映画『無限ファンデーション』は2019年8月24日(土)より、新宿K’s cinemaほか全国順次公開中!
大崎章監督がシンガーソングライター・西山小雨の楽曲『未来へ』を原案に描く、全編“即興”の青春映画『無限ファンデーション』。
本作にて主人公であり人付き合いの苦手な女子高生を演じたのが、ブルーリボン賞・新人賞をはじめ数々の賞を獲得し、その演技力が高く評価されている南沙良さんです。
映画『無限ファンデーション』の2019年8月24日(土)からの劇場公開を記念し、南沙良さんへのインタビューを行いました。
“即興”という芝居の楽しさや芝居そのものに対する思い、自身が女優を目指し始めたきっかけなど、貴重なお話を伺いました。
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全編“即興”の楽しさ
──本作は全編がキャスト陣の“即興”によって構成されていますが、当初は脚本が存在していたとお聞きしました。
南沙良(以下、南):おっしゃる通り、本作の出演オファーを頂いた当初はまだ脚本が存在していましたが、ある時大崎監督から突然「全編を即興で撮りたい」と聞かされたんです。
それからはもう、本番の撮影に向けてトントン拍子でお話が進んでゆきましたね。気づいたら撮影現場に立っていたという感じです(笑)。
撮影に入る前にはキャスト全員で2・3回程度リハーサルを行い、その時に大崎監督ご自身から、本作の大まかなあらすじや作品を通して描きたいことなどについて詳しくお話していただきました。
──「全編を即興で描く」と大崎監督から聞かされた時には、そのことに対し不安も感じられたのではないでしょうか。
南:実は当時、あまり不安は感じていなかったんです。
撮影前の私はむしろ、「作られたセリフとは違い、自分自身の中から出てくる言葉で相手と会話を紡いでゆくのはすごく楽しそうだな」と感じていました。
そして実際に撮影現場に入ってみても、やはり楽しくお芝居をすることができました。
やはりセリフが決まっていないので、独特の“間(ま)”や雰囲気、そして緊張感が非常に生まれるんです。それを感じながらお芝居をするのが楽しかったんです。
大崎監督だから成立した全編“即興”
──南さんから見た大崎監督の印象についてお聞かせください。
南:「全編を即興で描く」という演出もあり、今回大崎監督はとても自由にお芝居をさせてくださいました。
大崎監督はものすごく頼れる方で、何よりもお互いに信用・信頼し合うことができる方でした。だからこそ、私のみならずキャストの皆さんも即興でのお芝居を最後まで続けることができたんだと思います。
また私が本作で演じた未来は、劇中で一度だけ感情を爆発させる場面があります。そこでのお芝居は、撮影前に伝えてくださった「未来はそれまでにずっと“何か”を内に秘め続けてきた。だからこそ、この場面、この瞬間でそれらを爆発させてください」という大崎監督の言葉を意識して臨みました。
そして“爆発”に至る説得力を持たせるためのお芝居を、その場面以前での演技においても常に意識していました。
自分の中から出てくる言葉と感情を
参考映像:映画『幼な子われらに生まれ』(2017)予告編
──女優として活動を始められた経緯について、改めてお聞かせください。
南:小さい頃から、私はずっと女優さんになりたかったんです。そのことを周りの人たちに言い続けていたら、ある時私は雑誌のオーディションを受けることになりました。そのオーディションがきっかけで事務所に入り、雑誌モデルとしての活動を始めたんです。
やがて三島有紀子監督の『幼な子われらに生まれ』(2017)の出演オーディションを受けて合格したことから、本格的に女優さんのお仕事を始めさせていただきました。
またその作品での撮影において、三島監督が「相手となった存在に対してお芝居をするのではなく、自分の中から出てくる、それまでの人生で得てきた言葉や感情をそのまま返せばいいだけなんだよ」と言ってくださったことは、今でも心にずっと残っているんです。
本作において、私は相手からもらった言葉に対して、自分自身、そして演じている未来の中から出てきた言葉によって応えることができたように感じています。
それが即興の楽しさや面白さでしょうし、何よりかつて三島監督からいただいたその言葉を再確認することができたと言いますか、「やっぱりそれが大切なんだなあ」と実感することができました。
“自分以外の何か”への憧れ
──そもそも「女優さんになりたい」と思い始めたきっかけは何でしょうか。
南:「女優さんになりたい」と思い始めたのは確かに小さい頃なんですが、実はそう思い始めた明確なきっかけは正直ないんです。
ただ、“自分以外の何か”になるということに私はとても憧れていたんです。
具体的に言えば、小さい頃の私はリスになりたかったり、インコになりたかったりしたんですよ(笑)。そういった人間である自分自身とは異なった視点で世界を見てみたいなという願望があったんです。
そして、それを一つのお仕事にしている女優さんがかっこいいなと感じて、そこから女優さんになりたいと思うようになりました。
──“自分以外の何か”というよりも、“人間以外の何か”に対して憧れていたのでしょうか。
南:インコになりたかった時には実際にインコを飼ってみたりしましたが、もちろん人間にもなりたい、演じてみたいとは思っていましたよ(笑)。
例えば小学校の頃だと、クラスの中心にいる人気者の女の子に憧れて「その子になってみたいな」と感じたこともありました。
