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Entry 2019/09/07
Update

映画『泣くな赤鬼』あらすじネタバレと感想。感動する師との出会いは人生の宝

  • Writer :
  • もりのちこ

「先生、俺、また野球やりたい」。
努力は必ず報われる。

重松清の、先生と生徒の絆を描いた短編集「せんせい。」の中から「泣くな赤鬼」の1編が映画化されました。

短編集「せんせい。」の中でも特に泣けると評判の「泣くな赤鬼」は、野球部の顧問と野球少年だった青年の再会と再生の物語です。

甲子園を目指す高校野球部。グランドには胸を熱くするドラマが溢れています。そして、グランドを去った後、社会人になっても、野球で学んだことは一生の宝物でした。

熱血教師・赤鬼を堤真一が、そして赤鬼の元教え子・斎藤智之を柳楽優弥が演じる映画版『泣くな赤鬼』を紹介します。

映画『泣くな赤鬼』の作品情報


(C)2019「泣くな赤鬼」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【原作】
重松清

【監督】
兼重淳

【キャスト】
堤真一、柳楽優弥、川栄李奈、竜星涼、堀家一希、武藤潤、佐藤玲、キムラ緑子、麻生祐未、田島芽瑠

【作品概要】
重松清の短編集「せんせい。」の中に収められた短編「泣くな赤鬼」の映画化。

監督は『キセキ あの日のソビト』にてミュージシャンの葛藤をみごとに描き出した兼重淳監督。

出演には、重松清作品の映画化は『ドンビ』以来となる堤真一。赤鬼先生の元教え子に柳楽優弥、その妻役に川栄李奈。また、高校時代の斎藤役に堀家一希と注目俳優が揃いました。


映画『泣くな赤鬼』のあらすじとネタバレ


(C)2019「泣くな赤鬼」製作委員会
2007年7月。夏真っ盛り。美容院「カットパーマさいとう」のテレビからは、夏の甲子園選抜地区予選のライブ中継が流れています。

城南高校、甲子園出場ならず。画面では、野球部の小渕監督がインタビューに答えています。部屋では、茶髪の男の子がそのインタビューに耳を傾けていました。どこか寂しそうです。

生徒からは「赤鬼」と密かに呼ばれ恐れられている小渕監督は、厳しい指導のもと甲子園出場を目指しここまでやってきました。その夢が破れた瞬間でした。

それから、10年後。赤鬼は病院の待合室にいました。

「先生。赤鬼先生。俺のこと憶えてる?ゴルゴだよ」。後ろから声をかけてきたのは、かつての教え子斎藤智之でした。斎藤という苗字から野球部ではゴルゴを呼ばれていた人物です。

ゴルゴの隣には妻の雪乃の姿もありました。結婚し子供も生まれ、ちゃんと働いているゴルゴに「大人になったなぁ」。と懐かしむ赤鬼。

昔話は野球の話ばかりです。そんな中、ゴルゴは「俺に思い出話する資格はないな」。と切り上げます。2人の間に一体何があったのでしょうか。

そんな赤鬼は、城南高校から進学校の西高へ移動し、野球部の監督はしているものの、甲子園への夢はあきらめていました。指導にも熱が入らず、野球部の部員たちとも距離が出来ていました。

その日も西高のグランドでは野球部の練習の声が響いていました。そこに赤鬼を訪ねて来た人物がいました。病院で再会した斎藤(ゴルゴ)の妻、雪乃でした。

「先生、死んじゃう、ともくんが死んじゃう」。泣き崩れる雪乃。赤鬼はあまりの事に衝撃を受けます。ゴルゴが野球部に入部してきた時の姿が蘇ります。

ゴルゴは、末期がんにより余命半年と宣告されていました。癌であることを受け入れられず家族に当たり散らすゴルゴ。「息子にこんな父の姿を見せたくないんだよ。離婚しよう」。身も心もぼろぼろです。

