映画 『アンダー・ユア・ベッド』は2019年7月19日公開。
名前を呼ばれたことすらなかった孤独な男が11年間想い続けた相手は結婚して、そしてDVを受けていた。
男の思いは暴走し、ストーカー、盗撮、盗聴、そして彼女の家のベッドに潜み始める…。
衝撃的な内容と同時に、居場所のない男の切ない心情が丁寧に描かれた一作、『アンダー・ユア・ベッド』をご紹介します。
映画『アンダー・ユア・ベッド』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【原作】
大石圭『アンダー・ユア・ベッド』(KADOKAWAホラー文庫)
【監督】
安里麻里
【キャスト】
高良健吾、西川可奈子、安部賢一、三河悠冴、三宅亮輔
【作品概要】
『バイロケーション』(2013)『劇場版 零~ゼロ~』(2015)の安里麻里監督が2001年刊行の大石圭によるホラー小説を映画化。
孤独な男が11年間思い続けてきた同級生を見つけ、どんどん行動をエスカレートさせていくという、タブーに踏み込んだ意欲作。
主演に『横道世之介』(2013)『多十郎殉愛記』(2019)の高良健吾、ヒロインの千尋役に『私は絶対許さない』(2018)での体当たり演技が話題になった西川可奈子がキャスティングされました。
映画『アンダー・ユア・ベッド』あらすじとネタバレ
三井直人は、千尋と彼女の夫・健太郎の自宅のベッドの下に潜んでいました。
夜、ベッドの上で千尋は夫に乱暴に犯されており、三井はそれを下から聞きながら過去を回想します。
11年前、19歳だった三井は大学のとある授業で指名されて困っていた時に、千尋に声をかけられてノートを見せてもらいました。
三井は存在感のない男で、人から名前で呼ばれるのもその時が初めてでした。
彼は勇気を出してお礼を言い、千尋をカフェに誘います。
そのカフェでの体験は一緒に飲んだマンデリンというコーヒーの味とともにずっと三井の思い出になりました。
彼は幼少期からずっとグッピーを飼っており、その話を聞いた千尋は自分も飼いたいと言い出します。
三井は数日後に千尋のアパートに水槽とグッピーを持って行きました。
そこから11年間、三井はその思い出だけで生きてきていましたが、ある時どうしても気持ちが抑えられなくなり、興信所に依頼して彼女を探し出してもらいます。
千尋は結婚し浜崎と姓を変え、高給取りの夫と郊外で暮らしており、1歳半の娘・木乃美がいました。
三井は貯金を崩して千尋の家の前に観賞魚店を開き、そのビルの3階に住み始めました。
彼は昼夜問わず千尋を窓から覗いたり盗撮したりしていましたが、彼女の顔からかつてのような明るさが消えていることに気づきます。
ある夜、三井は夕食の席で夫が千尋を突然殴り倒すのを目撃してしまいました。心配するも何もできない三井。
数日後、千尋が三井の店にふらりと入ってきます。彼女は三井を覚えていませんでしたが、グッピーを気に入って飼うことを決めます。
三井は水槽の設置のために千尋の家に行き、そこでこっそりと盗聴器を仕掛けました。
そして浜崎家の合鍵を作り、定期的に出入りします。
盗聴してみると夫の千尋に対するDVは常軌を逸しており、毎晩殴られ、獣のように犯されていました。
三井は家に侵入してグッピーの手入れをしつつ、毎日家の前に励ましのメッセージを添えた花束を置きます。
千尋は徐々に家の中に誰かが潜んでいることに気づき始めますが、あまりに荒んだ生活をしているせいか、侵入者に対し怖がるどころか安心感を覚え始めました。
そんな頃、三井の店にピラルクを買いたいという謎の学生・水島が現れ定期的に入り浸るようになります。
陰気な彼を見ていると三井は自分を見ているかのようで不快でした。
そしてある日、三井は千尋への思いを抑えきれず、いてもたってもいられなくなって彼女の家のベッドの下に潜み始めます。
映画『アンダー・ユア・ベッド』の感想と評価
本作はKADOKAWAとハピネットの共同制作で、タブー視される題材を扱う「ハイテンション・ムービー・プロジェクト」の第2弾作品として作られました。
大石圭氏の角川ホラー文庫の原作とプロットはほぼ同じですが、三井、千尋、健太郎の三者三様の視点で描かれている原作から、三井の視点を大部分にし、健太郎側の視点を削ったり、三井が思いを寄せる女性を千尋一人に絞ったりと、98分に収めた上で孤独で異常な男の純愛映画としての要素を強めさせています。
この映画はキャストの力がかなり大きく、特に主演の高良健吾は彼にしかできない役を見事に演じていました。
芸能界でも随一の美形の高良ですが、浮世離れしている印象も受けます。そんな彼が孤独ゆえに異常な行動に走る役を演じるというのは説得力がありました。
端正な顔立ちだからこそストーカー行為がより不気味に見えますし、それと同時に、そんな不器用な生き方しか出来ない三井という孤独なキャラクターの切なさも繊細に表現されています。
彼の虚無感に満ちたナレーションも素晴らしく、「自分は石の裏に住む虫と変わらない」とぼそぼそ語る様に胸が締め付けられ、最低なことをしている三井に共感を覚えてしまうんです。
そんな三井が思い続ける千尋役の西川可奈子もヌードは当たり前、過激な暴力描写も逃げずに演じており、彼女がこの映画のエッジを際立たせていました。
またキラキラした女子大生時代とDVで荒んだ主婦の姿の演じ分けも目を見張るものがあります。
ポスタービジュアルからして倒錯的な部分が目に付いてしまいますが、どうしようもない人生を送る登場人物たちの苦悩と悲哀が表現された人間ドラマとして見ごたえがありました。
まとめ
悲惨なことが起きる映画ですが、三井の行動が所々極端なため笑いがこぼれてしまうコメディ的な要素や、DV夫からいかにヒロインを救うかのサスペンスもあり、エンタメ性も十分です。
三井のような暗い部分、孤独な部分を抱いている方は、感情移入もできるでしょう。
1人で罪を背負って自首した三井と、そこに千尋がやってくるラスト。
果たして彼の今後はどうなるのか。その先の想像が膨らむ終わり方となっています。
7月24日現在、監督やキャストによる上映後にディープな話が聞けるプレミアトークショーもテアトル新宿で開催中です。
ぜひご覧になりトークを聞いて、誰かと議論してみてください。
映画 『アンダー・ユア・ベッド』は2019年7月19日公開です。