10年の時を超えてつながる恋と出逢いの物語
映画『アイネクライネナハトムジーク』が2019年9月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかで公開されています。
人気ベストセラー作家・伊坂幸太郎の同名小説を、『愛がなんだ』が大ヒットした今泉力哉監督が映画化。
人と人の巡り合いの連鎖と愛の行方を追った愛すべきラブストーリーです。
映画『アイネクライネナハトムジーク』の作品情報
【公開】
2019年公開(日本映画)
【監督】
今泉力哉
【原作】
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)
【キャスト】
三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造
【作品概要】
『アヒルと鴨のコインロッカー』、『重力ピエロ』、『ゴールデンスランバー』など映画化作品も多いベストセラー作家・伊坂幸太郎の同名小説を、『愛がなんだ』が大ヒットした今泉力哉監督が映画化。仙台をはじめ、宮城県でロケが行われた。
主演の三浦春馬と多部未華子に加え、原田泰造、貫地谷しほり、森絵梨佳、矢本悠馬ら豪華キャストが集結し、10年に渡る恋と人間関係を描く偶像恋愛劇。
原作小説が生まれるきっかけとなったシンガーソングライター・斉藤和義が音楽を担当している。
映画『アイネクライネナハトムジーク』あらすじとネタバレ
宮城県・仙台駅前。大型ビジョンには、プロボクサー・ウィンストン小野の日本人初の世界ヘビー級王座を賭けたタイトルマッチが放映されていました。
そんな中、ペデストリアンデッキで街頭アンケートに立つ会社員の佐藤は、なかなかアンケートに答えてくれる人を見つけられずにいました。彼のすぐ側には、路上ミュージシャンがギターの弾き語りを行っていました。
ミュージシャンの奏でる音楽にほんの少しの間聴きいっていた佐藤は、隣にスーツを来た小柄な女性が同じように音楽を聴いて立っていることに気づきます。
思い切って声をかけ、アンケートをお願いすると、彼女は快く応じてくれました。
ふと彼女の手に目をおとすと、手の甲に「シャンプー」と書かれた文字が見えました。思わず「シャンプー」と声に出してしまった佐藤に、紗季は「忘れないように」とはにかむように微笑みました。
〈出会い〉がないから恋人ができないという佐藤に、大学時代からの友人・織田は出会いがないっていう理由が一番嫌い、都合のいい出会いなんてないんだと〈出会い〉について熱弁をふるいます。彼は同級生で皆の憧れの的だった由美と結婚し、2人の子どもにも恵まれ幸せな家庭を築いていました。
佐藤は職場の上司・藤間にも〈出会い〉について相談してみますが、藤間は愛する妻と娘に出て行かれたばかりでそれどころではありません。なぜ、妻が出ていったのか、彼には皆目検討もつかないのです。
一方、美容師として働く美奈子も恋人はいないのかと常連客から尋ねられ、〈出会い〉がないんですよ、と応えていました。美容室の常連客・香澄は、じゃぁ、私の弟はどう?と唐突に切り出します。
数日後、香澄の弟から電話がかかってきました。「姉貴から言われて電話した」という彼に、美奈子は「(香澄が言うような)重要な指令はないです」と応えて、電話を切ろうとします。その時、部屋にゴキブリが出て、美奈子は大声を上げてしまいます。
そのことがきっかけで、美奈子は香澄の弟と電話で話すようになり、次第に恋心をいただき始めるのでした。
ところがある日、彼から電話がかかってきて、しばらく仕事に集中しなくてはいけないので、電話できないと言われてしまいます。
ちょっと気落ちした美奈子に香澄は、実は弟が何が企んでいるらしくて、今度、ボクシングのタイトルマッチがあるじゃない? 日本人のウィンストン小野が勝てばあなたに告白するつもりらしいのよと言うのでした。
そんなの他力本願じゃないですか、そんなのなんだか嫌だな、と美奈子は応えます。それはその日本人が負けたらどうなるの!? という不安から出た言葉でした。