2005年、城南高校野球部に期待の新人が入部しました。自信過剰で明るく活発、くせの強い少年は、先輩からゴルゴとあだ名を付けられます。

練習試合では先輩に引けをとらない活躍をみせ、走らせて良し、守らせて良しのサードの要となります。

ゴルゴの入部で甲子園も夢ではない。赤鬼の指導にも熱が入ります。ゴルゴの闘志に火をつけたい。その思いでした。

技術は多少ゴルゴより劣るものの、熱意とひたむきさを持った和田をサードへ抜擢します。ゴルゴと和田のポジション争いとなりました。

しかし、ゴルゴは争いごとが苦手でした。父親の存在を知らないゴルゴは、頑張り方がわからなかったのです。相談できるものもなく、どんどん孤独になっていきます。

野球の練習にこず、目立つ生徒と遊ぶようになるゴルゴ。赤鬼はそれでもゴルゴを信じたい気持ちで待ちます。

しかし、赤鬼もまた本当にゴルゴを理解していたわけではないのです。

職員室にゴルゴを呼び出し、「悔しくないのか。奪い返してみろ。努力する前からあきらめんな。努力は必ず報われるものだ」。と叱咤激励するも、「努力しても甲子園にはいけない。何にもなんないよ。俺には無理だ」。と踏ん張りの効かないゴルゴ。

2人の関係は、すでに修復不可能な所まで来ていました。ゴルゴは問題を起こし、学校を辞めてしまいます。

以下、『泣くな赤鬼』ネタバレ・結末の記載がございます。『泣くな赤鬼』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

赤鬼は始めゴルゴに会いに行くのをためらっていました。しかし娘に言われてしまいます。「お父さんは、人の弱い所をみる勇気がないんでしょ」。

赤鬼は今度こそ最後までゴルゴと向き合うことを決心します。

病室に見舞いに行く赤鬼。ゴルゴはその姿に照れながらも嬉しそうです。

「先生、生徒の葬式に出たことあるの?」。「30年も教師やってるとそりゃあるよ。悲しいし悔しいよすごく」。

「泣くの?」。「人前では泣かないよ」。「赤鬼だもんね」。ゴルゴは自然に赤鬼に甘えているようです。

ゴルゴにとって赤鬼は最後の先生。そして、父親のような存在でした。

何度目かの見舞いの時、赤鬼はゴルゴに聞きます。「何か欲しいものないのか?」。とくにないと返すゴルゴ。でも会いたい人がいました。高校時代ライバルだった和田です。

ゴルゴの見舞いを頼むために和田を訪ねる赤鬼。和田は立派な会社に勤めるエリートになっていました。

赤鬼は和田に、ゴルゴの癌のことを打ち明けます。見舞いに来てくれないかと頼む赤鬼に和田は、断りの返事をします。

「あいつのこと見放したの先生じゃないですか。俺らは先生の夢を叶えるための道具でしかなかった」。和田は自分のミスのせいで負けてしまった甲子園選抜地区予選の試合を忘れたことはありませんでした。

ゴルゴは、やせ細り体力も衰えていました。「先生、俺、また野球やりたい」。ゴルゴの最後のわがままです。

赤鬼は西高の野球部の皆に頭を下げます。「俺の教え子をグランドに立たせてやって欲しい」。

その日がやってきます。おぼつかない足取りでグランドに立つゴルゴ。それを見守るのは母親と妻の雪乃、そして息子のシュウです。野球をする姿を雪乃とシュウに見せたかった。

ゴルゴは、キャッチボールをしながらグランドの土の匂い、ボールの感触を愛おしく感じます。ずっと野球をやりたかった。その思いが溢れだします。

赤鬼にノックをお願いするゴルゴ。ボールに追いつくことが出来ません。それでも懸命に食らいつき、みごとキャッチすることが出来ました。

そこにグランドの外から声がかかります。「しっかりしろよ。サード!」」。和田でした。

現れた和田に「やっぱりサードはお前だよ」。グローブを手渡すゴルゴ。和田のノックが始まります。2人は10年振りに泥だらけで向かい合いました。

和田はゴルゴに謝りたいことがありました。それは、ポジション争いの時、練習に来なくなったゴルゴに「赤鬼もお前に野球部を辞めて欲しいと思ってる」と嘘を付いたことでした。