また小さい頃の私は家でひとりで遊ぶことが多かったんですが、そういった時に「“自分以外の何か”になりたい」という願望から空想を膨らませてゆき、ごっこ遊びをしたりしていました。
今思えば、その頃のそうした願望や空想、ごっこ遊びが、お芝居における「自分自身の中から出てくる言葉や感情」にも少なからずつながっているのかもしれません。
幼少期の映画体験
──ちなみに子どもの頃には、どのような映画を観られていましたか。
南:小さい頃から家族と自宅のテレビで映画、特に洋画を観ることは沢山あったので、映画自体はとても大好きでした。
実は小さい頃から、モンスター映画や怪獣映画を観ることが多くて(笑)。スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』や『ジョーズ』はもちろんのこと、特にサメ映画では『シャークネード』はすごく大好きで、今でもよく観るんですよ。
そういったジャンルの映画に必ず登場する「大きい生物」が私は大好きで、そんな生物たちの姿を観ているとただひたすら癒されるんです。
また言われてみて気づいたんですが、私は自分自身にはない属性や性質を持つ存在に憧れていて、だからこそなってみたい、演じてみたいと強く思うのかもしれません。
自由さを感じてほしい
──最後に、南さんにとって映画『無限ファンデーション』がどのような魅力を持った作品なのかをお聞かせください。
南:本作はみんなで作っていった作品であり、キャスト陣それぞれが自分自身の中から出てきた言葉や感情によって形作られた作品です。
そのゆえに場面によっては語彙の乏しさが出てしまう時もあったんですが、それゆえにお芝居の自由さ、作品としての自由さが生まれたんです。
例えば、未来のお母さん役である片岡礼子さんとの二人芝居の場面があったんですが、その場面は「とりあえず何か喋ってください」という指示に基づいて演じました。
あまりにも自由な中でのお芝居だったわけですが、結果としてその場面には凄く独特な“間”と雰囲気が漂っていて、演じていたはずの自分自身ですらその場面を見直した時にはとてもハラハラしてしまいました。ある意味、一番即興の面白さや魅力が出ていた場面になったんだと感じています。
最後の結末も見えていない中、みんなが自身の演じる役、そして自分自身を探りながらお芝居を重ねていきました。だからこそ、あまり重くならずに自由に観ていただきたいですし、お芝居や作品の自由さを感じ取っていただくためにもそうしていただきたいですね。
南沙良のプロフィール
2002年生まれ、神奈川県出身。
2014年、ティーン向けファッション誌「ニコラ」の専属モデルに抜擢。モデルとして活躍します。
その後2017年に三島有紀子監督の『幼な子われらに生まれ』で女優デビュー。同作にて報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネートされ、一躍注目の女優となります。
2018年には湯浅弘章監督の『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で映画初主演を果たし、第43回報知映画賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞と数々の賞を獲得しました。
また2019年に『ココア』にてドラマデビュー&初主演を務めたほか、江崎グリコ「ポッキー」、「キリン 午後の紅茶」のCMにて新イメージキャラクターに抜擢されるなど、映画での女優デビュー後も幅広い分野で活動しています。
2019年公開作には本作をはじめ、オムニバス映画『21世紀の女の子』内にて松本花奈監督が描いた一編『愛はどこにも消えない』、本木克英監督の『居眠り磐音』に出演しています。
インタビュー/河合のび
撮影/出町光識
映画『無限ファンデーション』の作品情報
【公開】
2019年8月24日(日本映画)
【監督】
大崎章
【音楽】
西山小雨
【主題歌】
西山小雨『未来へ』
【キャスト】
南沙良、西山小雨、原菜乃華、小野花梨、近藤笑菜、日高七海、池田朱那、佐藤蓮、嶺剛一、片岡礼子
【作品概要】
第37回ヨコハマ映画祭4冠に輝いた『お盆の弟』(2015)の大崎章監督が、シンガーソングライター・西山小雨の楽曲『未来へ』を原案に、未来へ向かう10代の少女たちの即興芝居で紡ぎました。
主人公・未来を堂々と演じきったのは、ブルーリボン賞ほか新人賞を続々と受賞している『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)『もみの家』(2020)の南沙良。
共演は原菜乃華、小野花梨など、10代の実力派女優たちによるアンサンブルが瑞々しく光ります。
猪本雅三、伊藤裕規による撮影と録音が少女たちのかけがえのない一夏を見事に切り取りました。
映画『無限ファンデーション』のあらすじ
人付き合いが苦手な女子高生・未来は、服飾デザイナーになる夢を胸に秘め、誰にも打ち明けることなく退屈な日々を過ごしていました。
ある日の帰り道、リサイクル施設から聴こえる澄んだ歌声に導かれ、ウクレレを弾きながら歌う不思議な少女・小雨と出会います。
さらには未来が描いた洋服のデザイン画を目にした演劇部のナノカたちに誘われ、舞台の衣装スタッフとして入部することになる未来。
戸惑いつつも小雨やナノカたちに心を開いていく未来でしたが、彼女たちの一夏はやがて思いがけない方向へと走り出していき…。