タイトルマッチで、ウィンストン小野は劇的勝利をおさめ、初の日本人ヘビー級チャンピオンが誕生しました。ヒーローインタビューで彼は、有る女性に告白したいと述べていました。
その時、香澄が電話してきました。「実は私の旧姓って小野なんだよね」。そう、ウィンストン小野こそ、彼女の弟だったのです。
藤間の妻はまだ実家に戻ったままでしたが、彼はようやく落ち着きを取り戻したようでした。
佐藤が藤間に奥さんとの出会いはどんなふうだったのかと尋ねると、横断歩道を歩いていた時、すれ違う際に、彼女が財布を落として、俺が声をかけたんだ、それが出会いだったと藤間は応えました。
そんな劇的な出会いがあるのだ、と佐藤は織田に話してきかせますが、あくまでも劇的な出会いを否定する織田は、あとであの時、出会ってよかったな、彼女で良かったな、ついてるなと想うのが本当の出会いなんだよ、と力説します。
大学の同級生の友人が結婚式をあげることになり、佐藤と織田も二次会に招かれます。佐藤は、司会も頼まれていました。
ビンゴ大会をすることにした佐藤は、ビンゴの商品を購入していた時、おしゃれなシャンプーセットをみかけて、あの時のアンケートに応えてくれた女性を思い出していました。
結婚式当日、商品を車につめて織田をピックアップした佐藤は、近道をしようとしたために渋滞に巻き込まれてしまいます。道の片側では工事が行われていました。
車を誘導する係が女性だぞと言われ、女性の顔を見た佐藤はそれがアンケートの女性だと気が付きます。彼は途中で車を止めると、荷物の中からシャンプーを掴んで、彼女のもとへと戻っていきました。シャンプーを差し出され、彼女もまた彼に気がついたようでした。あの時と同じように彼女は穏やかに微笑んでいました。
10年後。
高校生の久留米和人は、両親とファミレスにやって来ました。父が注文したのとは違う品が運ばれてきましたが、父は抗議せず、それを食べ始めました。
「魚が食べたいって言ってたんじゃなかったのかよ」という和人の言葉に父は一瞬目をあげますが、すぐに仕事先から電話がかかってきてその場を離れました。
ペコペコしながら電話している父を見て、「お父さんみたいな人間には絶対ならない」と和人が言うと、母は、みんな若い頃はそう思うのよ、と応えます。
「社会の歯車になんてなりたくない」と彼が言うと、「歯車をなめんなよ、基本的にみんな歯車になるのよ」と母に反論されてしまいます。
織田家の長女・美緒は高校生になり、高校では合唱コンクールの練習が行われていました。「合唱祭になんの意味があるの?」と亜美子に問われ、「きっと大人は若者が力を合わせて頑張っているとホっとするのよ」と応えました。
1人の男子生徒が音程をはずしているので、口パクするしかないなと先生に言われている時、和人が「諦めるのはまだ早いです」と同級生をかばいました。
「いいやつじゃん」と美緒はつぶやきます。
放課後、美緒は和人に放課後付き合ってと声をかけました。美緒が連れてきたのは市の駐輪所でした。ちゃんとお金を払ったのに、その証明になるシールを誰かに盗られて忠告の青い紙を貼られたのだと彼女は言います。
彼女とともに犯人探しをすることになった和人は、券売機を見張ったらいい、お金を払わないやつが犯人だと美緒に言います。
すると、1人の中年男がやってきて券売機を素通りし、自転車を止め、隣に停めてある自転車の証明シールをはがして自分の自転車に貼り付けるのを目撃します。
美緒はつかつかと男の前に行き、猛然と抗議を始めました。しかし男は居直って認めようとせず、証拠はあるのかと逆に美緒に詰め寄ります。
その時、むこうから和人の父親が自転車を押してやってくるのが見えました。父は男に近寄ると、「私もかかわりたくないからすぐ立ち去りますけど、そちらのお嬢さんがどなたの娘さんか知っていてそんなことしているとしたら勇気の有る方ですな。お嬢さん、くれぐれも私のことはご内密に」と言って立ち去りました。
男は急に怖気づいて、「払えばいいんだろうが」といって、券売機に向かいました。「織田さんのお父さんってそっち系の人なの?」と和人が尋ねると、「ただの居酒屋の店長だよ」と美緒は困惑したように応えました。
映画『アイネクライネナハトムジーク』の感想と評価
