Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/08/23
Update

映画『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』あらすじと感想。森川圭監督の自虐ネタ?それとも実体験なのか⁈|夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019⑤

  • Writer :
  • 20231113

2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」。

2015年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて、オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞した作品『メイクルーム』。また、2016年には続編『メイクルーム2』が製作、公開されました。

そして「夏のホラー秘宝まつり2019」にて、「メイクルーム」シリーズ第3弾となる映画『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』が8月23日(金)より上映されます。

アダルトビデオ撮影現場の舞台に、そのメイクルームで巻き起こる、AV女優たちとスタッフのドタバタ劇を描いたコメディ映画「メイクルーム」シリーズ。

その世界をアイドル業界と、彼女らが出演するホラー映画の撮影現場に移して描きます。アイドルたちが出演したこのホラー映画、果たして無事に完成するのやら…。

【連載コラム】「夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019」記事一覧はこちら

映画『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』の作品情報


(C)2019 “STRAYDOG”

【公開】
2019年8月23日(金)(日本映画)

【監督・脚本】
森川圭

【出演】
森田亜紀、階戸瑠李、門前亜里、梅村結衣、円谷優希、白石彩妃、藤井奈々、倖田李梨、アイリ

【作品概要】

アイドルたちが出演するホラー映画の舞台裏で、彼女たちがスタッフと共に巻き起こす騒動を描いたホラー・コメディ。

監督は『メイクルーム』『メイクルーム2』に引き続き森川圭。また撮影現場の裏側で、女優たちにメイクを施し、彼女らに振り回されるメイクアップアーティストとして、1作目からお馴染みの森田亜紀が演じます。

その他にも「メイクルーム」シリーズに登場した、お馴染みの顔ぶれも登場し、現役のアイドル女優たちと共に業界の内幕を描きます。

アダルトビデオもホラー映画も、作品よりもその舞台裏の方が奇妙で残酷。そして同時に、夢と想いを秘めた人々が集まる場所。アイドル女優が集う楽屋を舞台に、どんな物語が展開されるのか。

映画『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』のあらすじ


(C)2019 “STRAYDOG”

アイドルたちが出演するホラー映画の撮影初日、撮影現場に集まるスタッフたち。その中にメイクアップアーティストの都築恭子(森田亜紀)の姿もありました。

悲しいかな低予算で人手も無く、準備不足で段取りも悪く、最初から右往左往するスタッフたち。そして今日の撮影の為に、女子高生役で出演するアイドルたちも続々と集まってくる。

アイドルといっても彼女たちの個性はバラバラ。役に対する準備は万端、気合十分に一番に現場現れた準主役の実力派アイドル。そしてアイドル好きが高じて、自らもアイドルになった天然娘。

マネージャーに連れられて現れた2人組は、1人は台本を怖くて読んでないと語り、もう1人は三十路を過ぎた地下アイドル。都築も呆れる軽いノリで、撮影本番に臨むつもりです。

元人気アイドルグループのセンターを務めた、主役のアイドルは遅刻して登場します。今日が役者の仕事は初めてという娘は、緊張のあまり口を開く事ができません。

撮影現場で次々起こる、不測の事態にスケジュールは乱れます。撮影は思うように進まず、出演者の集まるメイクルームに、険悪なムードが漂い始めます。

そんな雰囲気を解きほぐそうと、メイクしながら彼女たちに話しかける都築。やがてアイドルたち、スタッフたち1人1人が持つ、本音や悩みが浮き彫りになっていきます。

しかし彼女らの本音が衝突し、現場が思わぬアクシデントに見舞われた結果、撮影は中断します。果たして今日の撮影は無事終了するのか。アイドルたちはスタッフと共に、映画のために団結する事ができるのか…。

映画『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』の感想と評価


(C)2019 “STRAYDOG”

ワン・シチュエーションで描くアイドルたち

アダルトビデオ撮影の舞台裏を、AV女優が集まるメイクルームという、ワン・シチュエーションで描いた映画『メイクルーム』。好評を得て続編も作られたこのシリーズが、ホラー映画の撮影現場を舞台に帰ってきました。

ちなみに1作目の『メイクルーム』では、どういう訳かホラー映画バージョンの予告編が製作されました。無論この作品はホラー映画でないので、ご注意を。

参考映像:『メイクルーム』(まさかの)ホラーバージョン予告編

そして『メイクルーム2』には、AV女優に転身した元アイドルが登場して、ストーリーの中心人物となりました。

そして今回の第3弾が『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』。この作品がホラー映画とアイドルを融合した作品になったのは、当然の帰着とも言えます。

森川圭監督の描く愛のある業界哀歌(エレジー)

1000本以上のAV作品を手がけただけでなく、OVA『2ちゃんねるの呪い』シリーズにも参加。製作側の人物が注目されにくい分野の映像作品を、数多く手掛けているベテラン監督、森川圭。

彼は『2ちゃんねるの呪い 新劇場版・本危』『エクステ娘 劇場版』といった、得意とする分野であるホラー映画を監督しています。これらの作品に次いで監督した作品が『メイクルーム』です。

