マイケル・ショウトルター)などのコメディ作品に出演。キャリー・マリガンとの共演作の公開も控えています。
本作はそんな彼の初の映画監督作品です。SNSの申し子である彼だからこそ見える、SNS時代の少女の生き様が、繊細なタッチで描かれるとともに、おおらかな愛を感じさせる極上の青春映画に仕上がっています。
ケイラを演じたエルシー・フィッシャーはアニメ映画『怪盗グルーの月泥棒』(2010/ピエール・コフィン、クリス・ルノー)、『怪盗グルーのミニオン危機一発』 (2013/クリス・ルノー、ピエール・コフィン)で、主要キャラクター“アグネス”の声を担当したほか、テレビや映画で活躍しています。
本作で放送映画批評家協会賞若手俳優賞を受賞したほか、第76回ゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネートされました。
ケイラの父を演じたのは人気ドラマ『13の理由』でも良き父親役を演じていたジョシュ・ハミルトンです。
父子家庭の中、思春期を迎えた少女にどのように接すればいいか、戸惑ってばかりの父親ですが、彼が娘に伝える言葉の誠実さには誰もが心を打たれることでしょう。