ゆるやかにつながる人々のそれぞれの愛の形が、丁寧に優しく描かれていきます。
2013年の作品『サッド・ティー』(2013)では青柳裕子が、「ちゃんと好きってどういうことですか?」と尋ね、『パンとバスの2度目のハツコイ』(2017)では深川麻衣が「どうしてそんなに深く愛せるんだろう」と呟いていたように、今泉監督作品の登場人物たちはいつも、“恋をする”、“人を好きになる”ということに戸惑いを隠せないでいます。
『アイネクライネナハトムジーク』で三浦春馬が演じる佐藤も、“出会い”という言葉にとらわれ続けます。
2019年の今泉監督作品『愛がなんだ』で描かれたような、彼のことが好きで好きでたまらくなくて、もうその彼になりたいほど彼が好きという感情や、どんなに冷たくされ、便利に使われても彼女の側にずっといたいというような人物は本作には登場しません。
むしろ佐藤や、貫地谷しほりが演じる由美子などは恋愛に対して消極的なタイプです。それでいて『パンとバスと2度目のハツコイ』の深川麻衣のように孤独への覚悟を持っているわけでもありません。
彼らは誰かに背中を押されなければ、積極的に動けない人間で、知り合いに半ば強引に紹介してもらったり、友人に半ば説教されなければ恋愛に向かい合おうとしない、ある種の臆病なタイプなのです。
さらにその“恋愛”は、情熱的だったり逆に刹那的な、“瞬間的な大恋愛”ではなく、結婚へと至る一つの過程として描かれています。
そんな“映画のようにドラマチック”ではない、ある意味平凡な人々の恋愛話=結婚話なのですが、これが実に生き生きとした爽やかな物語となっているのです。
人と人が出会い、惹きつけられるということはどんなに平凡に見えてもやはり小さな奇跡なのでしょう。
そこで人が取るちょっとした決断や勇気が恋を推進し、逆に少しのタイミングの狂いや、判断の誤りが大きなすれ違いを生んでしまう、そんな恋愛の楽しさと苦しさが感情豊かに表現されています。
“10年後”に描かれる高校生の恋愛の爽やかさが、大人になってからの恋の複雑さをクローズアップさせるという面白い構成がとられています。
たったひとつの発言が恋を芽生えさせ、後先考えず、好きをぶつけていけるティーンエイジャーに比べて大人の恋愛はなんて理屈っぽくもどかしいものなのでしょう。
それにしてもこの高校生パートが実に素晴らしいのです。今泉監督には是非一度学園ものを撮って欲しいものです。
『愛がなんだ』と『アイネクライネナハトムジーク』という全く違った味わいの恋愛映画を続けざまに発表した今泉監督。その懐の深さにはすっかり感心させられますが、どちらも品のある点は共通しています。
まとめ
街頭アンケートをやらされている佐藤こと三浦春馬のバストショットから映画は始まります。
アンケートに答えてくれる人はおらず、皆足早に通り過ぎる様子を固定カメラで撮っていて、次に少しカメラが下がって同じようにその様子を撮ったあと、三浦春馬が振り返ってボクシング中継が行われている街頭ビジョンを見上げます。
そこに登場している成田瑛基扮する日本人ボクサーがこの作品の偶像劇を作るキーパーソンです。
さらに俯瞰ショットでここが仙台駅のペデストリアンデッキであるのがわかります。
実はこのシーンはあとからもう一度繰り返される重要なシーンで、そこで紗季こと多部未華子が出てくるのですが、彼女が最初にアップになる時の三浦を見上げる表情が尋常でない可愛さなのです。
勿論、多部未華子が可愛いのは今更わざわざ言う必要もないのですが、それにしてもこれほど可愛く美しく女優を撮るということの素晴らしさはどうでしょう。
さらにそこに1人のミュージシャンがいます。10年間、ずっと同じ場所で同じ格好で同じ歌を歌っているというちょっとファンタジー的な存在です。恋のキューピッド的でもあるのでしょうか。
ラスト、恒松祐里扮する女子高生が、ミュージシャンの前にいる荻原利久扮する男子高校生に気づきます。
彼女はくるくると弧を描いて彼の近くに移動していくのですが、その運動の素晴らしさも特筆すべきものでしょう。カメラはそれを俯瞰で撮っています。
仙台という街の魅力と、そこに溶け込む俳優たちの魅力が生き生きと伝わってくるのもこの映画の見どころの一つです。