映画『水曜日が消えた』は2020年6月19日(金)公開。
映画『水曜日が消えた』は、MVやCM、短編作などで注目される吉野耕平の初となる長編監督作品。
4年振りの映画主演となる中村倫也が、幼い頃の交通事故により、曜日ごとに性格も個性も異なる7人が入れ替わる「僕」を演じます。
もし、1人の人間の中に複数の人格があり、自分が一番つまらない人格だったとしたら…。そして7人の人格のうち1人が消えてしまったらどうなるのか。
突然1週間のうちに2日間生きるようになった「僕」の戸惑いと幸せな時間。多重人格という問題にスポットを当てた映画『水曜日が消えた』をご紹介します。
映画『水曜日が消えた』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【脚本・監督】
吉野耕平
【キャスト】
中村倫也、石橋菜津美、中島歩、休日課長、深川麻衣、きたろう
【作品概要】
映画『水曜日が消えた』は、MVやCM、短編作などで注目される吉野耕平が監督を務めました。『君の名は。』にCGクリエイターとして参加し、「次世代の映像作家100人2019」に選ばれた吉野耕平の初長編作品。
曜日ごとに人格が替わる「僕」を4年ぶりの映画主演となる中村倫也が演じ、全ての秘密を知る元同級生に石橋菜津美、物語のカギを握る図書館司書に深川麻衣、そのほか、中島歩や「ゲスの極み乙女。」の休日課長やきたろうらが脇を固めます。
映画『水曜日が消えた』のあらすじ
「僕」は幼い頃に交通事故に遭い、それ以降曜日ごとに人格が入れ替わるようになりました。7人の人格では曜日ごとの名前で呼ばれていました。
その中でも「火曜日」の僕は一番損な役回りで、奔放な性格だったり、マイペース過ぎる「他の曜日」の僕の後始末をして回る日々です。
趣味の読書も図書館が休館日なので利用することができません。「他の曜日」が嫌がるので、定期通院も「火曜日」の仕事です。
よくも悪くも、曜日ごとに人格が入れ替わらない日々に変化はなく、担当医の安藤からも特段変わったことを言われるわけでもありません。
各曜日の僕は連絡事項を日記に付けていて、それを安藤に提出するのも「火曜日」の仕事です。事故から16年が経っていますが、それが7等分されると2年4カ月でしかなく、「火曜日」にとってもそれだけの月日しか実感がありません。
そんな僕に唯一関わってくれるのは元同級生の一ノ瀬だけです。一ノ瀬は毎日人格が変わる僕の事情を知った上でなお、友人関係を続けてくれる女性です。
ある日、「火曜日」が目覚めるとその日は水曜日でした。「水曜日」が消えて「火曜日」の人格が日付をまたいで残っていたのです。
今までにない2日間の時間に、新鮮さと戸惑いを感じる「火曜日」の僕。そしてついに、いつも休館で行けないままだった図書館に行くことができました。
どうやら別の曜日とは面識のある図書館司書の瑞野とも「火曜日」として親しくなり始めます。僕は一ノ瀬にも事情を話したうえで、「水曜日」が消え、倍に増えた人生を何とかキープし続けようとします。
「火曜日」の中で何が起き始めていました……。
映画『水曜日が消えた』の感想と評価
今は解離性同一性障害という言葉が一般的で、“多重人格”という言葉は一部のフィクション上の表現のみになっていますが、ここではわかりやすく多重人格という言葉で進めます。(以下、他作品のネタバレに触れている部分があります)
多重人格者というのは過去にも多くの映画に登場しています。アルフレッドヒッチコックの『サイコ』(1960)から始まり、近年でも『ファイト・クラブ』(1999)『シャッター・アイランド』(2010)、そしてM・ナイトシャマラン監督の『スプリット』(2016)や『ミスター・ガラス』(2019)がありました。
‟多重人格”という言葉は、ヒッチコックが『サイコ』で扱ったこともあり、ミステリー、サスペンスジャンルで用いられるワードとなりがちです。
映画『水曜日が消えた』では、このミステリー的な要素に加え、それ以上に「人の幸せとは何か?」と問いかけてきます。
病気として多重人格をみるなら治療には「人格の統一」を考えますが、7人の「僕」がそれぞれの毎日を「僕」らしく生きている状況で、誰かひとりに統一するのは難しいことでしょう。
そんなことも考えて、最後に「僕」が下す決断もまた、幸せの在り方、何をもって幸せを感じるか、不便と不幸の違いについてなど、いろいろと考えさせられる結末になっています。
映画『水曜日が消えた』の主役は、突然人生に大きな変化が起きた青年。人が成長するということを、風変わりなユーモアを交え、「多重人格」という新たな目線を加えて描き出しています。
まとめ
映画『水曜日が消えた』は、曜日ごとに人格が入れ替わる青年の物語です。この驚くような設定の映画に、中村倫也を主演に迎えたことは大きな成果といえます。
芸歴15年の中村倫也は2019年のドラマ『凪のお暇』(2019)の安良城ゴン役でブレイクし、ドラマ『美食探偵 明智五郎』では主演を務めています。
映画では若きバイプレーヤーとして活躍している中村倫也。『屍人荘の殺人』(2019)では自称名探偵の留年大学生を、『影裏』では意外なキャラクターで登場し、ハリウッドの実写版『アラジン』(2019)では吹替にも挑戦しています。
この後も『サイレント・トーキョー』や『騙し絵の牙』が待機中ですが、彼が映える役は実年齢を感じさせない不思議な浮遊感、浮き用離れ感を伴っています。
本作の吉野耕平監督は、中村の魅力を“現実から半歩だけ浮いた世界観”と表現しています。映画の「僕」は、実際の年齢の7等分しか生きていないため、同学年の友達よりもはるかに幼い……。
中村倫也は、そんな「僕」にまるで当て書きをされたようにピタリとはまったのです。
Wヒロインという立ち位置の石橋菜津美と深川麻衣も、物語にうまくフィットしています。2人とも、年齢で見れば中村倫也より年下ですが、石橋菜津美演じる一ノ瀬は、時には保護者のような元同級生になれますし、深川麻衣は落ち着きのあるお姉さんキャラにちゃんとはまります。
中村倫也の不思議な幼さによって、三者の間に年齢差は感じられなくなっていました。
CM/PV出身の映像作家が長編デビューすると、テクニカルな面や極端な人物造形が全面に出過ぎて、映画全体のバランスを崩すことになることが多いです。が、吉野耕平監督は物語を紡ぐことにとても重点を置いているようです。
映画『水曜日が消えた』は、多重人格という問題点も絡めたミステリアスな作品なのです。
映画『水曜日が消えた』は2020年6月19日(金)より全国公開。