『メイクルーム』はいわゆる業界内幕もの。登場するAV女優たちは、事情はあっても自らの意志で、アダルトビデオへの出演を決断した者ばかり。

そこに低予算の環境で働くスタッフや、女優たちをとりまく人々の赤裸々な姿を、コメディタッチで描いた作品です。

コメディとはいえ登場する人々は、それぞれ訳ありの人生に向き合った人々。彼らの姿をリアルに描いた結果、滑稽であると同時に悲しくもある姿を、温かく見つめた作品になりました。

シリーズを通して温かい目で、登場する人々を見つめているのが森田亜紀。「家政婦は見た!」ならぬ、市原悦子より優しい、彼女による「メイクさんは見た!」シリーズとしてお楽しみ下さい。

アイドルも低予算映画も楽じゃない


(C)2019 “STRAYDOG”

『メイクルーム』に登場したAV女優同様、『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』に登場するアイドルたちも、様々な夢と葛藤を抱えて登場します。

“1億総アイドル化”との言葉も死語となって久しく、あらゆる種類のアイドルが、当たり前に存在している現在。彼女らの想いや悩みも、仕事に向き合う姿勢も人それぞれ。

ルールなどで人間的に振る舞う生活を許されず、スキャンダルだけは大きく報道される彼女たち。映画はその渦中で活動するアイドルを、温かい視線を持って描きます。

タイトルに登場する“残念なアイドル”という言葉は、決して否定的なものではありません。

低予算映画の製作に集まったスタッフも、同じ視点で描かれます。映画作りという夢に憧れていた彼らは、いつの間にか過酷な現場に流される日常を過ごします。

“残念なスタッフ”の作った映画は、“残念なホラー映画”になるのかもしれません。しかし“残念”であるのは境遇や心持ちであって、その人物を指す言葉ではありません。

この映画には業界内幕モノの楽しさがありますが、同時にかつて何かに夢を抱いた人、しかし今はそれを忘れ、日々に流されている人々に共感を与えます。自らが抱えている“残念”について、見つめ直す機会になるでしょう。

そんな思いを見る者に抱かせる、ハートフルなコメディ映画が、『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』です。

まとめ


(C)2019 “STRAYDOG”

ちょっと待て、この映画はホラー映画なのか?と思った方もいるでしょう。

確かにホラーなストーリー展開のある映画ではありません。登場する特殊メイクも、厳密にはゾンビメイクと呼んでいいものかどうか。しかし血みどろな姿と、ホラーなメイクは確かに登場します。

アイドルたちの人間関係が時にホラーだった、と力説してもいいですが、ホラーとして売られた映画に、変則的ストーリーの作品があるのはよくある事。こんな映画もまた一興とお楽しみ下さい。

しかしこの作品に登場する人物で、一番“残念”なのは監督です。予算も人手も時間も無く、まともに打ち合わせどころか挨拶もされず、自分の意図よりスタッフ都合が優先で動いていく撮影現場。

スタッフからは平然と力仕事を頼まれ、挙句の果てにアイドルからは散々な言われます。

これは森川圭監督の自虐ネタ、はたまた実体験なのでしょうか?ぜひお尋ねしたいところです。

映画『残念なアイドルはゾンビメイクがよく似合う』は2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「夏のホラー秘宝まつり2019」にて上映!

【連載コラム】「夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019」記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

映画『ようこそ、革命シネマへ』あらすじと感想レビュー。劇場復興を通して表現の自由が奪われた政権下の人々に笑顔を取り戻す|映画という星空を知るひとよ1

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第1回 第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門でドキュメンタリー賞と、観客賞を受賞した、スハイブ・ガスメルバリ監督の映画『ようこそ、革命シネマへ』をご紹介いたし …

連載コラム

映画『ブレイブソルジャーズ』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ヒュルトゲンの森での米軍とナチスの死闘を描く|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー34

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第34回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

映画『TELL ME ~hideと見た景色』あらすじ感想と解説評価。キャストの今井翼がファンに贈る‟兄の遺した音楽”|映画という星空を知るひとよ104

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第104回 「X JAPAN」のギタリスト、またソロアーティストとして、その名を馳せたロック界のカリスマhide。1998年5月の彼の急逝を惜しむ声が後を絶ちま …

連載コラム

『丘の上の本屋さん』あらすじ感想と評価解説。“リベロの意味”も関与する読書の魅力あふれるハートウォーミングストーリー|映画という星空を知るひとよ140

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第140回 映画『丘の上の本屋さん』は、年齢や国籍の違いを超え、“本”を通して老人と少年が交流するハートウォーミングな物語です。 監督・脚本を務めるのは、クラウ …

連載コラム

鬼滅の刃名言/名シーン|最終章無限城編:ネタバレ有で猗窩座/狛治の過去と最後×善逸・獪岳戦を振り返り【鬼滅の刃全集中の考察22】

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第22回 大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。 今回前回記事に引き続き、「無 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学