和田の告白に、「お前のせいじゃない。俺が自分で勝負を降りたんだ」。と和田の実力を認めます。

その日から直ぐでした。赤鬼の元に雪乃から電話が入ります。「先生、ともくんに会いに来て。ともくん本当に頑張ったから、そろそろ眠らせてあげようと思って」。

床に伏したゴルゴの姿は、とても辛そうでした。「悔しいけど、惜しいけど、お前は精一杯やった。俺の生徒になってくれて、ありがとな」。こらえきれず涙を流す赤鬼。

すでに声も出ないゴルゴがサインを送ります。それは赤鬼とゴルゴの思いでのサインでした。了解とサインで返す赤鬼。

蘇る2007年、夏の甲子園選抜地区予選の日。負けた城南高校ベンチにゴルゴの姿がありました。「まだ終わりじゃないよな。努力は報われるんだろ。あきらめんな、赤鬼!」。

その時、確かに赤鬼はゴルゴの姿を捉えていました。「いたんだな、お前は辞めたあともこっちを見ていた。気付いてやれなくてごめんな」。

西高の野球部のグランドにユニフォームを着た赤鬼の姿がありました。その姿は熱血だった頃の赤鬼そのものです。新入部員の自己紹介が始まります。

自信満々で高らかと自分をアピールする球児。その姿にゴルゴを重ねた赤鬼は、こっそりと笑みを漏らします。

映画『泣くな赤鬼』の感想と評価

甲子園を目指す監督と球児。その夢は思わぬ方向へ進み、夢破れ、それぞれの心の奥に後悔を残してしまいます。

再び再会したことで動き出した先生と生徒の時間。2人の関係は時間が経っても変わりませんでした。

余命半年と宣告された元教え子に、もっとこの子のために何かをしてやれたんじゃないのか?

悲しみ悔しがる赤鬼先生。その愛情は、最後にはちゃんと教え子・ゴルゴに届きます。そして、ゴルゴに最後まで向き合った赤鬼は、再び先生としての情熱を取り戻します。

人生をあきらめず努力すること。努力は必ず報われる。ゴルゴが最後に教えてくれました。

赤鬼を演じた堤真一の、熱血教師ぶりに惹き込まれます。甲子園を目指し、生徒に厳しく指導する姿は赤鬼そのものです。

そして、夢をあきらめ情熱もなくした赤鬼先生。余命半年のゴルゴと過ごした、父親のような赤鬼先生。どの姿も自然で、自分の高校時代の先生を思い出しました。

また、余命半年という難しい役となった柳楽優弥。闘病生活の過程で本当に痩せていく姿に見ていて辛くなります。

最後のグランドでの野球姿は、苦しさの中にも希望が見える素敵なシーンでした。

また、彼を支える健気な妻・雪乃を演じた川栄李奈。彼女が赤ちゃんを抱く姿が新鮮でありながら、息子を守る母親の顔も見え、女優川栄李奈の新たな一面を感じました。

また、ゴルゴの高校時代を演じた堀家一希の目力が印象に残ります。

赤鬼先生のことを好きなのに、素直になれず不器用な態度で接してしまう思春期の男の子を体当たりで演じています。丸坊主もよく似合っていて可愛らしいです。

まとめ


(C)2019「泣くな赤鬼」製作委員会
重松清の短編小説「せんせい。」に所収。「泣くな赤鬼」が、兼重淳監督により映画化されました。

良い先生、師との出会いは、人生にとって宝物です。

学生の頃は素直になれず、分かりあえなかったことも、大人になり、子供を持つ親になった時、先生のありがたさに気付くものなのかもしれません。

映画『泣くな赤鬼』は、泣かずにはいられない映画です。


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